ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。同人・出版活動の報告を含みます。

2018年の振り返りと2019年のロードマップ

はじめに

今年も恒例、これまでの活動を振り返ります(2017年には、振り返りをできていませんでした)。



2年前:2017年の振り返り(2018/01/01)

4年前:2015年の振り返り(2016/01/02)

5年前:2014年の振り返り(2015/01/01)

6年前:2013年の振り返り(2014/01/01)

7年前:2012年の振り返り(2013/01/01)


出来た事

1. 『日本の執事イメージ史 物語の主役になった執事と執事喫茶』出版

ここ数年、最大級の課題だった「日本のメイドブームに関する本を作る事」は2017年に『日本のメイドカルチャー史』星海社から出版する事で実現できました。



その過程で「執事ブーム」に関しての情報も集まり、星海社から『日本の執事イメージ史 物語の主役になった執事と執事喫茶』を出版することになりました。この執筆に取り掛かり、ようやく2018年8月に実現できました。



この本はある意味で、私のこれまでの活動の集大成です。



1. 同人誌1巻(2001年刊行)で執事について書いた。

2. その後、研究を続け、2008年に総集編『英国メイドの世界』を刊行。

3. 2009年に執事のマネジメントに特化した『英国執事の流儀』を刊行。

4. 2010年に『英国メイドの世界』を講談社から出版。

5. 2011年に「近代日本の女中(メイド)事情に関する資料一覧」を公開。

6. 2017年に『日本のメイドカルチャー史』を星海社から出版。



というような流れがありました。「英国執事」だけではなく、「日本の漫画・アニメ・ゲーム」などの領域を経験し、かつそこで「雑誌・新聞でのイメージの広がり・ブームの可視化」の手法を身につけました。また「日本の女中が仕えた華族」についても研究を広げていたので、それらを総合して書くことができました。



運命的というのか、2001年に最初に作った同人誌では「執事」について、大学時代に読んでいた雑誌『Foresight』(1998年4月号、新潮社)に載っていた「執事養成学校」記事掲載のエピソードに言及しました。その記事を約20年ぶりに取り寄せ、『日本の執事イメージ史』では参考文献として引用しました。



これらは、スティーブ・ジョブスが言うconnecting the dotsについて、実現できていると思います。



幸いにも本書の感想を当事者の方達から個人的に伺う機会にも恵まれました。


2. 『名探偵ポワロ』の同人誌の続編・理想に近い同人誌

昨年から開始した同人誌冬コミ新刊『名探偵ポワロ』が出会った「働く人たち」ガイド 上巻の続編となる下巻を、無事に刊行できました。



冬コミ新刊『名探偵ポワロ』が出会った「働く人たち」ガイド 下巻



その過程で、刊行時に買ったまま読んでいなかった、ポワロを演じた俳優デビッド・スーシェの自伝を読み始めたところ、非常に面白く、ドラマの理解に役立ちました。さらに、この本を通じて、私は「スーシェが解釈し、演じて作り上げた『名探偵ポワロ』が大好きだった」と再認識しました。






3. 『ミステリマガジン』2018年5 月号「特集/アガサ・クリスティーをより楽しむための7つの法則」に寄稿

ポワロの同人誌を作ったことで、イラストを描いてくださったウメグラさんとともに『ミステリマガジン』2018年5 月号「特集/アガサ・クリスティーをより楽しむための7つの法則」に、"法則5 使用人でクリスティーを楽しむ エッセイ クリスティー作品を照らす「家事使用人」"を寄稿しました。







同人誌では『名探偵ポワロ』のドラマに限定しましたが、クリスティー作品全般に広げました。原稿の文字数が限定的で十分に語り尽くすことはできませんでしたが、ウメグラさんとご一緒できたこと、そして何よりも私の原点であるクリスティーの名を冠する「クリスティー文庫」を刊行する早川書房に、「ポワロ」についてテキストを書くことができたのは記念になりました。



補足しておきますと、これまでにも2回、『ミステリマガジン』には寄稿しています。


4. 英国旅行・聖地巡礼の旅

2017年に英国旅行に行きたかったものの出版で行けなかったので、2018年は絶対に行くと決めて行きました。



■目的

1. 田中亮三先生の著作の影響で建築家ロバート・アダムが大好きなのでその屋敷巡りをしたい。これは英国旅行の主な目的で2005年から継続。

2. 映画『日の名残り』の舞台になったDyrham Parkへ行きたい。執事本を書いたので尚更に。

3. クリスティーの生地トーキーの博物館と別荘Greenwayに行きたい。ポワロ本を作っているので尚更に。

4. アニメ『Fate/stay nightUnlimited Blade Works]』の舞台となったグラストンベリーアーサー王の墓に行きたい。

5. 『アーネスト式恋愛術』や『英国王のスピーチ』で憧れていた玄関ホールの屋敷Lancaster Houseに行きたい。政府機関の建物で、Opne Houseというイベント期間しか入れない。



以下、これまでに訪問できた場所です。2018年の多さが際立ちます。


2004

Buchkingham Palace
Somerset House
No.1 Royal Crescent

2005

Spencer House
Kenwood House
Apsley House
Kensington Palace
Buchkingham Palace
Osterely Park

2016

Shugborough
Harewood House
Chatsworth
Windsor Castle
Buchkingham Palace
Heartford House

2018

Blenheim Palace
Lancaster House
Admirality house
Carlton House Terrace(Royal Society, British Academy)
42 Portland Place
Embassy of the Republic of Poland in London
Home House
Saltram
Mount Edgcumbe Country Park
Greenway
Dyrham Park
No.1 Royal Crescent
Osterely Park
Syon House


このうち、Greenwayは『名探偵ポワロ』「死者のあやまち」の舞台となり、またSyon Houseも「ヘラクレスの難業」と「ビッグ・フォー」の舞台となりました。さらに気づかなかったのですが、Blenheim Palaceもドラマ『ミス・マープル』の「復讐の女神」の原作・ドラマの舞台となっていた場所でした。



旅行記はそのうち書きます。


5. 1920-30年代のメイド服製作

コミケに参加する際、サークルスペースで同人誌頒布を行う作者以外の手伝いの人を「売り子」と呼んでいます。その売り子にメイドさんを起用すること自体は以前から、池袋のメイド喫茶ワンダーパーラー・カフェ」の協力で実現していました。



そこに加えて、今年は『名探偵ポワロ』に登場する1920-30年代のメイド服を着て欲しいと思い、相談しました。日本でイメージされるメイド服は肩紐ありのエプロンタイプですが、ポワロ登場のメイド服は全く違うのです。



そこで、自腹で製作費を負担するので、オーダーメイドで作ってもらいました。何を言っているかよくわからないかもしれませんが、勢いです。







2018年の抱負のレビュー

2018年に実施したいとしていたことを、どこまで実現できたか書きます。

執事本の出版 from 星海社:達成

無事に作りました。


3冊目の本の出版が決まりました。『日本のメイドカルチャー史』を書いていた時に、同時期の執事ブームについても調べていました。ただ、メイドがメインだったのでバランスが崩れることと、調査不足の観点から掲載を見合わせました。その切り離したテーマが面白いということにて、星海社から出版の提案を受け、新書で作ることになりました。



『日本のメイドカルチャー史』と似たコンテクストを持ちつつ、異なる切り口で書きます。


メイドアワードの創設:未達成

これは企画しきれず、時間もなく、でした。


メイド作品を追いかけるのが物理的に無理な段階になったので、作品を表彰するアワードを創設して、メイド作品が集まる仕組みを作る。アワード自体は読者投票も取り入れる。



・主演メイド作品賞:メイドが主役の作品

・助演メイド作品賞:主役ではないメイドがいる作品

・ピンポイントメイド作品賞:単発でのメイド出演

メイド喫茶賞:作品内で出てくるメイド喫茶の描写からの表彰

・殿堂入り作品賞:『エマ』『シャーリー』『まほろまてぃっく』など

・新作品賞:その年に連載を開始、発売した作品のみ限定(続刊がその年に出ても対象外)

・審査員各賞



賞金は、私の自腹です。


メイドライブラリー公開:未達成

これも推進力やモデル構築ができず、未達成です。


メイドブーム研究の時に集めた資料(漫画やラノベが大半。秋葉原系や、ゴスロリ関係の所有雑誌も含む)を公開できる場所を探しています。自分では読んでいない本が多くなっているので、死蔵させないためです。現在、興味を持ってくれている店舗があるので、話を詰めています。



※汚れてしまうことや紛失する可能性があることを前提に、超希少品は出せません。



未練があるので、つぶやいていたのをまとめておきます。






インタビュー・対談:部分達成


当事者としてメイドブームを駆け抜けた方達に、話を伺う。話を聞いてみたいのはメイド喫茶の創業者、店員、表現者など様々にうかがいます。年明けに星海社の方で、1回目の対談が公開される予定です。

対談としては『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』の嵯峨景子さんとの対談を実施できました。



ただ、その後、『日本の執事イメージ史』執筆にリソースのほとんどを割いてしまったので、続いていません。


メイドコラムの寄稿の依頼:計画分は達成


自分以外の詳しい人に、メイドブームの周辺領域を語っていただく計画を進めています。メイド喫茶全体、エロ漫画やニコニコ動画、pixiv、小説家になろうなどのCGMにおけるメイドの出現傾向など。既に周囲にお願いできそうな方が多いので、進行中で、3-4月に幾つか形をお見せできればと思っています。

このテキストを書いた時点で想定していたありらいおんさんと牧田翠さんには依頼をして、寄稿いただけました。

同人誌即売会:提案中

こちらは提案中で、その後、動きがありません。




メイドオンリーイベントを代表する「帝國メイド倶楽部」的なるものを考えています。以前、ちらっとつぶやいた時に、企画に興味を持った経験者の方からお声がけいただいたので、今、実現可能か相談しています。



メイド同人誌が読みたければ、メイド同人誌が集まる場を作れば良いのでは?との思いにて。



あと、個人的には、過去にメイドコスプレをされていた方に、その当時の衣装を着ていただきたいのです。日本のメイド服(コスプレ衣装)アーカイブということで、記念に残せないかと。100人ぐらい集まると素敵ですね(どんなお屋敷だろう……)


メイド喫茶とコラボイベント:未達成

先方提案企画との調整がつかず、流れています。


企画中です。公開できる段階になったら公開します(実施できるかは未定)。



ニュースサイトの創設:未達成

時間の問題で未達成です。


メイドアワードをやる前に、まずは企業が公開するメイドウェブ漫画作品などを集めてみたり、数万RTされるメイドイラストをアーカイブしたりと、メイドイメージにまつわる記録の散逸を防ぎつつ、メイドイメージへアクセスしやすい環境の整備を計画中です。


メイドメディアの創設:未達成

こちらも同じく。


ここのみ、実現可能性やまだ何も見えていない「夢」です。ヴィクトリア朝をテーマとした創作メディアを作りたいです。創作プラットフォームを作り、メイド作品制作を大好きな作家の方たちに依頼してみたいです。


2019年の抱負

今年は充電期間にしたいと思います。特にこの3年は出版に膨大な時間を費やしました。2016年から『日本のメイドカルチャー史』の出版準備の本格化、2017年での出版とポワロ本作成がありました。2018年は『日本の執事イメージ史』出版と、ポワロ本の完結を行いました。出版2冊と、大好きで原点となるポワロの同人誌を作ることで、行いたいことは叶いました。



以下、今時点で考えているものです。


1. 雑誌的なもの(ヴィクトリア朝やメイド)

元々私の同人誌のタイトルは『ヴィクトリア朝の暮らし』でした。家事使用人に特化したものの、今あえて「ヴィクトリア朝」をテーマにした同人誌を作ってみるのも面白いかと思いました。



もちろん、私個人では扱いきれない領域なので、これまでに縁があった方や原稿をお願いしたい方たちへお声がけして、雑誌のような形でできないかと。それこそ小説から漫画、イラスト、そして専門領域に特化したコラムまで。



これは「メイド」をテーマにしたものでも良いと思っています。私自身はそろそろ活動をして20周年になることもありつつ、元々が創作のための資料を作るという活動をベースとしていますので、創作をする人を巻き込み、発表機会を作るというところはやってみたいと思っています。



同人誌に限らず、ウェブでも。ウェブ漫画やイラストレーターの方なども増加しており、以前存在していた「ニュースサイト」を立ち上げることに意味があるようには思えています。これも自分一人で行わず、編集部を立ち上げても良いかもしれません。



本来的には関わる方達へお金が還流し、好きなことを続けやすい環境を作ることに寄与したいとは思っています。



これと「私の蔵書を公開する図書館」をセットにできると、資料を提供して創作しやすい環境を作ることもできるのですが。ただ、安全でアクセスしやすく持続的な場所を維持するのはお金がかかりそうで、そこのめどがまだ立っていません。



段階的に進めて、会社作るのかな?


2. ゲームキーパー特化本

日本ではゲームキーパーに関する家事使用人の資料はほとんどありません。私の『英国メイドの世界』が相当な分量を割いているもので、そこに掲載しきれなかった資料・間に合わなかった資料から、もう一度、「ゲームキーパー」について書きたいなと思っています。



メインどころの「メイド」でも「執事」でもないのですが。


3. メイド・執事作品ガイド(各100作品ぐらい紹介とか?)

『日本のメイドカルチャー史』でも『日本の執事イメージ史』でも作品への言及を均等に数多くできていないのと、目的別・年代別に紹介する本を作りたいと思いました。



同人誌ではなくネットでも構わないのですが、メイド漫画の最高峰『エマ』も完結から10年以上が経過しており、接していない人も増えているように思います。


4. 執事セバスチャンの謎・決着編(取材する)

「執事といえばセバスチャン」はいつ成立したのか? 執事ブーム以前のセバスチャン考察というコラムを公開しました。



取材せずに調べきれる範囲では大体網羅していると思います。逆を言えば、当事者に聞かなければわからない段階にも入っています。時間とコストと相手の都合があるのですぐにできない・結果が出ない可能性もあるので後回しにしていましたが、進めてみたいとは思います。


5. ミス・マープルを含めたクリスティーと家事使用人の総括

何かを始めると別の何かが広がる、というのはよくあることです。メイドブームを研究していたら執事ブームの本を書くことになったと同じように、『名探偵ポワロ』の同人誌を作れば当然、クリスティー全作品での家事使用人の描写が気になり始めるのです。



特に家事使用人を実際に雇用していた『ミス・マープル』については、扱わざるを得ないのではないかと思う次第です。ミス・マープルの時代は主に戦後となっているので、家事使用人雇用の状況が大きく変わっています。クリスティー作品は概ね発表時期の時代を背景としているので、作中でかなりその当時の認識が語られていることもあります。


6. 旅行記を書く

2016年と2018年に英国旅行をしましたので、その旅行記を。あと、2018年にOpen Houseに参加したので、あのイベントで行きたい場所へ行くためのノウハウを公開しようと思います。抽選・予約についてのノウハウを書くことは自分の当選確率を下げるのですが、個人的には行きたい場所に行くことができたので、もう良いかな、と思っています。


7. 現代の労働環境と「使用人問題」について

労働環境について、英国の家事使用人の歴史は現代への示唆に富んでいます。

1. 不人気でなり手不足に陥る。

2. 政府が対策に乗り出す。

3. 移民や安価ななり手を探す。

4. 拘束力が強い住み込みから、通い・複数の家庭への勤務になっていくメイドから家政婦化。

あとは労働基準法の適用外になっていることや、構造的に家事使用人雇用者が支配的になってしまうことについても考察をしたいとは思っています。日本以外の家事使用人・家事労働者事情も学んでいるエリアですので。

終わりに

そろそろ自分自身のフェイズも変わってきました。当初の予定になかった「メイドブーム」「執事ブーム」について決着をつけられたので、リソースの使い方を変えていこうと思います。



それでは本年もよろしくお願いいたします。


コミケ95(2018/12/ 31、3日目)東1-K60bで参加

2018/12/31(月)開催のコミケ95に、サークル参加する予定です。



コミックマーケット公式



: tweet
: tweet

当日は池袋のメイド喫茶ワンダーパーラー・カフェのメイドさんが売り子をしてくださいます。その制服も、私の依頼で製作していただいた1920-30年代の『名探偵ポワロ』のドラマの時代のメイド服です。

冬コミ新刊『名探偵ポワロ』が出会った「働く人たち」ガイド 下巻

27冊目の本です。冬コミコミケ95)の新刊はNHKで放送された、デビッド・スーシェ主演のドラマ『名探偵ポワロ』の同人誌の続編になります。内容はドラマ全70話から、各話に登場する働く人たちとして、「家事使用人」(メイド、執事、庭師など)をリスト化して、個々の立ち位置や着用する制服を、イラストを交えて紹介する本です。



このページの下部にサンプル画像を貼り付けておきます。



今回は「上巻」の続きとして35話分までを扱い、本来は第35話「負け犬」から第70話「カーテン」までを扱います(第65話「オリエント急行の殺人」は上巻で扱いました)。また、全70話のドラマを俯瞰して、本当にクリスティー作品は屋敷を舞台にしているのか、どの作品に執事やメイドがいたのか、家事使用人は事件の犯人・被害者になったのか、そしてクリスティー文庫の家事使用人職種の翻訳についてなどの考察も行いました。



イラストは、上巻に続き、ウメグラさん(梅野さん)をお迎えしました。



なお、当日は池袋のメイド喫茶ワンダーパーラー・カフェ」の協力を仰ぎ、1930年代のドラマ登場の「メイド服」を新たに作り上げ、それを着用したメイドさんが売り子になる予定です(10-13時を予定)




タイトル:『『名探偵ポワロ』が出会った「働く人たち」ガイド〜執事・メイドから、ホテルスタッフ、ウェイトレスまで〜下巻』

著作:久我真樹、装画/デザイン:梅野隆児(umegrafix)様

仕様:A5サイズ、180ページ

内容:解説+イラスト

サークル:SPQRコミックマーケット3日目東1ホールK60bで頒布開始

価格:1500円

Webコミケカタログ:https://webcatalog.circle.ms/Circle/11919725

委託先
メロンブックス

COMIC ZIN



ポワロの時代は1930年代のため、メイド服は日本で見慣れている「クラシックなメイド服」ではありません。そのイメージを物語る動画があるので、ご紹介しておきます。




Ideal Home Exhibition (1920-1929)






同人誌の概要を示すために、以下、同人誌本文から画像を抜粋します。
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コミティア126(2018/11/25) た13a(壁)で参加告知

2018/11/25(日)開催予定のコミティア126に、サークル参加する予定です。今年は2月に参加して以来となります。



コミティア公式・126開催概要


コミティア126・頒布予定物

コミティアは商業出版の持ち込み(著者の本)がOKなので、『日本の執事イメージ史 物語の主役になった執事と執事喫茶』と『日本のメイドカルチャー史』を持っていきます。



また昨年制作したポワロ本も持ち込みます。



※『英国執事の流儀』は手元に在庫がないので、今回は持ち込めません。

※本が多いので、種類を今回は絞ります。



『名探偵ポワロ』が出会った「働く人たち」ガイド 上巻(ドラマに登場する執事、メイドに特化した解説本)1,000円
『英国メイドがいた時代』(ポワロの時代を含むメイド衰退の歴史資料本)1,000円
『日本の執事イメージ史』星海社から出版1,300円
『日本のメイドカルチャー史』上巻星海社から出版2,500円
『日本のメイドカルチャー史』下巻星海社から出版3,500円
『メイド表現の語り手たち 「私」の好きなメイドさん』(メイド好きが語るメイドブーム)1,000円
『屋根裏の少女たち Behind the green baize door』ワンダーパーラーカフェとのコラボ)500円

『日本の執事イメージ史 物語の主役になった執事と執事喫茶』校了

昨日、星海社から刊行予定の『日本の執事イメージ史 物語の主役になった執事と執事喫茶』が校了となりました。新書ながらも384ページと分厚く、約20万字以上書いたところを14万字ぐらいまで削り込みました。税抜き1300円の予定で、8月末発売です。

どのように日本では漫画や小説で執事が描かれており、そこから執事ブームと呼ぶべき「執事が主役の作品の爆発的増加」が生まれたのかを、丁寧に追いかけました。元々、「日本のメイドブーム」研究が本書執筆のきっかけであり、メイドブーム同様に、突然、執事ブームが生じたわけでもありません。ブームに至るまでに、表現が少しずつ増えていく「トレンド」があり、その積み重ねが臨界点を超えたときに、「ブーム」として観測されて、拡散していく、その様子を描き出しました。

英国屋敷での暮らしと、そこで働く家事使用人の研究から始まった活動は、講談社から『英国メイドの世界』の出版に結実しました。同書では英国メイドや執事、ガーデナーなどを詳細に扱いました。その後、日本の女中や華族の生活、並びに世界中の国々のメイドの調査を始めつつも、縁があって「日本のメイドブーム」に踏み込み、『日本のメイドカルチャー史』を書くこととなりました。

その『日本のメイドカルチャー史』執筆に観測できたのは、同時代に発生していた「執事ブーム」でした。そこから作品で描かれる執事と実在の英国執事を比較するはずが、明治時代以降の日本の華族の家にいた「家令」や富裕層の家にいた「執事」、あるいは「バトラー職」を比較したり、「メイド喫茶ブーム」考察で行ったように大宅壮一文庫でキーワード「執事」に紐づく雑誌を全部読み、日本の雑誌上で語られた執事イメージの多様性をお伝えしたりする内容になりました。

その中で見つけた記事のひとつは、私がこの研究活動を始める前となる1997年の大学在学時に読んでいたものでした。2002年に刊行した2冊目の同人誌『ヴィクトリア朝の暮らし 貴族と使用人(一)』の「執事」の解説では、この記事を思い出して、内容について触れています。そこから2018年になって、この記事と再会し、執事の解説に使うことになりました。

学生時代に読んで記憶にあった雑誌の「執事」記事を、約20年ぶりに読む巡り合わせに驚くとともに、「英国執事の1980年代以降の状況」を知ることにもなりました。さらに、「世界中の国々のメイドの調査」をしていたおかげで、英国執事と王室に関する記載があるテキストも見つけており、今回、取り込むことができました。

というように、これまでの研究が積み重ねって成立している本です。

華族の家令」の調査はまた難航しました。これも、近代日本の女中(メイド)事情に関する資料一覧にまとめていたので少し貯金があったものの、その後、だいぶ調べ直すことになりました。この辺が読んだ資料の大半です(あとは電子書籍国会図書館でのコピー)。

華族の家に家令がいて、主人たちの目から見てどういう仕事をしていたのか」が語られる資料は出ていますが、英国執事や英国家事使用人と同じような分量で「職業・仕事」として商業出版でしっかりまとまった形では出ておらず(天皇家の侍従は別)、経験者の日記や家政の記録が幾つかあることは確認できていますが、「それだけを扱った本」ではないのです。

新書の本文では触れませんでしたが、「志賀直哉の祖父・志賀直道は、旧相馬中村藩主相馬家の家令を勤めていた」という話もあります。
http://webcatplus.nii.ac.jp/webcatplus/details/creator/70456.html


この辺りの「情報はあるけど、欲しい切り口だけでまとまった情報がない」という状況は、自分が「英国メイド研究」をするために、英書を取り寄せ始めた頃を思い出させました。あの時、日本の本だけを読んでいた時は、あちこちのいろいろな資料に家事使用人の情報が点在していて、「家事使用人だけを解説する本」が存在しませんでした。なので、英書でそうした本が山ほどあることを知った時は、すぐに取り寄せました。誰かが「家令」や「華族の家にいた執事」でも、将来、手をつけてくれることを願いします。

なお、華族関係の資料のリストと内容紹介などのコラムは、別の機会に更新します。


いずれにせよ、ほぼ休みなく、2年ほど本の執筆・研究(『日本のメイドカルチャー史』と、2017年冬コミポワロ本、そして今回の『日本の執事イメージ史』)していたので、しばらくのんびりします。

『チャーチルの新・秘密エージェント』と、英国の暮らし再現ドキュメンタリー/リアリティーショー

はじめに

英国の屋敷っぽい風景があったので、何気なく第1話を見始めたNetlifxオリジナル番組『チャーチルの新・秘密エージェント』は、1940年代の時代を再現し、そこで第二次大戦中の英軍が組織した、敵地に潜入して工作を行う特殊作戦執行部(Special Operations Executive、SOE日本語版wikipediaは充実していましたので、FYIで)として、一般の応募者が当時のSOEと同じ選考試験を受け、さらに通過者はSOEとしてのトレーニングを受けるという番組です。

この番組は、英国で定番化している「一般人が参加するリアリティーショー」の観点と、「歴史を伝えるドキュメンタリー」の観点、そして「当時の技術・手法」を再現する番組として、英国で数多くある番組の系譜として、非常に面白いものでした(日本では、『ザ!鉄腕!DASH!!』がこれに近しいでしょうか)。

英国が好きな人、ミリタリが好きな人に、おすすめです。

「秘密エージェント」の訓練を受ける現代人

第1話では「選考過程」として、1940年代の格好をした、様々な職業経験・バックグラウンドの14名の現代人が「スコットランドのあるカントリーハウス」(あらすじでは、人里離れた邸宅)に集められて、エージェントとしてのスキル・資質を審査されました(外国語、勇気、判断力、適応力、身体的強さ、リーダーシップ、観察力など)。

実際にあった4日間のSOEの選考をできるだけ再現し、参加者をフィルターにかけるプロセスを担うのは、番組に協力する軍隊出身者たちの教官・選考官と、SOEを研究する歴史家です。彼らは多様な軸で日々審査を行い、秘密にされていたSOEの選考・トレーニングを体験して、「エージェント」として鍛え上げていくのです。

面白かったのがテストの内容で、たとえば記憶力や観察力をチェックするテストでは、「建物の地図を覚えて」と記憶力を試す教室でのテストのように始まりますが、突然、「追いかけられている人」と「銃を撃つ人」が乱入し、教室の中を通り過ぎていくのです。あまりの出来事に反応は様々ですが、教官は冷静に「今、撃たれた銃の回数は?」「二人組のうち、どちらが衣服をはだけていたか?」など、本番の審問を始めました。

審査過程で様々な個性も出てくる中で、私が一番気に入ったのは「チームを組み、いかだで、池の真ん中にある箱を回収する」テストです。樽や木の棒、ロープ、櫂などがある中、リーダー役の人が指示を出しながらいかだを組み上げ、回収に向かうのですが、最初の班は「全員で乗り、途中で転げ落ち、いかだも解体」されて、失敗します。

ところが、第二班ではひとり特殊な人がいて、「池の周りを歩き回って観察」して、「隠されていたいかだ」を発見しました。そして前の班とは異なる結果を出すのです。

勇気を試すために、高い木と木の間に渡したロープを渡るテストもありました。より高い場所と、低い場所と、ふたつの渡る場所があり、どちらを渡るかで結果も変わるのです。

最終日には、「誰と一緒に任務をしたいか」だけではなく、「誰とは組めないか」を各人が全員の前で発表するという、テストも課されました。ここは、リアリティーショーの系譜を受け継ぐものでしょう。

歴史番組としての構成

もうひとつのユニークさは、「第二次世界大戦の当時を、SOEという視点で伝える」歴史ドキュメンタリーとしての要素です。SOEを創立した戦時経財相ののヒュー・ダルトン(エージェントによる敵地でのゲリラの組織化・遂行)や、SOEが実戦投入されるまでの経緯が語られます。

当初、敵地への潜入への協力に必須となるイギリス空軍は「暗殺者の一般人への偽装は信義に反する」として反対し、海軍も「海峡より先へ輸送しない」と、非協力的な時期がありました。

実在した隊員の写真やプロフィールも、合わせて紹介されます。そこには、祖国フランスのために志願した女性がいたり、教員だった背景の志願者が敵地で武装レジスタンスを組織する指揮官になっていたりと、「普通の人の戦争との関わり」も伝えられます。

番組では、1941年のポーランド侵攻後、ポーランドからの避難者・亡命者が英国の防空に貢献した経緯もあり、ポーランドへの潜入工作にSOEが起用されることが決まり、イギリス空軍の協力で、3名がポーランド南部に降下しました。

第1話はここまでで、第2話「戦闘技術」として武器・爆発物の扱い、近接格闘術や作戦行動、第3話「サバイバル訓練」で極限まで追い込まれ、第4話「卒業試験」で開錠や暗号、尋問への対応、そして第5話では厳選されたメンバーで24時間の最終計画を遂行する、というものになっていきます。

まだ全話を見ていないのですが、「技術の再現」「リアリティーショー」、そして「SOEの歴史」がこの後も描かれていくのでしょう。

個人的にふと思ったのが、もしもこれば「番組」ではなく、「本当のエージェント」を探すもので、最後に実戦に投入されるというものです。それはフィクションの題材にもなるでしょうし、既にあるとは思いますが。

英国で定番化している「暮らしの再現+歴史+リアリティーショー」

補足で、なぜ私がこの辺りの番組を見ているかについて。

私個人は英国メイドや執事を研究する立場から、「過去の英国の暮らしを再現・体験するドキュメンタリー」が大好きで、英国ヴィクトリア朝の料理を再現しつつ当時を解説する『The Victorian Kitchen』や、屋敷の菜園(キッチンガーデン)を当時のガーデナーの技術で野菜や果物を育てる『The Victorian Kitchen Garden』、あるいはヴィクトリア朝の農場の技術を再現する『Victorian Farm』や、薬局を描く『Victorian Pharmacy』など、このジャンルを見ています。

そうした主流の「技術の再現と、当時歴史を解説するドキュメンタリー」に加えて、英国では一般人が作品に応募・参加する「リアリティーショー」が根強く存在します。

私がそのジャンルに初めて出会ったのが、1900年の中流階級の生活を家族で体験する『THE 1900 HOUSE』で、以降、エドワード朝の貴族の邸宅で「主人たち家族」と「メイド・執事など家事使用人」を体験する『MANOR HOUSE』(The Edwardian Country House)、1940年代の戦時下の暮らしを体験する『THE 1940s HOUSE』といった作品もあります。

日本では恋愛系では『あいのり』や、『バチェラー・ジャパン』などもありますが、英国では「当時の生活と歴史ドキュメンタリー」とを融合させたジェーン・オースティンの『高慢と偏見』をテーマにしたリアリティーショー、『REGENCY HOUSE PARTY』の放送がありました。軸が難しく、あまり面白くなかったので全く話題になりませんでしたが。

他にもいろいろな時代があり、中世の農場を再現する『Tales From The Green Valley』や、『Victorian Farm』を主導したRuth Goodmanが中世のお城の生活の再現を試みる『Secrets of the Castle』などもありますし、ヴィクトリア朝シリーズの新作・パン屋さんを扱う『Victorian Bakers』や、ある通りを舞台に家族で商店を営み、年代ごとに取り扱う商品が変化してスーパーマーケット的な業種が勝利を収める『Turn Back Time: The High Street』などもあります。

「接収された屋敷」

「人里離れた邸宅」なのは、当時、軍が屋敷(領地に囲まれたカントリーハウスを含む)を接収して軍事施設に利用した故事にならったものです。第二次大戦中、人里離れた領地にある屋敷は人を集める軍の駐屯地としての利用に適しており、接収されました。建物はダメージを受け、戦後、それが理由で取り壊した屋敷も多くあり、研究書『Requisitioned: The British Country House in the Second World War』なども出ています。

Requisitioned: The British Country House in the Second World War

Requisitioned: The British Country House in the Second World War

この戦時下の屋敷を舞台にした私が思いつく作品では、『Brideshead Revisited』(ブライズヘッド再び)と、NHKで放送した戦時下の生活での事件を描いた『刑事フォイル』などがあります。

終わりに

この辺は、そのうち、紹介するテキストを書いていきます。私の情報収集力が低いので日本での類似した展開ですぐ思い起こされるのが、『ザ!鉄腕!DASH!!』だったというのが、少し驚きでもあります。

過去の伝統料理の再現などは様々に見かけることもありますが、「その時代の生活レベルに、一般人を放り込み、数週間〜数ヶ月生活をさせる」という番組は、自分の情報圏内に入ってきません。ただ、私が今回取り上げた作品群も、10-100万人にひとりしか日本では知らなさそうなので、このジャンル自体がそういうものかもしれません。

Netflixオリジナルでは、そのあたりの生活技術再現+歴史ドキュメンタリー系を期待したいと思います。

なお、日本の生活史を描くものは、書籍ではいろいろとあります。今回のテーマに近い強いものでは「昭和のくらし博物館」の小泉和子氏による、『くらしの昭和史 昭和のくらし博物館から』や、『パンと昭和』、そしてメイド研究者として欠かせない『女中がいた昭和』をあげます。

パンと昭和 (らんぷの本)

パンと昭和 (らんぷの本)

女中がいた昭和 (らんぷの本)

女中がいた昭和 (らんぷの本)

「日本の執事ブーム」を解説する新刊『日本の執事イメージ史』を星海社から出版予定・告知

『日本の執事イメージ史 物語の主役になった執事と執事喫茶』 2018年8月24日刊行予定

タイトル通り、日本の創作(漫画、アニメなど)における「執事のイメージ」が、いつぐらいから変わり、現在の形にいたったのかを解説する『日本の執事イメージ史 物語の主役になった執事と執事喫茶』を、星海社から2018年8月24日刊行する予定です(この記事を書いている時点で最終の著者校閲の資料待ち)。





(アマゾンの画像は旧タイトルで入っていますので、そのうち修正されます)


執事ブームとメイドブームの類似と相違

本書誕生のきっかけは、『日本のメイドカルチャー史』にあります。日本のメイド作品を調べていると、執事が同僚として出てきており、執事ブームを考察する項目を作りました。英国メイド漫画の金字塔『エマ』でも、メイド喫茶作品となる『会長はメイド様!』でも、枚挙にいとまがないほどに、メイドの登場と重なって、執事も登場していたのです。



とはいえ、「執事ブーム」を一定のボリュームで書くと、「メイドブームの本」としては収まりが悪くなるため、星海社の太田さんと櫻井さんから「新書にしましょう」とご提案をいただき、切り離すことになりました。とはいえ、言及した範囲が限定的だったため、その後、半年間を使ってほぼ書き下ろしになり、資料本も数百冊、雑誌記事も数百記事を取り寄せて読むことになりました。



全体としては「日本の執事ブーム」を解説する本となり、「1990年代のメイドブーム」と比較をしながら、どのように執事イメージが変化し、「執事喫茶」が生まれ、世の中へイメージが伝わっていったのかを扱いました。


「日本の執事」であること

元々、私が専門とする英国家事使用人の職業研究でも、メイドと執事は同じ職場にいる(執事がいるかは限定的ですが)ものであり、私も2009年に『英国執事の流儀』という執事専門同人誌を作っていますし、『英国メイドの世界』もそのタイトルに反して?、執事やフットマン、ヴァレット、コーチマン、ガーデナーやゲームキーパーなど屋内・屋外の男性使用人の職業解説も行っており、「執事」という職業自体は私の研究フィールドの範囲内でした。



ところが、「日本の執事ブーム」として見た場合に、最も難しかったのは、日本には「執事」という言葉が先にあることです。「英国執事=butler(家事使用人)」が後付けで「執事」を割り当てられたがために、「執事」と書かれている場合に何を意味するのかは、一対一ではないのです。このため、日本における「家事使用人としての執事描写」は、旧来の意味合いの「執事」を含んで描写されることがありました。



「メイド」の場合、「女中」「女給」など対応する言葉はありますが、そのままの「メイド」という言葉では、メイドブーム以前には普及していません。ここに、大きな差があります。



以下、日本における「執事」の意味です。「家事使用人」の言葉はありません。



  • ① 身分ある人の家にあって、庶務を執り行う人。
  • ② 内豎所ないじゆどころ・進物所しんもつどころなどの庶務職員。
  • ③ 院司・親王家・摂関家大臣家などの家司けいしの長。
  • 鎌倉幕府の職名。
    • ㋐ 政所まんどころの次官。
    • 問注所の長官。
    • ㋒ 執権しつけんの別名。
  • 室町幕府の職名。
  • 江戸幕府若年寄の別名。
  • ⑦ 寺社で、事務に当たる役。
  • ⑧ 〔deacon〕 キリスト教会の職務の一。聖公会では司祭、ルター派教会では牧師に次ぐ聖職者の職務。長老派・会衆派教会では信徒の職名。聖礼典の補助、会計管理などを行う。正教会では輔祭ほさいという。 → 助祭
  • ⑨ 手紙の脇付わきづけの一。貴人への手紙のあて名に添える。

執事 大辞林:第三版より引用



「執事本出版するよ!」という情報に対して、「(足利尊氏の執事の)高師直いるの?」という反応も見ました。さすがにこの領域すべてを扱うのは困難であるため、「家事使用人としての執事」にエリアを限定しています。



ただ、例外として、「身分ある人の家にあって、庶務を執り行う人」に該当する「家令」など、「華族の家を仕切った家職」について言及をしました。これは英国貴族の家にあった職種「house steward」が「家令」と訳されることや、明治以降に西洋化が進んで洋館に住む生活様式を取り入れていった華族家を運営する「家令」のイメージが、「日本の執事イメージ」形成に影響を与えているためです。



「家事使用人としての英国執事的な仕事描写」は、1990年代に少しずつ、日本の創作で見られていったものと、本書では考察しています。そして、最も大きなテーマが、「執事の低年齢化」です。執事が「青年」「少年」となることで、それまで脇役だった執事が主人公になることができました。これもメイドにはないトレンドです。そして2006年の「執事喫茶の誕生」以降、「執事」の言葉には「執事喫茶の店員」の意味も加わりました。そうした現実の動きと創作イメージとが混ざり合う点では、「メイド喫茶」が生まれてメイドのイメージが塗り替えられたことと重なりがあります。



面白いことに、英国でも「執事」の意味が変わりました。絶滅寸前といわれた執事は、執事養成学校の誕生により、ホテルを職場とする「ホテルバトラー」としての機会が大きく広がり、さらにはホテルバトラーよりも長い歴史を持つ「コンシェルジュ」のイメージも吸収していきました。偶然にも執事ブームと重なる時期に、日本でも「コンシェルジュ」の言葉が認知・流通していく「ブーム」が生じていました。



新書という制約もあって書ける範囲は絞られているために、広げられる範囲・深められる範囲は多いと思いますが、まずは「きっかけ」として、この領域へ関心を持つ人や、執事が好きな人がより執事を好きになる一冊となれれば幸いです。


目次

詳細の目次は後日出しますが、以下、概要での目次です。




はじめに

第1章 英国執事と日本の執事

第2章 執事トレンド ブーム前夜の執事の低年齢化と主役化

第3章 執事ブーム元年 2006年の執事喫茶誕生

第4章 執事ブーム1 2006年からの執事作品増加とその広がり

第5章 執事ブーム2 ミステリと児童作品の執事

第6章 現代の執事イメージ

エピローグ



それぞれの章について、簡単に示すと次のようになります。



 第一章で、元々の私の専門領域「バトラー」と、それに対応する「明治以降、屋敷で働いた日本の執事」を扱います。



 第二章から「執事ブーム」へ至る「執事トレンド」として、「バトラー」が描かれた漫画やアニメと、「日本独自の執事」が登場した広範な作品を扱い、脇役だった執事が低年齢化、主人公化する傾向を描き出します。



 第三章では、執事イメージの広がりに大きな役割を果たした最初の執事喫茶スワロウテイル」の誕生の経緯と報道と、もう一つの執事喫茶「バトラーズカフェ」を扱います。



 第四章では、同じ2006年以降の「執事ブーム」を牽引する『メイちゃんの執事』、『黒執事』に代表される執事作品の増加傾向と、2000年代から2010年代作品を中心に、様々な軸の執事作品を解説します。



 第五章は『謎解きはディナーのあとで』の大ヒットとミステリ作品・探偵作品で脇役だった執事が、探偵助手・探偵となっていく変化と、児童向け作品の執事にフォーカスします。第二章で語る対象からミステリ作品は除外し、ここで一気に解説します。



 第六章は企業のビジネスで活用されるブランドまで進化した「執事」のイメージと、英国で1980年代から登場する「執事養成学校」とホテルの場での広がりやコンシェルジュとの違い、そして「現代の執事」の広がりを考察します。