ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。同人・出版活動の報告を含みます。

コミケの徹夜組対応は、「時間差入場証の導入」で解消できるか?

コミケの徹夜組対応と、猛暑時の対応のための列解消をどう行うか?

コミケでは、同人誌や欲しい限定販売アイテムを購入するために、徹夜で並んで列を形成する「徹夜組」の存在が知られています。準備会は公式に徹夜は認めていませんが、数千人規模であるためにコントロールが難しいとも言われており、実質的に排除できず、先着順で入場する現在の運用体制で存在しています。

以下、公式が公開している徹夜・深夜来場禁止のメッセージです。

こうした徹夜組に加えて、一日に17〜20万人が来場するコミケでは、一度に入場できる人に限界があり、周辺に大規模な入場待機列が形成されます。2019年8月11日(日)にはこの列形成の運用でミスがあり、1) 熱中症で倒れる方達が出る、2) 後から並んだ人の方が先に入場するといった事態が生じ、コミケの準備会が経緯説明とお詫びを行いました。

これも、1) 今回の会場の構成が初めてであり(オリンピックの影響で東が使えなくなり、新環境で行う)、さらに2) 入場に必要な有償リストバンドの導入といった2つの新しいオペレーションが生じていたことも影響していると考えられます。

こうした中、徹夜組の問題と、大勢が外に並ぶ問題を解決する方策は長年検討されてきたものと思います。今回、この「有償のリストバンド」を進化させることで、待機列形成を減らせるのではないかというのが、今回のテキストの内容です。

※内部の運営の詳細情報を知らないので、あくまでも思考実験として捉えてください。

事例:美術館やイベントで行われる時間差入場の概念

英国やイタリアを旅行していた時の体験として、人気がある美術館や美術展では「観光客の総入場数」を制限するため、入場時間を決めたチケットを使ってネットで予約受付や、現地での販売を行なっています。入場者が快適に回れるように10〜30分単位で入場時間を決めて、予定数を超えれば、次の時間帯のチケットを買うことになります。

運用は、次のようなものになります。

1) チケット入手:ネットで予約または現地で直接購入
2) QRコード記載のチケットを受け取る(メールやアプリで配信・印刷も可能。または現地で紙で受け取る)
3) スマホタブレットなどに入れたアプリでQRコードを読み、入場チケットのチェックを行う。

ネットでは、これを支援する次のようなイベント管理ツールがあります。

peatix.com
www.eventbrite.com

私がこのようなサービスを活用した、QRコードでのイベント入場を体験したのは、英国で行われたOpen House Londonです。
openhouselondon.org.uk

普段は公開していない場所(政府施設や個人・法人管理の屋敷やクラブなど)を1年に2日間だけ一般公開するイベントで、そのうちの建物のいくつかは、上記のhttps://www.eventbrite.com/のサイトで予約受付を行いました。そこで日付・時間帯を指定して予約し、QRコードを受け取り、当日は受付の人が持つiPadスマホに出したQRコードを読み込んでもらい、入場しました。

リストバンドからQRコード・時間帯チケットへの切り替えは可能か?

コミケでもこの概念を導入できないかと、以下具体的に考えます。

そもそも、このような概念を導入する検討ができるようになったのも、「リストバンドによる有償化」が初めて実施されればこそ、です。これまでのコミケはカタログを買わなくても入場できました。しかし、今回からは1) コミケカタログ(紙)に付属、2)日付別でアニメイトメロンブックスなどショップで販売、3) 当日現地で準備会が販売するリストバンドが、入場に必要になりました。

www.comiket.co.jp

ただ、リストバンドの事前購入分が売り切れたり、現地でも列を作っての購入や売り切れが出るなど、実際の「リストバンド」であることで在庫管理が必要で的整数の流通にも課題があったと考えられます。

このリストバンドを、QRコード・時間帯チケットのデジタルデータ化(印刷化)に切り替えることで在庫問題を解消し、さらには徹夜組や列の総数を削減できるのではないか、と考えてみました。

※2019/08/14追記 ブクマでご指摘を受け、私の提案内容を「徹夜組に相当する1万人規模の先着入場パス」と、「リストバンドに相当するフリーでの入場パス」に切り替えます。最初の以下の提案を残し、ページ最下部に修正案を記載しました。

時間を決めたデジタル入場証について

1) 会場に入場できる数も上限があるので、時間単位での入場時間上限を定めて入場証を事前発行する。
2) 徹夜しても始発で行っても、その時間帯から入れる入場証がなければ、入れない。
3) 何時に入れるかがある程度まで保証されれば、列に並ぶ必要性は低く、暑さ・寒さ対策の余地も減る。

入場証の入手手段

1) 入場証予約は先着予約販売/抽選などの組み合わせで公平性を高める。ネット決済できない人向けに、個々の店舗用の販売枠も用意。
2) 設営協力者が買いやすい枠なども準備。
3) 高い入場料金枠(優先パス)も一部設定。寄付などに使う。
4) 10〜20%の当日フリー入場枠を設ける。時間帯ごとの空きが出た都度、入場。受付は8時からなど。

列形成

1) 入場時間毎の列を形成する。10:00入場(5000人)、10:15入場(5000人)など、それぞれの最大人数が並べる場を確保する。
2) 列形成の受付は入場の1〜2時間前などから受付開始し、先着順で実施。
3) スタッフがアプリでチェックし、またあわせて手荷物検査を事前に行う。QRチェックは自動ゲートでもできる?
4) 混雑度合いで時間帯枠も細分化する。1) 混雑枠(企業や壁外周)、2) 島(壁にも行けるけど)など。
5) 上記のフリー枠は今まで通りの運用にして、先着順で時間帯入場者を優先しつつ、一定感覚で入場してもらうかは要検討。
6) 自分が持つ入場時間帯に遅刻した人は、フリー枠に並ぶ。時間帯あたりの入場者数を明示しておく。

徹夜して早く入場したい人は早期の入場証争奪戦を行い、負ければ当日枠の確保を狙う。これで当日の総量は減ると考えられます。

混雑が嫌で12時入場できれば良い、13時入場でも良いという方も、上記運用がうまくいけば、入場時間を見越して入れます。

要検討事項

1) コミケ会場への収容能力は想定通りに行くのか?

・現実的に、時間帯別に列形成を行なって会場へスムーズに入場させることは可能なのか?
・チケットチェックや手荷物検査で、余計にスタッフのリソースがかかるのでは?
・フリー枠を用意しているが、必要なのか? 徹夜組を生むのでは?

2) 導入コストは?

・現在例に挙げたサービスは、コミケなどよりも圧倒的に少人数のイベント運用を想定。可能か?
・この規模の在庫管理大変ではないのか?
・店舗発行を行う端末の確保はどう行うのか? 費用は?

まとめ

今のところ、「徹夜組をどう規制するか」に議論が向かっているように思いますが、前提条件を変えることで解決策を広げられないかというのが、今回のテキストの趣旨です。並ぶこともイベントの醍醐味ですが、流石にこの暑さで行列に並ぶのは危険であり、ならば行列を作らない運用を可能とするにはどうすれば良いのか、というところで上記のように考えました。

あと、会場が増えることでスタッフの絶対数が不足しており、会場外担当部署の積極募集が行われています。
www.comiket.co.jp


特に来てほしい部署!
なお、2019年からは、2020年の東京オリンピックパラリンピック開催に伴い、ビッグサイトの東展示棟が使用できないことや、新しくできる青海展示棟・南展示棟を使用する等、会場利用方法が大きく変わります。このため、引き続きコミックマーケット97でも、特に会場外を担当する部署では積極的にスタッフを募集しております。詳しくは下記の応募方法よりお問い合わせください。

今回の提案の根幹には、店員不足でスーパーやコンビニで導入が進む「セルフレジ」と似たものもあります。出来るだけ当日の列形成を少なくして、少ないスタッフで回せるようにする方法としても、検討の余地があると思います。

そもそも「時間帯別チケットの発行」という考え方自体がコミケの理念と乖離する運用方法かもしれませんし、現実的なのかとの話もあります。1時間ぐらいでひとりで考えたことなので、その辺りはご容赦を。

様々な具体的なアイデアが出てくることを願っています。

追記:10-11時の先着入場を保証するファストパス方式はどうか?

ブクマでご指摘をいただき、ありがとうございます。

コミケの徹夜組対応は、「時間差入場証の導入」で解消できるか? - ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

無理。入場者数の桁が違いすぎる(というか、この程度で対策できるなら既に実施している。ワンフェスでは導入されてた気がするし)

2019/08/13 21:12
b.hatena.ne.jp
コミケの徹夜組対応は、「時間差入場証の導入」で解消できるか? - ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

コミケに並ぶ目的は「サークルの頒布物」でそれは時間帯が早ければ早いほど手に入れやすいので、早い時間帯にプレミアついてダフ屋か転売家が横行しそうな気がする。あと15分5000人では全然足りないよなあ

2019/08/13 21:34
b.hatena.ne.jp]

要点と、それを踏まえての考え方を変えてみます。

1. 規模が違いすぎる

→その通りですね。自分でも10万単位の人を、10-15分刻みの入場管理でできるように思えなくなりました。

なので、「徹夜組の規模」に対応だけした「10-11時に入場が見込める先着入場枠(1万人ぐらいの規模)」だけを切り離すことを再提案します。徹夜しても、この先着入場枠より先に入れません。

1) 1万人分のチケットの発行(1万人はあくまでも例です)
2) 1万人の中で先着争いの徹夜が生じないよう、50〜100ブロックに分けて発番。5001-5100の人は、そのブロック内にしか並べない。100人の中での先着順はたかが知れているので、その中で早い番号になる誘引は低い。

2. というか、この程度で対策できるなら既に実施している。

→有償化・リストバンドの導入という「チケット発券」に属するものが今回のコミケから導入されたから発案できるものだと思います。

3. ワンフェスでは導入されてた気がするし

→ご指摘ありがとうございます。確認しました。上記に書き直した修正案と重なりますね。これの規模を変えて、導入すれば良いのではないかと思います。以下部分引用します。ワンフェスで導入し、コミケで導入していなかったのは、前述したように「入場者に課金するかどうか」の考え方の差だと思います。

ワンダーフェスティバル|Wonder Festival


【ダイレクトパスとは】ダイレクトパスは、開催日の8:00〜8:30のあいだに会場にお越しいただければ優先的に館内に入場することができる「特別整理券」です。

【価格】3,000円(税込)+システム使用料216円+発券手数料108円※入場には、別途入場チケット兼公式ガイドブック(2,500円)の購入が必要です

【開催当日の入場方法】
ダイレクトパスには「企業/一般」のチケット区分ごとに始番0001番より整理番号がランダムに印刷されています。開催当日、パスに印字された地図の場所に、8:00〜8:30のあいだに到着するようにお越しください

【ダイレクトパスのご購入をご検討の方へ】
ダイレクトパスは、整理列入場時に本人確認書類をご提示いただきます。対象となる本人確認書類は以下のものとさせていただきます。

4. コミケに並ぶ目的は「サークルの頒布物」でそれは時間帯が早ければ早いほど手に入れやすいので、早い時間帯にプレミアついてダフ屋か転売家が横行しそうな気がする。

→早い時間帯を、「徹夜組の管理リソースに使うのか」「転売込みで、購入者に寄せるのか」の考え方と思います。いずれにせよフリーライドする徹夜組にコストを支払わせることを目的としています。

ただご指摘のように、それ以外の時間でも転売が生じることは否めないと思いますので、「10-11時または1万人の先着入場のチケット予約」と、「フリー入場(今まで通りのリストバンド)」の運用に分けても良いと思います。

転売対応は、ご指摘いただいたワンフェスのダイレクトパス方式で使っている基準の個人確認で良いと思います。1万人分できるのか、については、徹夜対応されているスタッフの声も見聞きしますので、徹夜対応リソースをそこに回す考え方になります。「スタッフを徹夜させないことを優先し、それ以外のことは優先度を下げる」と。


5. あと15分5000人では全然足りないよなあ

→こちらはすみません、正確な数字は知らないので、適当に書いています。

待機列を減らすには、1) 並ぶ人を減らすか、2) 入場処理能力を上げる(入り口を増やしていく、既に中にいるサークルチケットでの会場前行列を減らす、手荷物検査時間を減らす 、チケット確認などの時間を減らす)になると思います。

メモ

全時間帯にダイレクトパスに相当するのがあっても良いかもですね。

十万人以上を時間帯でコントロールするのは難しいので、数千人や全体の一部に「お金を追加して払うと快適な環境が得られる」枠を用意する、という考え方です。

過去に、ヴェネツィアサン・マルコ寺院を訪問した際、事前に追加料金を払って早期入場券を買っておくと、現地で並んでいる人と別の入り口から並ばずに入れました。バチカンの美術館でも、予約しておくとほぼ並ばずに入れました。
www.venetoinside.com

お金を取るのかというところがありつつ、スタッフを含めて全体が快適になるところへ再投資されれば、特に文句もありません。

以上、また何か補足があれば追記していきます。ご指摘、ありがとうございました。

さらに補足「前提が違いすぎるし、先行議論を踏まえてない」

あさくらさんから、Twitter上でご指摘を受けました。



先行議論をきちんと見ていなかったことはその通りです。また挙げていただいた前提情報も大きく異なるため、私の書き込みはここまでとします。きちんと情報を集めて議論に加わることは、自分にとっては優先度が高くないためです。不勉強な領域での議論に参加するのはよろしくないと、自戒の意味で、メモしておきます。

【感想】BBCのジョン・マルコヴィッチ版『ABC殺人事件』(ネタバレあり) かつてないほど「弱いポワロ」

はじめに(ネタバレなし)

ジョン・マルコヴィッチ主演のポワロ作品『ABC殺人事件』が、2018年にBBCで放送されました。そのDVDが2019年に発売したので購入し、感想を書きます。「はじめに」のみネタバレなしです。



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ABC殺人事件




最近、アガサ・クリスティーの作品の映像化が活性化しているように思います。様々なポワロ 作品がある中で、最も原作に近く、原作を映像化しきったデビッド・スーシェ主演『名探偵ポワロ』(1989-2013年)が終了したことも、新しい作品を生み出すことにつながっているかもしれません。デビッド・スーシェのポワロ解釈は深く、ポワロに寄り添うものであり、個人的には彼以外のポワロを見ると違和感を覚えるほどです。



Poirot and Me (English Edition)

Poirot and Me (English Edition)





スーシェが人生をかけて演じた状況は彼の自伝に詳細に書かれていますし、また『ポワロと私』というタイトルで自伝を書ける資格は、著者のクリスティーを除けば、スーシェだけに許されたものでしょう。



スーシェ版ポワロは時間と限りないリソースを使った完璧な作品であるがゆえに、「スーシェ版以降」に出る作品は、様々な点で原作のストーリーを変更したり、ポワロ解釈を改変したりする必要に迫られていると言えます。



その代表的なものが、ケネス・ブラナー主演による『オリエント急行殺人事件』で、予告編や冒頭のポワロ解釈は誇大化した・戯画化したように思えるもので、個人的には好きではありませんでした。物理的なアクションにも強く、精神的にも自身を神と思えるぐらいに、「最強のポワロ」です。







しかし、この作品は原作で「少しおかしくないか?」と思える箇所をケアする設定を盛り込んでおり、この点では原作以上のシナリオを表現することに成功した面もあったと思います。そこには、スーシェ版という完成品がありながらも、あえて作る意味がきちんと存在しています。その点については、以下で考察しました。



note.mu



そして、その先に続くジョン・マルコヴィッチ主演のポワロ作品『ABC殺人事件』は、どのようなシナリオになるのか? というのを確かめた感想が以下になります。ブラナー版との対比で言えば、「ここまで弱い・活躍できないポワロは見たことがない」という作品になっています。



なお、日本でも三谷幸喜氏による『オリエント急行殺人事件』や、『アクロイド殺し』の映像化がなされています。日本を舞台にしている点で作る意味はあると言えつつも、こちらもそれぞれに原作にはない作品解釈を盛り込むことで、スーシェ版と異なるアプローチで原作の魅力を際立たせるオリジナリティが発揮されています。





以下、ネタバレです。
















マルコヴィッチ版『ABC殺人事件』は、「ポワロ」が「探偵役となる機会を与えられなかった場合」の物語

「最弱のポワロ」

端的に言えば、本作品の「ポワロ」はかつてのポワロ 作品で「最弱」です。何故ならば、彼が事件に関わり、捜査に協力する機会が与えられないからです。



元々、『ABC殺人事件』は劇場型犯罪であり、また殺人の中に本命の殺人を隠すトリックが著名なものです。ポワロはその知名度を利用されて(アリバイ作りにも)、犯人から殺害の予告状を受けます。この予告状から、Aの地名でA.A.、Bの地名でB.B.のイニシャルを持つ人たちが殺害され、現場にはABC鉄道時刻表が置かれている、そして犯人は犯行の度にポワロへ次の殺人の予告状を送る、という仕立てになっています。



ところが、本作品のポワロは、冒頭で述べたように警察の支援を得られません。予告状の話を警察へしにいったポワロは、親友ジャップ警部の引退を知らされます。後任の若い警部クロムはポワロを信用していません。さらに、舞台は『名探偵ポワロ』でポワロが大活躍した1930年代と同じ1933年にも関わらず、ポワロの探偵稼業は衰退しており、もはや屋敷を舞台にした殺人事件の捜査に需要はない、というようなことも語られています。さらに、老いを隠すために白髪となっている髭を染めていったものの、クロムとの対話中に溶け出した染料の指摘を受ける、という恥もかきます。



警察内のサポート役だった引退したジャップも、ポワロと会った場面で亡くなります。相棒のヘイスティングスも登場しません。ここで描かれているのは「ポワロの足元の弱さ」です。



1. 老いている。

2. 探偵としての名声は過去のもので、需要がない。過去の人。

3. 信頼できる警察の味方がいない。ジャップ警部は引退・死に、後任のクロム警部からは拒絶される。

4. ヘイスティングスもいない。



その上、クロム警部は外国人で移民となるポワロの前歴を怪しいものと考え、第一次世界大戦以前にはベルギーで警官をしていたというけれども記録がない(原作ではベルギー時代を扱った『チョコレートの箱』があり、この点は原作から外れた解釈)として、ポワロを全否定です。また、「外国人」であることへの反感も描かれています。



というところで、ポワロ作品を知っている視聴者は、かつてないほどに「弱いポワロ」を見ることになります。


「殺人事件の不気味さ」の演出の強化

「探偵作品としては全然面白くないのでは?」と疑問に思いながら見ていくことになりますが、どこに重点が置かれているかと言えば、「ABC殺人事件の犯人」とされることになる、アレキサンダーボナパルト・カスト(ABC)と、それぞれの事件の被害者に焦点を当てています。「謎の殺人事件をポワロが解決していく」スタイルではなく、「巻き込まれていく人々の人間関係や悲劇性」、そしてこの「拡大していく謎の殺人事件の不気味さ」がメインに思えるのです。音楽も全体として不安を煽るような構成になっており、画面の色調も暗く、コントロールされています。


「原作にない、ポワロと事件の繋がり」

ブラナー版の『オリエント急行殺人事件』が、原作にはなかったユニークで、原作にあってもおかしくない、むしろそっちの方が自然だったのでは、と思えるポワロと事件との繋がりを描いたことに続くように、本作品でも「事件の被害者」とポワロは繋がっているように描かれました。当初の被害者のそれぞれが、ポワロと何かしらの形で接点を持ち、犯人はそのことを知った上で、被害者を選び、殺しているのです。



中でも際立っていたのが、サー・カーマイケル・クラーク(Cの被害者)との連なりです。かつてポワロは最盛期となる時代(1928年)に、この屋敷卿夫人ハーマイオニーの誕生日のサプライズゲストとして訪問していたのです。卿夫人はポワロの崇拝者であり、そこでポワロはエンタテインメントとして、「殺人事件の犯人探し」の場を提供します。そして、ゲストにとっては「ゲーム」でも、ポワロ自身は翌日からいつも通りに「本物の殺人者を捕まえる」ことに戻ると語りつつ。列席者、そして主催のカーマイケル卿は、「Brithday murder」と歓声をあげるなど、やや悪趣味な上流階級らしさが描写されます。ポワロはここで「殺人をエンタテインメント」化し、また卿夫妻と列席者と一緒に写真を撮りました。



そして、そのポワロを招いたサー・カーマイケル・クラークが殺され、「Birthday murder」を捧げられたハーマイオニー卿夫人は、本当の死に直面するという悲劇に見舞われるのです。



真犯人のカーマイケルの弟フランクリンは、この時のポワロとの出会いに影響を受けました。



原作でフランクリンは遺産相続のために兄を殺し、その殺人をバレないようにするために関係ない人の殺人事件を作り上げ、「殺人の中に殺人を隠す」ことを試みます。ポワロを挑発し、さらにはABCの名を持つカストを犯人に仕立て上げました。その本筋は変わっていないのですが、本作でフランクリンはポワロとパーティーで関わり、彼がエンタテインメント化した殺人事件を進めていくことに情熱を持ちました。また、卿の秘書グレイも、フランクリンが真犯人と知り、彼と付き合っていくようになることは原作との大きな違いです。


ポワロの動きが遅い=事件の拡大

そして、本作が非常に興味深いのは、「もしもポワロが警察の協力を最初から得られず、犯人探しに遅れをとっていたら?」という状況で事件が推移するところです。原作では4番目の殺人となる「D」で殺人が停止します。なぜならば、そこで「犯人」とされたABCことカストが逮捕されるからです。しかし、本作でカストは逮捕されないまま5番目の殺人「E」に至ってしまいます。



これは好みは別として、新しい解釈です。


「ポワロの過去」

最後に、本作では「ポワロのベルギー時代」が明かされます。元々、警官だった経歴を持ち、ジャップ警部とも知り合いであったことが前提で英国で活躍するポワロの設定を覆したかった理由は私にはわかりませんでした。ただ、「原作とドラマの11の違い」というテキストによれば、1933年にあった「レイシズム」「反移民」の環境に直面する外国人移民の立場を、「ポワロ」を通じて描いたようです。そのテーマ自体は現代に通じるものであるために盛り込み、また若きクロム警部の協力を得難い状況を作る理由になったとは思います。



以下、引用です。


www.radiotimes.com


4. The racism – and Poirot’s past
TV drama: Racism and anti-immigrant feeling in the Britain of 1933 is a central theme of this Agatha Christie adaptation, as the public mood shifts against foreigners. The rise of the British Union of Fascists and the facts of the ABC case force Poirot to look back at his own past, when he fled Belgium in 1914: it is revealed that he was a Catholic priest who encouraged his congregants to shelter in his church and then saw the building (and its inhabitants) torched to the ground.

Novel: This dramatic storyline about Poirot’s past does NOT come from the novel, although anti-foreigner feelings are present in the original story. Poirot detects a “a slight anti-foreign bias” in the first ABC letter, which reads: “You fancy yourself, don’t you, at solving mysteries that are too difficult for our poor thick-headed British police?” And when Franklin is identified as the killer, he yells: “You unutterable little jackanapes of a foreigner.” Which is a brilliant line.


まとめ

全体として、本作品はアガサ・クリスティーの「ポワロ作品シリーズ」にある探偵小説としてのカタルシスという文脈からは、外れているものです。本作でポワロは尊敬されず、反発を受け、探偵として能力を発揮する機会もなかなか与えられず、それでも自ら動き、苦闘しています。また、本作のポワロは「過去の人」であり、全盛期が去った境遇にも置かれています。



個人的に興味深かったのは、「この状況に置かれたことで、Dで終わっていた殺人事件が終わらず、Eまで被害者が出たこと」です。そして、そうした被害の拡大を続けた真犯人のフランクリンが、原作では「相続のため」に殺人をしていたことを、「ポワロと過去に出会い、殺人事件のゲーム化」にインスパイアされたことなどは現代的な解釈に思います。



作品としては、『名探偵ポワロ』とは全く違う解釈のもので、またクリスティー原作を換骨奪胎して、「もしもポワロがこういう状況だったら?」「ジャップ警部の不在で警察の協力がなかったら?」という変化が生まれたことで起こり得たものとして、「派生シナリオのひとつ」と考えることができます。



そういう点では、あまりにも原作から始まりの境遇が違いすぎるため、ポワロに感情移入してしまい、「ジョン・マルコヴィッチがどのようにポワロを演じるか?」というある種の比較する視点に立てなかったのかもしれません。ポワロ作品なのに、「ポワロが活躍を楽しむ作品ではない」「ポワロの魅力で押す作品ではない」、というのが私なりの解釈です。


余談:サー・カーマイケル・クラークの屋敷はNewby Hall

卿の屋敷が映った時、壁の色彩や階段の模様などから、私が大好きな建築家Robert Adamの手によるものでは?と思って調べたところ、その通りでした。
www.newbyhall.com

秘書グレイが風呂に入っているシーンでも、この屋敷の風呂が使われたようで、背景にはAdamの特徴的な装飾が見えていました。一度でいいので、宿泊してみたいです。どういう色彩かと言えば、同じAdamが手がけたOsterlery Houseの画像から。

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英国の屋敷訪問記は、noteの方で更新しているので、興味ある方はそちらも。

note.mu

2018年の振り返りと2019年のロードマップ

はじめに

今年も恒例、これまでの活動を振り返ります(2017年には、振り返りをできていませんでした)。



2年前:2017年の振り返り(2018/01/01)

4年前:2015年の振り返り(2016/01/02)

5年前:2014年の振り返り(2015/01/01)

6年前:2013年の振り返り(2014/01/01)

7年前:2012年の振り返り(2013/01/01)


出来た事

1. 『日本の執事イメージ史 物語の主役になった執事と執事喫茶』出版

ここ数年、最大級の課題だった「日本のメイドブームに関する本を作る事」は2017年に『日本のメイドカルチャー史』星海社から出版する事で実現できました。



その過程で「執事ブーム」に関しての情報も集まり、星海社から『日本の執事イメージ史 物語の主役になった執事と執事喫茶』を出版することになりました。この執筆に取り掛かり、ようやく2018年8月に実現できました。



この本はある意味で、私のこれまでの活動の集大成です。



1. 同人誌1巻(2001年刊行)で執事について書いた。

2. その後、研究を続け、2008年に総集編『英国メイドの世界』を刊行。

3. 2009年に執事のマネジメントに特化した『英国執事の流儀』を刊行。

4. 2010年に『英国メイドの世界』を講談社から出版。

5. 2011年に「近代日本の女中(メイド)事情に関する資料一覧」を公開。

6. 2017年に『日本のメイドカルチャー史』を星海社から出版。



というような流れがありました。「英国執事」だけではなく、「日本の漫画・アニメ・ゲーム」などの領域を経験し、かつそこで「雑誌・新聞でのイメージの広がり・ブームの可視化」の手法を身につけました。また「日本の女中が仕えた華族」についても研究を広げていたので、それらを総合して書くことができました。



運命的というのか、2001年に最初に作った同人誌では「執事」について、大学時代に読んでいた雑誌『Foresight』(1998年4月号、新潮社)に載っていた「執事養成学校」記事掲載のエピソードに言及しました。その記事を約20年ぶりに取り寄せ、『日本の執事イメージ史』では参考文献として引用しました。



これらは、スティーブ・ジョブスが言うconnecting the dotsについて、実現できていると思います。



幸いにも本書の感想を当事者の方達から個人的に伺う機会にも恵まれました。


2. 『名探偵ポワロ』の同人誌の続編・理想に近い同人誌

昨年から開始した同人誌冬コミ新刊『名探偵ポワロ』が出会った「働く人たち」ガイド 上巻の続編となる下巻を、無事に刊行できました。



冬コミ新刊『名探偵ポワロ』が出会った「働く人たち」ガイド 下巻



その過程で、刊行時に買ったまま読んでいなかった、ポワロを演じた俳優デビッド・スーシェの自伝を読み始めたところ、非常に面白く、ドラマの理解に役立ちました。さらに、この本を通じて、私は「スーシェが解釈し、演じて作り上げた『名探偵ポワロ』が大好きだった」と再認識しました。






3. 『ミステリマガジン』2018年5 月号「特集/アガサ・クリスティーをより楽しむための7つの法則」に寄稿

ポワロの同人誌を作ったことで、イラストを描いてくださったウメグラさんとともに『ミステリマガジン』2018年5 月号「特集/アガサ・クリスティーをより楽しむための7つの法則」に、"法則5 使用人でクリスティーを楽しむ エッセイ クリスティー作品を照らす「家事使用人」"を寄稿しました。







同人誌では『名探偵ポワロ』のドラマに限定しましたが、クリスティー作品全般に広げました。原稿の文字数が限定的で十分に語り尽くすことはできませんでしたが、ウメグラさんとご一緒できたこと、そして何よりも私の原点であるクリスティーの名を冠する「クリスティー文庫」を刊行する早川書房に、「ポワロ」についてテキストを書くことができたのは記念になりました。



補足しておきますと、これまでにも2回、『ミステリマガジン』には寄稿しています。


4. 英国旅行・聖地巡礼の旅

2017年に英国旅行に行きたかったものの出版で行けなかったので、2018年は絶対に行くと決めて行きました。



■目的

1. 田中亮三先生の著作の影響で建築家ロバート・アダムが大好きなのでその屋敷巡りをしたい。これは英国旅行の主な目的で2005年から継続。

2. 映画『日の名残り』の舞台になったDyrham Parkへ行きたい。執事本を書いたので尚更に。

3. クリスティーの生地トーキーの博物館と別荘Greenwayに行きたい。ポワロ本を作っているので尚更に。

4. アニメ『Fate/stay nightUnlimited Blade Works]』の舞台となったグラストンベリーアーサー王の墓に行きたい。

5. 『アーネスト式恋愛術』や『英国王のスピーチ』で憧れていた玄関ホールの屋敷Lancaster Houseに行きたい。政府機関の建物で、Opne Houseというイベント期間しか入れない。



以下、これまでに訪問できた場所です。2018年の多さが際立ちます。


2004

Buchkingham Palace
Somerset House
No.1 Royal Crescent

2005

Spencer House
Kenwood House
Apsley House
Kensington Palace
Buchkingham Palace
Osterely Park

2016

Shugborough
Harewood House
Chatsworth
Windsor Castle
Buchkingham Palace
Heartford House

2018

Blenheim Palace
Lancaster House
Admirality house
Carlton House Terrace(Royal Society, British Academy)
42 Portland Place
Embassy of the Republic of Poland in London
Home House
Saltram
Mount Edgcumbe Country Park
Greenway
Dyrham Park
No.1 Royal Crescent
Osterely Park
Syon House


このうち、Greenwayは『名探偵ポワロ』「死者のあやまち」の舞台となり、またSyon Houseも「ヘラクレスの難業」と「ビッグ・フォー」の舞台となりました。さらに気づかなかったのですが、Blenheim Palaceもドラマ『ミス・マープル』の「復讐の女神」の原作・ドラマの舞台となっていた場所でした。



旅行記はそのうち書きます。


5. 1920-30年代のメイド服製作

コミケに参加する際、サークルスペースで同人誌頒布を行う作者以外の手伝いの人を「売り子」と呼んでいます。その売り子にメイドさんを起用すること自体は以前から、池袋のメイド喫茶ワンダーパーラー・カフェ」の協力で実現していました。



そこに加えて、今年は『名探偵ポワロ』に登場する1920-30年代のメイド服を着て欲しいと思い、相談しました。日本でイメージされるメイド服は肩紐ありのエプロンタイプですが、ポワロ登場のメイド服は全く違うのです。



そこで、自腹で製作費を負担するので、オーダーメイドで作ってもらいました。何を言っているかよくわからないかもしれませんが、勢いです。







2018年の抱負のレビュー

2018年に実施したいとしていたことを、どこまで実現できたか書きます。

執事本の出版 from 星海社:達成

無事に作りました。


3冊目の本の出版が決まりました。『日本のメイドカルチャー史』を書いていた時に、同時期の執事ブームについても調べていました。ただ、メイドがメインだったのでバランスが崩れることと、調査不足の観点から掲載を見合わせました。その切り離したテーマが面白いということにて、星海社から出版の提案を受け、新書で作ることになりました。



『日本のメイドカルチャー史』と似たコンテクストを持ちつつ、異なる切り口で書きます。


メイドアワードの創設:未達成

これは企画しきれず、時間もなく、でした。


メイド作品を追いかけるのが物理的に無理な段階になったので、作品を表彰するアワードを創設して、メイド作品が集まる仕組みを作る。アワード自体は読者投票も取り入れる。



・主演メイド作品賞:メイドが主役の作品

・助演メイド作品賞:主役ではないメイドがいる作品

・ピンポイントメイド作品賞:単発でのメイド出演

メイド喫茶賞:作品内で出てくるメイド喫茶の描写からの表彰

・殿堂入り作品賞:『エマ』『シャーリー』『まほろまてぃっく』など

・新作品賞:その年に連載を開始、発売した作品のみ限定(続刊がその年に出ても対象外)

・審査員各賞



賞金は、私の自腹です。


メイドライブラリー公開:未達成

これも推進力やモデル構築ができず、未達成です。


メイドブーム研究の時に集めた資料(漫画やラノベが大半。秋葉原系や、ゴスロリ関係の所有雑誌も含む)を公開できる場所を探しています。自分では読んでいない本が多くなっているので、死蔵させないためです。現在、興味を持ってくれている店舗があるので、話を詰めています。



※汚れてしまうことや紛失する可能性があることを前提に、超希少品は出せません。



未練があるので、つぶやいていたのをまとめておきます。






インタビュー・対談:部分達成


当事者としてメイドブームを駆け抜けた方達に、話を伺う。話を聞いてみたいのはメイド喫茶の創業者、店員、表現者など様々にうかがいます。年明けに星海社の方で、1回目の対談が公開される予定です。

対談としては『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』の嵯峨景子さんとの対談を実施できました。



ただ、その後、『日本の執事イメージ史』執筆にリソースのほとんどを割いてしまったので、続いていません。


メイドコラムの寄稿の依頼:計画分は達成


自分以外の詳しい人に、メイドブームの周辺領域を語っていただく計画を進めています。メイド喫茶全体、エロ漫画やニコニコ動画、pixiv、小説家になろうなどのCGMにおけるメイドの出現傾向など。既に周囲にお願いできそうな方が多いので、進行中で、3-4月に幾つか形をお見せできればと思っています。

このテキストを書いた時点で想定していたありらいおんさんと牧田翠さんには依頼をして、寄稿いただけました。

同人誌即売会:提案中

こちらは提案中で、その後、動きがありません。




メイドオンリーイベントを代表する「帝國メイド倶楽部」的なるものを考えています。以前、ちらっとつぶやいた時に、企画に興味を持った経験者の方からお声がけいただいたので、今、実現可能か相談しています。



メイド同人誌が読みたければ、メイド同人誌が集まる場を作れば良いのでは?との思いにて。



あと、個人的には、過去にメイドコスプレをされていた方に、その当時の衣装を着ていただきたいのです。日本のメイド服(コスプレ衣装)アーカイブということで、記念に残せないかと。100人ぐらい集まると素敵ですね(どんなお屋敷だろう……)


メイド喫茶とコラボイベント:未達成

先方提案企画との調整がつかず、流れています。


企画中です。公開できる段階になったら公開します(実施できるかは未定)。



ニュースサイトの創設:未達成

時間の問題で未達成です。


メイドアワードをやる前に、まずは企業が公開するメイドウェブ漫画作品などを集めてみたり、数万RTされるメイドイラストをアーカイブしたりと、メイドイメージにまつわる記録の散逸を防ぎつつ、メイドイメージへアクセスしやすい環境の整備を計画中です。


メイドメディアの創設:未達成

こちらも同じく。


ここのみ、実現可能性やまだ何も見えていない「夢」です。ヴィクトリア朝をテーマとした創作メディアを作りたいです。創作プラットフォームを作り、メイド作品制作を大好きな作家の方たちに依頼してみたいです。


2019年の抱負

今年は充電期間にしたいと思います。特にこの3年は出版に膨大な時間を費やしました。2016年から『日本のメイドカルチャー史』の出版準備の本格化、2017年での出版とポワロ本作成がありました。2018年は『日本の執事イメージ史』出版と、ポワロ本の完結を行いました。出版2冊と、大好きで原点となるポワロの同人誌を作ることで、行いたいことは叶いました。



以下、今時点で考えているものです。


1. 雑誌的なもの(ヴィクトリア朝やメイド)

元々私の同人誌のタイトルは『ヴィクトリア朝の暮らし』でした。家事使用人に特化したものの、今あえて「ヴィクトリア朝」をテーマにした同人誌を作ってみるのも面白いかと思いました。



もちろん、私個人では扱いきれない領域なので、これまでに縁があった方や原稿をお願いしたい方たちへお声がけして、雑誌のような形でできないかと。それこそ小説から漫画、イラスト、そして専門領域に特化したコラムまで。



これは「メイド」をテーマにしたものでも良いと思っています。私自身はそろそろ活動をして20周年になることもありつつ、元々が創作のための資料を作るという活動をベースとしていますので、創作をする人を巻き込み、発表機会を作るというところはやってみたいと思っています。



同人誌に限らず、ウェブでも。ウェブ漫画やイラストレーターの方なども増加しており、以前存在していた「ニュースサイト」を立ち上げることに意味があるようには思えています。これも自分一人で行わず、編集部を立ち上げても良いかもしれません。



本来的には関わる方達へお金が還流し、好きなことを続けやすい環境を作ることに寄与したいとは思っています。



これと「私の蔵書を公開する図書館」をセットにできると、資料を提供して創作しやすい環境を作ることもできるのですが。ただ、安全でアクセスしやすく持続的な場所を維持するのはお金がかかりそうで、そこのめどがまだ立っていません。



段階的に進めて、会社作るのかな?


2. ゲームキーパー特化本

日本ではゲームキーパーに関する家事使用人の資料はほとんどありません。私の『英国メイドの世界』が相当な分量を割いているもので、そこに掲載しきれなかった資料・間に合わなかった資料から、もう一度、「ゲームキーパー」について書きたいなと思っています。



メインどころの「メイド」でも「執事」でもないのですが。


3. メイド・執事作品ガイド(各100作品ぐらい紹介とか?)

『日本のメイドカルチャー史』でも『日本の執事イメージ史』でも作品への言及を均等に数多くできていないのと、目的別・年代別に紹介する本を作りたいと思いました。



同人誌ではなくネットでも構わないのですが、メイド漫画の最高峰『エマ』も完結から10年以上が経過しており、接していない人も増えているように思います。


4. 執事セバスチャンの謎・決着編(取材する)

「執事といえばセバスチャン」はいつ成立したのか? 執事ブーム以前のセバスチャン考察というコラムを公開しました。



取材せずに調べきれる範囲では大体網羅していると思います。逆を言えば、当事者に聞かなければわからない段階にも入っています。時間とコストと相手の都合があるのですぐにできない・結果が出ない可能性もあるので後回しにしていましたが、進めてみたいとは思います。


5. ミス・マープルを含めたクリスティーと家事使用人の総括

何かを始めると別の何かが広がる、というのはよくあることです。メイドブームを研究していたら執事ブームの本を書くことになったと同じように、『名探偵ポワロ』の同人誌を作れば当然、クリスティー全作品での家事使用人の描写が気になり始めるのです。



特に家事使用人を実際に雇用していた『ミス・マープル』については、扱わざるを得ないのではないかと思う次第です。ミス・マープルの時代は主に戦後となっているので、家事使用人雇用の状況が大きく変わっています。クリスティー作品は概ね発表時期の時代を背景としているので、作中でかなりその当時の認識が語られていることもあります。


6. 旅行記を書く

2016年と2018年に英国旅行をしましたので、その旅行記を。あと、2018年にOpen Houseに参加したので、あのイベントで行きたい場所へ行くためのノウハウを公開しようと思います。抽選・予約についてのノウハウを書くことは自分の当選確率を下げるのですが、個人的には行きたい場所に行くことができたので、もう良いかな、と思っています。


7. 現代の労働環境と「使用人問題」について

労働環境について、英国の家事使用人の歴史は現代への示唆に富んでいます。

1. 不人気でなり手不足に陥る。

2. 政府が対策に乗り出す。

3. 移民や安価ななり手を探す。

4. 拘束力が強い住み込みから、通い・複数の家庭への勤務になっていくメイドから家政婦化。

あとは労働基準法の適用外になっていることや、構造的に家事使用人雇用者が支配的になってしまうことについても考察をしたいとは思っています。日本以外の家事使用人・家事労働者事情も学んでいるエリアですので。

終わりに

そろそろ自分自身のフェイズも変わってきました。当初の予定になかった「メイドブーム」「執事ブーム」について決着をつけられたので、リソースの使い方を変えていこうと思います。



それでは本年もよろしくお願いいたします。


コミケ95(2018/12/ 31、3日目)東1-K60bで参加

2018/12/31(月)開催のコミケ95に、サークル参加する予定です。



コミックマーケット公式



: tweet
: tweet

当日は池袋のメイド喫茶ワンダーパーラー・カフェのメイドさんが売り子をしてくださいます。その制服も、私の依頼で製作していただいた1920-30年代の『名探偵ポワロ』のドラマの時代のメイド服です。

冬コミ新刊『名探偵ポワロ』が出会った「働く人たち」ガイド 下巻

27冊目の本です。冬コミコミケ95)の新刊はNHKで放送された、デビッド・スーシェ主演のドラマ『名探偵ポワロ』の同人誌の続編になります。内容はドラマ全70話から、各話に登場する働く人たちとして、「家事使用人」(メイド、執事、庭師など)をリスト化して、個々の立ち位置や着用する制服を、イラストを交えて紹介する本です。



このページの下部にサンプル画像を貼り付けておきます。



今回は「上巻」の続きとして35話分までを扱い、本来は第35話「負け犬」から第70話「カーテン」までを扱います(第65話「オリエント急行の殺人」は上巻で扱いました)。また、全70話のドラマを俯瞰して、本当にクリスティー作品は屋敷を舞台にしているのか、どの作品に執事やメイドがいたのか、家事使用人は事件の犯人・被害者になったのか、そしてクリスティー文庫の家事使用人職種の翻訳についてなどの考察も行いました。



イラストは、上巻に続き、ウメグラさん(梅野さん)をお迎えしました。



なお、当日は池袋のメイド喫茶ワンダーパーラー・カフェ」の協力を仰ぎ、1930年代のドラマ登場の「メイド服」を新たに作り上げ、それを着用したメイドさんが売り子になる予定です(10-13時を予定)




タイトル:『『名探偵ポワロ』が出会った「働く人たち」ガイド〜執事・メイドから、ホテルスタッフ、ウェイトレスまで〜下巻』

著作:久我真樹、装画/デザイン:梅野隆児(umegrafix)様

仕様:A5サイズ、180ページ

内容:解説+イラスト

サークル:SPQRコミックマーケット3日目東1ホールK60bで頒布開始

価格:1500円

Webコミケカタログ:https://webcatalog.circle.ms/Circle/11919725

委託先(委託先の手数料の関係で、即売会の頒布価格と異なります)
メロンブックス

COMIC ZIN

booth



ポワロの時代は1930年代のため、メイド服は日本で見慣れている「クラシックなメイド服」ではありません。そのイメージを物語る動画があるので、ご紹介しておきます。




Ideal Home Exhibition (1920-1929)






同人誌の概要を示すために、以下、同人誌本文から画像を抜粋します。
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コミティア126(2018/11/25) た13a(壁)で参加告知

2018/11/25(日)開催予定のコミティア126に、サークル参加する予定です。今年は2月に参加して以来となります。



コミティア公式・126開催概要


コミティア126・頒布予定物

コミティアは商業出版の持ち込み(著者の本)がOKなので、『日本の執事イメージ史 物語の主役になった執事と執事喫茶』と『日本のメイドカルチャー史』を持っていきます。



また昨年制作したポワロ本も持ち込みます。



※『英国執事の流儀』は手元に在庫がないので、今回は持ち込めません。

※本が多いので、種類を今回は絞ります。



『名探偵ポワロ』が出会った「働く人たち」ガイド 上巻(ドラマに登場する執事、メイドに特化した解説本)1,000円
『英国メイドがいた時代』(ポワロの時代を含むメイド衰退の歴史資料本)1,000円
『日本の執事イメージ史』星海社から出版1,300円
『日本のメイドカルチャー史』上巻星海社から出版2,500円
『日本のメイドカルチャー史』下巻星海社から出版3,500円
『メイド表現の語り手たち 「私」の好きなメイドさん』(メイド好きが語るメイドブーム)1,000円
『屋根裏の少女たち Behind the green baize door』ワンダーパーラーカフェとのコラボ)500円

『日本の執事イメージ史 物語の主役になった執事と執事喫茶』校了

昨日、星海社から刊行予定の『日本の執事イメージ史 物語の主役になった執事と執事喫茶』が校了となりました。新書ながらも384ページと分厚く、約20万字以上書いたところを14万字ぐらいまで削り込みました。税抜き1300円の予定で、8月末発売です。

どのように日本では漫画や小説で執事が描かれており、そこから執事ブームと呼ぶべき「執事が主役の作品の爆発的増加」が生まれたのかを、丁寧に追いかけました。元々、「日本のメイドブーム」研究が本書執筆のきっかけであり、メイドブーム同様に、突然、執事ブームが生じたわけでもありません。ブームに至るまでに、表現が少しずつ増えていく「トレンド」があり、その積み重ねが臨界点を超えたときに、「ブーム」として観測されて、拡散していく、その様子を描き出しました。

英国屋敷での暮らしと、そこで働く家事使用人の研究から始まった活動は、講談社から『英国メイドの世界』の出版に結実しました。同書では英国メイドや執事、ガーデナーなどを詳細に扱いました。その後、日本の女中や華族の生活、並びに世界中の国々のメイドの調査を始めつつも、縁があって「日本のメイドブーム」に踏み込み、『日本のメイドカルチャー史』を書くこととなりました。

その『日本のメイドカルチャー史』執筆に観測できたのは、同時代に発生していた「執事ブーム」でした。そこから作品で描かれる執事と実在の英国執事を比較するはずが、明治時代以降の日本の華族の家にいた「家令」や富裕層の家にいた「執事」、あるいは「バトラー職」を比較したり、「メイド喫茶ブーム」考察で行ったように大宅壮一文庫でキーワード「執事」に紐づく雑誌を全部読み、日本の雑誌上で語られた執事イメージの多様性をお伝えしたりする内容になりました。

その中で見つけた記事のひとつは、私がこの研究活動を始める前となる1997年の大学在学時に読んでいたものでした。2002年に刊行した2冊目の同人誌『ヴィクトリア朝の暮らし 貴族と使用人(一)』の「執事」の解説では、この記事を思い出して、内容について触れています。そこから2018年になって、この記事と再会し、執事の解説に使うことになりました。

学生時代に読んで記憶にあった雑誌の「執事」記事を、約20年ぶりに読む巡り合わせに驚くとともに、「英国執事の1980年代以降の状況」を知ることにもなりました。さらに、「世界中の国々のメイドの調査」をしていたおかげで、英国執事と王室に関する記載があるテキストも見つけており、今回、取り込むことができました。

というように、これまでの研究が積み重ねって成立している本です。

華族の家令」の調査はまた難航しました。これも、近代日本の女中(メイド)事情に関する資料一覧にまとめていたので少し貯金があったものの、その後、だいぶ調べ直すことになりました。この辺が読んだ資料の大半です(あとは電子書籍国会図書館でのコピー)。

華族の家に家令がいて、主人たちの目から見てどういう仕事をしていたのか」が語られる資料は出ていますが、英国執事や英国家事使用人と同じような分量で「職業・仕事」として商業出版でしっかりまとまった形では出ておらず(天皇家の侍従は別)、経験者の日記や家政の記録が幾つかあることは確認できていますが、「それだけを扱った本」ではないのです。

新書の本文では触れませんでしたが、「志賀直哉の祖父・志賀直道は、旧相馬中村藩主相馬家の家令を勤めていた」という話もあります。
http://webcatplus.nii.ac.jp/webcatplus/details/creator/70456.html


この辺りの「情報はあるけど、欲しい切り口だけでまとまった情報がない」という状況は、自分が「英国メイド研究」をするために、英書を取り寄せ始めた頃を思い出させました。あの時、日本の本だけを読んでいた時は、あちこちのいろいろな資料に家事使用人の情報が点在していて、「家事使用人だけを解説する本」が存在しませんでした。なので、英書でそうした本が山ほどあることを知った時は、すぐに取り寄せました。誰かが「家令」や「華族の家にいた執事」でも、将来、手をつけてくれることを願いします。

なお、華族関係の資料のリストと内容紹介などのコラムは、別の機会に更新します。


いずれにせよ、ほぼ休みなく、2年ほど本の執筆・研究(『日本のメイドカルチャー史』と、2017年冬コミポワロ本、そして今回の『日本の執事イメージ史』)していたので、しばらくのんびりします。