ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。同人・出版活動の報告を含みます。

「日本の執事ブーム」を解説する新刊『日本の執事イメージ史』を星海社から出版予定・告知

『日本の執事イメージ史 物語の主役になった執事と執事喫茶』 2018年8月24日刊行予定

タイトル通り、日本の創作(漫画、アニメなど)における「執事のイメージ」が、いつぐらいから変わり、現在の形にいたったのかを解説する『日本の執事イメージ史 物語の主役になった執事と執事喫茶』を、星海社から2018年8月24日刊行する予定です(この記事を書いている時点で最終の著者校閲の資料待ち)。





(アマゾンの画像は旧タイトルで入っていますので、そのうち修正されます)


執事ブームとメイドブームの類似と相違

本書誕生のきっかけは、『日本のメイドカルチャー史』にあります。日本のメイド作品を調べていると、執事が同僚として出てきており、執事ブームを考察する項目を作りました。英国メイド漫画の金字塔『エマ』でも、メイド喫茶作品となる『会長はメイド様!』でも、枚挙にいとまがないほどに、メイドの登場と重なって、執事も登場していたのです。



とはいえ、「執事ブーム」を一定のボリュームで書くと、「メイドブームの本」としては収まりが悪くなるため、星海社の太田さんと櫻井さんから「新書にしましょう」とご提案をいただき、切り離すことになりました。とはいえ、言及した範囲が限定的だったため、その後、半年間を使ってほぼ書き下ろしになり、資料本も数百冊、雑誌記事も数百記事を取り寄せて読むことになりました。



全体としては「日本の執事ブーム」を解説する本となり、「1990年代のメイドブーム」と比較をしながら、どのように執事イメージが変化し、「執事喫茶」が生まれ、世の中へイメージが伝わっていったのかを扱いました。


「日本の執事」であること

元々、私が専門とする英国家事使用人の職業研究でも、メイドと執事は同じ職場にいる(執事がいるかは限定的ですが)ものであり、私も2009年に『英国執事の流儀』という執事専門同人誌を作っていますし、『英国メイドの世界』もそのタイトルに反して?、執事やフットマン、ヴァレット、コーチマン、ガーデナーやゲームキーパーなど屋内・屋外の男性使用人の職業解説も行っており、「執事」という職業自体は私の研究フィールドの範囲内でした。



ところが、「日本の執事ブーム」として見た場合に、最も難しかったのは、日本には「執事」という言葉が先にあることです。「英国執事=butler(家事使用人)」が後付けで「執事」を割り当てられたがために、「執事」と書かれている場合に何を意味するのかは、一対一ではないのです。このため、日本における「家事使用人としての執事描写」は、旧来の意味合いの「執事」を含んで描写されることがありました。



「メイド」の場合、「女中」「女給」など対応する言葉はありますが、そのままの「メイド」という言葉では、メイドブーム以前には普及していません。ここに、大きな差があります。



以下、日本における「執事」の意味です。「家事使用人」の言葉はありません。



  • ① 身分ある人の家にあって、庶務を執り行う人。
  • ② 内豎所ないじゆどころ・進物所しんもつどころなどの庶務職員。
  • ③ 院司・親王家・摂関家大臣家などの家司けいしの長。
  • 鎌倉幕府の職名。
    • ㋐ 政所まんどころの次官。
    • 問注所の長官。
    • ㋒ 執権しつけんの別名。
  • 室町幕府の職名。
  • 江戸幕府若年寄の別名。
  • ⑦ 寺社で、事務に当たる役。
  • ⑧ 〔deacon〕 キリスト教会の職務の一。聖公会では司祭、ルター派教会では牧師に次ぐ聖職者の職務。長老派・会衆派教会では信徒の職名。聖礼典の補助、会計管理などを行う。正教会では輔祭ほさいという。 → 助祭
  • ⑨ 手紙の脇付わきづけの一。貴人への手紙のあて名に添える。

執事 大辞林:第三版より引用



「執事本出版するよ!」という情報に対して、「(足利尊氏の執事の)高師直いるの?」という反応も見ました。さすがにこの領域すべてを扱うのは困難であるため、「家事使用人としての執事」にエリアを限定しています。



ただ、例外として、「身分ある人の家にあって、庶務を執り行う人」に該当する「家令」など、「華族の家を仕切った家職」について言及をしました。これは英国貴族の家にあった職種「house steward」が「家令」と訳されることや、明治以降に西洋化が進んで洋館に住む生活様式を取り入れていった華族家を運営する「家令」のイメージが、「日本の執事イメージ」形成に影響を与えているためです。



「家事使用人としての英国執事的な仕事描写」は、1990年代に少しずつ、日本の創作で見られていったものと、本書では考察しています。そして、最も大きなテーマが、「執事の低年齢化」です。執事が「青年」「少年」となることで、それまで脇役だった執事が主人公になることができました。これもメイドにはないトレンドです。そして2006年の「執事喫茶の誕生」以降、「執事」の言葉には「執事喫茶の店員」の意味も加わりました。そうした現実の動きと創作イメージとが混ざり合う点では、「メイド喫茶」が生まれてメイドのイメージが塗り替えられたことと重なりがあります。



面白いことに、英国でも「執事」の意味が変わりました。絶滅寸前といわれた執事は、執事養成学校の誕生により、ホテルを職場とする「ホテルバトラー」としての機会が大きく広がり、さらにはホテルバトラーよりも長い歴史を持つ「コンシェルジュ」のイメージも吸収していきました。偶然にも執事ブームと重なる時期に、日本でも「コンシェルジュ」の言葉が認知・流通していく「ブーム」が生じていました。



新書という制約もあって書ける範囲は絞られているために、広げられる範囲・深められる範囲は多いと思いますが、まずは「きっかけ」として、この領域へ関心を持つ人や、執事が好きな人がより執事を好きになる一冊となれれば幸いです。


目次

詳細の目次は後日出しますが、以下、概要での目次です。




はじめに

第1章 英国執事と日本の執事

第2章 執事トレンド ブーム前夜の執事の低年齢化と主役化

第3章 執事ブーム元年 2006年の執事喫茶誕生

第4章 執事ブーム1 2006年からの執事作品増加とその広がり

第5章 執事ブーム2 ミステリと児童作品の執事

第6章 現代の執事イメージ

エピローグ



それぞれの章について、簡単に示すと次のようになります。



 第一章で、元々の私の専門領域「バトラー」と、それに対応する「明治以降、屋敷で働いた日本の執事」を扱います。



 第二章から「執事ブーム」へ至る「執事トレンド」として、「バトラー」が描かれた漫画やアニメと、「日本独自の執事」が登場した広範な作品を扱い、脇役だった執事が低年齢化、主人公化する傾向を描き出します。



 第三章では、執事イメージの広がりに大きな役割を果たした最初の執事喫茶スワロウテイル」の誕生の経緯と報道と、もう一つの執事喫茶「バトラーズカフェ」を扱います。



 第四章では、同じ2006年以降の「執事ブーム」を牽引する『メイちゃんの執事』、『黒執事』に代表される執事作品の増加傾向と、2000年代から2010年代作品を中心に、様々な軸の執事作品を解説します。



 第五章は『謎解きはディナーのあとで』の大ヒットとミステリ作品・探偵作品で脇役だった執事が、探偵助手・探偵となっていく変化と、児童向け作品の執事にフォーカスします。第二章で語る対象からミステリ作品は除外し、ここで一気に解説します。



 第六章は企業のビジネスで活用されるブランドまで進化した「執事」のイメージと、英国で1980年代から登場する「執事養成学校」とホテルの場での広がりやコンシェルジュとの違い、そして「現代の執事」の広がりを考察します。


「新書」企画のはずが上下巻の分厚い本に 『日本のメイドカルチャー史』刊行までの経緯

発売から1ヶ月が経過し、つい先日2017/12/03の朝日新聞読書欄でも取り上げていただけました。



タイトルにあるように、本書が新書ではなく、上下巻で出せたのは運と縁のなせることなので、ブログにて経緯などを書いてみます。

元々、本書は太田様との話の中で、2010年冒頭ぐらいに「世界のメイド」を扱う企画として始まりました。当時、私は世界中のメイドを調べられる範囲から調査していたからです。「日本のメイド」についても[特集]近代日本の女中(メイド)事情に関する資料一覧という形で公開するぐらいには、基礎調査をしていました。



「英国メイドのような歴史的メイド」(『英国メイドの世界』で詳述)と、「現代の家事労働者としてのメイド」(研究中)と、「日本で発展したメイドイメージ」(未調査)の「3つのメイドを比較することが面白かったので、太田様にその提案を行いました。



その後、『英国メイドの世界』の出版前に、私も参加したことがあるメイドオンリーの同人イベントの『帝國メイド倶楽部十一』の参加サークル数が18に激減したことを知人の方のつぶやきで知り、 メイドブームの終焉は「衰退」か、「定着」か(2010/08/28)とのテキストを書きました。ここで、私は初めて「メイドブーム」に踏み込みました。確かに、コミケのいわゆる「メイド島」(創作少年エリア)も、かつては100を越えたサークルが激減していました。



その時に思ったのが、「メイドブームは終わったように見えるけれども、それは衰退ではなく、定着ではないのか」と。それぐらい、メイドイメージが普遍化しているように思えました。同人サークルから見ると、以前は「メイド」を表現するには、「メイド」がいても不思議ではない世界観を必要として、結果的に「メイド島」が形成されていたのではないか。しかし、「メイド」が普及することで、どの作品にも自由にメイドが出現する環境が整い、あえて「メイドのための世界」を必要としなくなったのではないか、と。



体感としても、様々なジャンルの作品に「メイドコスプレ」が溶け込んで、絶対数はむしろ増えているように思えました。



先の一文の最後は、"まとめ:メイドは21世紀の「吸血鬼」たるか」"と、結びました。「吸血鬼」が様々な作品に出るように、メイドも同じレベルの存在になったのではないか、と。そして9月には補足・メイドブームの断続性と連続性を考える(2010/09/11)を書き、日本のメイドイメージの変遷をいろいろと深める中で、「情報を発信すると、教えてくれる人がいる」ことを学びました。特に、森瀬繚様からの示唆が際立っており、深く調べるきっかけをいただきました。森瀬様からいただいた情報は貴重で、それを私に留めるのはもったいなく、また、託された心持ちにもなりました。



同日のメイドブーム関係の言及をしている理由(2010/09/11)を読み直すと、もうひとつ、「私が知っているメイドイメージと違うメイドイメージが、公の場で語られている」ことへの違和感がきっかけのひとつにもなっていました。




元々、私はなるべくメイドを巡る言説から距離を置いてきましたし、自分の研究内容に関連しないことは黙っていたつもりです。とにかく、自分の研究する領域だけを見ようとしてきたからです。今でも読み終わっていない英国メイド・屋敷関連の資料が数多く存在しており、そうした研究成果で何かを示すことが、自分には向いていると思っていました。



ところが、昨年の2009年11月に日本ヴィクトリア朝文化研究学会にて、サブカルチャーとしてのメイドを語る方が登壇した際に、違和感を感じました。その方の語るメイド像と、私が知っているメイド像(あるいはオタク界隈におけるメイドブーム)は、あまりにかけ離れていたからです。



ここで感じたことは、「当事者として語っておかないと、声が大きい人に上書きされてしまう」「自分のことを語られてしまう」という危機感と、「語られていた言葉に一理あるけど、それだけでは全然ない」との想いによるものです。



こうした経緯もあって、学会の会報誌に「メイドブーム」についての寄稿依頼が来た際はお引き受けしました。しかし、これまで述べてきたように私はブームそのものの主体ではなかったので、「ブームを誰が受け入れたのか」というのを、私が見た範囲で描こうとしました。


そして、「はじめに」に書いたように、『英国メイドの世界』出版後に「日本のメイドについてどう思うか」を聞かれる機会が多かったこともあり、「日本のメイドに関する仮説や疑問を全て、この機会に解消しよう」と思いました。当時の自分は真面目だったので、言葉に残していました。ありがとう、昔の自分。




メイドブームの可視化を星座にたとえていますが、光を強く放つ星(=手に入った情報)だけで星座を作っているかもしれません。でも自分の目に見えないだけで、もっと多くの星があるはずです。それに、立っている場所が北半球か南半球かで見える景色も違います。その上、天気にもよっては見えないものもあるでしょう。

つまり、私に描けること、できることはわずかです。

ただ、少なくとも私の手元には多くの星の情報が運良く集まっていて、気が付けば見晴らしのいい場所にいて、それを星座として伝わりやすくする状況が整っていました。私は「完全ではない」にせよ、「分かっていること・分かっていないことを明示して書く」ことにそれほど抵抗がありません。仮説を含むものですが、「今、出来ているもの・見えているもの」を公開することで、他の方による視点から学べたらと思いますし、それがウェブらしく思えました。

本来、『英国メイド』の研究に専念したいのですが、いろいろと視点を相対化する上でも、自分が本を出せた環境や先人の作った環境を理解し直す上でも、というところで言葉にしました。

仮に、1993年をメイドブームの起点とすれば、もう18年です。今から10年後よりも、今時点で振り返った方が、後の時代に生きる人に見えるのものが多いのではないかと思いますし、10年後もまだ関心を持つ人がいるよう、今できることをしておこうというところです。
10年後に読んでくれる人がいることを願って(2011/01/29)

元々、私が『英国メイドの世界』という本を作れたのも、同人活動の際に、メイドブームのおかげで「メイドが大好きな読者の方たち」と出会えればこそです。また、その同人時代に出会った方の中には、「少女漫画で大勢のメイドを見たことがある」と、おおやちきさんの少女漫画を上げられた方がいて、そうした「どこでメイドに出会ったのか」のルーツにも興味を持ち、ブームと共に、そもそもなぜブームに至ったのかを調べようとも思いました。当時、ブームを個別に記したテキストはあっても、ブーム全体を俯瞰したテキストはありませんでした。



そこで、まず調査をしようと、テキストをウェブ公開したり、同人誌を書いたりと、いろいろと幅を広げました。以下がウェブと同人誌で記した、『日本のメイドカルチャー史』の骨格を作る調査となります。もちろん、数年前のものなので、より調査を重ねた出版時の内容よりも粗いものですが、道筋はできていました。



[特集]第1期メイドブーム「日本のメイドさん」確立へ(1990年代)

[特集]第2期メイドブーム〜制服ブームから派生したメイド服リアル化・「コスプレ」喫茶成立まで(1990年代)

同人誌『メイドイメージの大国ニッポン世界名作劇場・少女漫画から宮崎駿作品まで』

同人誌『メイドイメージの大国ニッポン 漫画・ラノベ編』

同人誌『メイドイメージの大国ニッポン 新聞メディア編』



「日本のメイド」に言及するため、それまであまり接点がなかった「メイド喫茶」についても踏み込みました。幸いにも、縁には恵まれていました。池袋の「ワンダーパーラーカフェ」創業前には同人誌を送ったこともありましたし、 クラシックな制服の「シャッツキステ」に興味を持ったり、『英国メイドの世界』が意外とメイド喫茶クラスタに響いて、twitterでフォローされる中でフォローを返すことでその世界を知り、「シャッツキステ」での出版イベントや、「月夜のサァカス」での書棚展示・勉強会企画を通じて、多くの人に出会えたからです。



様々な人がメイド喫茶に関する情報を出している中で、自分の立ち位置は、「メイド喫茶が世の中にはどう伝わっているのか」「世の中にイメージを伝えるマスメディア(雑誌・新聞)はどう伝えていたのか」でした。



そこで、先ほどの言葉が再び、頭をよぎります。




ここで感じたことは、「当事者として語っておかないと、声が大きい人に上書きされてしまう」「自分のことを語られてしまう」という危機感と、「語られていた言葉に一理あるけど、それだけでは全然ない」との想いによるものです。



この言葉は難しく、私にも返ってきます。『日本のメイドカルチャー史』を書いた私も、ある人にとっては「上書きする側」に仲間入りを果たしたからです。その「上書きされる」「言及されていない」ことから出てくる声を聞きたいとの思いも出版の目的とはなりますが、メイド喫茶についてのレポートは多くあっても、メディアがどのように伝え続けていたのか、体系的な情報がありませんでした。



一般的に、自分が関心がないことは、基本、判断材料・情報がないので、メディアの情報を受け入れやすくなるでしょう。私が「はじめに」で書いたように、メイドに詳しくないはずの「元同僚」たちが「メイド」と聞いて「メイド喫茶」を連想できるぐらいには、情報が流布しているのです。その「メディア」によるイメージ形成に、興味を持ちました。



ある時、たまたま「ライトノベル」という言葉が世の中にどう広まったのかを調査した本『ライトノベルよ、どこへいく―一九八〇年代からゼロ年代まで』を読みました。その調査で使われていた「大宅壮一文庫」の雑誌アーカイブを知り、「どうせならば、すべてのメイドに関する雑誌記事を調べよう」「新聞記事もデータベースを友人が教えてくれたので利用しよう」と、それぞれ数百の記事を読み込みました。



その結果の一つが、同人誌『メイドイメージの大国ニッポン 新聞メディア編』であり、雑誌によるイメージ形成は、メイド喫茶データを収集していた、たかとらさんによる同人誌『メイドカフェ批評』への寄稿でした(メイドイメージを映し出す雑誌・新聞記事の調査



最初の話に戻りますが、このように自分自身が調べる理由を持ち、マイペースで好き勝手に調査を続ける私を、太田様は忘れず、気長に待ってくださっていました。当時の担当編集・今井様も粘り強く、私に原稿を促し、書く方向に支えてくれました。



そして、日本のメイドを解説する「新書」として作ることになりました。



ここが大切です。



新書、です。



そこから、相当に集中して、これまでの研究成果の詰めと図版の収集を行いました。ただ、上記に記したエリアと、本書で発表されているエリアのギャップを埋める必要もあり、研究は続きました。そして、まずは自分が好きな形で全てを書き尽くし、そこから新書にブラッシュアップしようと考えました。



ようやく研究が終わったのが、2017年4月でした。新書になっていない、研究成果の「原酒」とでも呼ぶべき、非常に濃いものでした。それでもまず提出して欲しいとの話を受けて、その先、どうやって新書に落とし込むのかを考えながら、星海社・太田様にお会いしました。



太田様の第一声は、

「久我さん、この原稿は、僕が頼んだものじゃない、頼んだものじゃないけど!」
でした。











太田様の英断で「そのままの形」で出版が決定しました。当時、51万字有りました。私の狂気に、太田様が付き合ってくれた瞬間でした。



太田様からは『英国メイドの世界』でブックデザインを行った原田恵都子様にお願いしましょうとの提案もあり、スケジュールが合致したこともあって、お引き受け頂けることになりました。



その後、出版に向けた大幅な書き直しと追加調査、校正を進めました。この時点ではまだ、最終章も書き終わっていませんでした。前回『英国メイドの世界』の時は会社を辞めて出版に専念しましたが、今回は働きながらの作業だったため、3ヶ月以上は校正と膨大な図版と資料の整理となり、担当編集の櫻井様に多大な迷惑をおかけしつつ、ようやく出版にこぎつけました。前回は締め切りがない中で時間も豊富で趣味としての最大限の追求でしたが、今回は締切内で仕上げるために、有給も可能な範囲で使い、休みのない時間が続きました。



表紙の帯は、武内崇様に描き下ろしていただけました。同人サークル「竹箒」にて活動された武内様は私にとっては同人活動における偉大な先輩です。また私自身、「TYPE-MOON」作品のファンであり、2009年12月に刊行された武内様のイラスト集の感想をルビコンハーツ・『京都、春。』との出会いと構造の面白さに書いたように、武内様の描くキャラクターと世界が好きでした(詳細はあとがきに)。



私がこのような運と縁とに恵まれたのは、この『日本のメイドカルチャー史』を書くようにと、「メイド神」か何かに指名された結果に思えます。たまたま調べることが好きな人間として「私」がいて、調査研究のリソースもありました。日々、調査の過程でメイド要素を見つける日々も、考古学的な発見をするような、知的快感が絶大でした。



同人も支えでした。研究を続けるためのモチベーションも経験も、同人の場で多くの方に出会って学び励まされて培うことができました。そして、出版を後押ししてくれる方にも恵まれました。



こうして、上下巻の形でお届けできるのも、奇跡なのです。



私のメインテーマは「英国メイド」と「家事使用人」で、そのうちそちらの研究に戻るつもりですが、まずは本書が基礎研究のひとつとして足場となれれば、幸いです。



今はまだ書けない『日本のメイドカルチャー全史』に向けて、いろいろな人に出会いながら。


そして次回作は2018年初夏ぐらいに「新書で執事」

太田様から発表がありましたが、再び星海社から本を出します。



「メイドブーム」を調べていた余波で、実は執事ブームについての情報も集まっていました。また、元々、私は英国メイド研究者でありつつ、本来は「英国の家事使用人研究者」なので、英国執事研究者でもあります。前作、『英国メイドの世界』も、実は半分ぐらいは執事を筆頭として男性使用人の情報で構成されています。そうした蓄積をベースに、執事についての本を書きます。



こちらも、ご期待ください。


『日本のメイドカルチャー史』上下巻・発売開始

6年間の準備期間を経て、10/26に『日本のメイドカルチャー史』の上巻が、11/02に下巻が発売しました。同時発売でないのは、校正に時間がかかり、予定を超えてしまったためです。





本書の内容は、日本のメイドカルチャー史(著者による紹介)にてすべての目次を公開し、内容を判断できるようにしています。また、参考文献や読書に役立つウェブサイトの紹介や、誤字・脱字・誤認なども補完していきます。



本書の概要については上記、著者による紹介に加えて、『日本のメイドカルチャー史』から「はじめに」全文を公開しました。



日本のメイドカルチャー史(上)

日本のメイドカルチャー史(上)





本書を読む方に向けて、ひとつ伝えたいことがあるとすれば、可能な限り、章通りに読んだ方がより楽しめる、ということです。



メイドブームの本が通史として今までほとんど出ていなかったのは、そのコンテクストが多様すぎて、個々のブームの関連性を説明するのが、非常に難しいからです。本書はそのコンテクストを丁寧に解きほぐし、読むことによって情報を整え、それ以降の章で層を積み重ねるように伏線を回収していきます。それは、読むことで知っていることが増えて、その知っていることが次の章を読む時に繋がっていく「知の連鎖」の気持ち良さを引き起こします。



メイド喫茶を扱った第5章も、その後、漫画や小説にどう影響を与えたのか第6章で補完していきますし、最終章でも、日本が生み出した「メイド喫茶メイドさん」がどのような文脈を得て行ったのかを解説しています。さらには、「メイドブームは終わって、日常となった」という意味を、多種多様な参考資料のトレンドの推移から論証していきます。



なので、お時間がある方には、『日本のメイドカルチャー史』は歴史小説を読むように、最初の章から順番に読んでいただくことをオススメしています。そして読み終わると、目の前にある景色の見え方が変わっているかもしれません。



本書が「愛と狂気」のタイトルを冠するのは、これだけ異なる文脈のブームを、「ひとりで書いている」ことにあると思います。しかし、ひとりでなければ書けません。膨大な情報を俯瞰して、本来は見えない繋がりを見ることができる視座を得られなければ、見えないことが多くありすぎたためです。



勿論、先行研究の恩恵もあります。ただ、エリアによってはその情報を「メイド」と結びつけてみようと思うことがないがゆえに、ほとんど見えていなかったところもあります。



今回の本は「私が見たメイドブーム」で、「これがメイドブームのすべて」と言うつもりは全くありません。タイトルが「全史」でないのは、無理だからです。タイトルのコンセプトとしてあったのは、『私たちが見たメイドブーム』です。見る人によって違う、でも、本書を通じてその時を思い出すような機会となること。そこに正解はなく、ただ、私が見つけたメイドを読者の皆さんにシェアする、というような設計思想です。



日本で生じたメイドブームという20年以上の期間に及んだムーブメントを、私が「ツアーガイド」として案内するようなものです。もちろん、他の方がツアーガイドを務めれば、別のルートも見えることでしょう。私の役目は、「ここに山がある」、あるいは、「ここに宝がある海図がある」と、示すことにあります。あとは、そこを目指す人たちが増えることを願うのみです。そこをかつて旅した人が多いエリアでもあるのですから。



アマゾンのレビューをお書きくださった方の言葉が、響きます。



"記憶を呼び起こす楽しい作業に満ちている。"



https://www.amazon.co.jp/dp/4065103991



そのために作りましたし、その楽しさに突き動かされて研究が続きました。



帯に記された「愛と狂気」をシンプルに言えば初期原稿は約51万字(400字詰め原稿用紙1275枚)、メイドについてそれだけ書くことがあるのかと言われれば、まだ書き足りません。費やした時間は6年。新聞記事と雑誌記事がそれぞれ約1000記事(使えなかったものも含む)の閲覧・コピー、収集した資料も大変なもので、資料を自由に集めるために会社で働いているのかと錯覚するような状態でした。



この狂気に付き合ってくださったのが、講談社BOX時代に『英国メイドの世界』出版を決めてくださった、星海社太田克史様です。



以下の写真と、太田様のつぶやきが、初期状態です。











気がつけば、商業デビュー作?『英国メイドの世界』出版から7年が経過しました。2作目も、気がつけば「上下巻」となっていました。「冊目」という言い方をすれば、「2冊目の本と一緒に、上下巻なので3冊目もある」という、いわば「双子」が生まれた状況と同じです。



という思いつきを書いていて、ふと。この「双子」は、武内崇様に描いていただいた琥珀翡翠という双子のメイドにも繋がっていきますね。







出版を見届けたのと、伝えたいことはすべて本に書いたので、通常営業に戻ります。あとは、読者の方たちに委ねます。読み終わるのに数日かかるはずで、なかなか一つの本にそこまで時間を使えないと思います。みまさまが読書を楽しみ、自分たちが見てきたメイドブームを思い出し、あるいは今の中に見出し、楽しまれることを願っています。


『日本のメイドカルチャー史(仮)』絶賛校正中 & 予約開始?

『日本のメイドカルチャー史(仮)』進捗報告と、ついでにコスプレのメイドブーム考察(2017/07/22)で近況を記載した通り、1-4章の校正を進めています。今のところ順調に進み、この金曜日・土曜日で終了する予定です。



来週に打ち合わせをしつつ、残りの5-7章分の校正を続けて行う見込みです。こういうスケジュールが予見されていたので、今年の夏コミは申し込んでいません。冬コミは何か出したいとは思うのですが。



そんな最中、『日本のメイドカルチャー史(仮)』の上下巻が、Amazonに出現して予約できるようになりました。上巻600ページ、下巻700ページ見込み、1冊4000円(税抜き)という、『英国メイドの世界』2冊分ぐらいの勢いです。



https://www.amazon.co.jp/dp/4065103991



表紙画像なども出るタイミングが整いましたら、ご紹介します。


『日本のメイドカルチャー史(仮)』進捗報告と、ついでにコスプレのメイドブーム考察

星海社から年内に『日本のメイドカルチャー史(仮)』
上下巻を出版予定
と告知をしたものの、校正を受ける前の段階で3ヶ月ぐらいを費やしています。というのも、校正で使うための引用元資料の準備と、掲載したい図版を、出版社に整理して送らなければならないからです。書いているときは良いのですが、いざ物理的に渡して、隙なく進めるには、なかなかに骨が折れました。実際には、私以上に、担当編集者の星海社・櫻井さんがいちばん大変なので日々感謝しております。



そして今日、上巻の校正戻しを受け取ってきます。星海社太田克史さんからも、そのボリュームについて、本日、言及をいただきました。






というところで、着実に進んでいますので、お届けできるときまで、お待ちください。



ついでに、「データの多さ」について、今日、色々とつぶやいてみました。『日本のメイドカルチャー史(仮)』の製作裏話のようなものです。


[コラム]1999年のコミケで観測されたメイドコスプレブームを探る

ボリュームの感覚が麻痺しているかもしれないと思うのは、参考資料が変な規模になっていることにあらわれています。左が研究用のために入手した『ゴシック&ロリータバイブル』の創刊号からほぼ全巻、右が大宅壮一文庫でコピーした「メイド・コスプレ・ファミレス」など研究領域の約800記事ぐらいのコピーです。



  



他に数百になる情報ソースでは、世界で初めてのコスプレ&コミックMOOK。宝島社の雑誌『CUTiE』の特別編集として、1998年に刊行されたコスプレイヤーの写真が400人という規模です。







この写真を見て、メイドコスプレを調べるという地道な作業をしました。



メイドコスプレが難しいのは、「メイド服的デザイン」が様々にあるため、メイドなのか識別が難しいことです。たとえばアリス服なのか、ナース的な位置付けなのか、世界名作的なエプロンドレスなのか、ゴスロリなのか。だいたいは頭の装飾品で判断することになります。コスプレの場合、作品名がセットなのでまだ楽です。



もう一冊、1999年刊行の『The COSPLAYER―松村昭宏写真集』という本も利用しました。こちらも300人以上のコスプレイヤーが撮影されているので、データとして十分です。もちろん、作品名とセットなので、メイドイメージのコスプレイヤーの出現頻度を計測できます。



The COSPLAYER―松村昭宏写真集

The COSPLAYER―松村昭宏写真集





もともと、この領域を調べようと思ったきっかけは、コミケにサークル参加しているときに毎回購入している『コミケットプレスvol.33』の特集「コスプレ進化論」P.6-7掲載年表に記載があった、1999年「メイドコスが大ブーム」との一文です。「メイドブーム」とある以上見過ごせず、それを、どうやって検証するかというのが課題でした。







たまたま、この頃はコスプレブームのおかげもあって、前述した2冊のほかに、商業出版されていて入手可能な書籍があったので助かりました。なぜ「メイドコスが大ブーム」となったかは、表現された作品の傾向を見るといくつか軸があります。



1つ目はブームとなった『殻の中の小鳥』など集団でメイド合わせができ、目立つ作品の存在。かつ、集団で合わせたいので友人を巻き込みやすく、敷居が下がります。この傾向は『これが私の御主人様』や、最近では『Re:ゼロから始める異世界生活』のラム・レムのペアと似ています。



2つ目が様々な作品で、メイドキャラ・メイド的デザインが存在したこと。ただ、写真集の場合は「作品名」が見えますが、会場では「作品名がわからない」ことが多いので、類似したデザインに見えることで、それらを「メイドコス」と同じくくりで認識されやすい点です。



先のCUTiEのコスプレムックで、メイド・ウェイトレスとして観測できるのは『Piaキャロットへようこそ!2』(青制服2、別制服1)『ファイティングバイパーズ2』(ハニー7)、「メイド服を着たIZAM氏(SHAZNAボーカリスト)」、「オリジナルメイド」(6)、『ブラックマトリクス』(ミシェット2)、『カードキャプターさくら』(さくら・メイド服2)、『プチカラット』(シーモンド)、『雛鳥の囀り』(クレア)、『悠久幻想曲』(メロディー)、これにアリスなどを足すと30名近くいました(ミシェットはメイドではなくゴシック的な方向)。



コミケットプレス』に記載があった一文から1999年のメイドコスプレブームを探る、というようなプロセスの一部はこんな感じになっています。デジカメもなく、ネットのコスプレ写真共有サイトもない頃の話なので、過去の風景を探るのは本当に難しいです。



あとは、雑誌も「コスプレ」を含むキーワードで探しました。メイドコスプレ「的デザイン」が取り上げられた、調査範囲での初出は『SPA!』1995年12月6日号、『ヴァリアブル・ジオ』楠真奈美のコスプレをしている方でした。



オリジナルの「メイドさん」とコスプレイヤーが名乗り、作品名をあげなかった初出は、『スコラ』1998年11月22日号特集「超人気コスプレ美少女写真館 カワイイ女のコに会いたきゃコミケ&コスパに行けッ!!」です。



というようなことを、日々、調べております。

星海社から年内に『日本のメイドカルチャー史(仮)』上下巻を出版予定

Twitterでは報告していたので、こちらにも。



星海社から、2017年内予定で、「日本のメイドブームを網羅的に解説する書籍」を刊行することとなりました。今時点の原稿量は約51万文字、『英国メイドの世界』2冊分で、分冊になります。2011年に企画の話をいただきつつ、仕事が忙しく進んでいませんでしたが、ようやく調査と原稿が完了しましたので、刊行に向けて進めます。予定では10-11月ぐらいです。











星海社からいただいた仮のタイトルは、『日本のメイドカルチャー史』です。1990年代後半からの「日本のメイドブーム」を5つの期間に分け、断続して「日本のメイドさん」「メイド喫茶メイドさん」を生まれていく流れを解説した本を刊行します。イメージが多様化するメイドが、ブームを終えて日常化する今の姿も伝えます。



ここ数年、日本のメイドイメージを考察する同人誌『メイドイメージの大国ニッポン』を刊行していましたが、そこからかなり研究領域を広げています。ベースは2011年から公開していた[特集]仮説『日本のメイドブームの可視化(第1〜5期)』となります。公開している内容は「仮説」ですが、そこからできるだけの情報を集め、しっかりと論として成立するように、ひたすら資料を集めて、作品を読んで、ようやく公開できる段階になりました。



上記、リンクしておいてなんですが、ウェブで書いているものは古く、情報も少なく、そこから新規資料や考察は広がり、別物になっています。全部を調べることで、見える景色もありました。



コミケをはじめ、同人誌即売会で出会ってきたこれまでの読者の方たちに、ようやく報告できました。これまでありがとうございます。この本の中に、メイド萌えのルーツが、あることを願って。内容が違うブームを扱うため、5冊以上の本のような構成です。狂気の情報量なので、ご期待ください。



そして、この狂気につきあっていただける星海社には感謝しかありません。講談社BOXに『英国メイドの世界』の同人誌をお送りして刊行が決まってから、2度目の「分厚い本」でもあります。しっかりと仕上げ、ユニークさと売り上げで、恩返しできればと。



「なぜ星海社なのか?」とのコメントも拝見しましたが、太田克史さんがいらっしゃるからです。『英国メイドの世界』を講談社BOXから刊行する決定をして下さったのも太田さんです。英国メイドの出版経緯は2009年に書いた講談社BOXから『英国メイドの世界』を来年春予定で出版しますに。



本書出版の経緯も、私の狂気に、侠気で付き合ってくれました。その辺りの話は、またおいおい。


AMAZON在庫手配補充中と返本の時期

直近でAMAZONの在庫が尽き、中古しか販売していない『英国メイドの世界』ですが、講談社の担当の方による在庫搬入手配は完了しており、後はAMAZON側での反映を待つのみの状況です。



http://www.amazon.co.jp/gp/offer-listing/4062162520/ref=dp_olp_used?ie=UTF8&condition=used



今しばらく(推定では3〜5日)、お待ちください。



楽天は注文受付後の取り寄せっぽくbk1が24時間以内の配送となっています。



近況については、販売後からもうすぐ半年となり、書店からの返品が加速する可能性があるとのことで、戦々恐々としています。書店の常備になれるといいのですが、確かに、返本しないと書店の棚は空きませんからね。



この点で、だいたい本の寿命(書店に面を確保できるという意味)を伸ばす手段は、「レーベルに所属する」(レーベル棚に居場所)、「特定ジャンルの本としての認知」(本書の場合は歴史ジャンル常備が目標)、そして最大の効果が「著者による新刊」(宣伝・併売効果)なのかなぁと思う次第です。



大きなレベルでの「売れている」「話題になる」という意味での循環は出来ておらず、そこが超えられていない壁ですが、現時点では一部書店や様々なネット書店の中では多少なりとも売れている状況とは思います。なので、常備して欲しいと語り続けることか、認知を広げたり価値を伝えたりする機会を作るしかない、というところでしょうか。



書店から撤退すると面を失うので、そのままでは本は沈んだままになります。この状況を鑑みるに、ネットが無かったら、どうなっていたのかと思いもします。



というところで最近怠っていた伝え方の工夫をやってみます。



本日は[参考資料]英国メイドの世界(著者による紹介)を公開し、「「語り手」として登場するメイド、執事、ガーデナー、貴族などの一覧」の更新を始めました。


個別のレスなど


id:asakura-t 新刊が著書の寿命を延ばすってのは大きいですよね。レーベルやジャンルによる延命=現行の出版システムのよさ、かな。 2011/04/23

http://b.hatena.ne.jp/asakura-t/20110423#bookmark-39583446



ご指摘の通りですね。レーベルやジャンルは同人誌即売会における「ジャンル」(二次創作やブランド)による地形効果に似ているのかなと思います。



この延命システムは優秀ですが、そこからのカテゴリーエラーとなる自分の本はどうやって生き延びるかが課題です。コンテクスト作りによるジャンル開拓・認知は継続していくつもりですし、その辺、ウェブと相性はいいのですが、一度書店から消えて戻れるかどうか。



それにしても、今更ながら絶版の重さを、理解できた気がします。最初に出来るだけ動いておいて、本当に良かったと思います。