ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。同人・出版活動の報告を含みます。

『チャーチルの新・秘密エージェント』と、英国の暮らし再現ドキュメンタリー/リアリティーショー

はじめに

英国の屋敷っぽい風景があったので、何気なく第1話を見始めたNetlifxオリジナル番組『チャーチルの新・秘密エージェント』は、1940年代の時代を再現し、そこで第二次大戦中の英軍が組織した、敵地に潜入して工作を行う特殊作戦執行部(Special Operations Executive、SOE日本語版wikipediaは充実していましたので、FYIで)として、一般の応募者が当時のSOEと同じ選考試験を受け、さらに通過者はSOEとしてのトレーニングを受けるという番組です。

この番組は、英国で定番化している「一般人が参加するリアリティーショー」の観点と、「歴史を伝えるドキュメンタリー」の観点、そして「当時の技術・手法」を再現する番組として、英国で数多くある番組の系譜として、非常に面白いものでした(日本では、『ザ!鉄腕!DASH!!』がこれに近しいでしょうか)。

英国が好きな人、ミリタリが好きな人に、おすすめです。

「秘密エージェント」の訓練を受ける現代人

第1話では「選考過程」として、1940年代の格好をした、様々な職業経験・バックグラウンドの14名の現代人が「スコットランドのあるカントリーハウス」(あらすじでは、人里離れた邸宅)に集められて、エージェントとしてのスキル・資質を審査されました(外国語、勇気、判断力、適応力、身体的強さ、リーダーシップ、観察力など)。

実際にあった4日間のSOEの選考をできるだけ再現し、参加者をフィルターにかけるプロセスを担うのは、番組に協力する軍隊出身者たちの教官・選考官と、SOEを研究する歴史家です。彼らは多様な軸で日々審査を行い、秘密にされていたSOEの選考・トレーニングを体験して、「エージェント」として鍛え上げていくのです。

面白かったのがテストの内容で、たとえば記憶力や観察力をチェックするテストでは、「建物の地図を覚えて」と記憶力を試す教室でのテストのように始まりますが、突然、「追いかけられている人」と「銃を撃つ人」が乱入し、教室の中を通り過ぎていくのです。あまりの出来事に反応は様々ですが、教官は冷静に「今、撃たれた銃の回数は?」「二人組のうち、どちらが衣服をはだけていたか?」など、本番の審問を始めました。

審査過程で様々な個性も出てくる中で、私が一番気に入ったのは「チームを組み、いかだで、池の真ん中にある箱を回収する」テストです。樽や木の棒、ロープ、櫂などがある中、リーダー役の人が指示を出しながらいかだを組み上げ、回収に向かうのですが、最初の班は「全員で乗り、途中で転げ落ち、いかだも解体」されて、失敗します。

ところが、第二班ではひとり特殊な人がいて、「池の周りを歩き回って観察」して、「隠されていたいかだ」を発見しました。そして前の班とは異なる結果を出すのです。

勇気を試すために、高い木と木の間に渡したロープを渡るテストもありました。より高い場所と、低い場所と、ふたつの渡る場所があり、どちらを渡るかで結果も変わるのです。

最終日には、「誰と一緒に任務をしたいか」だけではなく、「誰とは組めないか」を各人が全員の前で発表するという、テストも課されました。ここは、リアリティーショーの系譜を受け継ぐものでしょう。

歴史番組としての構成

もうひとつのユニークさは、「第二次世界大戦の当時を、SOEという視点で伝える」歴史ドキュメンタリーとしての要素です。SOEを創立した戦時経財相ののヒュー・ダルトン(エージェントによる敵地でのゲリラの組織化・遂行)や、SOEが実戦投入されるまでの経緯が語られます。

当初、敵地への潜入への協力に必須となるイギリス空軍は「暗殺者の一般人への偽装は信義に反する」として反対し、海軍も「海峡より先へ輸送しない」と、非協力的な時期がありました。

実在した隊員の写真やプロフィールも、合わせて紹介されます。そこには、祖国フランスのために志願した女性がいたり、教員だった背景の志願者が敵地で武装レジスタンスを組織する指揮官になっていたりと、「普通の人の戦争との関わり」も伝えられます。

番組では、1941年のポーランド侵攻後、ポーランドからの避難者・亡命者が英国の防空に貢献した経緯もあり、ポーランドへの潜入工作にSOEが起用されることが決まり、イギリス空軍の協力で、3名がポーランド南部に降下しました。

第1話はここまでで、第2話「戦闘技術」として武器・爆発物の扱い、近接格闘術や作戦行動、第3話「サバイバル訓練」で極限まで追い込まれ、第4話「卒業試験」で開錠や暗号、尋問への対応、そして第5話では厳選されたメンバーで24時間の最終計画を遂行する、というものになっていきます。

まだ全話を見ていないのですが、「技術の再現」「リアリティーショー」、そして「SOEの歴史」がこの後も描かれていくのでしょう。

個人的にふと思ったのが、もしもこれば「番組」ではなく、「本当のエージェント」を探すもので、最後に実戦に投入されるというものです。それはフィクションの題材にもなるでしょうし、既にあるとは思いますが。

英国で定番化している「暮らしの再現+歴史+リアリティーショー」

補足で、なぜ私がこの辺りの番組を見ているかについて。

私個人は英国メイドや執事を研究する立場から、「過去の英国の暮らしを再現・体験するドキュメンタリー」が大好きで、英国ヴィクトリア朝の料理を再現しつつ当時を解説する『The Victorian Kitchen』や、屋敷の菜園(キッチンガーデン)を当時のガーデナーの技術で野菜や果物を育てる『The Victorian Kitchen Garden』、あるいはヴィクトリア朝の農場の技術を再現する『Victorian Farm』や、薬局を描く『Victorian Pharmacy』など、このジャンルを見ています。

そうした主流の「技術の再現と、当時歴史を解説するドキュメンタリー」に加えて、英国では一般人が作品に応募・参加する「リアリティーショー」が根強く存在します。

私がそのジャンルに初めて出会ったのが、1900年の中流階級の生活を家族で体験する『THE 1900 HOUSE』で、以降、エドワード朝の貴族の邸宅で「主人たち家族」と「メイド・執事など家事使用人」を体験する『MANOR HOUSE』(The Edwardian Country House)、1940年代の戦時下の暮らしを体験する『THE 1940s HOUSE』といった作品もあります。

日本では恋愛系では『あいのり』や、『バチェラー・ジャパン』などもありますが、英国では「当時の生活と歴史ドキュメンタリー」とを融合させたジェーン・オースティンの『高慢と偏見』をテーマにしたリアリティーショー、『REGENCY HOUSE PARTY』の放送がありました。軸が難しく、あまり面白くなかったので全く話題になりませんでしたが。

他にもいろいろな時代があり、中世の農場を再現する『Tales From The Green Valley』や、『Victorian Farm』を主導したRuth Goodmanが中世のお城の生活の再現を試みる『Secrets of the Castle』などもありますし、ヴィクトリア朝シリーズの新作・パン屋さんを扱う『Victorian Bakers』や、ある通りを舞台に家族で商店を営み、年代ごとに取り扱う商品が変化してスーパーマーケット的な業種が勝利を収める『Turn Back Time: The High Street』などもあります。

「接収された屋敷」

「人里離れた邸宅」なのは、当時、軍が屋敷(領地に囲まれたカントリーハウスを含む)を接収して軍事施設に利用した故事にならったものです。第二次大戦中、人里離れた領地にある屋敷は人を集める軍の駐屯地としての利用に適しており、接収されました。建物はダメージを受け、戦後、それが理由で取り壊した屋敷も多くあり、研究書『Requisitioned: The British Country House in the Second World War』なども出ています。

Requisitioned: The British Country House in the Second World War

Requisitioned: The British Country House in the Second World War

この戦時下の屋敷を舞台にした私が思いつく作品では、『Brideshead Revisited』(ブライズヘッド再び)と、NHKで放送した戦時下の生活での事件を描いた『刑事フォイル』などがあります。

終わりに

この辺は、そのうち、紹介するテキストを書いていきます。私の情報収集力が低いので日本での類似した展開ですぐ思い起こされるのが、『ザ!鉄腕!DASH!!』だったというのが、少し驚きでもあります。

過去の伝統料理の再現などは様々に見かけることもありますが、「その時代の生活レベルに、一般人を放り込み、数週間〜数ヶ月生活をさせる」という番組は、自分の情報圏内に入ってきません。ただ、私が今回取り上げた作品群も、10-100万人にひとりしか日本では知らなさそうなので、このジャンル自体がそういうものかもしれません。

Netflixオリジナルでは、そのあたりの生活技術再現+歴史ドキュメンタリー系を期待したいと思います。

なお、日本の生活史を描くものは、書籍ではいろいろとあります。今回のテーマに近い強いものでは「昭和のくらし博物館」の小泉和子氏による、『くらしの昭和史 昭和のくらし博物館から』や、『パンと昭和』、そしてメイド研究者として欠かせない『女中がいた昭和』をあげます。

パンと昭和 (らんぷの本)

パンと昭和 (らんぷの本)

女中がいた昭和 (らんぷの本)

女中がいた昭和 (らんぷの本)

ITV『Victoria』 2016年放送のヴィクトリア女王の最新ドラマ

Amazon UKからヴィクトリア女王の最新ドラマ『Victoria』が届いたので、1話目を視聴しました。






女王の頼るべき人

序盤は影響力争いというか、子供扱いして権限を残したい母親 Duchess of Kentと、そのKent家に取り入っているSir John Conroy、このふたりとのコミュニケーションが面白いです。失敗を願うようなコミュニケーションが多く、周囲に支えてくれる味方がいない女王は強い反発を抱き、このふたり(あと母の侍女で、Conroyとの関係が疑われたLady Flora)からのコミュニケーションを拒否し始めます。



母の影響力が強いケンジントン宮殿から、バッキンガム宮殿への引越しは、さながら平城京から平安京への遷都のようでもあります。そして、この頃のバッキンガム宮殿は四辺がある今の形ではなく、あとで増築されたというエピソードも踏まえた外観になっています。ただ、さすがにそこはCGです。バッキンガムに移り住んだ女王は、自分をサポートする側近を自分で選び、当時の首相の2代目Melbourne子爵William Lambを頼るようになり、また自分の部屋と母の部屋を遠ざけます。



年齢が離れたMelbourne子爵が女王の庇護者として、教育者として、女王の自主性を重んじつつ、自身の影響力も自覚しつつ、抑制した距離感で側に支え始めます。権力を失い始めたSir John Conroyは焦りますが、追い打ちをかけるように、女王はSir JohnとLady Floraを戴冠式に呼びません。また、Lady Floraに妊娠の疑惑の噂が広まり、身の潔白を証明するため、Lady Floraは妊娠しているか物理的な検査を医師から受けるという、残酷な仕打ちを受けます。結果、彼女の妊娠はありませんでした。



https://en.wikipedia.org/wiki/Lady_Flora_Hastings



その後、彼女は死に至り、女王もその点で責められます。なお、このLady Floraにまつわるエピソードは、 以前に見たヴィクトリア女王の映画『ヴィクトリア女王 世紀の愛』にはなかったように記憶しています。これは、先の映画が「アルバート公との恋」がテーマのすべてではないので、より丁寧に描かれているからかもしれません。また、他の映画との比較ではジュディ・デンチが女王を演じた『Mrs Brown』(使用人Brownの影響力が大きく、その夫人と揶揄された未亡人時代)までいくのかな?とも思えました。



第1話は、戴冠式を迎えたのち、執務に励む女王の姿で終わっています。


見所1:家事使用人描写が充実している!!

今回のドラマで『ダウントンアビー』の影響を強く感じるのは、階下の描写を丁寧に行っている点です。即位した女王はすぐに階下にも手を伸ばし、元ガヴァネスのLouise Lehzenに階下の統括を任せます。面白くないのは元々いたハウスキーパー(侍女)と執事ですが、逆らえずにいます。



この階下の描写がかなり充実しており、たとえばケンジントン宮殿からバッキンガム宮殿に引越しをした際は、女王を描くだけではなく、階下の使用人の引越し後の仕事も描いているのです(ここで出てきたキッチンは、Harewood Houseで撮影したような気がします)



また、家事使用人はperksという、仕事を行う上で生じる「役得」として、たとえば料理で出た肉汁、たとえばこのドラマでは使ったロウソクのあまりや、女王の使い古した手袋などを、関わる使用人がいわば売り払って現金を手にする点についても描いています。このエピソードがLouise Lehzenの目に止まり、女王に報告されてあわや解雇か、というシーンにつながりますが、この辺の女王の対応はユニークでした。



これが仮に実話だとして、そういうのが実際に流通して購入した人があとで知ったら、どんな気持ちになるのだろうか……時になります。


見所2:女王の衣装

DVDパッケージには英国Leeds近くのカントリーハウス、Harewood Houseでこのドラマで使うコスチュームの展示があるとのチラシが入っていますが、2017年からとのことで。この前の9月下旬の英国旅行で訪問した場所です。IMDB撮影地情報にはこの屋敷の名前もあり、出てくる模様です。



http://www.imdb.com/title/tt5137338/locations



女王が閲兵するときに着たという軍服的なスタイルは、ヴィクトリア女王が始めたもので、バッキンガム宮殿でも展示されていたのと同じもののように思います。また、引越ししてすぐ王座に腰掛ける女王はかわいく、その辺りは子供っぽいてんも描かれています。この時の女王は半袖パフスリーブのドレスを着ていて、これも以前見たことがある女王のドレスを想起させます。



この時期が華やかであればあるほどに、喪服をメインとしていく女王のその後が際立つ、かもしれません。



第2話を見て元気があれば、また書きます。

羽海野チカ先生がダウントンしない英国ドラマを紹介してみる

昨日からNHK総合で『ダウントン・アビー』シーズン4の放送が始まりました。私は先に寝てしまって、真夜中に目覚めてTwitterを見たのですが、『ハチミツとクローバー』や『3月のライオン』を描く漫画家・羽海野先生が以下のようなつぶやきをしていました。





確かに『ダウントン・アビー』はシーズン3の終わりからシーズン4にかけて、より描写が過激化(人が死ぬ、精神的にも肉体的にも悪意によって傷けられる)していくので、私個人としてはピークはマシューの結婚までと、シーズン6ぐらいからの復活なのですが、「ダウントンしない」作品というものを考えるのは、自分の棚卸的に良いかも、と思いました。



事前に私の立場を記しておくと、『英国メイドの世界』という英国家事使用人の歴史本を作り、英国メイドの研究は16年目です、2014年12月には『ミステリマガジン』2015年2月号「ダウントン・アビー特集」に寄稿しました。


条件

・上流階級の屋敷や生活描写ができるだけある。

・ドロドロした恋愛劇や、ドラマ上の死が数多くは存在しない。

・キャラクター同士が傷つけ合う関係がずっとは続かない。

・ハートフル要素あり。



そうした条件でいろいろ考えてみました。


映画『アーネスト式プロポーズ』

アーネスト式プロポーズ [DVD]

アーネスト式プロポーズ [DVD]

オスカー・ワイルドの『真面目が肝要』を原作とする『アーネスト式プロポーズ』が、屋敷を舞台にした喜劇で楽しい作品です。撮影に使われた様々な屋敷が豪華なだけではなく(私が大好きなロンドン・スタッフォードハウスの階段も出てきます!)、コリン・ファースジュディ・デンチルパート・エヴェレットなど役者も豪華でオススメです。



執事もメイドも様々に出てきて場面を彩るので、今回の条件に最も適合すると思います。



『アーネスト式プロポーズ』感想


ドラマ『ラークライズ』

『ラークライズ』は英国の古典的な書物で、「イギリスで高校生の必読書とされた」作品です。1880年代の英国を生きた作家フローラ・トンプソンが描き出すのどかな田園風景と、田舎の素朴な暮らしは英国田園マニアには最高の資料で、日本では先に書籍が登場しました。



一九世紀イギリスの田園風景を描いた『ラークライズ』



ドラマも作られ、英国ではシーズン4ぐらいまで続きました。日本でDVD化されていないのですが、LaLaTVなどで一時期放送されました。



DVD『Lark Rise to Candleford』第1話(2008/04/12日記)

DVD『Lark Rise to Candleford』第2話(2008/04/17日記)


ドラマ『クランフォード』

おばあちゃんたちが主役の物語『クランフォード』も、羽海野先生へのオススメになるでしょう。エリザベス・ギャスケル原作の英文学で、ジュディ・デンチが主演するこの作品は田園地帯を舞台とした庶民の物語で、英国貴族の絢爛豪華な生活描写という指定からは外れますが、ドラマとしてはハートフルで、落ち着いた作品です。



『クランフォード』感想


ドラマ『北と南』

同じエリザベス・ギャスケル原作の『北と南』は工業都市が舞台の異色作ですが、上流階級の物語です(正確にはUpper-Middle?)。先述の『ラークライズ』と『北と南』には、『ダウントン・アビー』でヴァレットを演じるベイツ役のブレンダン・コイルが、それぞれ石工のお父さん、工場の職人長で出てきます。



あと、この作品は『ホビット』でドワーフのトーリンを演じたリチャード・アーミティッジが工場主として主演をしています。



『北と南』感想


ドラマ『高慢と偏見

高慢と偏見[Blu-Ray]

高慢と偏見[Blu-Ray]

安心してみられる上流階級のドラマといえば、ど定番の『高慢と偏見』です。最近では『キングスマン』、その前では『英国王のスピーチ』でおなじみのコリン・ファースの代表作といえるものではないでしょうか。1990年代半ばに日本ではNHKで放送され、この作品を通じて彼のファンになった女性も多いとおもいます。



原作は英文学を代表するジェーン・オースティンの『高慢と偏見』です。シリーズ数も短く、屋敷での撮影もしっかり行われていつつ、田園の風景もあるなど、さまざまな魅力が詰め込まれた作品です。



『高慢と偏見』感想


映画『秘密の花園

秘密の花園 [DVD]

秘密の花園 [DVD]

バーネットの児童文学の映像化では、まず映画『秘密の花園』が最高にハートフルといえると思います。そういえば、この作品で屋敷のハウスキーパーを務めているのが、『ダウントン・アビー』で伯爵未亡人のおばあちゃまを演じるマギー・スミスでしたね。メイドが出演する作品としてはベスト3に入ります。



鉄板すぎて、自分のブログでは感想を新しく書いていないですね……


ドラマ『小公子』

Little Lord Fauntleroy [DVD] [Import]

Little Lord Fauntleroy [DVD] [Import]

同じバーネットの児童文学の映像化では、ドラマ化した『小公子』があります。こちらは相当忠実に原作を映像化しており、個人的にはオススメの作品なのですが、NHKで15年以上前でしょうか、放送があったのち、再放送がありません。その上、日本での商品化もなく、英語版を買うしかありません。



『Little Lord Fauntleroy(邦題:小公子)』感想


映画『ミス・ポター

ミス・ポター [DVD]

ミス・ポター [DVD]

ピーター・ラビットの原作者のビアトリクス・ポターを主役とした『ミス・ポター』は、いかにしてミス・ポターが自身の作品世界を作り、また出版を行って自分の世界を伝えていったかを描いたハートフルな作品です。生まれが良いので、上流階級の世界(こちらもUpper-Middleといったほうが良い?)も描かれています。



『ミス・ポター』感想(ネタバレなし)


映画『日の名残り

最後に、上流階級の家事使用人のトップである執事を主役とした、英国使用人ドラマの最高峰『日の名残り』を。英国作家カズオ・イシグロと言えばこの作品だった時代がありました。この作品は第二次世界大戦後の英国屋敷に住むアメリカ人富豪に仕える英国執事スティーブンスが主役です。スティーブンスという執事キャラがいれば、間違いなくこの作品の影響でしょう。



物語の時間軸は2つあり、「戦後を生きる執事」と、そもそもこの屋敷の所有者でスティーブンスが最高の敬意を持って仕えた英国貴族ダーリントン卿がいた時代=「屋敷の暮らしが華やかでピークだった時代」への回想で進みます。



1990年代に作られた映像作品では最高資料と言えるほどに家事使用人の仕事(日常生活ではないですし、執事視点なのでその他の使用人はそれほど描かれないです)と、また執事とハウスキーパーという「上級使用人」の管理職を描きました。



ハートフルかと言われれば難しいのですが、先述の「ダウントンしない」条件は満たすかと思います。



『日の名残り』感想(原作小説)


ここまで書いてみて:なぜ「ダウントンする」のか、背景を考えてみる

そもそも「ドラマシリーズ」は話を長く続ける都合上、「繰り返し」と「何かしら事件を起こして話を続ける必然性」があるので、あまり「ダウントンしない」条件に適合しないかも、と思いあたりました。飽きさせずに次回を見たいと思わせるには、強い引きもインパクトも必要かもと。



そして『ダウントン・アビー』のようなドラマは、「そのほかの同時期に放送している現代ドラマ」シリーズとも視聴率争いをしているかもしれません。その点では、放送中のほかドラマと意識して、ある程度、展開の起伏が大きくなっていくのも必然なのかも、と考えました



「ダウントンしない」作品として私が列挙したものは、ほとんど文学作品のドラマでした。表現に規制が多かった時代もあり、こうした原作付きの作品はおとなしい表現が多くなりますし、短い時間で済むことも多いです。その点、児童文学もハートフル枠になりますし、アニメの『ハウス世界名作劇場』シリーズも、この枠に入るでしょう。スタジオジブリの作品も、空気感は似ていますね。



こうした「先行のドラマ」作品がある上で作る別のドラマは、その先行作品との差異化の中で過激化する必然なのかもしれないと、改めて思いました。


終わりに

ダウントン・アビー』には非常に魅力を感じる点が多くありつつ、「ダウントンしない」という言葉はしっくりきました。とはいえ、いざそうした作品を紹介しようと考えると、意外と思いつかないものでした。『ダウントン・アビー」がきっかけで色々とこの界隈に興味を持つ方がいるならば、その楽しみ方の選択肢を広げるお手伝いができればと、ブログの形でまとめました。



全作品オススメですが、いくつか上流階級の屋敷ではないドラマも混ぜてしまいましたので、きっちり絞れば『日の名残り』『秘密の花園』、『アーネスト式プロポーズ』でしょうか。



なお、『名探偵ポワロ』と『ゴスフォード・パーク』はハートフルではないので除外しています。『名探偵ポワロ』はポワロさんとヘイスティングスがチャーミングなので、ぜひ、見ていただきたいですね(今、NHK-BSで土曜日夕方に放送していますので)。BR>


NHK公式:名探偵ポワロハイビジョンリマスター版



取り上げなかった英文学で言えば、ディケンズ作品シリーズで『荒涼館』もありますね。他に、イブリン・ウォーの『Brideshead Revisited』も。『情愛と友情』としてリメイクされた作品には、ベン・ウィショーもでていますね。

情愛と友情 [DVD]

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最後に、言及した世界名作・ジブリつながりで言えば、私の同人誌(2015年8月に製作)『メイドイメージの大国ニッポン世界名作劇場・少女漫画から宮崎駿作品まで』が、メイド・使用人描写の変遷を1970年代から遡って分析していますので、オススメです。



『ダウントン・アビー』シーズン6からの完結編・UKで発売&視聴完了

その一方で、英国では昨年末に放映された『ダウントン・アビー』の最終シーズン6の完結編になる『Downton Abbey: The Finale』が、DVDで発売されました。今日、UKから届いたので視聴しました。



http://www.amazon.co.uk/Downton-Abbey-The-Finale-DVD/dp/B018K7M0TI






このドラマを知ってから丸々5年が経過したのですが、『ダウントン・アビー』を超える映像美と世界観の作品はいまだあらわれず、2010年12月に記した『Downton Abbey』(ダウントン・アビー)は「屋敷と使用人」の史上最高レベルの映像作品との言葉は、そのまま今も通じていると思います。



前述したように、特にシーズン3〜4の展開は必ずしも私が好きなストーリー展開ではありませんでしたが、シーズンを賑わせてきたメインキャラクターたちが様々な毀誉褒貶を経ながらも、最終的には自分たちの居場所や幸せを見つけていくエンディングには、素直に感動しました。癖が強く、魅力的なキャラクターが多かったです。



物語は1920年代で終了しますので、この後、屋敷の存続に関わる相続税の問題や、今後の第二次世界大戦で接収されることも描かれることはありませんでしたが、1912年のタイタニックの沈没から始まッタ物語が、1925年に終了することは、メインキャラクターの年齢を考えると、妥当かと思います。



この作品が入口となって、英国屋敷やメイドの世界に興味を持つ方が増えることを願って。



以下、屋敷の崩壊について触れたtwitterでのつぶやきです。



『ダウントン・アビー』シーズン4がNHKで01/10から放送開始&プライムビデオにシーズン1〜3が登場

ダウントン・アビー』のシーズン4が2016/01/10(日)にNHK総合テレビでいよいよ放映開始です。

http://www9.nhk.or.jp/kaigai/downton4/



個人的には、シーズン3の終わりから4で描かれる展開はジェットコースターというのか、展開の過激さが目立ち、あまり好みのストーリーでは無かったのですが、ここを経てのシーズン5、そしてシーズン6への完結に繋がるということで。ただ、放送時間とストーリーもあってか、ほとんど周囲にこのドラマを見ている人がいません……



ちなみに、アマゾンのプライム・ビデオに『ダウントン・アビー』のシーズン1〜3が仲間入りしていました。これがプライム会員は無償で観られるとは、大変な時代です。特にシーズン2が一般的にも面白いストーリーだと思いますので、英国や屋敷が好きな方以外も、この機会に是非。














サラ・ウォーターズ最新作『The Paying Guests』発売・1章までの感想

ということで、『半身』『荊の城』『エアーズ家の没落』で知られる英国作家サラ・ウォーターズの新作がKindle版で出ていたので、のんびりと読書を開始しました。



The Paying Guests

The Paying Guests









サラ・ウォーターズの最新作"The Paying Guests"(下宿人)の1章をようやく読了。舞台は英国、第一次世界大戦後。裕福だった中流階級の女性が、家を改築して下宿を営み、メイドを雇えた人が自ら家事をするという設定です。時代は1922年と思われます。文中、当時のPrince of Wales、後のエドワード八世の日本訪問の話題に触れられている。ぐぐってみると、Amazonに王子が和服を着た写真が。



http://www.amazon.co.uk/dp/B00B25EC1A



サラ・ウォーターズの本の感想に戻ると、『エアーズ家の没落』に続いて「家」「屋敷」を舞台にしているのが何とも言えない。どちらも、呪いのようにその人の人生にのしかかる。『エアーズ家の没落』では、第二次大戦後の時代、屋敷を所有していたエアーズ家は修復する金が無く、維持できず朽ちていく屋敷に住み続ける人々を主軸としていた。



一方、今回の"The Paying Guests"では第一次大戦後、メイドは戦時中に仕事を捨て、父や兄弟を戦争で亡くしたのか、金のために思い出のある屋敷(都市)を改築し、切り刻まれた屋敷を金のために他者に提供する母と娘。メイドがいないので、娘は屋敷の掃除や家事をする。



サラ・ウォーターズの2作における「家」、それも裕福な人々の生活を象徴する「屋敷」が、その家の主人たちを守る場所ではなく、傷つけ、人生の可能性を抑制していく「呪い」のような重さで、のしかかっていく雰囲気がある。まだ1章しか読んでいないけど、こういう設定の屋敷モノは、新しい。



『エアーズ家の没落』は屋敷の中に入り込んでいく「異物」として、原題の『The Little Stranger』の正体が謎に満ちているけれども、今回の"The Paying Guests"も、屋敷に他者を迎え入れて変容していく物語であり、中心は「家」か。



ゴシック的な物語にあって、屋敷と屋敷の住人が異世界的に訪問者を閉じ込める、迷い込ませる話の展開はありふれているけれども、サラ・ウォーターズの物語は「屋敷に入り込まれる側の物語」の継続かもしれない。そうしてみると、『半身』『荊の城』も、同一の構造は持っている。



サラ・ウォーターズという作家の面白さは、作家としてのバックグラウンドと、これまでの作品におけるミステリ描写を前提に読むので、物語がなじみの方向に転んでいくのか、そうでない方向なのか、読み終わるまで分からない緊張感があるのが、とても良いです。


昭和の暮らし博物館探訪と、「少女たちの昭和」展

2012年11月30日と、半年以上も前の話ですが、以前から興味があった昭和の暮らし博物館へ出かけました。英国の家事使用人への興味は女中へと広がり、そこから建物から伝わる家事の歴史にも目が向いていった次第です。あとは、どことなく、幼い頃に訪ねた祖母の家に似ているというか、幼少期を思い出すような郷愁も一役買っていそうです。



過去に『コクリコ坂から』と家事使用人からの脱却を迎えた日本、ジブリ作品の家事描写についての雑感(2011/09/14)を書いた折には、江戸東京たてもの園を訪問した際の写真を用いましたが、その場でお話しした方と「家事の歴史に興味がある」と雑談をした際、強く推薦されたのが、この「昭和の暮らし博物館」でした。その展では、1年以上を経て、ようやく訪問できた訳です。



昭和の暮らし博物館



昭和の暮らし博物館は、普通の住宅街のど真ん中に位置する昭和の一軒家が、昔の家具や道具を残して公開・展示を行っています。最初に行くときは、とても迷うかもしれません。私が訪問した際は普通の民家があり、その庭にチケットを売ったり本を扱っている小屋があり、そこから案内の方が家屋へ誘導してくれます。



玄関は横開きの戸で、ここで靴を脱いであがります。内部は撮影禁止でかつ、間取りなどを紹介する本も出ているのでここでは写真を用いた紹介をできませんが、歩くときしむ木の廊下の床や、急勾配な木の階段、そして祖母の家のような床下倉庫のある台所にはもう、心が震えっぱなしでした。



建物には縁側もあって、なんともいえず、懐かしい感じがします。子供の頃、古い一軒家に住んでいたこともあったので、その点ではなんというのか、時代を超えた一般家屋にお邪魔しているような気分になってきます。



昭和のくらし博物館 (らんぷの本)

昭和のくらし博物館 (らんぷの本)





2階では第11回企画展 「少女たちの昭和」が開催されていました。2階は下宿人の部屋だったとのことでしたが、訪問した時点では、そこに昭和の少女たちの服飾の変遷や、農村で働く少女の姿の写真などが展示されていました。学校のアルバムや、少女時代を過ごした方のコメントなども記されて、その時代を生きた人たちの時間が切り取られています。





と、Twitterでつぶやいていた感想を抽出してきましたが、いつのまにか、『少女たちの昭和』展も出版されるとのことでした。



少女たちの昭和 (らんぷの本)

少女たちの昭和 (らんぷの本)





混雑次第かもしれませんが、私が訪問した際は室内でお茶とお菓子をいただくこともできました。ひとりで出かけるのも、誰かと出かけて昭和の時代を懐かしむのも、或いは世代が違う人と行くのもいいかもしれません。



そして、場の勢いとは恐ろしく、記録映画『昭和の家事』を買ってしまったのです。







家事の歴史を学べば学ぶほど、労力と時間削減の進歩に感謝をしますし、便利な時代が大好きなので「昭和の家事」は自分にとってノスタルジックな感傷ともいえますが、選択できる範囲で「時間をかける」ことに心を向けられたらと思うてんでは、「不自由に見える過去の家事」も、部分的には「贅沢な時間の使い方」になるのかもしれません。