ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

コミックマーケット82・落選

先日の06/01金曜日に、コミケの当落通知があり、落選を知りました。今回、日本のメイドイメージで何か同人誌を作ろうと、「評論・情報」ジャンルで申し込みを行いました。



とはいえ、去年の冬コミを終えた後、日記にこんなことを書いていたので、それほど気にしていません。




今の自分は、かつての自分よりも圧倒的な情報量に接し、その時よりも密度の高い研究をできている自負はあります。しかし、今の自分は、昔と同じ情熱で研究し、また同人誌と向き合っているかと問われると、自信がありません。端的に言えば、コミケにおける情熱を、失っています。今回痛切に感じたのは、読者の方を「驚かせる」「突き抜けるぐらいのバカらしさ」をあまり実現できていないことでした。

(中略)



この2010年12月以降はいわば『英国メイドの世界』という自分が作った同人誌・商業誌に代表される、「これまでの11年」との対峙だったように思いますし、そこからどのように「この先」を広げていくかの足場作りの時間だったかもしれません。その点で、来年からは再び「驚き・ここにしかない価値」を追求するつもりですが、時間的な都合から、その表現の場を同人誌に限らなくてもいいとの結論に達しました。



2012年のコミケは夏コミへの参加は行わず、冬コミのみの申し込みとします。1年かけて作りたい同人誌を作るつもりです。もちろん、途中でどうしようもなく同人誌を作りたくなるかもしれませんので、この方針は変わるかもしれません(夏コミ申し込みは2月なのでその時までにこの気持ちが生じなければ2月参加しません。


むしろ、2012年は商業発表の機会創出と、「同人誌以外の形」での「同人活動」を行うつもりでいます。2012年の目標としてもう一度書きますが、2011年はやや動きが取れず、守勢でした。2012年はもう少し機会を広げ、繋がりの中で、「10年後に残る価値」を生み出していきたいと思います。


そういった「広義での同人活動」をご支援いただければ、幸いです。2011年はありがとうございました。2012年もよろしくお願いいたします。
コミックマーケット81・サークル参加無事終了と振り返り


というところで、実際に今年は秋葉原のカフェ『月夜のサアカス』での蔵書公開とタイトル一覧(169+2種)を行ったり、2012/04に勉強会のプレオフ会、そして7月には勉強会を始めるなど、「同人誌を作る同人活動」以外のアクションをしています。



また、そろそろ商業出版の準備をしたいので、その辺りも含め、まだ「同人活動でしかできない、思いっきりバカなこと」を見つけられていない現状、この結果も巡り合わせであると受け止めています。



粛々と、今後の活動を続け、少しずつ目に見える結果をお伝えできればと思います。


同人誌や『英国メイドの世界』への感想をご紹介

Twitter上とブログにて感想をいただいたので、ご紹介を。ありがとうございます!













twitter:154766938202050560:detail







久我真樹:英国メイドがいた時代(ただの日記。それ以上でもないしそれ以下です。様)

SPQR: MAID HACKS(同上)



今後の同人活動の励みになりましたし、どのように伝わったかを今後に取り入れていく所存です。ありがとうございました!



さらに、『英国メイドの世界』についても、「まなめはうす」のまなめさんのご感想をいただけました。SE経験がある立場の私が書いた本が、結構、同業者だった友人たちに響いたこともあって、まなめさんにも楽しんでいただけるかな、いつか届くかなと思っていましたが、Twitter経由で見つけていただけました。



http://homepage1.nifty.com/maname/log/201201.html#080551



こういうのもウェブらしくて、面白いですね。


2012年はメイドジャンルを繋いで描き、10年後にも残るものを

元日にコミックマーケット81・サークル参加無事終了と振り返り2011年の振り返りを記して、2011年にできなかったことや、したかったことを整理しました。



2012年の方針の核は、「自分だけでは出来ないことを実現するために、同じ目標を持つ・同じ方向を向く人に出会って一緒に何かをする」と、「自分のテーマ領域を広げて、非サブカルチャー以外との接点を作っていく」ことを挙げます。



前提として、「自分の好きを表現し、かつ好きを表現する人たちにとって心地よい環境作りに寄与できることを探す」ことがあります。私も周辺環境・ジャンルに育てられた恩義があるので、作品を出すこと以外で返せるものがあるならば、積極的に返すつもりです。


1. 同人活動を広げる

1-1.メイド総合同人誌(または表現の場)の構築

2011年の同人活動は個人で出来ることはだいたいにおいて実現できたと思います。ただ、個人で出来ることの限界も感じていますし、私が活動のベースでしてきた同人の世界にあっても創作メイドジャンルは数年前に比べると数が減っています。とはいえ、私は『英国メイドの世界』を刊行することで、メイド創作のインフラたることを志しましたし、実際にメイド作品が商業で生まれているのも目の当たりにしました。



そこで、「メイドを横断的に扱う『雑誌的な表現の場』を作りたいと考えました。どのような形で進めるか、まだ決めていませんが、私の知人の方や私の活動に興味を持つ方々にお声掛けをして、表現活動にプラスとなる「構造」を設計したいです。



私が目指すのは「メイドが好きな人のための本」だけではなく、「読んだ人がメイドを好きになる本」ですし、「メイドを書きたい」と思う創作者の方たちにとっての表現の場、そして「この人のメイド作品を読みたい」という私の気持ちを満たす場にしたいです。



ここで私は、「英国メイド」に限るつもりはありません。「日本におけるメイド表現の多様性」を10年後に残す意味でも、幅広く考えたいと思います。今時点ではまだ構想段階ですが、少しずつ準備を始めます。


1-2.『階下で出会った人々』の刊行

これは2011年に刊行を予定していた同人誌の刊行です。[参考資料]英国メイドの世界(著者による紹介)の後半に私が資料から登場させた家事使用人の人名リストをあげていますが、彼らが出会った人々も含めると相当な数の家事使用人のエピソードがあります。



『英国執事の流儀』で7人の執事の職場遍歴やキャリアの変遷を描いたのと同じ密度で、家事使用人の中から魅力ある人々を紹介しようという企画となります。過去と比べた最近の同人活動の気持ち的な変化には、「この人を是非、知って欲しい」と言う情熱の欠如も挙げられます。この人を伝えたくてしょうがない、だから同人誌を作るというフローがかつては存在しました。その気持ちを、取り戻そうと思います。


1-3.同人ノウハウ本の作成

私は「好きを続ける」ことを好んでいますし、他に職業を持つ人がプロの作家と同じスペースに並んで戦うことができる「同人の場」を好んでいます。アマチュアにはアマチュアにしかできないことがあります。ただ、働きながらの同人活動は障壁が高く、特に家族を持つと、家族の理解なしでの継続は困難になるでしょう。



同人活動を続けるためのノウハウを考える(2011/09/01)に詳細は書きました。この話をどう動かすかは時間配分と優先順位の判断が必要ですが、私が10年以上同人誌の刊行を続けられたノウハウを開示しつつ、他のサークルの方々のノウハウも集められるような場としたいです。



私が主催する必要もありませんが、とにかく「同人誌を作るテクニック」は多々あっても、「同人活動を続ける方法論」が少ないです。私は創作ジャンル・メイド資料本というニッチ領域にあって、オリジナリティを追求する中で活動を10年以上続け、かつ同人誌の頒布部数でも累計1.2万部ぐらいは出しているので、経験に基づく話も出来ます。壁サークルになれなくとも、ある程度の規模で活動するサークルにとって有益な情報を出せると思います。


2.境界線を広げる

2-1.商業出版企画の完遂と出版の実現(企画自体は通っています)

今年は2009年ぐらいから温めていたメイドにまつわる企画を、商業出版する予定です。企画自体の承認は出ていますが、私にとっても挑戦となる領域が多く、非常に難易度が高く、なかなか進められていませんでしたが、今年はこれを最優先事項として出版にこぎつける所存です。



私の原稿ができておらず、また出版できるクオリティに出来るかというところもあるので、内容と出版社はある程度固まってから公開を行いますが、とにかく「メイドの概念を、今メディアで伝わる一部の物からより広範・総合的に見たものへと切り替える」という、2011年目標の一環の活動となります。



「メイドに興味があり、積極的に情報を得る人」だけではなく、ここでも「メイドに興味はないが、興味を持ちえる人」を対象に、「この本をきっかけにメイドジャンルに接していく」人を増やすことを目標としています。


2-2.創作への応募

『英国メイドの世界』を刊行した折、元同僚と元職場の社長の2名に言われたのが「物語にした方が資料本よりも伝わりやすく、すそ野が広がるのでは?」との言葉でした。元々、私の同人活動は「イメージさせる短編小説+英書に基づく解説」で構成されていましたが、その辺りの創作の部分を、より特化させて切り離し、世に伝わる形にしたいとも考えました。



2011年冬コミ新刊『誰かの始まりは、他の誰かの始まり ヴィクトリア朝の暮らし短編集・総集編』で創作11年の振り返りを行いつつ、今の自分ならば何が書けるのかという試みも行いました。メイドウ創作を行う楽しさも思い出しましたし、書きたい作品もいくつか思い浮かびました。



そこで、定常的にメイド創作を書けるようにスケジュールを決めつつ、どこかの創作小説の大賞に応募してみるつもりです。ターゲット読者は、「境界線を広げる」観点で2系統考えていて、「社会人向け」か「中高生向け」です。


2-3.中高生に届くようための図書館への寄付はできるのか?

『英国メイドの世界』を毎月10冊ずつ中学校や高校に寄付できないか、という試みです。目的としては学校図書館に接点を持ち、興味を持ってもらうための試みです。ある種、「仕事図鑑」「働くこととは何か?」との具体的な事例でもあり、歴史に興味を持ってもらう入り口にもなりやすいと考えています。



本の単価が中高生のお小遣い的には高いですし、図書館予算的にも厳しいかもしれませんので、そこは自腹で月3万円以内(約10冊)の予算で未来への投資としていくのも悪くないかなぁと思っています。



ただ、希望者を募り、配送する手間を簡単にする具体的アイデアはありません。Amazonのwishlistかなぁと思っていますが、出版社にも面倒をかけず、受け取る人も楽をできる方法を3月までに考えます。


3. ジャンルの安定化のための振り返りと繋がりの軸として

2010年の出版以降、とにかく「日本のメイドについてどう思う?」「英国メイドとの違いは?」と聞かれました。さらに出版したことで多様な情報が集まりやすくなってきたこともあって、2010年からライフワーク的に日本のメイドブームについての考察や情報の整理を始めました。



考察も大切ですが、まずデータを収集すること。そこを軸に可視化を行いつつ、「一緒に取り組んだら面白い人」を探し、コラボできる余地を探していきます。2010年の出版時には秋葉原のメイド図書館『シャッツキステ』とコラボを行いました。同じように、2012年は繋がりを広げていくつもりです。



メイド喫茶に初めて行ってみたい人向けに、英国メイド研究者が書いてみるもその一環と言えば一環で、これは「あくまでも一部にすぎないメイド喫茶の形態が、すべてのように伝わること」へのカウンターのようなもので、私から私が好きな「表現」を行う方への援護射撃になればとの気持ちがありました。


3-1. リアルの場で図書公開を行い、学びたい人の場とする

何度か呟いているのですが、正直なところ、私の家にある蔵書で私が読んでいないものは多々あります。常に全部を必要としているわけではありません。それに本は読み手によって何が響くかも違っており、私の家にあるだけでは世の中の役に立ちません。



そこで、2009年には「図書館的なことをしたい」と書き、2010年には一時的にシャッツキステとの出版イベントの中で5日間蔵書の公開を行いましたが、2012年はお声掛けいただいたとある場所で、定常的・長期的に私の蔵書の公開を行います。ここでは、メイド関連本(+ヴィクトリア朝や、広義のメイドも含めて)を読みたい方に向けて提供し、機会を創出することにしました。



具体的な話は公開可能な時期に行います。


3-2. 学びの機会を増やし、かつ自分が学んだことを伝えていく

メイドブームと並行する形で、むしろメイドブームよりも強固でかつメイドブームと混在して目立っていないかもしれない「カフェ文化」や服飾について、もう少し学ぶ機会を増やしたいと思います。実は私の同人誌の読者の中に、教えを乞いたい方たちがいたことも判明しましたので、その辺りを楽しもうと思います。



同時に、私だけでは「英国メイド」の領域についても学びきれるものではなく、また日本の「メイドブーム」も照らしえるものではないので、研究会的に相互に学びあう事、伝え合う事で広げられる場を作りたいと思っています。そのフックとして「リアルの場での図書公開」と重ねていくつもりですが、私が学んできたことを伝えつつ、その先を目指して欲しいと思います。その気持ちは、『英国メイドがいた時代』に記しましたので、そこから引用を。




 メイドがいない社会は格差が少なく、相対的に豊かさを持ちます。現代日本は格差が広がっているとはいえ、まだメイドが普遍的ではない状況に留まり、だからこそ、漫画やアニメ、メイド喫茶に代表される「メイドさん」が育まれたように思います。



 日本のようにメイドがサブカルチャーで当たり前になる環境は稀です。私は、その日本でのメイドイメージの広がりと多様性に強い関心を持っています。



 日本で成立した様々なメイドイメージと、同人を母体として研究が進んだ歴史的な英国メイド、そして海外で広く雇用される家事労働者のメイドを、今後、比較研究していくつもりです。



 明らかに個人で出来る領域を超えていますし、どこまで出来るかはわかりませんが、「日本で行われてきたメイド研究」がどこまで広がるか、いわば私は今、「本棚」を拡張しているようなところです。この本棚に収まる本を作るのは私である必要はありません。目的としては、そこに「本が入るスペースがある」ことを示したいと思っています。
 メイド研究は同時代性を持ち、ここからの10年、もっと広げられるはずです。

4. 「メイド以外」の人々と出会い、学び、「通じる言葉・概念」にする

最後は「メイド」以外のフォーカスをしたもので、世の中により届く・伝えられる言葉を持つにはどうしたらいいかという接点作りになります。そもそもこれからの時代を生きていく立場として、私は「近代の価値観」に興味を持ちましたし、ここ数年、岡田斗司夫さんの在り方に興味を持っていました。



2011年は自分のことで手いっぱいで足場の構築に終始しましたが、2010年の振り返りで描いた軸を深化させるつもりです。これもまた2010年を振り返る&2011年への抱負から引用します。



3位:学びの機会と現代性を得る

今年は4つ、大きな視点を得ました。



ひとつは岡田斗司夫さんの活動への興味です。オタキングex立ち上げをリアルタイムで見ましたし、語られるビジョンの視点は非常に高く、自分が問題に思うことの解決策も提示されていました。まだ自分の足元が固まっていないので参加はしていませんが、この時に、岡田さんの著書『ぼくたちの洗脳社会』で紹介されたアルビン・トフラーの『第三の波』を通じて、当時疑問に思っていた「近代の特徴・家事使用人への影響」についての考察を深める機会を得ました。



2つ目は年末に刊行された『まおゆう』を通じて、今まで読んでいなかった『銃・病原菌・鉄』や、『英国メイドの世界』執筆に関連して、近代関連の知識を網羅的に広げるきっかけのひとつにしました。『まおゆう』の行間を勝手に読んだ部分もありますが、非常に刺激的でした。(『まおゆう』刊行を記念して、振り返る「近代」関連の書籍) 作品自体、時間を忘れて読みました。



3つめは、フーコーとの考え方との出会いです。19世紀に規律重視・時間厳守・役割分担・マニュアル化が進む家事使用人の状況を見て、アルビン・トフラーの『第三の波』だけではどうも埋め切れませんでした。「その根幹は何か?」と考えていたとき、英国留学経験者の方(社会学・哲学)と出会い、フーコーの『監獄の誕生』が良いとレコメンドされました。



フーコーとの出会いは私には衝撃的でした。その上、今まで読んでいた家事使用人の本では一度もフーコーの名前を見たことがなかったのですが、昨年末に読んだある本で、初めてフーコーの名前を見ました。最高のタイミングで、繋がったと思います。彼が描き出す近代人のモデルは今後の財産になったと思いますし、この辺りの話は、『まおゆう』の登場人物「メイド姉」に繋がるかもしれません。



最後が、やはり今年お会いした別の方とのお話を通じて、「世界のメイド」への視点を広げたことです。当初は「世界のメイド服」的な意味合いでしたが、メイド事情を調べていくと、雇用に見られる構造に気づきました。また、グローバリゼーションと移民、そして資源の減少による生活の変化にどう向き合うかというところが、20世紀前半の英国メイド事情とも重なり、私がこれまで扱ってきた事象が現代性を帯びているのを確認できました。(2010年『ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん』アクセスランキング・ベスト10の1位に記載)



こうした問題意識は、私が尊敬する川北稔先生の著書とも重なり、『イギリス近代史講義』〜現代を照らす一冊(2010/12/15)に記しました。



私自身はその他でもミヒャエル・エンデの本で知った地域通貨の概念へ関心を持ちましたし、岡田さんの評価経済の話を生き方を模索される玉置沙由里さんのMG(X)への出資をしました。他に、今年は仕事での必要性もありますが、Skypeを活用したフィリピンの英会話教室を利用して英会話と、フィリピンの歴史についても学ぼうと思っています。



こうした領域は「特にメイドと接点が無い」ように見えますが、現代を生きることを考えるところで、重なりもあります。『英国メイドがいた時代』が繋がっていくテーマの補足で描いたように、「1.ワーキング・プアと新自由主義」「2.近代世界システムと家事労働(ジェンダーフェミニズムの観点)」「3.移民事情と現代日本」と家事使用人の歴史・家事労働者の境遇は無縁ではないからです。


終わりに

とても盛りだくさんですが、「今年1年ですべてやろうとは思わない」「私だけでやろうとしない」ことをキーワードに、今年は活動を楽しみ、深め、より多くの人に関心を持ってもらえるような伝え方を模索していきます。会社勤めでの経験も新しいステージに入っており、仕事とのバランスをどのようにするかも課題に上がってきますが、今年はこうした目標を描くこと、スケジュール管理を行って具体化することでプライオリティを下げずにいきます。



メイドへの関心を持っていただくのも大切ですし、私の生き方や在り方を軸にメイドに興味を持っていただくことも出来るのではないかと思いつつ、水樹奈々さんのラジオで「メイドは人生」と言った手前、「人生」としてしっかり向き合っていきます。



これが全部できたら、相当、すごい人間ですね。でも、一人で出来るわけがありませんし、すごい人間になろうとも思いません。半ば誇大妄想的かもしれません。しかし、ここに描き出した「夢」を共有し、響いて受け止めて下さる方が一人でも増えれば、「世界」を見る目を変えられるとの希望があります。



見守っていただければ、そして一緒に楽しんでいただければ、幸いです。


2011年の振り返り

振り返りを踏まえた2012年の目標・展望は明日に更新します。


足場がそれまでより不安定だった2011年

これまでの年間振り返りではほとんどプライベートのことには触れてきませんでしたが、今年は実生活の部分を抜きに振り返れないため、ある程度、私が経験してきたことについて書きます。


「出版では食えない」と分かっている中で「出版経験」を優先した2年間

2011年は毀誉褒貶あった1年でした。出版と仕事の両立が難しく、2009年に会社を辞めて2010年まで出版に専念し(途中、派遣社員での就業も行う)、2011年初頭は出版での努力が一段落したと判断し、会社生活に戻ろうと決めました。自分の実力や努力の仕方では継続的にやるのが難しく、営業能力もありません。そもそも私は会社勤めで得られる環境が好きでしたし(『エマ』10巻「アデーレの幸せ」から生きることと「仕事」の一致を振り返るにその辺は書きました)、私の力で出版で食べていくのは困難だと分かっていたので、離職する前から会社生活は前提でした。



それで出版への気持ちの区切りがついた3月ぐらいから転職活動を始めましたが、ある企業の面接へ出かけようとした一時間前に東日本大震災が発生し、それからしばらくは自分の身の回りのことで必死でした。転職に対する価値観もぶれ、気持ちに迷いが生じました。転職活動も一筋縄ではいきません。「出版を経験した2年間」は世の中的にマイナス評価されることも多く、「この出版を経験しなければ、もっと良い仕事ができたのではないか」と思うことも一度ではありませんでした。とはいえ、自分だけはこの出版を否定してはいけないと経験が生きる道を探しました。



そんな中、迷いながらも次の職場を見つけ、働きました。自分が好きな方向に近い企業で、やりがいも十分にあると思いました。しかし私がついた職種ではこれまでの経験が生きず、軸が少し離れていたり期待されていたりしたものが違って、一か月で離職しました。そこから短期の派遣を行い、やがて前職の知人の紹介で現在の職場と出会いました。そこでは、出版を含めた多様な経験を評価してもらえましたし、メイド研究を通じて続けた英語力が生きました。



現在は新環境で足元を固めつつある最中で、ようやく自分の適性についても見極めがつきました。離職した期間で失った「会社で主体的に働く感覚」もだいぶ取り戻しつつあり、現時点では他の環境でも通じるだけの自信と環境への適応能力を回復したように思えます。


今までと異なる就業環境から見えたこと

こうした点で、2011年は「同人活動を安定して行う」には、やや厳しい環境にありました。ただ、2011年の経験は私の中にある視点を変えました。



私はバイト経験もそこそこありますが、基本的に正社員での勤務が長く、出版準備のために時間の都合がつけやすい一般派遣社員のポジションを今回初めて選びました。一般派遣の方に業務指示を出し、管理した経験もありますが、その逆の立場になると、正社員との待遇の違いを多く感じました。



自分の時間の都合はつけやすく、残業もほとんどありませんでした。責任も正社員時代より軽くて精神的に楽でしたが、自分の判断だけで物事を進められない、主体的に動きにくいし期待されていない、半年働かないと有給休暇が得られない、その期間に休むと給与が出ない、給与が正社員よりも相当低く、いつ契約が切れて解雇されてもおかしくない立場にギャップを感じました。



出版との両立がしやすく時間的に都合がいい一般派遣の立場で働き続ける選択肢もありましたが、主に年収額の相違という経済的理由と有事における時間の融通具合、そして主体的に計画を立てられる立場でありたいと、私は正社員職のポジションを探して転職活動を始めました。



というものの、「勤務経歴としてブランクとみなされる『出版』の経験」は、いわゆる一般的な企業ではマイナスとされ、仮に似た年齢の人がいた場合には減点材料にもなりました。こうした経験は、育児によって勤務から離れたために、その後の就業機会の選択肢を失ってしまう女性の経験と重なりを感じました。



会社に戻る時間を最小限にするため、キャリアを維持するため、海外ではメイドの雇用も行われている、そのことに実感を持てたのもこの期間があったからですし、国の支援が乏しく、長時間労働を強いられる環境から、仕方なく家事労働者を雇用して解決策とする英国の一部で見られる動きも知りました。私の友人や親族も含めて子供がいる人も増えてきているので、「待機児童」の話は身近なものとなりました。



同時に、「就業環境の不安定さ」や「正社員は待遇が安定する代わりに長時間労働」「一般派遣社員は時間の都合は聞くけど、待遇は不安定。正社員よりも責任はないけれども、正社員と同じ労働をしても給与は安い」ことから同一労働・同一待遇との言葉を知り、同時に、そもそも正規雇用にあっても私生活を犠牲にする働き方に疑問を持ちました。仮に残業時間を相当減らせば育児に従事しやすくなる時間も出来ます。



そういったところからワークライフバランスや働き方、現代の労働環境、そしてメイドをソリューションとする現代事情に関心が向かいました。『英国メイドがいた時代』は『英国メイドの世界』と言う出版経験を積まなければ作れなかったと同時に、私自身がそれまでの職種にいただけでは得られなかった視点や感情をベースとしています。



自分を取り巻く労働環境で成立する「ルール」や「評価基準」がなぜ成立しているのか、どうしたら変えられるのか。そもそも、理想の形はどういうものなのか、との考えも生じました。相当自由度が低く、私はただ運と縁に恵まれて生き延びただけにも思えます。だからこそ、この空気のようなものを変えたいと感じています。



「働いていること」への価値観についても、「家事」についての価値観についても問い直すことは多々ありますが、その辺りはまた後日に広げます。


グローバリゼーション

2011年のメイド研究におけるテーマの一つは、グローバリゼーションでした。この視点は元々自覚していたもので、現代英国の格差を照らし、現代日本の労働環境も相対化する『英国メイドがいた時代』『英国メイドがいた時代』が繋がっていくテーマの補足に記してきました。



身近なところで、私が英会話学校で出会ったフィリピンの先生との会話も、グローバリゼーションへの関心を強めました。(メイドの可能性を広げて「接点」を響かせる参照)。さながら大企業と中小企業で給与のベースや福利厚生が違うように、さながら正社員と一般派遣社員と言う境遇で給与に差があるように、生まれる国や環境が違うだけでも通貨価値は異なります。日本で稼いだ給与を現地での教育機会改善に使うという先生の活動に感銘を受けましたし、この構造が持続しえる理由にも興味を持ちました。



社会全体で幅広くメイド雇用が成立するには、低賃金で働く人々が必要で、その状況は低賃金でも働かざるを得ないためにその環境を受け入れる人々が多数いることを前提とします。日本や現在の先進国では産業構造が変化し、経済発展による中産階級の増加に伴ってある程度格差は縮小し、メイド雇用を前提とする社会は崩れていきましたが、日本でも格差が広がり、教育の機会や就業の機会にも格差が見られ始めています。



こうした「グローバリゼーション」は私が派遣で出向いた企業に外資系があったことも影響しています。私のメイド研究のテーマに「グローバリゼーション」があるが故に、私はなおのこと、一度は外資系企業の当事者として現在の状況を経験したい、梅田望夫さん的に言えば「見晴らしのいい場所」に立ちたいとも思いました。長期的に、何ができるかを考えるためにです。


2011年の出来事

こうした背景で私の同人活動は続いていました。ここ数年は35年間の人生で、大きな転換期にありましたと、例年にないほど個人的な話から始まりましたが、自分で引き起こしたものでもあるので後悔はしていませんし、機会を得るためにリスクを取っただけともいえます。また、仮にマイナスのことがあったとしても、その経験がプラスになるように、今後を生きていくつもりです。



というところで、2011年にあった研究軸の出来事です。


1. 同人誌の電子書籍化推進

2010年10月にテストとしてDLSiteで『英国メイドにまつわる7つの話と展望』の公開を行いました。



私はこれまでに何度か同人誌を含めて電子書籍関連のテキストを書きましたが、私は電子書籍へ特に過剰な期待を抱くこともなく、私個人で大きく動かせることもないと思うので、今時点では考察や整理を含めて大きく時間を割くつもりはありません。私以上に真剣にかつ詳しく考察されている方々を見つけられた、というのも理由にはなります。



あと、次のようなモデルも考えていたのを思い出しました。










2. 『英国メイドの世界』1周年&第四刷刊行

『英国メイドの世界』は絶版になることもなく、『英国メイドの世界』刊行から1周年を振り返るに書いたように、1年間を無事に迎えることが出来ました。



一部のリアル書店でも店頭に並んでいる様子は確認できましたし、少なくともネット上で見える範囲(主にAmazonランキング)では、私の本より後で刊行された英国メイド関連本と同じか、時にはそれ以上の順位でコンスタントに推移しています。



英国メイド関連本が出た時に書店で一緒に並べて売ってもらえるポジションとしてウェブのように認識されていないように思えるのは残念ですが、著者が努力し続けることで自分の本の寿命を延ばし、埋没することなく生き続けた結果として、新しい読者の方々とも出会う機会を得るという結果を出せています。これは、当初思い描いた通りにできたことです。


3. 同人誌『英国メイドがいた時代』&『誰かの始まりは、他の誰かの始まり』刊行

2008年に刊行した『英国メイドの世界』は私の人生を変えました。その余波が大きすぎたために、その後の同人活動にも影響を与えました。『英国メイドの世界』に続く時代として『英国メイドがいた時代』を作り、同人版『英国メイドの時代』が絶版して生まれた講談社版に掲載されなかった短編集を再生する『誰かの始まりは、他の誰かの始まり』を刊行しました。



この点で、ようやく2008年からの様々な流れを、自分なりに昇華出来ました。同人振り返りの中では「原点回帰」と書いてきてもいますが、もはや何年原点回帰しているのだという話でもあり、そろそろ『英国メイドの世界』から子離れして、自分の世界を広げようとも思います。


4. 水樹奈々さんのラジオ番組に出演

これは出版にまつわる最大の事件のひとつ、というものでした。



FM-TOKYO『水樹奈々のMの世界』のメイド対談を振り返ってにて振り返りましたが、正直、素人の自分がラジオに出演しても失敗することは目に見えていました。それでも、出ていかねばらない「機」だと強く感じました。



「誰に依頼されることもなく、ただ好きを貫いて本を出版する」経験をした上に、「水樹奈々さんにお会いできる」機会を得るというのは、通常起こりえない人生です。さらに「英国メイド研究者がゲストとしてラジオに呼ばれる」と言う事象は、メイド界隈にとって興味深い事例になるのではなると。



私は「好きなことを続ける」ことを大切にしていますし、そういう自由さが尊重される社会であって欲しいと思っています。だからこそ、自分の活動を知ってもらう機会や人との出会いは大切にしますし、その経験が広がる機会を逃したくありませんでした。



これが「大きな一歩」となるよう、今後も機会を作れるよう努力します。


5. 「なぜ今の時代、『英国メイド』なのか」の答えを出す

最後は、文中で少しだけ触れた東日本大震災です。



私が震災後にできたことは献血、募金、津波に遭った宮城県でのボランティア活動(清掃活動)と短期的で限られたものでしたが、震災の直後、歴史を学ぶ立場として出来ることに記したように、自身の専門領域の知識や視点を提供されている方々の活動を知り、自分にも出来ることを広げたいと考えました。



そもそも現代にあって、「ただメイドが好きだから」と言う理由だけで自分がメイドの研究をしていても、社会から遊離しているようでもありますし、同時代性を欠くように思えました。私はそれを本業として食べる立場ではなく、組織に属して働く境遇にあります。その「私」がなぜ研究するのかは常に自問自答しています。



そこで、私は現代人が興味を持つような転職やキャリアアップを軸としたコンテクストを作ったり、現代の労働環境を相対化する視点としたり、更には現代に続く雇用を通じて育児環境や社会福祉にもテーマを広げたりしたつもりです。



そしてこの震災に際して私が感じたのは、「今のままの経済発展、豊かな暮らしは続かない」との想いでした。『英国メイドの世界』で「コンテンツとしてまとまった本文から若干乖離したことで没にしたあとがき」があります。そこに、私の2010年時点の気持ちがありましたので、掲載します。




○2・家事使用人/家事手伝いの歴史が伝えること
 近世を起点とした家事使用人の歴史の帰結を追いかけた本章では、家事使用人の時代の終わりを扱ったその先で、いつのまにか現代へと繋がりました。執事やメイドの姿は歴史の表舞台から消えましたが、誰かが家事を担う役割自体は残り、将来に渡って続きます。
家事使用人という一つの職業集団が生まれ、最盛期を迎えて、衰退する。この歴史や職業が直面した構造的問題は、多くの示唆に富んでいます。



■1・家事を巡る消費の側面と同時代性

 イギリスでは、消費が数多く生まれました。家庭で担った生産は商品革命の進化で外部に委ねられ、新しい製品が家に入り込んできた結果として家事の手間が増え、その解決策として使用人は消費されました。メイドがいなければ、家事は大変な作業でした。
たとえばクルマは今の私たちの暮らしに欠かせない重要な存在ですが、クルマを使った生活自体は新しいものです。メイドを前提とした暮らしは供給不足で変化を余儀なくされましたが、私たちが当たり前に思う「今の社会の便利な何か」は将来、環境や資源の問題で姿を消すかもしれません。生活様式の変更を迫る「使用人問題」は、決して私たちにとって他人事ではないものです。



 家事使用人職が衰退した一方、家事手伝いの仕事はイギリスでリバイバルし、時間をお金で買う形での消費を生み出しています。そして日本国外では、今も家事を手伝うメイドは同時代的存在であり続け、都市部を中心に発展したラテンアメリカや中国などでは、メイドとして働く人々が増加しました。たとえば香港では国内で完結せず、海外からメイドを雇用しています。



 高齢化社会の日本では介護領域で求人がありながら国内で需要を満たせず、海外からの人員受け入れが進んでいます。歴史は繰り返さないとしても、似た構造は出現しています。



■2・物の見方や価値観の基盤

 古代ローマユリウス・カエサルは『人は見たい現実を見る』と言いました。この言葉は「人は見たい価値観で物を見る」と言い換えられるでしょう。使用人問題は、使用人を必要とする生活や、使用人を見る価値観の変化を雇用主に迫るものでした。



 心理学者Violet Firthは使用人問題解決のためにプロパガンダの重要性を訴えました。使用人への偏見、使用人を必要とする生活の歴史は短いものに過ぎないとして、その見方を捨てれば問題は解決すると彼女は主張しました。



 物を見る価値観の影響は、使用人の歴史につきまといます。



 「働くことは神聖」とする考え方や「家庭は神聖」とした価値観は産業革命期のイギリスで普及し、ヴィクトリア朝以降に強い影響力を及ぼしました。「男性が働き、女性は家で有閑化する」ことを尊重した環境では中流階級の女性の就業が好まれませんでしたが、女性の社会進出が進み、使用人雇用が難しくなると、価値観は変容しました。



 何かの価値観が社会で支持されるには理由があるからで、環境が変われば「それまでの伝統」は変化します。それを再確認することは歴史を学ぶ立場として有益で、過去の影響を受けて構築された現代を見る視点として役立ちます。



■3・ある社会で人が「働く」ことへの問いかけ

 使用人が働いた環境は、ある一時代の人の働き方を照らす良質の題材です。使用人問題は、人が働く上で問題となる労働条件を明確にしつつ、政府報告書で答えが見えながら解決されなかったことで、雇用主と被雇用者を巡る労働問題の根深さを物語ります。



 現代の日本人はメイドの問題を、過去の問題とはできません。一例として、労働時間の法的上限を定めた国際労働機関ILOの条約(8時間労働制:第1号や第8号など)を日本は批准していません。日本の労働基準法の法定労働時間は、労使協定(36協定)で上限を引き上げられます。運用や給与や環境で同一でないにせよ、過労死は問題化していますし、労働時間の実質的に上限が無いことは過去のメイドと似た境遇にある姿を示しています。



 もちろん、「働くこと」で見えてくるのはマイナスだけではありません。



 求人広告や人材バンクがあった求人市場は現代的ですし、スキルを磨き、キャリアを重ねるような、人が生きるために働く中で感じる悩みは時代を超えます。



 限られた環境で自分の仕事に責任を持ち、主体的に働いた使用人たちの声や、仕事に生きがいを見出した人たち、戦略的にキャリアを築き上げていった使用人たちの生き方は、社会で働いた「先輩」として、働く自分を見直すヒントがあふれています。



 19世紀初頭のある執事は自分が得た職務経験から、若い男性使用人のために『The footman's directory and butler's rememberancer』という書籍を刊行しました。そこには使用人としての仕事の技術だけではなく、「働く上で、同僚とうまくやる方法」や「執事になった時に大切なこと」まで掲載されていて、ビジネス本に類似した鋭い洞察や、誰かの役に立つために自分の知識を伝える想いが込められています。





私がこの当時想定していたのは、「そのうち、クルマ社会が無くなるのではないか」とのものでした。今、そうした仮定を聞いても「ありえない」と思ったり、「そこで生じる不便さはどうするのか」との反論も出てきたりするでしょう。しかし、過去にあって「メイド・家事使用人」は一部の人々にとって、クルマと似た存在でした。その雇用が難しくなって雇えなくなった場合に、人々の意識は切り替わりました。



「具体的に生活を変える」というのがどういうことか、その経験は過去の歴史の中に見出すことができます。震災の余波による原子力災害にあって、原子力発電が供給してきた「電気」とどう向き合うのかも、「寸断されたインフラ」や「計画停電」によって身近なものとなってきました。この方面の情報収集や学習を適切に行えていないので今時点で私に回答はありませんが、「現代の当り前は、過去にあって当たり前ではない」ということへの自覚や、なぜ自分がそう思うのか根拠を探すこと、そして「好きなようにルールは変えられる」との気持ちが強まりました。



私が尊敬する、1920年代の家事使用人問題の研究者Violet Firthは、こうも言いました。




『生活の一部を変えたら、結局すべてが変わります。(中略)思い込みを捨てることです。生活様式は変えられます。調査の証言者は遅い時間の夕食は必須といいました。しかし、歴史を学べば遅い時間の夕食は最近の習慣で、それゆえ英国人種は遥か昔から、必要性なしで存在していた。使用人問題の議論すべてで、人々は私たちの社会習慣が自然界の法則のように、変更できないと見なすけれども、新しい習慣に適応できなければ人類は絶滅していた。事実として、それらは単なる「習慣」の過ぎません』
(『THE PSYCOLOGY OF THE SERVANT PROBLEM』P.89)

今日は振り返りまで

というところで、これらを踏まえて2012年の目標を書きます。


番外編

2009年時点の目標の達成具合

2009年12月の同人誌『英国メイドの世界ができるまで』に書いた今後の進捗と展望のレビューです。意外とがんばっていますし、時間が経過する中で初期とは異なった形で実現に近づけている物もあります。



活動領域 項目 詳細 結果 結果の詳細・変更点
同人活動 1. 完結編『使用人の世界の終わり』 『英国メイドの世界』で扱えない領域を書く。 達成 『英国メイドがいた時代』の刊行を行う
2. 『総集編2』について 5〜7巻で描きだした「日常生活」の総集編。 目標変更 『図説英国メイドの日常』が出ているのでよいのでは?

短編集の総集編は、2011年冬に達成。
3. 完結編以降について ・貴族の領地や屋敷での話。

・創作の賞への応募。

・創作の資料を提供する立場

33%達成 『英国メイドの世界』が創作の資料になるのは達成。
【同人以外の活動・出版】 1. 『英国メイドの世界』出版 必ず刊行する。 達成 2011年11月11日に講談社から。
2. プロモーション案の検討 しっかりと読者の方々に届くように努力する。 達成 ・第四版までを実現。

・アクションは『英国メイドの世界』刊行から1周年を振り返るに記す。
3. 『英国執事の流儀』の出版 出版する。 目標変更 ・特にアクションせず。

・別の出版企画を優先中。
【同人以外の活動・インフラ作り】 1. 資料本ネットワーク構想 資料本を有する作家・創作者で資料館を作る。 部分的に達成・継続進行中 ・蔵書の公開はスポットでシャッツキステとのイベントで行う。

・定常的に公開可能な場の確保は某所で進行中。

・他の作家の方を巻き込むのはまだ。
2. 論文/賞的なもの 読みたい・研究して欲しい領域のテキストに賞金を出す。 未達成 ・『英国メイドの世界』が爆発的に売れたら、と思っていました。

・資金の目途は無いので、今年中に運営スタイルを設計予定。
3. メイド研究資料のウェブ公開 Google Booksで未公開で著作権切れ資料のウェブ公開(翻訳含む)。 未達成 ・優先順位的に何もアクションせず。

・いつ行うかは、また別途検討課題。主に時間。
4. 留学と英国滞在 研究したいので。 未達成 ・それだけのお金がないです。

外資系企業に転職したので英語力を伸ばし、英国で仕事する可能性を模索。
5. 論文を書く 研究したい領域があるので。 未達成 ・今のところ、未定です。

2010年時点の目標の達成具合

2010年を振り返る&2011年への抱負もついでにレビューします。



活動領域 項目 詳細 結果 結果の詳細・変更点
【「メイド」の概念を広げる】 メイドの概念を分類・世に伝える 「日本のメイド」「英国メイド」「現代の家事労働者」の3軸を理論化して示す。 途上 ・現代をテーマとする『英国メイドがいた時代』を刊行。

・研究自体は着手。
【同人誌】 1. 同人誌『階下で出会った人々』を刊行 実在する家事使用人の人名・エピソードガイド。 未達成 ・どうしようか考え中。
・代わりに『誰かの始まりは、他の誰かの始まり』を刊行
2. 同人誌『英国メイドがいた時代の終わり』を刊行 20世紀全体でメイド雇用衰退の経緯を描く。 達成 ・タイトルは『英国メイドがいた時代』に変更。
【個人の目標】 1. 小説を書く ・英国メイド関連の物語を描き、多様性を伝える。
・賞に応募する。

・短編小説サイトをWrodPressに移行する
33%達成 ・物語は2年ぶりに書けた。冬コミ新刊で整理・作成。

・応募作は未定。

・移行作業もまだ。
2. 活動スポンサーを見つける(非メイド関連事業) メイドコンテンツホルダー以外で研究を支援してくれるスポンサーを見つける。 未達成 ・何も働きかけをしていません。

・これも2012年中にプランのみは立てます。
3. 他メディアへの展開 旅行業界や転職業界、IT業界など。 未達成 ・メディアでの取り上げはほとんどないですね。ラジオ出演ぐらい?

・とりあえず、仕事・キャリアネタで売り込みに行きましょうか。
【勉強について】 1. イギリス屋敷への橋頭堡を築くく イギリス屋敷関連のコミュニティーに入る。見つけてもらう。 未達成 何もしていないですね、はい。
2. 英語力(TOEFL)を高める:点数を決めて 留学に必要なレベルに到達する。 未達成 2011年は時間が作れませんでしたが、今年はSkypeでの英会話レッスンを始めたり、英会話コミュニティなどに入ったりする予定です。
3. 留学する 研究したいですね、現地で。 未達成 2009年振り返りに記したとおりです。

2012年01月現在の今後の参加予定と新刊・既刊の委託先

参加予定

2012/02/05(日) コミティア99

ほか、未定


委託していない同人誌

『MIAD HACKS』


新刊『誰かの始まりは、他の誰かの始まり ヴィクトリア朝の暮らし短編集・総集編』

サークルSPQR冬コミ新刊『誰かの始まりは、他の誰かの始まり』は入稿が完了し、無事の仕上がりを待つばかりです。今回はコミケに初参加(同人誌委託・2001年12月)から実に丸10年と感慨深いものがあります。



通巻では19冊目です。



『誰かの始まりは、他の誰かの始まり ヴィクトリア朝の暮らし短編集・総集編』

今回の新刊では、原点回帰の意味を込めて「創作」を軸にしました。「好き」だからこそ続いた活動ですが、その「好き」を思い出すために。なぜ、この同人活動を始め、どのように続いたのか、その答えを言葉にすることは簡単にできませんが、10年分の「メイドを見てきた、自分の視点」を集約すれば、見えてくるものもあるでしょう。



新作は時間的都合もあって中編2本に留まりましたが、「ハウスキーパーを目指して転職をしたスティルルームメイド、セシリー」と、「ボーイ→フットマン→執事と昇進を果たして、責任を受け入れていく青年サイラス」を軸としています。この両名は今までの同人誌で何度も出てきましたが、断片的に登場していたので、このようにまとまった形で話を伝えたかった側面もありました。



製作の背景や既刊との重複などは、冬コミ新刊は『誰かの始まりは、他の誰かの始まり ヴィクトリア朝の暮らし短編集・総集編』(2011/12/05)に記していますので、既刊をお持ちの方はご覧ください。



今回は短編集の総集編なので、『英国メイドの世界』でメイドに興味を持った方に向けた「小説」として、お楽しみいただければ幸いです。



仕様

タイトル:『誰かの始まりは、他の誰かの始まり』

副題  :「ヴィクトリア朝の暮らし総集編・短編集」

値段  :1000円(同人イベント時)

サイズ :A5判

ページ数:220ページ(厚さ1.3cm)

頒布開始:2011/12/31(土) コミックマーケット81 3日目東ル-53b

委託  :「とらのあな」/「COMIC ZIN」の2ショップ


制作者情報

筆者     :久我 真樹(サークルSPQR

表紙イラスト :瑞様

表紙デザイン :U様


【同人誌タイトルと短編の初出】

ヴィクトリア朝の暮らし シリーズ

一巻 貴族とその屋敷        二〇〇一年十二月

二巻 貴族と使用人(一)      二〇〇二年十二月

三巻 貴族と使用人(二)      二〇〇三年十二月

四巻 貴族と使用人(三)      二〇〇四年十二月

五巻 使用人の生活風景       二〇〇五年〇八月

六巻 使用人として、生きて     二〇〇五年十二月

七巻 忠実な使用人         二〇〇六年〇八月

八巻 この倫敦の、空の下で     二〇〇六年十二月

九巻 終わりの始まり        二〇〇八年十二月

総集編 英国メイドの世界      二〇〇八年〇八月
   

■外伝・そのほか

Victoria Life Style Vol.1(外伝一巻) 二〇〇三年〇八月

Victoria Life Style Vol.2(外伝二巻) 二〇〇四年〇八月

ヴィクトリア朝の暮らしガイドブック   二〇〇七年〇八月


■合同誌への寄稿

M.O.E. Maid of Express       二〇〇五年〇三月


【短編集タイトルと掲載誌】

プロローグ

擦り切れた膝(M.O.E、五巻)

第一章 ある公爵家の物語

(一巻、総集編)


第二章 忠実なる使用人

ヴァレット(二巻、総集編)

侍女(三巻、総集編)

ハウスキーパー(二巻、総集編)

執事(二巻、総集編)


第三章 階段の途上

階段の途上(外伝一巻、五巻)

公爵夫人の変わらぬ午後

執事の本分(総集編)

コックの矜持(総集編)

ハウスキーパーの決意(総集編)

通り過ぎていく(五巻)


第四章 階下の暮らし

階下の暮らし(三巻、総集編・改題)

ハウスメイド(三巻、総集編)

パーラーメイド(三巻、総集編)

ナースメイド(三巻、総集編)

ランドリーメイド(三巻、総集編)


第五章 使用人として、生きて

帰還(四巻・改題)

スカラリーメイド(四巻、総集編)

キッチンメイド(四巻、総集編)

コック(四巻、総集編)

デイリーメイド(四巻、総集編)

スティルルームメイド(四巻、総集編)


第六章 公爵家のメイドたち 

ブリキのトランク(五巻)

侯爵と共に(外伝二巻)

最初の主人(三巻)

夕暮れは明日へ(五巻)

すべて初めから(五巻)

公爵家のメイドたち(五巻・改題)

いっぱいのトランク(五巻)


第七章 春、ひとり窓際で

小さな決意(八巻)

リリィ(外伝二巻)

束ね髪(五巻)

在りし日の面影(書き下ろし)

冷たい頬(九巻)

その、指先(九巻)

春、ひとり窓際で(九巻)


第八章 執事の肖像

ボーイ(七巻)

フットマン(七巻)

ゲームキーパー(七巻)

コーチマン・グルーム(七巻)

ガーデナー(七巻)

執事(六巻)


第九章 誰かの始まりは、他の誰かの始まり

明日の自分(九巻)

開かれたドア(八巻)

誰かの始まりは、他の誰かの始まり(書き下ろし)

踏み出したその先(七巻)


最終章 屋根裏部屋の少女たち

ロンドンへの途上(八巻)

白い舞台(八巻)

屋根裏部屋の少女たち(八巻)


エピローグ

百年前(書き下ろし)

まえがき(『誰かの始まりは、他の誰かの始まり』より転載)

【はじめに】

 本書は同人誌『ヴィクトリア朝の暮らし』シリーズに掲載してきた短編集から構成する「短編集・総集編」となります。

 同人誌『ヴィクトリア朝の暮らし』シリーズは二〇〇一年から二〇〇九年までに刊行され、創作と資料の二部構成をしていました。

 「小説パート」では十九世紀の英国ヴィクトリア朝的雰囲気を伝え、「資料パート」は参考文献に基づき当時の家事使用人事情を解説するものでした。

 この小説部分の総集編が、本書です。

 元々、屋敷を舞台とした作品を書くための資料収集の一環として、同人で資料本を作成し続けてきました。講談社から資料本の集大成として『英国メイドの世界』を刊行したことで、資料制作に一区切り付きました。そこで、今回はもうひとつの原点である「創作」に立ち返りました。



 講談社版『英国メイドの世界』を刊行してから、いくつか心残りがありました。
ひとつは「メイドの主たる雇用主だった下層中流階級のメイド事情」と「二十世紀という百年の間にあったメイドを巡る環境の変化」、そして「貴族の衰退の理由」を書ききれなかったことです。

 この「宿題」は、二〇一一年夏に刊行した同人誌『英国メイドがいた時代』で実現しました。

 もうひとつは、短編集の存在が宙に浮いていたので、まとめたかったことです。
同人誌『ヴィクトリア朝の暮らし』シリーズ自体は、二〇〇八年に同人誌『英国メイドの世界 ヴィクトリア朝の暮らし総集編』(以下、総集編)とし、大幅改訂して刊行しました。

 ところが、この総集編に入らなかった短編が存在しました。さらに、この総集編自体、絶版になりました。資料パートは講談社『英国メイドの世界』刊行で今も読める環境にありますが、総集編に収蔵した「小説パート」が宙に浮いていたのです。

 そこで、もうひとつの同人活動たる「創作」の総括として、新作を書き足した「短編集・総集編」が生まれました。



 短編をまとめることで、作品間の繋がりが明確になり、単体で読んだ時より印象が強くなりました。また、読み返してみると、書いたタイミングによって「メイド研究の視点」の変化も出ています。

 当初の作品は「公爵家の次期後継者を軸に、メイドの世界を眺める」視点でした。それが研究活動の広がりに伴い、「屋敷で働く・転職する家事使用人像」へと展開し、主人・使用人の上下関係から、「使用人同士」というフラットな観点に変わったのです。

 その意味でこの短編集・総集編は、二〇〇一年から二〇一一年までの十年間に及ぶ、私の家事使用人イメージを映したものです。

 お楽しみいただければ、幸いです。


既刊の紹介・振り返り

同人誌既刊

2001〜2006年までの同人誌紹介:メイドさんを追いかけた六年〜同人誌で振り返る(2006/12/28)

2007〜2009年までの同人誌紹介:2007〜2009年の新刊/9年間の同人活動を振り返る(2009/12/28)



2010年は夏コミの新刊と、出版記念コラボイベントで製作した同人誌2冊を刊行しています。



英国メイドにまつわる7つの話と展望

英国メイド好きの世界


同人誌の電子書籍

2011年07月に、『英国メイドにまつわる7つの話と展望』と『英国執事の流儀』をそれぞれパブーで公開しました。



『英国メイドにまつわる7つの話と展望』をパブーで公開・パブーの便利さは異常(2011/07/17)

執事の働き方・エピソード集『英国執事の流儀』パブーで販売開始(2011/07/20)


冬コミ新刊は『誰かの始まりは、他の誰かの始まり ヴィクトリア朝の暮らし短編集・総集編』

久しぶりの同人関連の更新です。結論から言えば、創作の作業は完了し、ページ調整とまえがき・あとがき、そして入稿の準備をするだけです。



ページ数は220ページ(約17万文字・厚さ1.4mm)と過去2番目のものとなります。総集編に次ぐものとなります。


同人誌製作の背景:今後の創作のための整合性をここで取る

この冬は「創作・短編集」の新作を作っていくつもりでしたが、いざ新作を書こうとすると過去の同人誌の中で出てきた登場人物が多く、「だったら、既刊の短編集の総集編にしよう!」と方針を決めました。



2001年から刊行した『ヴィクトリア朝の暮らし』シリーズで掲載した短編集をベースにしています。具体的には『5巻 使用人の生活風景』『6巻 使用人として、生きて』『7巻 忠実な使用人』『9巻 終わりの始まり』、『外伝1〜2巻』です。



ところが、ここでも同様の問題に直面しました。1〜4巻の短編集が無いと、分かりにくいところが出ているのです。1〜4巻は2008年に『英国メイドの世界 ヴィクトリア朝の暮らし総集編』を刊行した時に再掲しましたが、絶版となっています。その後、資料パートが2010年に独立して講談社『英国メイドの世界』となりましたが、短編集は宙に浮いていました。



そこで、この機会に2001年から2009年までに刊行した短編集を、「分かりやすいグルーピング」で編集・改訂することにしました。また、最近廃刊にした8巻との融合も考えたのですが、ぺーじずうが増えすぎるのと最近まで頒布していたこと、そしてどうせならば作り直すぐらいの気持ちでないとダメだと考え、時間の都合で8巻は除外しています。



たとえば、サイラス・ブライズヘッドと言うフットマンの物語を7巻で書き、8巻で書き、9巻で書き、今回、その続編を新作で書いたのですが、7巻・9巻は絶版です。で、彼が執事になるきっかけを書いたのは8巻にあります。



同様に、8巻でメイドからハウスキーパーへ転職して新環境で働くセシリー・カヴァナンの話を書きました。しかし、彼女がどういうメイドで、どうしてハウスキーパーを目指し、どのように転職を行うかの話は、それぞれ4巻、5巻に掲載されています共に。絶版です。



こういう状況を解消するための総集編とご理解ください。



「もう絶版にしない」ようにすることを考えつつ、8巻の短編から数本、整合性の面で今回の総集編にコンバートもしています。「ある創作を読まなくても楽しめるけど、事前に読んでおいた方がいい」作品の帳尻合わせと、編集によって読む順番をコントロールして、読者の記憶に残りやすくすることを主眼にしたのが今回の方向性となります。


概要:総作品数51(短編45本、中編6本:中編の2本が書き下ろし)

・『ヴィクトリア朝の暮らし1巻』からの公爵家の物語は『英国メイドの世界』から再掲。

・各職種を解説する箇所の直前にあった小説を再掲。

・5巻登場セシリー(スティルルームメイド→ハウスキーパーへの転職物語)

・7巻登場サイラス(ボーイ→フットマン→執事への昇進物語)



これ以外に、私が存在を忘れていた短編の発掘も行いました。



新作は2本あり、それぞれ中編ぐらいの規模となっています。


目次


はじめに

プロローグ   7

 擦り切れた膝



第一章 ある公爵家の物語   9



第二章 忠実なる使用人   23

 ヴァレット/侍女/ハウスキーパー/執事



第三章 階段の途上   36

 階段の途上/公爵夫人の変わらぬ午後/執事の本分/コックの矜持/ハウスキーパーの決意/通り過ぎていく



第四章 階下の暮らし   57

 階下の暮らし/ハウスメイド/パーラーメイド/ナースメイド/ランドリーメイド



第五章 使用人として、生きて  79

 帰還/スカラリーメイド/キッチンメイド/コック/デイリーメイド/スティルルームメイド



第六章 公爵家のメイドたち  105

 ブリキのトランク/公爵と共に/最初の主人/夕暮れは明日へ/すべて初めから/いっぱいのトランク/公爵家のメイドたち



第七章 春、ひとり窓際で  145

 小さな決意/リリィ/束ね髪/在りし日の面影/冷たい頬/その、指先/春、ひとり窓際で



第八章 執事の肖像 169

 ボーイ/フットマン/ゲームキーパー/コーチマン・グルーム/ガーデナー/執事



第九章 誰かの始まりは、他の誰かの始まり  183

 明日の自分/開かれたドア/誰かの始まりは、他の誰かの始まり/踏み出したその先



最終章 屋根裏部屋の少女たち 203

 ロンドンへの途上/白い舞台/屋根裏部屋の少女たち



エピローグ 206

 百年前