ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

2011年の振り返り

振り返りを踏まえた2012年の目標・展望は明日に更新します。


足場がそれまでより不安定だった2011年

これまでの年間振り返りではほとんどプライベートのことには触れてきませんでしたが、今年は実生活の部分を抜きに振り返れないため、ある程度、私が経験してきたことについて書きます。


「出版では食えない」と分かっている中で「出版経験」を優先した2年間

2011年は毀誉褒貶あった1年でした。出版と仕事の両立が難しく、2009年に会社を辞めて2010年まで出版に専念し(途中、派遣社員での就業も行う)、2011年初頭は出版での努力が一段落したと判断し、会社生活に戻ろうと決めました。自分の実力や努力の仕方では継続的にやるのが難しく、営業能力もありません。そもそも私は会社勤めで得られる環境が好きでしたし(『エマ』10巻「アデーレの幸せ」から生きることと「仕事」の一致を振り返るにその辺は書きました)、私の力で出版で食べていくのは困難だと分かっていたので、離職する前から会社生活は前提でした。



それで出版への気持ちの区切りがついた3月ぐらいから転職活動を始めましたが、ある企業の面接へ出かけようとした一時間前に東日本大震災が発生し、それからしばらくは自分の身の回りのことで必死でした。転職に対する価値観もぶれ、気持ちに迷いが生じました。転職活動も一筋縄ではいきません。「出版を経験した2年間」は世の中的にマイナス評価されることも多く、「この出版を経験しなければ、もっと良い仕事ができたのではないか」と思うことも一度ではありませんでした。とはいえ、自分だけはこの出版を否定してはいけないと経験が生きる道を探しました。



そんな中、迷いながらも次の職場を見つけ、働きました。自分が好きな方向に近い企業で、やりがいも十分にあると思いました。しかし私がついた職種ではこれまでの経験が生きず、軸が少し離れていたり期待されていたりしたものが違って、一か月で離職しました。そこから短期の派遣を行い、やがて前職の知人の紹介で現在の職場と出会いました。そこでは、出版を含めた多様な経験を評価してもらえましたし、メイド研究を通じて続けた英語力が生きました。



現在は新環境で足元を固めつつある最中で、ようやく自分の適性についても見極めがつきました。離職した期間で失った「会社で主体的に働く感覚」もだいぶ取り戻しつつあり、現時点では他の環境でも通じるだけの自信と環境への適応能力を回復したように思えます。


今までと異なる就業環境から見えたこと

こうした点で、2011年は「同人活動を安定して行う」には、やや厳しい環境にありました。ただ、2011年の経験は私の中にある視点を変えました。



私はバイト経験もそこそこありますが、基本的に正社員での勤務が長く、出版準備のために時間の都合がつけやすい一般派遣社員のポジションを今回初めて選びました。一般派遣の方に業務指示を出し、管理した経験もありますが、その逆の立場になると、正社員との待遇の違いを多く感じました。



自分の時間の都合はつけやすく、残業もほとんどありませんでした。責任も正社員時代より軽くて精神的に楽でしたが、自分の判断だけで物事を進められない、主体的に動きにくいし期待されていない、半年働かないと有給休暇が得られない、その期間に休むと給与が出ない、給与が正社員よりも相当低く、いつ契約が切れて解雇されてもおかしくない立場にギャップを感じました。



出版との両立がしやすく時間的に都合がいい一般派遣の立場で働き続ける選択肢もありましたが、主に年収額の相違という経済的理由と有事における時間の融通具合、そして主体的に計画を立てられる立場でありたいと、私は正社員職のポジションを探して転職活動を始めました。



というものの、「勤務経歴としてブランクとみなされる『出版』の経験」は、いわゆる一般的な企業ではマイナスとされ、仮に似た年齢の人がいた場合には減点材料にもなりました。こうした経験は、育児によって勤務から離れたために、その後の就業機会の選択肢を失ってしまう女性の経験と重なりを感じました。



会社に戻る時間を最小限にするため、キャリアを維持するため、海外ではメイドの雇用も行われている、そのことに実感を持てたのもこの期間があったからですし、国の支援が乏しく、長時間労働を強いられる環境から、仕方なく家事労働者を雇用して解決策とする英国の一部で見られる動きも知りました。私の友人や親族も含めて子供がいる人も増えてきているので、「待機児童」の話は身近なものとなりました。



同時に、「就業環境の不安定さ」や「正社員は待遇が安定する代わりに長時間労働」「一般派遣社員は時間の都合は聞くけど、待遇は不安定。正社員よりも責任はないけれども、正社員と同じ労働をしても給与は安い」ことから同一労働・同一待遇との言葉を知り、同時に、そもそも正規雇用にあっても私生活を犠牲にする働き方に疑問を持ちました。仮に残業時間を相当減らせば育児に従事しやすくなる時間も出来ます。



そういったところからワークライフバランスや働き方、現代の労働環境、そしてメイドをソリューションとする現代事情に関心が向かいました。『英国メイドがいた時代』は『英国メイドの世界』と言う出版経験を積まなければ作れなかったと同時に、私自身がそれまでの職種にいただけでは得られなかった視点や感情をベースとしています。



自分を取り巻く労働環境で成立する「ルール」や「評価基準」がなぜ成立しているのか、どうしたら変えられるのか。そもそも、理想の形はどういうものなのか、との考えも生じました。相当自由度が低く、私はただ運と縁に恵まれて生き延びただけにも思えます。だからこそ、この空気のようなものを変えたいと感じています。



「働いていること」への価値観についても、「家事」についての価値観についても問い直すことは多々ありますが、その辺りはまた後日に広げます。


グローバリゼーション

2011年のメイド研究におけるテーマの一つは、グローバリゼーションでした。この視点は元々自覚していたもので、現代英国の格差を照らし、現代日本の労働環境も相対化する『英国メイドがいた時代』『英国メイドがいた時代』が繋がっていくテーマの補足に記してきました。



身近なところで、私が英会話学校で出会ったフィリピンの先生との会話も、グローバリゼーションへの関心を強めました。(メイドの可能性を広げて「接点」を響かせる参照)。さながら大企業と中小企業で給与のベースや福利厚生が違うように、さながら正社員と一般派遣社員と言う境遇で給与に差があるように、生まれる国や環境が違うだけでも通貨価値は異なります。日本で稼いだ給与を現地での教育機会改善に使うという先生の活動に感銘を受けましたし、この構造が持続しえる理由にも興味を持ちました。



社会全体で幅広くメイド雇用が成立するには、低賃金で働く人々が必要で、その状況は低賃金でも働かざるを得ないためにその環境を受け入れる人々が多数いることを前提とします。日本や現在の先進国では産業構造が変化し、経済発展による中産階級の増加に伴ってある程度格差は縮小し、メイド雇用を前提とする社会は崩れていきましたが、日本でも格差が広がり、教育の機会や就業の機会にも格差が見られ始めています。



こうした「グローバリゼーション」は私が派遣で出向いた企業に外資系があったことも影響しています。私のメイド研究のテーマに「グローバリゼーション」があるが故に、私はなおのこと、一度は外資系企業の当事者として現在の状況を経験したい、梅田望夫さん的に言えば「見晴らしのいい場所」に立ちたいとも思いました。長期的に、何ができるかを考えるためにです。


2011年の出来事

こうした背景で私の同人活動は続いていました。ここ数年は35年間の人生で、大きな転換期にありましたと、例年にないほど個人的な話から始まりましたが、自分で引き起こしたものでもあるので後悔はしていませんし、機会を得るためにリスクを取っただけともいえます。また、仮にマイナスのことがあったとしても、その経験がプラスになるように、今後を生きていくつもりです。



というところで、2011年にあった研究軸の出来事です。


1. 同人誌の電子書籍化推進

2010年10月にテストとしてDLSiteで『英国メイドにまつわる7つの話と展望』の公開を行いました。



私はこれまでに何度か同人誌を含めて電子書籍関連のテキストを書きましたが、私は電子書籍へ特に過剰な期待を抱くこともなく、私個人で大きく動かせることもないと思うので、今時点では考察や整理を含めて大きく時間を割くつもりはありません。私以上に真剣にかつ詳しく考察されている方々を見つけられた、というのも理由にはなります。



あと、次のようなモデルも考えていたのを思い出しました。










2. 『英国メイドの世界』1周年&第四刷刊行

『英国メイドの世界』は絶版になることもなく、『英国メイドの世界』刊行から1周年を振り返るに書いたように、1年間を無事に迎えることが出来ました。



一部のリアル書店でも店頭に並んでいる様子は確認できましたし、少なくともネット上で見える範囲(主にAmazonランキング)では、私の本より後で刊行された英国メイド関連本と同じか、時にはそれ以上の順位でコンスタントに推移しています。



英国メイド関連本が出た時に書店で一緒に並べて売ってもらえるポジションとしてウェブのように認識されていないように思えるのは残念ですが、著者が努力し続けることで自分の本の寿命を延ばし、埋没することなく生き続けた結果として、新しい読者の方々とも出会う機会を得るという結果を出せています。これは、当初思い描いた通りにできたことです。


3. 同人誌『英国メイドがいた時代』&『誰かの始まりは、他の誰かの始まり』刊行

2008年に刊行した『英国メイドの世界』は私の人生を変えました。その余波が大きすぎたために、その後の同人活動にも影響を与えました。『英国メイドの世界』に続く時代として『英国メイドがいた時代』を作り、同人版『英国メイドの時代』が絶版して生まれた講談社版に掲載されなかった短編集を再生する『誰かの始まりは、他の誰かの始まり』を刊行しました。



この点で、ようやく2008年からの様々な流れを、自分なりに昇華出来ました。同人振り返りの中では「原点回帰」と書いてきてもいますが、もはや何年原点回帰しているのだという話でもあり、そろそろ『英国メイドの世界』から子離れして、自分の世界を広げようとも思います。


4. 水樹奈々さんのラジオ番組に出演

これは出版にまつわる最大の事件のひとつ、というものでした。



FM-TOKYO『水樹奈々のMの世界』のメイド対談を振り返ってにて振り返りましたが、正直、素人の自分がラジオに出演しても失敗することは目に見えていました。それでも、出ていかねばらない「機」だと強く感じました。



「誰に依頼されることもなく、ただ好きを貫いて本を出版する」経験をした上に、「水樹奈々さんにお会いできる」機会を得るというのは、通常起こりえない人生です。さらに「英国メイド研究者がゲストとしてラジオに呼ばれる」と言う事象は、メイド界隈にとって興味深い事例になるのではなると。



私は「好きなことを続ける」ことを大切にしていますし、そういう自由さが尊重される社会であって欲しいと思っています。だからこそ、自分の活動を知ってもらう機会や人との出会いは大切にしますし、その経験が広がる機会を逃したくありませんでした。



これが「大きな一歩」となるよう、今後も機会を作れるよう努力します。


5. 「なぜ今の時代、『英国メイド』なのか」の答えを出す

最後は、文中で少しだけ触れた東日本大震災です。



私が震災後にできたことは献血、募金、津波に遭った宮城県でのボランティア活動(清掃活動)と短期的で限られたものでしたが、震災の直後、歴史を学ぶ立場として出来ることに記したように、自身の専門領域の知識や視点を提供されている方々の活動を知り、自分にも出来ることを広げたいと考えました。



そもそも現代にあって、「ただメイドが好きだから」と言う理由だけで自分がメイドの研究をしていても、社会から遊離しているようでもありますし、同時代性を欠くように思えました。私はそれを本業として食べる立場ではなく、組織に属して働く境遇にあります。その「私」がなぜ研究するのかは常に自問自答しています。



そこで、私は現代人が興味を持つような転職やキャリアアップを軸としたコンテクストを作ったり、現代の労働環境を相対化する視点としたり、更には現代に続く雇用を通じて育児環境や社会福祉にもテーマを広げたりしたつもりです。



そしてこの震災に際して私が感じたのは、「今のままの経済発展、豊かな暮らしは続かない」との想いでした。『英国メイドの世界』で「コンテンツとしてまとまった本文から若干乖離したことで没にしたあとがき」があります。そこに、私の2010年時点の気持ちがありましたので、掲載します。




○2・家事使用人/家事手伝いの歴史が伝えること
 近世を起点とした家事使用人の歴史の帰結を追いかけた本章では、家事使用人の時代の終わりを扱ったその先で、いつのまにか現代へと繋がりました。執事やメイドの姿は歴史の表舞台から消えましたが、誰かが家事を担う役割自体は残り、将来に渡って続きます。
家事使用人という一つの職業集団が生まれ、最盛期を迎えて、衰退する。この歴史や職業が直面した構造的問題は、多くの示唆に富んでいます。



■1・家事を巡る消費の側面と同時代性

 イギリスでは、消費が数多く生まれました。家庭で担った生産は商品革命の進化で外部に委ねられ、新しい製品が家に入り込んできた結果として家事の手間が増え、その解決策として使用人は消費されました。メイドがいなければ、家事は大変な作業でした。
たとえばクルマは今の私たちの暮らしに欠かせない重要な存在ですが、クルマを使った生活自体は新しいものです。メイドを前提とした暮らしは供給不足で変化を余儀なくされましたが、私たちが当たり前に思う「今の社会の便利な何か」は将来、環境や資源の問題で姿を消すかもしれません。生活様式の変更を迫る「使用人問題」は、決して私たちにとって他人事ではないものです。



 家事使用人職が衰退した一方、家事手伝いの仕事はイギリスでリバイバルし、時間をお金で買う形での消費を生み出しています。そして日本国外では、今も家事を手伝うメイドは同時代的存在であり続け、都市部を中心に発展したラテンアメリカや中国などでは、メイドとして働く人々が増加しました。たとえば香港では国内で完結せず、海外からメイドを雇用しています。



 高齢化社会の日本では介護領域で求人がありながら国内で需要を満たせず、海外からの人員受け入れが進んでいます。歴史は繰り返さないとしても、似た構造は出現しています。



■2・物の見方や価値観の基盤

 古代ローマユリウス・カエサルは『人は見たい現実を見る』と言いました。この言葉は「人は見たい価値観で物を見る」と言い換えられるでしょう。使用人問題は、使用人を必要とする生活や、使用人を見る価値観の変化を雇用主に迫るものでした。



 心理学者Violet Firthは使用人問題解決のためにプロパガンダの重要性を訴えました。使用人への偏見、使用人を必要とする生活の歴史は短いものに過ぎないとして、その見方を捨てれば問題は解決すると彼女は主張しました。



 物を見る価値観の影響は、使用人の歴史につきまといます。



 「働くことは神聖」とする考え方や「家庭は神聖」とした価値観は産業革命期のイギリスで普及し、ヴィクトリア朝以降に強い影響力を及ぼしました。「男性が働き、女性は家で有閑化する」ことを尊重した環境では中流階級の女性の就業が好まれませんでしたが、女性の社会進出が進み、使用人雇用が難しくなると、価値観は変容しました。



 何かの価値観が社会で支持されるには理由があるからで、環境が変われば「それまでの伝統」は変化します。それを再確認することは歴史を学ぶ立場として有益で、過去の影響を受けて構築された現代を見る視点として役立ちます。



■3・ある社会で人が「働く」ことへの問いかけ

 使用人が働いた環境は、ある一時代の人の働き方を照らす良質の題材です。使用人問題は、人が働く上で問題となる労働条件を明確にしつつ、政府報告書で答えが見えながら解決されなかったことで、雇用主と被雇用者を巡る労働問題の根深さを物語ります。



 現代の日本人はメイドの問題を、過去の問題とはできません。一例として、労働時間の法的上限を定めた国際労働機関ILOの条約(8時間労働制:第1号や第8号など)を日本は批准していません。日本の労働基準法の法定労働時間は、労使協定(36協定)で上限を引き上げられます。運用や給与や環境で同一でないにせよ、過労死は問題化していますし、労働時間の実質的に上限が無いことは過去のメイドと似た境遇にある姿を示しています。



 もちろん、「働くこと」で見えてくるのはマイナスだけではありません。



 求人広告や人材バンクがあった求人市場は現代的ですし、スキルを磨き、キャリアを重ねるような、人が生きるために働く中で感じる悩みは時代を超えます。



 限られた環境で自分の仕事に責任を持ち、主体的に働いた使用人たちの声や、仕事に生きがいを見出した人たち、戦略的にキャリアを築き上げていった使用人たちの生き方は、社会で働いた「先輩」として、働く自分を見直すヒントがあふれています。



 19世紀初頭のある執事は自分が得た職務経験から、若い男性使用人のために『The footman's directory and butler's rememberancer』という書籍を刊行しました。そこには使用人としての仕事の技術だけではなく、「働く上で、同僚とうまくやる方法」や「執事になった時に大切なこと」まで掲載されていて、ビジネス本に類似した鋭い洞察や、誰かの役に立つために自分の知識を伝える想いが込められています。





私がこの当時想定していたのは、「そのうち、クルマ社会が無くなるのではないか」とのものでした。今、そうした仮定を聞いても「ありえない」と思ったり、「そこで生じる不便さはどうするのか」との反論も出てきたりするでしょう。しかし、過去にあって「メイド・家事使用人」は一部の人々にとって、クルマと似た存在でした。その雇用が難しくなって雇えなくなった場合に、人々の意識は切り替わりました。



「具体的に生活を変える」というのがどういうことか、その経験は過去の歴史の中に見出すことができます。震災の余波による原子力災害にあって、原子力発電が供給してきた「電気」とどう向き合うのかも、「寸断されたインフラ」や「計画停電」によって身近なものとなってきました。この方面の情報収集や学習を適切に行えていないので今時点で私に回答はありませんが、「現代の当り前は、過去にあって当たり前ではない」ということへの自覚や、なぜ自分がそう思うのか根拠を探すこと、そして「好きなようにルールは変えられる」との気持ちが強まりました。



私が尊敬する、1920年代の家事使用人問題の研究者Violet Firthは、こうも言いました。




『生活の一部を変えたら、結局すべてが変わります。(中略)思い込みを捨てることです。生活様式は変えられます。調査の証言者は遅い時間の夕食は必須といいました。しかし、歴史を学べば遅い時間の夕食は最近の習慣で、それゆえ英国人種は遥か昔から、必要性なしで存在していた。使用人問題の議論すべてで、人々は私たちの社会習慣が自然界の法則のように、変更できないと見なすけれども、新しい習慣に適応できなければ人類は絶滅していた。事実として、それらは単なる「習慣」の過ぎません』
(『THE PSYCOLOGY OF THE SERVANT PROBLEM』P.89)

今日は振り返りまで

というところで、これらを踏まえて2012年の目標を書きます。


番外編

2009年時点の目標の達成具合

2009年12月の同人誌『英国メイドの世界ができるまで』に書いた今後の進捗と展望のレビューです。意外とがんばっていますし、時間が経過する中で初期とは異なった形で実現に近づけている物もあります。



活動領域 項目 詳細 結果 結果の詳細・変更点
同人活動 1. 完結編『使用人の世界の終わり』 『英国メイドの世界』で扱えない領域を書く。 達成 『英国メイドがいた時代』の刊行を行う
2. 『総集編2』について 5〜7巻で描きだした「日常生活」の総集編。 目標変更 『図説英国メイドの日常』が出ているのでよいのでは?

短編集の総集編は、2011年冬に達成。
3. 完結編以降について ・貴族の領地や屋敷での話。

・創作の賞への応募。

・創作の資料を提供する立場

33%達成 『英国メイドの世界』が創作の資料になるのは達成。
【同人以外の活動・出版】 1. 『英国メイドの世界』出版 必ず刊行する。 達成 2011年11月11日に講談社から。
2. プロモーション案の検討 しっかりと読者の方々に届くように努力する。 達成 ・第四版までを実現。

・アクションは『英国メイドの世界』刊行から1周年を振り返るに記す。
3. 『英国執事の流儀』の出版 出版する。 目標変更 ・特にアクションせず。

・別の出版企画を優先中。
【同人以外の活動・インフラ作り】 1. 資料本ネットワーク構想 資料本を有する作家・創作者で資料館を作る。 部分的に達成・継続進行中 ・蔵書の公開はスポットでシャッツキステとのイベントで行う。

・定常的に公開可能な場の確保は某所で進行中。

・他の作家の方を巻き込むのはまだ。
2. 論文/賞的なもの 読みたい・研究して欲しい領域のテキストに賞金を出す。 未達成 ・『英国メイドの世界』が爆発的に売れたら、と思っていました。

・資金の目途は無いので、今年中に運営スタイルを設計予定。
3. メイド研究資料のウェブ公開 Google Booksで未公開で著作権切れ資料のウェブ公開(翻訳含む)。 未達成 ・優先順位的に何もアクションせず。

・いつ行うかは、また別途検討課題。主に時間。
4. 留学と英国滞在 研究したいので。 未達成 ・それだけのお金がないです。

外資系企業に転職したので英語力を伸ばし、英国で仕事する可能性を模索。
5. 論文を書く 研究したい領域があるので。 未達成 ・今のところ、未定です。

2010年時点の目標の達成具合

2010年を振り返る&2011年への抱負もついでにレビューします。



活動領域 項目 詳細 結果 結果の詳細・変更点
【「メイド」の概念を広げる】 メイドの概念を分類・世に伝える 「日本のメイド」「英国メイド」「現代の家事労働者」の3軸を理論化して示す。 途上 ・現代をテーマとする『英国メイドがいた時代』を刊行。

・研究自体は着手。
【同人誌】 1. 同人誌『階下で出会った人々』を刊行 実在する家事使用人の人名・エピソードガイド。 未達成 ・どうしようか考え中。
・代わりに『誰かの始まりは、他の誰かの始まり』を刊行
2. 同人誌『英国メイドがいた時代の終わり』を刊行 20世紀全体でメイド雇用衰退の経緯を描く。 達成 ・タイトルは『英国メイドがいた時代』に変更。
【個人の目標】 1. 小説を書く ・英国メイド関連の物語を描き、多様性を伝える。
・賞に応募する。

・短編小説サイトをWrodPressに移行する
33%達成 ・物語は2年ぶりに書けた。冬コミ新刊で整理・作成。

・応募作は未定。

・移行作業もまだ。
2. 活動スポンサーを見つける(非メイド関連事業) メイドコンテンツホルダー以外で研究を支援してくれるスポンサーを見つける。 未達成 ・何も働きかけをしていません。

・これも2012年中にプランのみは立てます。
3. 他メディアへの展開 旅行業界や転職業界、IT業界など。 未達成 ・メディアでの取り上げはほとんどないですね。ラジオ出演ぐらい?

・とりあえず、仕事・キャリアネタで売り込みに行きましょうか。
【勉強について】 1. イギリス屋敷への橋頭堡を築くく イギリス屋敷関連のコミュニティーに入る。見つけてもらう。 未達成 何もしていないですね、はい。
2. 英語力(TOEFL)を高める:点数を決めて 留学に必要なレベルに到達する。 未達成 2011年は時間が作れませんでしたが、今年はSkypeでの英会話レッスンを始めたり、英会話コミュニティなどに入ったりする予定です。
3. 留学する 研究したいですね、現地で。 未達成 2009年振り返りに記したとおりです。

2010年を振り返る&2011年への抱負

2010年は親になった気持ちでした。



『英国メイドの世界』の同人版、続く講談社版は私にとって「娘」のようなものです。実際に親になったことはないのですが、特に今回の出版は「出産」に比喩できるほど大変で、人生を賭けました。「産む」までの時間が長く(2年)、「産んだ後の子育て」(まだ2ヶ月)もあり、人生を変えるきっかけになるイベントでした。



英国メイドの世界

英国メイドの世界





出版に至るまでの2010年は人生で最も努力し、頭を使い、考え尽くし、尋常ならざるエネルギーを注ぎ込みました。発売後も必死に動いてきたのも、「絶版」になったら二度とこのレベルの本を作れないからです。「娘」が一日でも長く生きられるように、返本や絶版で消えていかないように、多くの「まだ出会っていない、本を気に入ってくれる」人と出会って行くにはどうするか、考えました。運良く、最初のアクションでは想定以上の結果を出せたことで先に繋がり、これからの可能性を見極めていくつもりです。



出版の過程では、多くの人に出会いました。支えてもいただけましたし、祝福もいただけました。全体で見れば将来に繋がる方向を見つけた1年でもあり、強靭な足場を作る機会となりました。


5位:同人と電子書籍と商業出版〜個人が表現する場として

同人活動を通じて、私はいろいろと世界を広げてきました。まず2008年には合計で1.4トン刷った総集編のノウハウを共有したところ、思いのほか反響があり(同人誌1トンを刷った経緯と部数決定のプロセスなど)、「個人が創作を続ける理由付け」「続けるための工夫」というところに目が向きました。



そこで、同人イベントで表現活動をして着た観点で、「同人イベントの価値を見直すこと」と、昨年は盛り上がりを見せた「電子書籍と同向き合うか」をテーマにいろいろと書きました。(同人誌即売会で得られる「創作を続けやすい環境」) また、私自身、iPadを買い、Kindleをかなり使うようになり、同人誌として作った冊子のダウンロードコンテンツ販売を始めてみました。



今年は「個人が好きな創作・研究を続けてきた10年」的に、ノウハウを本(同人誌か電子書籍か)にしてみたいと思います。同人誌を作るためのノウハウ本は多いですが、サークル活動を続けるためのノウハウ本はあまり見ませんし、電子書籍による個人刊行を検討される方には、比較にもなると考えています.
さらに、個人が表現を行う環境としての関心と、個人的な趣味の問題として、2011年は早い時期に、電子書籍を巡るビジネスモデルを整理するつもりです。


4位:素晴らしい作品との出会い

2010年・日本と英国で「ヴィクトリア朝・メイド・屋敷」的な作品が豊作の年(2010/12/23)と昨年に振り返りを行いました。良い資料本も多いのですが、記憶が曖昧です。すみません。



出版で使った参考資料一覧は講談社BOX『英国メイドの世界』参考資料一覧にアップしてあります。


3位:学びの機会と現代性を得る

今年は4つ、大きな視点を得ました。



ひとつは岡田斗司夫さんの活動への興味です。オタキングex立ち上げをリアルタイムで見ましたし、語られるビジョンの視点は非常に高く、自分が問題に思うことの解決策も提示されていました。まだ自分の足元が固まっていないので参加はしていませんが、この時に、岡田さんの著書『ぼくたちの洗脳社会』で紹介されたアルビン・トフラーの『第三の波』を通じて、当時疑問に思っていた「近代の特徴・家事使用人への影響」についての考察を深める機会を得ました。



2つ目は年末に刊行された『まおゆう』を通じて、今まで読んでいなかった『銃・病原菌・鉄』や、『英国メイドの世界』執筆に関連して、近代関連の知識を網羅的に広げるきっかけのひとつにしました。『まおゆう』の行間を勝手に読んだ部分もありますが、非常に刺激的でした。(『まおゆう』刊行を記念して、振り返る「近代」関連の書籍) 作品自体、時間を忘れて読みました。



3つめは、フーコーとの考え方との出会いです。19世紀に規律重視・時間厳守・役割分担・マニュアル化が進む家事使用人の状況を見て、アルビン・トフラーの『第三の波』だけではどうも埋め切れませんでした。「その根幹は何か?」と考えていたとき、英国留学経験者の方(社会学・哲学)と出会い、フーコーの『監獄の誕生』が良いとレコメンドされました。



フーコーとの出会いは私には衝撃的でした。その上、今まで読んでいた家事使用人の本では一度もフーコーの名前を見たことがなかったのですが、昨年末に読んだある本で、初めてフーコーの名前を見ました。最高のタイミングで、繋がったと思います。彼が描き出す近代人のモデルは今後の財産になったと思いますし、この辺りの話は、『まおゆう』の登場人物「メイド姉」に繋がるかもしれません。



最後が、やはり今年お会いした別の方とのお話を通じて、「世界のメイド」への視点を広げたことです。当初は「世界のメイド服」的な意味合いでしたが、メイド事情を調べていくと、雇用に見られる構造に気づきました。また、グローバリゼーションと移民、そして資源の減少による生活の変化にどう向き合うかというところが、20世紀前半の英国メイド事情とも重なり、私がこれまで扱ってきた事象が現代性を帯びているのを確認できました。(2010年『ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん』アクセスランキング・ベスト10の1位に記載)



こうした問題意識は、私が尊敬する川北稔先生の著書とも重なり、『イギリス近代史講義』〜現代を照らす一冊(2010/12/15)に記しました。


2位:『英国メイドの世界』の出版

冒頭に書いたとおりです。生きていて良かったと思えること、自分にしか出来ないことをひとつ、実現できました。それまでに費やした時間と努力と不安とは書き尽せるものでは有りませんが、本を書き上げるプロセスで成長できたことは財産になりました。最初に同人誌を作った2001年には、出版を思い描いていませんでした。ただ2008年に同人誌『英国メイドの世界』を作った時に、「出版したい」気持ちが高まりました。続けていなければ、辿り付けませんでした。



梅田望夫さんは、「一つのコミュニティが発展するには、そのコミュニティに没入している人間が必要」という趣旨の話をされていました。まだ没入するレベルには到達できていませんが、この領域において、しっかり向き合いたいと思います。何よりも、私が同人活動を始めるよりも前、同人に始まって10年以上続いた「メイドの歴史研究」というジャンルが、ようやく「同人出身者」によって出版にこぎつけ、その価値を世に届けられる場に立てたことを私は誇りに思います。



この本は決して一人の力によるものではありません。出版社から出ることで同人誌はどう変わったか?と記しましたように、出版社、編集者の力があってこそ実現できました。そして、本を出版社から出すことの大きさも感じました。だからこそ、啓文堂書店三鷹店様いくつかの書店でPOPで応援をしていただけたことには深く感謝しております。書店での売り上げに貢献できるよう、適切な意味での話題性を今後も作っていくつもりです。


1位:人との出会い

今回、『英国メイドの世界』刊行を1位にしませんでした。本を刊行できたことはとても嬉しかったですが、それ以上に大きかったのは多くの方々にお会いできたことです。今まで同人イベントで応援してくださった読者の方々に恩返しでき、アキバBlog様で2008年に同人版が取り上げられた際に興味を持ちながら買えなかった方々にも本書を届けられ、そして新しい読者の方々に出会えました。ご購入いただいた皆様には御礼申し上げます。



出版後も、それまでに縁があった方に報告した時にお祝いをいただきました。作品を作るプロや同人の方々の手にも本書は渡っており、新しい創作の基盤として使ってもらえるかもしれません。同人版でも「参考にした」というお話をうかがったことはありますが、今回はより多く作品が生まれることを願っています。少し意味合いは違いますが、星海社・最前線『非実在推理少女あ〜や』のメイド喫茶モデルがシャッツキステで言及したように、マンガの中で『英国メイドの世界』もデビューさせてもらいました。



そして、秋葉原メイド喫茶シャッツキステと出版記念コラボイベントを取り組めたことも、「娘」という本にとって最高の社交界デビューといえる出来事でした。メイドさんのいる図書館に蔵書を展示し、19世紀の料理メニューを提供し、一緒に同人誌を作り、さらには読者の方向けの「夜話部」という、フルコースなイベントでした。(シャッツキステとの出版記念コラボイベント・無事終了



今回の出版を通じて、私が今ここにいるのは、日本で断続的に生じたメイドブームがあったことを再確認しました。また、「私が応援したい」と思う方々に何を出来るのかを考えさせられましたし、今後もより問いかけられるでしょう。



最後に、同人誌『英国メイドの世界』自体が、その刊行によって「出版」という機会をいろいろと開いてくれました。講談社BOX版『英国メイドの世界』を通じて活動の幅を広げていき、自分にしか出来ないことを求めつつ、出版を支援してくださった方々や読者の皆様に価値を返していくつもりです。



本年もよろしくお願いいたします。


2011年の抱負

「メイド」の概念を広げる

今年の目標は、「コスプレとしてのメイド」の概念が世間的に広がりすぎているように思えるので、相対化できるように努めます。繰り返しですが、メイドに興味が無い人は主体的に情報収集せず、メディアやネットメディアで取り上げられる「(『電車男』に出るようなイベント型)メイド喫茶の一面」を報道で知ります。



入ってくる情報はそれしかないので、「それがすべて」と受け止めます。自分が詳しくない・関心がない領域なので、それ以外があるとは考えませんし、知ろうとも思わないでしょう。それが普通ですし、私も詳しくない領域では同じです。同人誌、というのもそうでしょうね。エロ同人が多いのは確かですが、それだけではありません。二次創作が多いのも確かですが、それだけではありません。男性よりも女性の参加者が多いといわれているのもご存知でしょうか?



私は「メイド」という言葉にまつわり想起される概念を、今年はより拡張したいと思います。「これが正しい」というつもりはありません。すべては同一に存在可能であり、その共存の幅広さこそが魅力でもあります。



そこで今まであまりメイドに興味を持たなかった人たちに本書や私なりの伝え方でアプローチし、消極的な判断基準として受け入れられる今のメイド・イメージに、「英国のメイド」という要素で入り込むつもりです。また、その先として、「日本で成立したメイド」と、「過去の歴史に存在したメイド」、そして「海外で働く現代のメイド」の3つを相対化し、比較し、「メイド」にまつわる概念を現代的な要素と歴史的な要素と文化的な要素で繋げたいと思っています。



歴史を学ぶ立場から言えば、日本のメイドは特異です。どの辺りが特異なのかも含め、去年は日本のメイドブーム関連の整理も始めました。この特異性がなぜ成立しえたのか、海外では成立しなかったのかを考察するのが今年の目標です。


同人誌

2冊、刊行する予定です。どちらも電子書籍版を作るつもりです。


  • 『階下で出会った人々』
  • 『英国メイドがいた時代の終わり』



前者は、同人版『英国メイドの世界』で意外とニーズがあった、実在・非実在の家事使用人の人名録・エピソード集です。これは鋭意製作中で、2011年5月コミティアに間に合えば用意します。



後者は講談社版『英国メイドの世界』で十分に扱いきれなかった、メイドオブオールワークを軸とした20世紀前半のメイド事情です。なぜ衰退したのか、どのように衰退したのか、というのを扱います。原稿はかなり終わっていますが、もう少し調整が必要で、これも2011年5月コミティアか、遅くとも夏コミを目処に刊行します。


個人の目標
  • 小説を書く

本を作ってみて感じたのは、情報を伝えるには「物語」が適しているということです。昨年出版を報告した際にお会いした別々の知人2人に、同じことを言われました。資料本を作ることで他の方に物語を作ってもらいたいと思っていますが、自分でも動きます。



あと、短編小説のサイトが孤立しているので、WordPressのサイトに移行します。


  • 活動スポンサーを見つける(非メイド関連事業)

今までメイドとの接点があるとは思っていない領域に価値を返せないか、その価値を出す自分へのスポンサーを見つけ、より活動に専念する時間を確保したいという趣旨のものです。具体的には旅行業界か、労働関連なのかなぁと思っています。メイド関連事情に近すぎると分析しにくく、また発言の中立性が失われるので、その領域には今後も「個人の範囲の応援」に留めたいと思います。



私がメイドを「見つけた」というより、今は私がメイドに「見つけられた」感じがするぐらいに、様々なテーマが繋がって生き方に影響を及ぼしています。子育てのつもりで多く時間を割く必要がありますし、今後も時間を割いていく比率を上げたいので、その足場としての経済力(=時間の融通)を、なんとか今年中に高めたいと思います。



ただ、今までの経験上、「お金のためだけ」にメイド関連で何かをするのは向いていませんので、自分が好きで楽しめる範囲の中で追求するつもりです。


  • 出版関連で何か作りたい

「個人による創作表現」を好み、またその表現が集まる「場」が好きなので、そうした一連の活動を応援するノウハウ本的なものを出版したいと思います。また、『英国メイドの世界』の要望として聞いた、写真に特化した本(私としては屋敷の地図も含めて)の企画を立てられないか、検討します。今の本で結果が出せたらという話ですが。


  • 他メディアへの展開

「メイドが好きな人向け」のメディアではなく、たとえば旅行業界や転職業界、あるいは同人と創作をベースに電子書籍の話を関連させてITニュース系など、私が持つ接点を拡張する意味で、いろいろなメディアで「これまでの活動・知見」を展開していく場が得られればいいなぁと思っています。これは営業努力が必要ですし、まだ早いかもしれませんので、書くだけに留めておきます。クラスタを超えないと届かないところに届ける、というのが私のテーマです。そういう意味で、今年は「エヴァンジェリスト」を名乗るべきかもしれません。


勉強について
  • イギリス屋敷への橋頭堡を築く

去年の抱負として掲げましたが、出版まで旅行には行かないと決めていたので、叶いませんでした。本体的にはイギリス貴族の日常生活を追いかける活動に戻りたいのですが、まだメイドの足場が築けていないので、もう少しだけ行います。その後、屋敷や領地経営、領地に住まう人々のコミュニティなど、私が大好きな「屋敷の暮らし」を研究できるようなポジションになりたいと思います。


  • 英語力(TOEFL)を高める:点数を決めて

英書は読みまくりましたが、基礎的なところを怠っているので、もうちょっと考え直します。


  • 留学する

留学したいです。が、お金の問題も有りますし、今年についてはまだ日本で出来ることが多いです。


まとめ

・「メイドの概念」を広げる。「情報の相対化」と「受容者の拡大」の2点。
・Stay hungry, stay foolish.
・勉強する。

[おまけ]2010年の抱負を振り返る

本を出版する&プロセスを楽しみ、読者の方に出会う

・実現。
・プロセスも十分に楽しむ。

本の反響の結果を、いろいろと広げていく

・反響がそれほど見えていないのと、まだ広げ切れていない。
・私の本を参考資料の一つとして、創作が広がることを願う。

メイド研究同人活動の区切りとして、20世紀の使用人事情を扱う

・扱えなかったものもありつつ、資料と視点は強固に出来ました。

イギリス屋敷への橋頭堡を築く

・まだ。先が見えず。

英語力(TOEFL)を高める

・まだ。単語の勉強のみ。それも中途半端。

小説を書く

・まだ。

2010年『ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん』アクセスランキング・ベスト10

2010年の上位記事を掘り起こします。


ベスト10

1位:メイドブームの終焉は「衰退」か、「定着」か(2010/08/28)

私のメイドへの興味・入口は、『名探偵ポワロ』に出るような屋敷を舞台にした創作をしたいという動機でした。大学の頃から創作をしていて、卒業してからそう思い立ち、この時代の貴族の生活を調べようと思ったら、とにかく資料が足りませんでした。屋敷と料理を軸にしてヴィクトリア朝や家事使用人に辿りつき、メイドや執事の面白さに目覚めたのが2000年ぐらい、2001年に同人誌を作り、2010年に『英国メイドの世界』を書きあげるにいたったわけですが、本来的に次は貴族の日常生活に行きたいのです。



ところが、『英国メイドの世界』では盛り込めませんでしたが、20世紀前半のメイド事情を追求していくと、まだ扱わなければならない領域にぶつかるのです。確かにメイドがいた時代は終わりましたが、英国では今、家事労働者の需要が激増しており、ヴィクトリア朝以上といわれる状況です。そして、世界中の国々ではメイドの雇用が続き、英国で生じたメイド雇用が時間差こそあれ、生じているわけです。英国の現状と、世界の国の雇用の類似と違いは何かを考えるため、今は海外のメイド事情も調べています。



海外のメイドを学ぶことで英国のメイド雇用を相対化しつつ(メイド雇用は経済発展の過渡期的職業という観点)、同時に、英国のメイド雇用に伴う問題を知ればこそ、海外のメイド雇用事情でまったく同じ労働環境、労働問題が生じていることに気づかされもします。こうして相対化をする中で、「では、日本のメイドは?」と振り返ると、かつて日本ではメイドを雇用していて、英国や現代同様、労働問題が生じました。しかし、「現在のメイドブーム」は、この文脈から切り離されています。日本では一度、メイド雇用が社会的に広がる事象が終わっています。



英国でも、一度は終わっていたものが、復活していますので、この差は何だろうと思うと出てくるのが、サッチャー政権による金融ビッグバンに見られる規制緩和や福祉削減、そして女性の社会進出です。日本は小泉政権サッチャー政権に類似した政策)を経て、児童手当(英国で執り行われている)も含めて、近似した構造に置かれており、現代を知る意味でも、メイドを学ぶということを行っています。



長くなりましたが、メイドの相対化の観点で、日本のメイドを扱いつつあるということで。


2位:出版化時にこだわった「読みやすさ」と「分かりやすさ」(2010/12/07)

1位が長すぎたので、2位は適当に書きたいところですが、「同人版と出版版は、どうちがうの?」というFAQに対しての回答と、どうして出版化を目指したかを再確認する意味で書きました。意外と出版関係の方の興味を引いたようなのと、自分が電子書籍関連の言説で注目しているお二方に、早期にはてぶをいただけたことは嬉しかったです。



また、こういう伝え方をすることで、本にも興味を持ってもらえるということが参考になりました。



なにはともあれ、良い編集者と出版社に出会えて、感謝です。


3位:『英国メイドの世界』で描けること・描きたいこと(2010/10/11)

これはある意味、失敗作です。自分が伝えたいことを盛り込み過ぎて、あんまり読まれない、購買意欲を起こさせないというナビゲーションページになってしまいました。全部読むぐらいに興味があれば、買っていますよね。



いざ自分の本となると、感想を書くのが難しいので、他の方による感想がウェブに上がるのを待っていますが、長すぎてまだ読み終わっていない説が濃厚です。



AMAZONのレビューを最初に投稿いただいた方には同人時代の来歴までご紹介していただき援護射撃を受け、2つ目のレビューを書いて下さった方には他の本と比較した上での感想をいただけて、ご両名には深く感謝しております。


4位:都の表現規制(非実在青少年)、9月審議は延期、12月再提出(2010/09/09)

12月に可決してしまいましたが、あらためて思うのは、「届かない人に伝える難しさ」です。私の友人たちは報道によって、それも可決して初めてこの条例を知っているようでした。また、規制の危うさに気付いたのは少数で、詳しくない領域には「そうか」と、新聞が伝える事象だけで判断してしまいがちです。



思うことを、それに興味がない人に、どう届けるか。



というところを試行錯誤中です。


5位:同人誌1トンを刷った経緯と部数決定のプロセス(2009/08/29)

去年のエントリですが、いまだに注目を集めています。以前も少し書いたのですが、「同人誌の作り方」を教えてくれる本はあっても、「同人活動を続けるための運営方法」については、数字が絡むこともあると思いますが、あまり見たことがありません。「本を読んでもらう工夫」についてはウェブに上がっていますが、来年はこの辺りの「好きな趣味を続くように続けるためのノウハウ」的なコンテンツを作ってみたいです。


6位:『ウェブで学ぶ』から思うこと(2010/11/05)

梅田望夫さんの新作で、いろいろと研究プロセスの変化を思い出しながら、書きました。佐々木俊尚さんに取り上げていただけたので、異なるクラスタに届いたのではないかと思います。


7位:宮崎駿監督アニメの服装とメイド服イメージについて(2010/10/09)

これは絶対あると思うんですよね。来年、アンケートを取ってみたいところです。とはいえ、ブームの初期を1996年とすれば、既に14年経過しています。「入り方」も多様化しており、その辺りは今度、調べたいです。調べたいことばっかりです。


8位:『英国メイドの世界』はメイド界の「高速道路」を目指す(2010/11/02)

インフラを作るという野心表明です。森薫先生が『マナーハウス』の発売に寄せて、「『マナーハウス』と『ヴィクトリアン・サーヴァント』があればメイド創作できる」といった趣旨の言葉を残されましたが、あれから現時点までで、メイド創作が増えた印象がありません。



その理由について、「ヴィクトリア朝シャーロキアンに代表されるように、考証に詳しすぎる人が多くて、書きにくいのではないか」説や、「『ヴィクトリアン・サーヴァント』は学術書であり、メイドに高い関心を持っていないと読めないのではないか」説を持っていますが、『英国メイドの世界』を出す際はこの「壁」を意識し、「読みやすく、分かりやすく、切り口を変える」ことを徹底しました。



ヴィクトリア朝を創作の舞台にするには本書だけでは無理なので、やはり勉強が求められますが、少なくとも「屋敷を運営するスタッフというシステム」を理解してもらえれば、他の時代や創作にも用いることができると考えたので、その辺りを「高速道路」として伝えることや、「何をしていたのか」を詰めました。



端的にいえば、19世紀の屋敷のミステリを書いて、「犯人が地下に隠れる」ことは難しいと思います。地下は使用人の職場ですから。そこで、使用人のスケジュールやどんな部屋があるかを知っておけば、より詳細なシナリオが組み立てられます。という意味での、「システム」でもあります。


9位:補足・メイドブームの断続性と連続性を考える(2010/09/11)

これも冒頭1位の続きです。個人的には、「成年向けPCゲーム」(第一次)、「コスプレ」(第二次)、「喫茶化・メイド喫茶的独自展開の深化(御主人様、萌え萌えなど)」(第三次)、「秋葉原電車男・流行語対象・『エマ』アニメ化」(第四次・ブームのピーク)、「創作=アニメや小説などでのメイド喫茶・メイド服(+アキバ)イメージ再生産(『会長はメイド様!』『涼宮ハルヒの憂鬱』『らき☆すた』など)」(第五次)、と分類しています。



根拠はこれから詰めますが、「ひとつひとつのブームは断続」「外から見るメイドブームは連続」という意味合いを持っています。


10位:コミケのサークル視点の注意事項:搬入・搬出(2006/08/05)

毎回、恒例です。


番外編:上位に入って欲しかったもの

同人誌即売会で得られる「創作を続けやすい環境」(2010/04/17)

これは電子書籍との比較や、「いかにして個人が趣味で創作を行い、続けられるか」という個人テーマの追求であり、「自分を育ててくれた同人という場」を分かりやすく人に伝え、またそこに新しい人が入る際の参考になればというために書いたものです。


『とめはねっ!』で可視化される「縁」〜河合克敏先生の諸作品の魅力(2010/11/07)

普段のテーマと違っているかもしれませんが、私の中では「繋がる」がキーワードなので、河合先生の話の面白さは何だろうと思った時、ここに気づきました。私自身、自分で活動を広げることを意識してから相当な「縁」に恵まれているように思えるのと、「別々のものが、繋がっていくことが物語」という意味を、理解できつつあると思います。



スティーブ・ジョブスの話や、『Under the Rose』の作中エピソード「共通点」も、参考になっています。そういう点では、創作に対する視点も変わってきましたし、今の自分の人生がどういう点と結びついているのかに目を向けることが楽しくなっています。


2010年・日本と英国で「ヴィクトリア朝・メイド・屋敷」的な作品が豊作の年

今年は出版準備でかなり時間を費やし、入手した資料は大きく偏りが見られますが、その中でもこの界隈では記録に残りそうな作品が生まれているように感じられ、来年に向けた明るい希望を感じます。順位をつけるというより、テーマごとに区切ってみます。



基本的には本ブログで扱ってきたものを中心にしていますが、結論としては、「豊作」「完成度が高い作品が多い」印象です。何よりも、今日、このように振り返るまで、気づきませんでした。



尚、英国の作品が日本に入るまでのタイムラグや、日本の作品でも初出時期と、私が接する時期とに差があるので、正確には「私が接した2010年の作品が豊作」という意味合いになります。



後半はさらにメイドに偏っていますが、ご容赦を。


目次

  • [小説]「館」と「第二次大戦以前のメイド」の物語
  • [映画/ドラマ/映像]前半は日本での19世紀やヴィクトリア朝映画攻勢・後半はやや失速
  • [映画/ドラマ/映像]イギリスのドラマ・映像は最盛期では?
  • [日本のメイド]「日本のメイド」表現は「完成期」か?
  • 終わりに〜質的に高い作品が数多い時期:最後の輝きか、次への始まりか


[小説]「館」と「第二次大戦以前のメイド」の物語

今年の始めは森薫先生推薦の『リヴァトン館』の感想を書きました。実際の刊行は2009年10月です。『リヴァトン館』は英国で屋敷の華やかさと贅沢さが最盛期を迎えていた第一次世界大戦前と、衰退の兆しが目立ち始めた第一次大戦後の時代を、メイドとして屋敷に勤めた少女の眼差しで描きました。(感想:『リヴァトン館』:2010/01/10)



『エアーズ家の没落』も忘れられません。私の大好きな作家で、ヴィクトリア朝レズビアンを題材としてきたサラ・ウォーターズの最新作です。舞台は第二次世界大戦後の館ということで、『リヴァトン館』とは比較にならないほど、館を所有するエアーズ家の経済力は衰退しており、その克明な死にゆく地主層の描写は特筆に値しますし、私には屋敷が「バケモノ」に見えました。(感想:『エアーズ家の没落』:2010/10/09)



英国モノは私の中ではこの2つが巨大すぎます。一方、今年は日本からも「戦前のメイド」という新しいジャンルが話題となりました。直木賞受賞作『小さいおうち』は豊かさがあった昭和前期を舞台に、中流階級の家庭に住み込みで女中奉公をしていた少女タキの目で見た世界を、人間関係を、色鮮やかに描き出しました。日本人ならではのメイド・イメージを確立しており、私の中では今年出会った最高レベルのメイドです。(『小さいおうち』:2010/12/20)


[映画/ドラマ/映像]前半は日本での19世紀やヴィクトリア朝映画攻勢・後半はやや失速

映像や映画では、2009年の年末12/26から『ヴィクトリア女王 世紀の愛』が公開され、そこから前半では『シャーロック・ホームズ』(ワーナーブラザーズ版映画公式サイト・主演ロバート・ダウニー・Jr)と、狼男の圧倒的な暴力性を描いた『ウルフマン』、そして19世紀前半の詩人ジョン・キーツとブローン家長女ファニーとの恋物語『ブライト・スター』(映画公式)と続きました。



19世紀的な作品が出ているのは個人的に嬉しい傾向です。上記、すべて見ているのですが、『シャーロック・ホームズ』と『ブライト・スター』は感想をまだ書いていません。


[映画/ドラマ/映像]イギリスのドラマ・映像は最盛期では?

一方、イギリスのDVDに目を向けていると、今年は信じられないほどに豊作でした。まず、私が大好きな作家オスカー・ワイルド『Dorian Gray』(『ドリアン・グレイの肖像』)(2010/02/02)、これは新しい解釈を盛り込んで賛否もあるかと思いますが、ドリアン・グレイの退廃ぶりが際立った印象を残しました。



『Lark Rise to Candleford』(リンク先は第一期感想)も、第三期がDVD化されました。さらにヴィクトリア朝の農場での生活を描いた『Victorian Farm』(2009/03/07)に連なる系譜として、『Victorian Pharmacy』『Edwardian Farm』(2010/08/21)などの映像化も行われています。



そして真打が、『Donwton Abbey』です。『Downton Abbey』は「屋敷と使用人」の史上最高レベルの映像作品(2010/12/02)と感想を書きましたが、このレベルの「屋敷で働く家事使用人」を描いた作品は、私はほとんど見たことがありません。『日の名残り』とも、『ゴスフォード・パーク』とも違いますし、ドキュメンタリー『マナーハウス』に匹敵しつつも、ドラマだけあってその壮麗さは凌駕しています。ただ、「屋敷・家事使用人マニア」にとって最高の映画であって、一般受けするかは分かりません。



私個人としては、『名探偵ポワロ』の「オリエント急行殺人事件」の映像化が巨大なニュースでした。今年は自分にとって大豊作の予感(2010/05/31)で制作の話を記しましたが、アガサ・クリスティの「ポワロ」シリーズの作品すべてで「ポワロ」を一人の役者が演じきったことは、まだありません。そもそも、すべてが映像化されているわけでもありません。







最後に、未視聴で制作決定を知ったものとして、1970年代の伝説的ドラマ『Upstairs Donwstairs』の新シリーズ放映のニュースです。今見たところ、2010/12/26〜28の間に、BBC OneとBBC HDで放映されるとのことです。



BBC公式:『Upstairs DONWSTAIRS』



イギリスのこの手の映像がNHK・地上波で放映されると相当インパクトが違うのですが、一応、NHKも「ヴィクトリア朝」には無関心ではないようで、『ビクトリアン・ファーム』が放送されています。『高慢と偏見』『シャーロック・ホームズの冒険』『名探偵ポワロ』『小公子』などが、地上波で放映された時代の再開を願います。それだけのコンテンツは豊富に揃っています。民業圧迫で難しいかもしれませんが……


[日本のメイド]「日本のメイド」表現は「完成期」か?

日本のメイド系(定義が難しいので、目を閉じてイメージしてみてください)では、私の関心領域が基本的に狭いのですが、メイドにかかわるアニメでは、コミックス原作の『会長はメイド様!』と『それでも町は廻っている』が放送されました。前者はメイド喫茶を舞台にしたもの、後者はメイド服を着た喫茶店で日常系な作品で、どちらも面白い作品でした。



会長はメイド様! (1) (花とゆめCOMICS (2986))

会長はメイド様! (1) (花とゆめCOMICS (2986))



それでも町は廻っている 1 (ヤングキングコミックス)

それでも町は廻っている 1 (ヤングキングコミックス)





その中で、「メイド喫茶」ではなく、日本的な創作表現で磨かれてきた「メイド」表現は完成しつつあるのではないかと、感じました。ネットで話題となり、年末に刊行が決まったウェブ小説『まおゆう』で描かれるメイドは、集大成といえるかもしれない要素が詰め込まれているからです。



魔王と勇者の物語から受け取ったもの(2010/05/17)と『まおゆう』刊行を記念して、振り返る「近代」関連の書籍(2010/12/04)に書きましたが、ある種、『ドラクエ』における「魔王」「勇者」と同様に、役柄として「メイド長」や「メイド」が描かれているのは、現代日本ならではです。



うみねこのなく頃に』も、今の時代を代表する「屋敷ミステリ+家事使用人としてのメイド+主人」を描いた作品です。今年の年末のコミケでついに完結しますが、講談社BOXでの小説版、アニメの放送など、メディアミックスもされており、大きな影響力があるコンテンツといえるかもしれません。



メイド表現の系譜・『まおゆう』の一代前としては、『うみねこのなく頃に』の著者・竜騎士07さんが『ひぐらしがなく頃に』で描いたメイドスキー・イリー(入江医師)は欠かせませんし、『ひぐらし』から『うみねこ』における竜騎士07さん作品の中でのメイド描写の変遷も、興味深い題材です。



ひぐらし』では「コスプレ(エンジェルモート)+メイド服+日本のメイド」、『うみねこ』では「家事使用人としての伝統的メイド」になっているからです。舞台が異なっている点も大きくありますが、「日本のメイド表現」を語る上で、竜騎士07さんの作品は欠かせないのではないでしょうか? 何よりも、「使用人は家具である」との描写は、歴史的な経緯の理解無しには、なかなかできるものではありません。



そして『ひぐらし』に影響を与えた作品としてさかのぼると、奈須きのこさん・武内崇さんの同人ゲーム『月姫』かもしれません。この作品には琥珀(和メイド)・翡翠(メイド)の姉妹が屋敷に勤めていました。



直木賞で描かれた、文学界における日本的なメイド」と、「日本のオタク系コンテンツを発祥とする日本的なメイド」で大きな作品が登場する。この状況は何でしょうか。そうした日本独自のメイド発展の流れを考えると、そこで育まれた私が講談社から刊行した『英国メイドの世界』が「去年」ではなく、「今年」に間に合ったのは印象的です。



ただ、本来は触れるべき日本のコンテンツ「ラノベ」は私の観測範囲外で、またコミックスの方もフォローし切れていませんので、誰かにこの辺を包括的に分析していただきたく。メイドの話に終始してしまいましたが、『黒執事』もアニメ第二期が放映されていますし、もう広すぎて個人では不可能です。







英国メイドの世界

英国メイドの世界




終わりに〜質的に高い作品が数多い時期:最後の輝きか、次への始まりか

年明けにまた振り返るかもしれませんが、今年は「最盛期」といえるほどに、大きな作品と出会えたように思えます。



私の中での映像1位は、『Donwton Abbey』です。2004年に『MANOR HOUSE』を取り上げて以来となる素晴らしい屋敷作品です。「描かれたメイド」としては、『小さいおうち』のタキを取り上げます。彼女は日本人が思い描く理想系として、語り継がれるのではないでしょうか。



オタク的な意味での「メイド的な心地よさ」(分かりにくいかもしれませんが、分かる人は分かってください)は『まおゆう』ですが、無料・ウェブから有料・紙に移行する際、どの程度変化するのか、興味があります。そして今年のコミケで完結する『うみねこがなく頃に』が、どう展開するのか。



最後に、『英国メイドの世界』の発売日が、「第一次世界大戦の終戦日」と、同じく同人でメイドを研究されている墨東公安委員会様からご指摘を受けたことが面白かったので、ここで触れます。



第一次世界大戦ヴィクトリア朝期に成立した上流階級の華やかな暮らしと、家事使用人の最盛期を終わらせました。講談社からの『英国メイドの世界』出版は、日本で展開したメイド表現について、どのような位置づけなのでしょうか。「(ブームから定着への)始まりの終わり」か、「(衰退に向けての)終わりの始まり」か。



また、墨東公安委員会様は次のように指摘されます。




大雑把に言えば、現在ブームとしての「メイド」は終焉を迎えており、創作物の範囲では「メイド」であること自体に重点的価値を置いたような作品はあんまりない代わり、作品中のキャラクターの「属性」としては定着したのではないかと思います(というほど漫画とかアニメとか見てはいませんが)。



「久我真樹『英国メイドの世界』発売を祝し11月11日付けで一筆」より引用


私も実はそれほど漫画やアニメ(そしてラノベ)を追いかけておらず、今回もメイドと屋敷モノ、19世紀英国クラシカルな作品などをごちゃ混ぜに扱ってしまったので相当な偏りがありますが、上記の2分類を踏まえて、もう少し時間が経過してから、あるいは他の方の寄り広範な視点で振り返る「2010年の諸作品」は、どのように位置づけられるのかを知りたいと思います。



何はともあれ、個人的にはいい作品に多く出会えた一年でした。



来年はどんな作品と出会えるのでしょうか?



そして、どんな作品が広く受け入れられていくのでしょうか?


2009年を振り返る&2010年へ

毎年新年は前年の振り返りを行っています。


5位:同人誌頒布累計丸8年で16冊刊行/頒布実績累計は1万部を突破

2001年12月の委託による初参加から、2009年12月の冬コミ参加で、サークル参加は丸8年となりました。(同人活動自体は2000年から準備を始め、落ち続けたものの、2001年に製作を開始。活動自体は2001-2009年で丸9年)



2001年初参加4部という実績から徐々に新しい出会いを経て、2009年末での頒布累計が、1万部を突破しました。これまですべてのコミケ当選(15回連続)で新刊を作る記録を維持したことが再来訪のきっかけとなったと思いますが、個人でここまで続けられたのは、感慨深いものがあります。(1度のコミケで1万部を出す超大手が、どれだけ巨大かも理解いただけるかと……)



年間平均1,250冊、1種類あたり約600冊の頒布部数は、同人・オリジナル・資料系では十分すぎる数字だと思います。



2010年は同人活動10周年目です。終わりが見えてくる時期で、個人の人生経験としては良い物を得られましたし、「非・エロ」「非・プロ」「非・二次創作」「非・マンガ表現」のジャンルでもここまでできたことで、同人ジャンルの裾野の広さを証明し、これまで先人たちが維持してきた「同人イベントという場」にひとつの色を残せたとも思います。


4位:『英国執事の流儀』を作れたこと

個人的に『英国メイドの世界』で燃え尽きた後に、高い満足度で作れたのが『英国執事の流儀』でした。あれを書くことで、まったく新しい切り口を提案し、読者の方にも「日本では読んだことがない」オリジナルな価値を提供できたと思います。



作るまでに時間はかかりましたが、「メイドや執事に興味をない人に読んでもらえるか?」というテーマ設定があり、その克服を行えた一冊なのではないかと。物を伝える視点や読者の方との接点の作り方を考え抜き、実行して、比較的受け入れていただけたようでもあり、自分の基準と読者の方との基準がずれていない、との感覚も得られました。



読者の方へ提供できた価値があったと思いつつ、あれを書くことで、執事により深い関心を自分自身が抱けましたし、良い出会いがありました。もっと多くの、イギリス執事に出会いたいです。



今後、資料を読む際に同様の視点を意識することで、その可能性は高まったと思いますし、ハウスキーパーやメイドでも同様の本を作りたいです。


3位:資料運に恵まれる

今年はとにかく、『英国メイドの世界』で足りなかったことを補うため、必死に勉強しました。「イギリス史と関連するメイドの授業ができる」ぐらいには、その歴史を自分の中に叩き込みました。



正統的なイギリス史や産業革命、商品経済や20世紀の労働問題、貴族の衰退などへの理解を深めることで、今まで接していた知識を別の角度で照らすことができましたし、メイドを軸に視点を構築できたので、「この時代、この社会でのメイドの位置づけはどうなのか?」と、相互の視点で照らしあうことが可能になりました。



使用人の歴史・佳境と、書籍として伝えることの再整理中



原書の拡充では相当良い資料の発掘に成功し、長年入手したかった資料で手に入っていないものは、あとは2冊だけです。イギリスに行かずともネットを通じて入手できる資料の多さに愕然とした一年でもありますし、今後、Google Booksを含めて、「情報を見つける能力」が、より必要になることを感じました。



多分、今回の書籍化で伝えきれるのは100のうち10〜20です。残りは形や機会を変えて、今後も書き続けようと思います。


2位:多くの方に出会う/気づきを得る/学ぶ

今年は活動をしたり見ているものを描くことで、他の方がそれをどのように受け止めているのかを可視化する機会に恵まれました。また、普通にしていたらお会いすることがない方々にもお会いする機会を得て、多くを学びました。



以下、いくつか代表的なものです。



・『英国貴族の城館』著者の田中亮三先生にお会いする

英会話学校終了。語ること、伝えることの楽しさと難しさを学ぶ

大学時代の友人と10年ぶりに再会/香港への赴任&英語とメイドの話を聞く

・日本ヴィクトリア朝文化研究学会でお話を伺う&来年の定期刊行物への寄稿が決まる

・『英国メイドの世界』をシャッツキステ

同人誌を1トン刷る/印刷所を活用した同人活動を書き、反響にて関心の高さを知る

メイドや執事の労働環境と、階級の違いによる差異を書き、労働問題との関連の強さを学ぶ

・出版の編集・校正作業を通じての欠点の自覚と、足りない視点の学び

森薫先生のサイン会に行く。



他にもいろいろとありますので、書ける時期が来たら書きます。


1位:『英国メイドの世界』出版決定と作業の本格化

今年の年始に「2008年」を振り返ったときの1位なので、本来的には1位ではないのですが、とにかくこの作業に時間を費やしました。費やした上で終わっていませんが、原稿はほぼ完了しており、これより形を整えて磨きをかける段階です。



「現時点の自分が持てる最高を出しつくす」スタンスは同人誌でも商業でも関係がなく、「同人誌と同じ内容を、商業で出す」レベルを超え、「ただ今の自分で作れる最高の資料本」を目指しました。



内容の判断は出版後にお読みいただくしかありませんが、バランスを整えつつ、曖昧性を排除し、理解できるベースをしっかり構築した上で建てているので、以前よりバランスがよく、理解しやすい内容になったと思います。



「個人のコレクション」から「公開する博物館」へ



プロモーション活動の提案を主体的に行い、「どうしたら自分の本に接点を持ってくれる読者にであるか」も考えていますし、準備をしています。同人経験から、本を作ることは終わりではなく、始まりに過ぎないと考えています。イベントのスペースで待っていても、人が通らなければ本は評価されません。過剰に本が作られて返本されていく現状では、筆者として最大限の努力をする、少なくとも「誰に読んで欲しいのか」を考えて、届けていく工夫は必要に思えるので、やっていきます。



講談社BOXから『英国メイドの世界』を来年春予定で出版します



ここも含めて、今は楽しんでいます。



年賀状をいただきました。実感が湧いてきます。






総括:色の深みを増した1年

今年の年初、友人から「輝きの強さを増すのではなく、色を増やす方が良いよ」とアドバイスを貰いました。久我は一極集中、目的を追求すると他が見えにくくなるタイプで、時に排他性が強くなるのを心配してくれてのものです。ひとつのことに集中して輝きを強めていくと、燃え尽きてしまう可能性がありました。



それは多分、自分にずっと付きまとう課題だと、この言葉に出会ったときに感じました。実際に今年一年、周期的に自分の作業に没頭したくて殻に閉じこもり、メンタル的に追い詰められたことがあります。自ら、繋がりを絶っていく、周囲の色を減らすことで、より輝きを強めるような。



しかし、結果として輝きの強さを増すのではなく、同じ色のまま深さを増せた1年とできたように思えます。趣味に特化した方向ではありましたが、今年は本当に多くの出会いがありました。それだけ、過去も含めて、少なからず動き回っていたことが今、いくつか形を結び始めています。



それに限らず、出会った人から、自分に関心を持つ他の方の話を何度か聞くことがありました。今年以降はそうした方たちと直接出会えるのではないか、そう思えるのです。組み合わさったら面白いものを作りたいです。


今年の抱負

・本を出版する&プロセスを楽しみ、読者の方に出会う

・本の反響の結果を、いろいろと広げていく

・メイド研究同人活動の区切りとして、20世紀の使用人事情を扱う

・イギリス屋敷への橋頭堡を築く

・英語力(TOEFL)を高める

・小説を書く



今年も、よろしくお願いいたします。


2008年ニュース・自分の身に起こったこと

自分の身に起こったことです。主に同人関係、英国関係に限定して


6位:Uk-JAPAN公式ブロガーになるもあまり書けず

『UK-JAPAN2008』という日英修好通商条約調印150周年を記念した日本とイギリスの友好イベント・ネット版に参加していました。いろいろと有益な情報もありましたし、そこそこ楽しめましたが、プッシュされてくる情報には問題がありました。



ほとんどが音楽関連のプロモーションイベントでした。なので関心が無く(関心があってもBEATLESQUEENJUDAS PRIESTぐらい)、スルーしました。映画や美術もそこそこありましたが、後半は音楽ばかりで、予算が大きい(お金がある)ところがどの業界なのか、が明確になってしまったのではないかと。



企画趣旨としては、「既に知れ渡っている英国のクラシカルな方面」ではなく、「今進行形の現代文化」に光を当てたかった、というところでしょうか? 英国への観光を促したり、かつて触れたであろう文学や映画を通じて再び興味を持たせるような設計はされていませんでした。



今年一年で終わるにしても、もう少し、バランスのいいイベント告知・ネタ投下をした方がいいと思いますし、今後、その辺りで足りていない旅行・英国体験系は、屋敷ネタを通じてフォローできると面白いかもしれません。



ビジネスっぽい話になりましたが、そこそこ楽しめました。



UK-JAPAN2008関連での日記


5位:コミティアP&Rに2回掲載で目標の一つを叶える

同人イベントのコミティアでは、サークルリストのパンフレットに、同人誌をレビューする「P&R」と言うページがあります。ここに掲載されると集客動員力が大きく変化し、それまで出会ったことが無い読者に出会える、一種のオーソリティメディアです。



実力が無ければ掲載されませんし、掲載されているところで気になるところの本を買いにいって、そのレコメンドの精度を感じたことは一度でもありません。



同人活動において、ここに掲載されるのがひとつの目標でした。



2008年は幸いにも、二度掲載と言う結果になりました。自分で作った本ながら、掲載されるレベルに達している確信はありました。ただ、見つけてもらえるかはわかりませんでした。それを見つけてもらえて、嬉しいです。



自分がいいと思ったものが、第三者的に見てもいいと評価されたことは、自分がそれほどずれていないとの感覚にも繋がりました。この後、もう掲載されるような本は作れないかもしれませんが、いい思い出になりました。



『ティアズマガジン』84/P&Rに『MAID HACKS』が掲載(2008/04/20)

『ティアズマガジン』86/P&Rに『英国メイドの世界』が掲載(2008/09/18)


4位:同人イベント3連続参加で、繋がりの中で生かされている事を知る

総集編作業に拍車をかける為、自分を追い込む為、今年の4月末〜5月初頭の連休期間中、3つの同人イベントに参加すると言う無茶をしました。助けてくれた友人の力があっての無謀でしたが、結果として総集編を生み出す力になりました。



初回のイベントのテンションは低めですが、徐々に高くなっていき、最後は偶然の出会いに救われました。



『COMIC1☆2』「か12a」で参加してきました(2008/04/27)

『帝國メイド倶楽部九』参加&「原点回帰」の1日(2008/05/03)

コミティア84終了・偶然の出会いに囲まれて生きている(2008/05/05)



しっかりと後日談もあります。去年(といっても2日前)の冬コミでは『帝國メイド倶楽部九』で久我にエネルギーを下さった方にご来訪いただき、総集編をお渡し出来ました。こういうエネルギーのキャッチボール、面白いですね。素敵な笑顔でした。



そしてコミティアでお会いした先輩も、今回の冬コミで来訪して下さいました。サークル名を「QR」しか覚えていなかったと言う先輩、こちらに向かう途上で久我の同人誌を持っている人がいたらしく、そこで「SPQR」の文字を思い出したとのこと。途中でそういうことが無ければ、お会いできなかったも知れません。



再会することで、『英国メイドの世界』を受け取っていただきましたし、先輩もサークル活動を続けておられているのを知りました。卒業して、ジャンルは違えども、十年を経てサークル参加・同じ視点で繋がりを持てていることに、不思議な縁を感じます。



とりあえず、イベントに出ると「新刊ありますか?」と聞かれるので、作りたくなりますね。作らなくてはいけない、作らないと駄目なんだと追い込まれもしますが、いいエネルギーをもらえるのも確かです。



このイベント3つが終わった後の清々しいまでに追い詰められた感じは、二度と体験したくありませんが(笑)


3位:英会話教室に通い始める&自分を知る学びのとき

続かなかった英会話教室。意外と、最初の頃は楽しく通うことが出来ていました。既に過去形ですが、三度目の正直ならず、というところです。一定の成果があったものの、時間管理が下手で、優先順位付けが難しく、現時点では通えていません。



どうにも、同人活動の作業時間のバランスで、優先できません。とはいえ、もうひとつのボイトレは続いているので、多分、今のような様々な題材を扱い、興味関心の異なりすぎるメンバーとの勉強ではなく、自分が研究したり、好きな英国文学的な部分を話せたりする環境に留学なり、勉強なり出来る方が自分には向いていると思います。



英語を学ぶことが独立したツールとして成立しておらず、目的に沿った形での勉強で無いといけないのかもしれません。言い訳ですね、はい。



ただ、気づき自体は多く貰いました。以前、進級テストで「My Life」を語れと言われました。シンプルに生まれ育った環境を語ればいい物を、複雑に「自身の生きる意味」と解釈し、語れませんでした。



昇級したものの……(2008/04/03)



日記に書きませんでしたが、人生を語れないことが悔しかったので、その後、一生懸命考え、英語で伝えられるように準備をして、別の教師ではありましたが、機会を設けて話をしました。



最初の頃こそ、相手をした講師からは「君が思うように、そんなに難しい試験ではなく、どこで育った、どういう部活動をしていたか、なんかでいいんだよ」と言われましたが、生きる意味について、どういうところに意味を感じるかについて語り始めると、彼の態度が変わりました。



普段は陽気に見えた彼が、自身の人生を、今働いている意味を、話し始めました。プライベートな話なので詳細は記しませんが、普段とは行かないまでも、ある程度、こういう話をしたいなぁとおもっていたので、非常に刺激を受けました。



いつか、彼には自分の本を渡すつもりです。そういう話もしました。生徒にもきっとそういうふうに語り合える人もいるのでしょうが、なかなか機会を作るのと自分から心を開いて行くのは難しいですね。ただ、そういう話を出来たことを彼が喜んでくれているのが、印象的でした。普段、そういう部分は見たことがありませんでしたから。



そんなこんなで自分の生き方を考えていくと、久我は人の人生に影響を与えたいし、影響を受けたいし、相互に影響し合えることで生きていたいのだと思います。久我がかつて「あぁ、こういう本を作っていいんだ」と同人ジャンルで見た本に影響を受けたように、久我の同人活動を見て、「あぁ、こういうことが出来るんだ・やってみよう」という人がいれば、それは楽しさになります。



勿論、何かをすると決めるのは、その人の意思です。運命を決めた出来事や出会いは無く、あくまでもそのきっかけを自分で育て、守り、人生を意思で変えていくだけです。他者には人の人生を変えることは出来ません。



しかし、道筋が他にあることを身を以って示すことは出来ます。去年、そして今年と二名をボイトレに誘い、その両名ともが形は違えど、その環境を楽しみ、自身の人生に織り込み始めています。



彼らの生き方に多少の関与を出来たと思えますし、彼らが選んだその選択が久我の人生にも影響を及ぼしています。彼らが動いてくれたこと、動いた結果を楽しんでいることが、久我には嬉しいですし、そういう生き方をしたいとの想いを強めました。



この連鎖は同人活動でも共通していますし、創作だけではなく、自分個人の行き方、仕事としても貫きたい部分です。



これが3位でいいのか迷いますし、英会話学校に顔を出せていないので反省が多いですが、レッスンで対話した講師に語ったこと自体は今も実践しており、その点ではスキルではなく、人間力を高める方向での意識は出来ていると思います。



ただ、別の意味で自分の欠点にも気づきました。「真面目は肝要だが、真面目過ぎるとは不寛容に繋がる」との日記で書きましたが、久我の趣味は基本的にストイックになっています。求めすぎています。



ボイトレもリラックスではなく、ビジネススキルの訓練の先、表現技術を高めて他の世界を学ぶ機会であり、歌と言う表現手法をもっと磨きたい意志があります。最高の表現者である先生と一緒に声を重ねる時間などは、幸せを感じます。



逆に、英会話教室はそのレベルにまで集中できず、であればこそ不完全な自分が許せず、参加しなくなるのでしょう。訓練する時間を取ればいいものを、他に費やしています。今年、一発目は英語でいろんなところにメールを書いて、読書感想文を送ってみることにします。


2位:『英国メイドの世界』刊行・生きていた意味をひとつ残す

ひとつのものを形にする、形にならないものは誰にも伝わりません。形になっても伝わらなければ、存在しないも同じです。過去に書いたテキストを再整理しつつ、大幅に補っていく作業は、「伝えたいことを、読者に、伝える」ように最も心を配りました。



1月ぐらいから準備を始め、長期休暇と土日の多くを費やして、実質的な作業時間は推定50日以上だと思います。勿論、八年間の活動を通じて費やしてきた時間が無ければ何も出来ませんので、数千時間は使いました。



自分の力だけでは出来ないことに挑むのも今回の課題でした。どれだけの読者に伝わったかわかりませんが、今回参加いただいた方々の中は同人メイドジャンルにおいて、素晴らしい作品を作って来られた方たちです。



自分が出来ないことは、人の力を借りる。全部自分で出来れば理想ですが、人生は限られています。自分で出来ないこと、自分では思いつかない視点を借りられること、それが共同作業の面白さです。



今回、十人もの方にご協力をいただけました。八年前にサークル活動を始めた時には依頼しても、断られたでしょう。一緒にこうした方々と「演奏する場」を作れたことも、非常に大きな意味を持ちます。



これまでに自分がこの活動で費やしてきた時間、その成果としての『英国メイドの世界』は多くの方に受け入れられ、同人誌として祝福された生を迎えました。わずか三ヶ月で同人誌が完売するとは、予想もしていませんでした。



同人誌は、生きてきた証、自分にとっては本当に娘のようなものです。これだけの想いを込めて、ひとつの本を作ったことはありませんし、これだけ難易度の高いプロセスを実現できた自分にも、驚いています。製作の過程自体も大きな経験であり、未体験のことを多く通過しました。そして、二度と同じ失敗をしたくはありません。



この本は、パスポートにもなります。この本を通じて多くの人に出会いましたし、これから多くの体験をさせてくれるでしょう。2009年は、この本と、これまでの同人活動のすべてを結実させ、人がやってこなかった領域へ進みたいと思います。


1位:今年のどこかで書きます

機会が来たら書きます。勿体つけているかもしれませんが、1位は2位以上の出来事です。ただ、それはこれからの努力次第で結果が大きく変わってくるので、結果を出した時点で書きます。



というところで、本年もよろしくお願いいたします。



2009年の展望は明日に更新します。


これまでの振り返り

2007年

2007年を振り返る

ジーブス、全然盛り上がりませんでしたね。


2006年

2006年冬コミ感想

この年は振り返っていませんでした。


2005年

2005年を振り返る

随分前に感じます。

2004年

2004年の重大ニュース

ちゃんとやってました。読み直していたら、さらっと活動開始から2004年までの累計頒布部数が書いてありました。6種類・2400冊(1種類平均400冊)、年平均600冊、です。とのことです。



折角なので、直近数字を書きます。2001〜2008年の累計実績は14種類・8500冊(1種類平均600冊)となります。何気なく、年平均1000冊まで成長しているので、この辺りで今年はコラム的なものを書きます。


2003年

2003年コミケ・旧サイトの日記

『エマ』がいちばんコアな層で盛り上がっていた頃ですね。「クラシカルメイド」と言う砂漠に降った雨の如く。


2002年

2002年コミケ・旧サイトの日記

コミケ・サークル初参加後の日記ですね。初々しい。まだ二十代でした。


2001年

2001年コミケ・旧サイトの日記



日記をつけ始めた頃のものです。実質的に2000年から活動していましたが、それほどの熱の入れようではなく、2001年冬に向けて本格稼動し、「コミケに当選していないのに」100冊、刷ってしまったのが懐かしい思い出です。



初年度の結果は4冊頒布、でした。


2008年ニュース・メイド編

今年は自分自身の資料収集に集中しすぎていて、あまり外部に目を向けることはかないませんでした。大きなニュースは幾つかありますが、逆に普通のニュースが無かったかなぁというのが本音です。


5位:『Times』のアーカイブ公開

英国の過去の新聞のアーカイブが公開されました。当時の使用人事情を知る意味でも最高の資料です。



但し、今現在は有料化してしまいました。年間$129.95必要です。一日分や一ヶ月での料金プランもあるので必要になったら利用しようと思います。



ヴィクトリア朝の英国の求人情報まで閲覧可能(2008/06/26日記)


4位:『ラークライズ』刊行&BBC『Lark Rise to Candleford』

英国の古典的な書物で、帯によれば「イギリスで高校生の必読書とされ」と書かれた作品です。1880年代の英国を生きた作家フローラ・トンプソンが描き出すのどかな田園風景と、田舎の素朴な暮らしは英国田園マニアには最高の資料です。



村からメイドとして勤めに出る娘たちの解説で、一章を使っています。資料本『ヴィクトリアン・サーヴァント』でも幾つか引用されているぐらいに、英国に根ざした作品だと言えます。



その小説をドラマ化したのが、BBC『Lark Rise to Candleford』です。映像美を楽しみたい方にはこちらがオススメです。



一九世紀イギリスの田園風景を描いた『ラークライズ』(2008/09/19日記)

DVD『Lark Rise to Candleford』第1話(2008/04/12日記)

DVD『Lark Rise to Candleford』第2話(2008/04/17日記)


3位:使用人資料本の充実

今年は使用人の手記を買いあさりました。



その中で素晴らしい価値を持つ本を幾つか発掘できました。『What the Butler Saw』と、『THE GREEN BAIZE DOOR』です。



P.G.WODEHOUSE推薦の資料本と英国王室に使えた執事の本(2008/02/14日記)



前者は読み進めていくと、実は『ヴィクトリアン・サーヴァント』の様々な視点の引用元になっていることがわかりました。独自のエピソードが多く、ジーブスの筆者であるウッドハウスも賞賛したというのも頷ける「総合的」資料本です。



後者はエドワード八世やエリザベス王女に仕えた最高峰の執事です。他にも二〇世紀前半を執事として生きた人の手記や、屋敷に勤めたハウスメイドの手記、さらに年末には1924年に執事が出版した本を買いました。資料充実の年でした。



さらにメイドと結婚したArthur Munbyの資料本を見つけたことが大きいです。これを題材に、同人誌の世界を広げました。



詩人?変人?だから何?(2008/11/30日記)


2位:『Honey Rose』配信&『Under the Rose』5巻

船戸明里先生の作品『Honey Rose』がネットで配信されました。メイド編にカテゴライズしていいのか難しいところですが、貴族と使用人の物語としては非常に美しい作品です。





そして同じく2008年刊行の『Under the Rose』5巻の完成度は最高です。物語として美しく、深い迷宮のような人間心理を描いています。



『Under the Rose』5巻感想「疑うこと、信じること」〜貴族とメイドの織り成す最高の世界(2008/03/24日記)


1位:『エマ』完結

『エマ』を知ったのは、2002年12月末のことです。当時も久我は英国メイドの資料を研究していたので、「クラシカルメイドを丁寧に描いた珍しい作品」として注目しました。一番面白かったのは、森薫先生自身が自分と同様に、あの時代を研究し、作品自体が変化していったことです。



知らなければ書けないことが、ちりばめられている。



その点で、あの時期、英書に目を向けて作品の幅を広げていった森薫先生には、一方的ながら「同好の士」という感慨を持っていますので、その作品の完結は寂しさもありました。



『エマ』10巻/最終巻〜完結ではなく、完成(2008/04/25日記)



そこで描かれたアデーレの姿は、至高です。



というところで『エマ』の完結が自分にとっては最も大きなニュースでした。来年は作品が来るのか、資料が来るのかわかりませんが、自分の中では『エマ』と『Under the Rose』で固定化している現状、新規の世界に出会いたいものです。