ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。同人・出版活動の報告を含みます。

冬コミ新刊『名探偵ポワロ』が出会った「働く人たち」ガイド 上巻



26冊目の本です。冬コミコミケ93)の新刊はNHKで放送された、デビッド・スーシェ主演のドラマ『名探偵ポワロ』の同人誌になります。内容はドラマ全70話から、各話に登場する働く人たちとして、「家事使用人」(メイド、執事、庭師など)をリスト化して、個々の立ち位置や着用する制服を、イラストを交えて紹介する本です。



紹介数は「153人」以上です。



今回は「上巻」として35話分までを扱います。本来は第35話「夢」が最後の話数となりますが、代わりに第65話「オリエント急行の殺人」を盛り込みました。また、思ったよりも大きなボリュームゾーンとして、近接する領域の「喫茶店・レストラン」、「ホテル」の制服を着たスタッフも紹介しています。登場機会が多すぎたためです。



単一の作品を扱う同人誌は、サークルSPQRとしての同人活動では初めてです。




タイトル:『『名探偵ポワロ』が出会った「働く人たち」ガイド〜執事・メイドから、ホテルスタッフ、ウェイトレスまで〜上巻』

著作:久我真樹、装画/デザイン:梅野隆児(umegrafix)様

仕様:A5サイズ、132ページ

内容:解説+イラスト

サークル:SPQRコミックマーケット3日目東6ホールト16bで頒布開始

価格:1000円

Webコミケカタログ:https://webcatalog.circle.ms/Circle/11919725

委託:COMIC ZIN



ポワロの時代は1930年代のため、メイド服は日本で見慣れている「クラシックなメイド服」ではありません。そのイメージを物語る動画があるので、ご紹介しておきます。




Ideal Home Exhibition (1920-1929)






同人誌の概要を示すために、以下、同人誌本文から「はじめに」など冒頭部分を、抜粋します。

【はじめに】


 本書は2017年の冬コミの新刊です。



 日本のメイドブームを解説する『日本のメイドカルチャー史』(星海社、2017年)を刊行してから、次に作る本として選んだのはドラマ『名探偵ポワロ』(ITV、1989-2013年)です。私がメイドという職業に強い関心を持つに至ったドラマで、主演デビッド・スーシェ(吹き替えは熊倉一雄氏)は24年の長期間、ポワロを演じ続けました。私の中の「ポワロ」イメージは、デビッド・スーシェのイメージで固定しています。



 私が初めてNHKでこのドラマを見たのは、初放送となる1990年、中学生の頃でした。殺人事件を扱うミステリというジャンルに興味を持ったのも、この作品がきっかけとなりました。高校に進むと、図書館にあった早川書房アガサ・クリスティー作品を読みふけりました。



 そんな私が、ドラマで見た英国の屋敷と家事使用人の研究を行うことになったものの、実際に『名探偵ポワロ』にどれほどの使用人がいたのかを、正確に記憶していませんでした。そこで、数年前に家事使用人のリストを作ろうと思いました。



 この発想は「先行研究」の影響を受けています。同人におけるメイド研究の先駆者、サークル「制服学部メイドさん学科」の同人誌にはNHKで放映した、ジェレミー・ブレット主演のドラマ『シャーロック・ホームズの冒険』(グラナダテレビジョン、1984-1994年)のメイド登場リスト「グラナダメイドに関する小報告」(めりあだす氏)が掲載されていたからです。この報告は、作品タイトルごとに、「エプロン」「髪飾り」「関与」「備考」として出現するメイドを細かく記載した密度の濃いものでした。



 私がそのリストを初めて見たのは2002年で、「『名探偵ポワロ』でも作りたい」と思ったものの、ドラマが完結したのは2013年となり、だいぶ待つこととなりました。



 とはいえ、全70話の壁は分厚く、どうしようかと思っていた時に、服飾を大学で専攻されていた樹さん(@chez_toi)と知り合い、手伝っていただくことで情報を抽出できました。


■本書の内容:解説+イラスト

 本作品は、「数多くの家事使用人を徹底的に解説しよう」との意気込みで始まっています。しかし、これだけ数多くの人物が登場していながら、「背景としての登場=セリフがわずか」であるため、深い解説をできる登場人物が限られました。その結果、基本的には各話に登場する制服描写がメインになりました。



 この「描写」を分かりやすくするため、本書の表紙デザインとレイアウト、編集を担当してくださる梅さん(@umegrafix)のご協力で、作品に登場する制服を着た人々のイラストを掲載することと相成りました。これにより、ドラマに登場する1930年代の「メイド服」や職業服を、把握する「図鑑」のような本となっています。


■対象となる「働く人たち」

 本書では家事使用人と、彼らと同様に制服を着た人々が働く近接領域のホテルスタッフやレストラン・喫茶店の従業員を話数ごとに取り上げ、その在り方や制服の解説を行います。



 「制服を着て働く人」は、警察官や鉄道職員などにも広げられます。しかし、今回は家事使用人が私の関心領域であるため、近しいサービスを提供する職場で働く職種に限定しました。



 具体的には、家事使用人が働く「屋敷」と類似するサービスを提供する職場は「ホテル」とみなしました。屋敷で人をもてなす紅茶の時間やディナーの給仕を提供する職場としては、「喫茶店・カフェ」や「レストラン」「パブ」「バー」などを対象としました。



 加えて、メイド服とウェイトレスの制服との区別は難しく、ホテルスタッフの制服も家事使用人を想起されるものを含むため、デザイン的な親和性も加味しています。



 なお、仕える形を想起させる「秘書」と、育児を担う「ナース(乳母)」や「ナースメイド」と遠くない「看護婦」の制服も対象としました。


■「働く人リスト」の情報

 基本的には各話で区切り、登場する「腹たく人」を職種、キャラクター名、備考(主に外見年齢)から、登場順で紹介します。名称がない場合は名称を省きました。これに物語上の立場を加え、制服の構成要素を詳述しました。



 外見年齢の識別は難しいため、印象で判断しています。


■対象とする話数と作品

 時間的制約のため、今回は上巻のみを刊行します。この上巻では全70話中の半分となる35話分の解説を行います。対象は、ドラマ版の英国での放送順を参考に第1話「コックを捜せ」から第34話「エジプト墳墓のなぞ」までに加えて、本来は後半で扱う第65話「オリエント急行の殺人」をピックアップしました。



 世界的名作「オリエント急行の殺人」を加えたのは、理由があります。



 第一に本書を作ろうと思ったのは「オリエント急行の殺人」がきっかけだったからです。同作品は家事使用人が大勢出てきます。しかし、彼らが家事使用人だと語ることは作品のネタバレとなるために、今までネットでの発表の機会を持ちませんでした。同人誌ならば許されるだろうと、この機会にしっかりと言葉にしたいと考えました。



 第二に、冬コミ直前の12月にはケネス・ブラナー監督・主演の映画『オリエント急行殺人事件』の公開もあり、比較をしたいと思いました。付け加えれば、2015年1月には三谷幸喜氏による『オリエント急行殺人事件』の地上波放送もありましたので、作品に接している方も多いことで、ネタバレ対象としました。


■留意事項

・原作小説との比較がある場合、早川書房クリスティー文庫(2003年創刊)に準拠しています。また、文中の「初めて」は、原作小説ではなく、ドラマとして初めてを意味します。原作小説とドラマの発表順は、揃っていません。



・ドラマは「ポワロ」表記ですが、クリスティー文庫では「ポアロ」表記となっています。本テキストでは、クリスティー文庫のタイトル記載を表記する場合を除き、ドラマの「ポワロ」表記に準拠します。



・ドラマの映像確認はAmazonビデオの『名探偵ポワロ』第1〜4シーズン+第6シーズンを用いています。人物表記は字幕の表記を用いています。ドラマで人物名やホテル名など固有名詞が不明だった場合は、原作小説を確認して当てはめています。



・登場するキャラクターの全リストは印刷に適さないサイズのため、ネットで公開します。

『シャーリー』2巻・11年ぶりの新刊発売と、そこから思う自分のメイド研究活動





『シャーリー』2巻が発売となりました。私は『シャーリー』2巻発売記念原画展 in シャッツキステに資料提供を行い、発売前から『シャーリー』2巻発売に関われるきっかけをいただいていたり、『シャーリー』という作品に派生して、英国メイドを巡る同人活動を思い出したりと、私にとっては「11年前の過去」と、「その11年後の未来である現在」を繋ぐものでもあり、なかなか作品だけでのコメントにはなりにくいと、いざ感想を書こうとして思う次第です。


11年前の思い出

ということで、先に11年前の思い出を書いたのが以下のテキストです。




『シャーリー』という作品の希有さ

だいたい書きたいことはTwitterかブログのライフワークという作品に接することが出来る幸せに書いてしまっているのですが、『シャーリー』は森薫さんの作品の中では異なる位置づけに思います。それは『エマ』乙嫁語り』というメインストリームとなる、「自身を高めて究極を描こうとする道」あるいは「読者と作家の対峙」を感じる作品に対して、「ただ好きなことを、自然体に好きに描く」ことが徹底して、それが世界観と作家性を素晴らしく反映しているように私には見えます。



そう言う意味では、この時代に、「英国メイド」を好きなだけ描ける立場にあること、そしてそれが商業として出せていることに、森薫さんがこれまで切り開いてきた在り方を思わずにいられません。



こうした雰囲気を同じく感じたのは、『エマ』本編完結後の外伝で、ディテールの彫り具合や視点の多様性、キャラクターの魅力をひたすら追求するスタンスは変わっていないように思いますし、11年を経て、過去の作品と比べて作家としての変わっているところ、変わらないところもあるのだと。



何よりも森薫さんの「今」を知ることが出来るのは、ここまで長い時間を経ても「単行本」として刊行した『シャーリー』なればこそでしょう。


2巻の感想

「読めば分かる!」の一言で。



私個人としては、『「あとがきちゃんちゃらマンガ」メイド漫画で今日も元気!!』での自家発電のあまりの高エネルギーっぷりに憧れ、「メイドを描かせておけばおおむね健康な森薫です!!」と言い切れる点に、「自分のここ数年の元気不足=メイドについてしっかり描いていない」からではと自覚させられる次第です。



というだけでは短いので、追記します。



英国メイド資料の現在 11年前からの飛躍的な進化

というところもありつつ、英国メイド資料について最後にふれておくと、もはや日本人が新しく「メイド」について書く必要がないところまで来ているというのが、私の偽らざる心情です。第一にほぼ網羅的な資料が出そろっていること、第二に、こちらの方が重要ですが、「英書の翻訳」が進んでいます。『ヴィクトリアン・サーヴァント』日本版が30年を経て翻訳された2005年と異なり、今や2010年代以降の研究書が翻訳されたりしています。



2010年代以降、『図説英国メイドの日常』『英国メイド マーガレットの回想』『図説英国執事』『図説メイドと執事の文化誌』『エドワーディアンズ』,そして9月に『図説英国貴族の令嬢』と精力的に刊行される村上リコさんの活躍を抜きに語れないとともに、『ダウントン・アビー』での盛り上がりを受けて、最近では『おだまり、ローズ』『使用人が見た英国の二〇世紀』なども翻訳されていることも大きな出来事です。



『おだまり、ローズ』は私が『英国メイドの世界』を書く上で最も参考にした本の一冊で、それが翻訳されて発売されることの大きさは、なかなか理解されがたいかもしれませんが、侍女という生き方について、そして大きな屋敷で働く家事使用人について、これほど素晴らしい資料はありません。



最近『おだまり、ローズ』を刊行した白水社様では書店フェアもしているようで、新井潤美先生による関連書籍紹介に『英国メイドの世界』も加えて頂けていたので、以下に。




最後に

『シャーリー』2巻発売は自分にとって得難い経験をくれています。それは、「森薫さんと、同じ場にいること」の実現です。2007年に『マナーハウス』日本語版が出たときは、副読本上で名前が同じ場に載りましたが、今回のシャッツキステとのイベントで、場を同じくすることが出来ました。












『シャーリー』2巻の感想になりませんでしたが、『シャーリー』1巻からの11年間という時間の長さと、11年後の2025年にも、このように振り返っていそうな気もしています。



何はともあれ、あの頃、メイドが好きだった人々がもう一度集まるきっかけになることを願いつつ、最高作品である『シャーリー』が、新しくメイドを好きになる人々にとって入り口となることを願って。


シャッツキステの『シャーリー』2巻発売記念・森薫先生原画展に資料展示協力

ということで、お声がけ頂き、『シャーリー』2巻発売記念・森薫先生原画展イベントに協力することと相成りました。


















森薫さんの『シャーリー』新作が『ハルタ』2014-MAYに掲載 メイドの神様が再降臨

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ということで、早速購入してきました。感想はTwitterでのつぶやきからです。



















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『ダウントン・アビー』第一話放送の感想諸々とおすすめのコスチュームドラマ等

放送当日、寝過ごして、1時間経過後の視聴でした……

放送中




ベイツとトーマスの関係性(ヴァレットとフットマン)















放送前日




昔を懐かしむ

『ダウントン・アビー』、NHK総合で5/11より午後11時から放送

2010年に紹介した『Downton Abbey』(ダウントン・アビー)は「屋敷と使用人」の史上最高レベルの映像作品(2010/12/02)
が、いよいよNHK地上波で放送です。



NHK公式サイト ダウントン・アビー 華麗なる英国貴族の館



だいたいの方向性や紹介は以前のブログに書いた通りですが、「階上」(主人たちの世界)と「階下」(使用人の世界)の登場人物がとにかく多いので、事前に予習、もしくは何度も繰り返し見ることをオススメします。



今、英国での放送が続くこの作品は第4シーズン(外伝2本でしたか)ぐらいまで進んでいます。日本では既にスター・チャネルなどで放送していますので、そちらの公式サイトで、キャラクター相関図を見られるのも良いと思います。



こうした本格的な海外ドラマがNHK地上波で放送されるのは久しぶりに思えるので、とても楽しみにしています。



今でも『名探偵ポワロ』の話をすると会社でも話が通じる人がそこそこ多いのは、NHK地上波の力で、そうしたドラマというバックグラウンドがあっての19世紀的な英米趣味(『高慢と偏見』や『シャーロック・ホームズの冒険』『大草原の小さな家』、世界名作も)は影響を受けたと思うのです。『エマ』森薫さんや『Under the Rose船戸明里さんなどの作家の方々が登場していったのも、あの時代ならではと、私は思います。



なので、『ダウントン・アビー』を見ることがクラシック的な世界の始まりとなり、自分が研究をするきっかけになった『名探偵ポワロ』ドラマのような影響を受ける人が出て欲しいなと思うとともに、この20年でだいたい「メイド知識」は書き尽くされているので、その先に通じる景色を見たいですね。



だいたいもう、私たちは日本でのメイド研究について、30年以上のときを経ています。なので、いまさら新しい知識というものはほとんど出てきません。しかし、繰り返し、基礎的な話が繰り返されます。興味がある方は、是非、「本」に接して下さい。



日本の英国メイド関連本の刊行30年史



また、『ダウントン・アビー』を見る前に読んでおきたいカントリーハウスと職場の解説(2011/08/16)にて、無償で読める情報も記してありますので、こちらもどうぞ。



何はともあれ、NHK総合という最も大きなメディアで、「英国メイド」「英国執事」「英国貴族」的な世界を一緒に楽しめる時間が、ようやく訪れたことを、感謝いたします。



The World of Downton Abbey

The World of Downton Abbey



Downton Abbey Script Book Season 1 (English Edition)

Downton Abbey Script Book Season 1 (English Edition)




私の著書の紹介

講談社より出版

英国メイドの世界

英国メイドの世界






同人誌(電子書籍かあり)

『英国メイドの世界』の続編的位置づけ・「最盛期から衰退の時代へ」

英国メイドがいた時代



英国執事の「執事としての働き方」(流儀)に光を当てた一冊

英国執事の流儀

『月夜のサアカス』の閉店と、家事使用人・ヴィクトリア朝蔵書公開終了のお知らせ(1年後の公開にて……)

※このテキストは2013年6月に書きましたが、公開したのは1年を経た今となります。



2013年05月末で秋葉原メイド喫茶となる『月夜のサアカス』が、店主はるきさんの療養のため、閉店いたしました。それに伴い、私が2012年04月より2012年04月より秋葉原のカフェ『月夜のサアカス』で蔵書を一部公開を行っていた家事使用人・ヴィクトリア朝関連の蔵書の公開を終了といたしました。



私はメイド喫茶に行ったことが無い人に比べれば相当行っている立場になりますが、実際に行っている店舗の数は少なく、また頻度も低い方です。「メイド」への関心から日本におけるメイドイメージを学ぶ意味で、「メイド喫茶」を理解しようと行動をしてきましたが、本質的に「メイド喫茶を必要としない」生活習慣は変わっていないからです。



そんな私がある程度の頻度で足を運べたのが、自分にとっては交通の便がいい秋葉原を拠点として、独自の雰囲気づくりと企画で魅了する『シャッツキステ』であり、『月夜のサアカス』でした。厳密に言えば、その当時、『月夜のサアカス』はメイド服を着た店員が「いない」お店でした。


ポイントカードが1枚貯まった初めての店

メイド喫茶ではポイントカードの導入が進んでおり、何度も通うことで特典が付くリピーター向けのサービスをしています。しかし、私は財布からポイントカードを抜く性質もあり、ポイントカードを忘れることがしばしばでした。特にポイントを貯める習性もないことから、同行した友人にポイントをつけてもらったり、そもそもあまり常連にならなかったりと、少なくともこの15年ぐらいはあらゆる業種でポイントカードを満了したことがありません。



しかし、『月夜のサアカス』は唯一、ポイントカードが1枚貯まりました。これは私にとって、このお店が特別な存在だったことの証左といえるでしょう。


常連足り得た理由=料理のおいしさと居心地の良さ

『月夜のサアカス』は料理のレベルが高く、料理とケーキが目当てに私は何度も利用しました。秋葉原に足を運ぶ理由になるレベルでした。元々が「喫茶店」を強く意識している場所で入りやすく、いわゆる「メイド服」になったのも2012年4月からで、かつ土日のみでした。それまでの制服は黒を基調とした、シンプルなデザインのドレスで、白いレースでの彩りがあったぐらいでした。



コミュニケーション型のメイド喫茶ではないので、店員が目立つことはなく、店内も静かで、禁煙で、お客さんが騒がしいことも無く、料理のおいしさとも重なって、メイド喫茶に関心を持たない友人や知人と会う時に、とても使いやすかったです。



基本、私はメイド喫茶に店員とのコミュニケーションを求めていないので、個人で行くことがほとんどないのですが、『月夜のサアカス』は上野の美術展を見た帰りに立ち寄りやすく、のんびりと寛いだり、美術展で買った図録を見たりと、ゆっくりできる場所でした。店内に置かれている少女漫画や建物の写真集なども、私の関心を広げてくれました。


『月夜のサアカス』との縁

出会ったきっかけ

私が『月夜のサアカス』と出会ったきっかけは、2010年の『英国メイドの世界』出版の頃です。私はそれまで基本的に『シャッツキステ』か『ワンダーパーラー』に興味を持つレベルでしたが、たまたまTwitterで店主のはるきさんが『英国メイドの世界』やメイドに興味を持ったきっかけについて呟き、また実際に店舗の本棚に並べて下さったのを知り、行きたいと思いました。さらにその当時フォローして下さった方が『シャッツキステ』と同じように『月夜のサアカス』を高い頻度で利用しており、気になっていました。



事前に私は『月夜のサアカス』のホームページを見ました。その印象は、今でも忘れません。メイド喫茶というと私には「男性が多く通う」イメージが強くあり、実際にその傾向が見られますが、このお店で行われるイベント情報には少女や少年、ドールやゴシック的な雰囲気のイラスト展示、さらには女学生展などが掲載されており、私の眼にはとても「少女的」な世界に見えました。



実際に足を運んでみると、店内は照明が抑えられ、落ち着いた空間でした。店内に置かれた木製の本棚や飾り棚、ドールなども空間に調和し、世界観を反映するように静かなBGMが流れ、のんびり過ごせました。何よりも、「メイド服を着た店員がいない」のが特徴的でした。



さらに、食事のおいしさは衝撃でした。ランチメニューにあった「豚の生姜焼き」のお肉がとても柔らかく、会社の近所にあったら通うレベルでした。少なくとも秋葉原に用事があれば立ち寄るようにしましたし、立ち寄ることが用事となりました。月別のメニューのバリエーションも豊富で、ケーキも素晴らしく、紅茶も楽しめました。


入口としての喫茶の雰囲気と、女性客の多さ

るきさんとも面識を得た後でうかがったのは、「平日は近所にある会社員」がランチを食べに来ているという、その敷居の低さでした。そうした人たちがランチの時に、私の本を手にすることもあるとのことでした。お店にある本を通じて、少しでも興味を持ってくれるようになる。それは私にとって素晴らしく価値があることに思えましたし、そこを自覚的に行っている『月夜のサアカス』の独自性に感銘を受けました。



友人と利用していたある時には、居合わせたお客さんが『英国メイドの世界』を手にして読んでいるのも拝見する機会を得て、嬉しかったのを覚えています。



もうひとつ『月夜のサアカス』を語る上で欠かせないのは、お店の少女的な雰囲気もあって、女性のお客さんが多かったことです。「メイド喫茶にしては多い」ではなくといえるほど相対化でいる経験は無いのですが、構成比として半々ぐらいか、だいたい女性の方がお店に多くいる印象でした。メイド喫茶=男性客が特に多いとのイメージを持っていた私には驚きでした。「女性客がいやすいお店」かどうかは、メイド喫茶を分類する指標にもなるでしょう。


『月夜のサアカス』で広げられたこと

書棚公開へ

私が『月夜のサアカス』とのかかわりを強めたのは、2011年の終わりの頃のことでした。その当時、私はメイドやヴィクトリア朝を記した本の多くが絶版状態にあり、さらにはある程度は英書に頼らざるを得ない実情を踏まえて、資料を図書館のように公開することで「メイド知識の高速道路」化をできるのではないかと考えました。そうした知識を創作者が手にすることで、もっと作品が増えることを願って。



「喫茶」という場に訪れたお客さんが、ふとしたきっかけで手にすることも、メイドについての裾野の拡大に繋がると思いました。それまでに書棚の公開は『シャッツキステ』の出版記念メイド夜話で実施しており、一定の手応えを得ていました。さらに言えば、「秋葉原メイド喫茶」と思って足を踏み入れたら、家事使用人や英国屋敷やヴィクトリア朝の本があったら驚くかもしれないとも思いました。



そうしたところ、店主のはるきさんからお声がけいただき、本棚の公開へと至りました。タイミングとして『月夜のサアカス』でも土日の営業ではメイド服を利用するとのお話があり、一緒にメイドに対する照らし方の軸を増やす取り組みとなりました。


家事使用人勉強会の始まり


4月1日から、久我真樹さんの使用人研究史料を開放するのに併せて、お店の中で定期的に開催する、使用人文化の研究会を発足させよう!という事になりました。



メイド喫茶、という名前で存在が知られて、今や漫画アニメゲーム等ポップカルチャーでは欠かせないキャラクターとなってきた「メイドさん」はじめ「家事使用人」ですが、その実実際の彼らがどういったものだったか、また、現代にかけて家事使用人という立場がどういった変遷をたどってきたか、を知る方は少ないと思います。



そういったところから家事使用人の文化に興味を持ち、1から知りたいという方、

既に個人的に研究を重ねている方、

そういった方々があつまり、家事使用人文化についてあれやこれやと語り合う、気軽でマニアックな場を作りたいと思います。

私自身、まだまだ知らないことだらけ。

色んな方のお話を聞きたい!と、思うのです。



私個人の話になりますが、日文生だった大学時代、講義よりゼミよりなにより、授業を離れ、教授の研究室で先輩後輩混ぜこぜで日本文学について語り合ったお茶の時間が、一番活発に意見交換できていたように思います。

ざっくばらんな空気の中で、誰かがふと思い出した本が、自分の研究内容の参考になったり…。

そんな場所になったらいいなと思います。



使用人文化の研究会をはじめます。(2012/03/29)の月夜のサアカスのブログより引用



勉強会自体は、私の業務状況の劇的な変化(同僚の部署移動に伴い、土日出勤も行う状況が半年以上続く)で主導的な立場で続けられなくなってしまいましたが、参加いただいた方には楽しんでいただけたようですし、継続的に続けることに向けての課題も見えました。


少女文化とメイド

私が特に『月夜のサアカス』と店主のはるきさんに学んだのは、少女文化とカフェ文化からの、メイド喫茶へと連なる道のりです。2010年に私は日本ヴィクトリア朝文化研究学会の学会誌へ、「日本におけるメイド受容とメイドの魅力」と題したコラムを寄稿しました。そこでは、メイドに関心を落ち得る人々が、必ずしもメイド喫茶のみを軸としていなかったり、メイドに興味を持つようになる入り口は多様であるとの話をしました。



こうした視点を持つきっかけは、同人誌即売会で出会った人々によって教わったものでした。当時はどうしてメイドに興味を持ったのかをうかがう機会も多く、そのバックボーンの多様さに驚いたものでした。そして、「少女漫画におけるメイド表現」の調査をしたいとも考えた折(『はいからさんが通る』のみ既知)、友人からご紹介いただいた方からおおやちきさんの少女漫画で100人以上のメイドがいた話や、はるきさんが家事使用人との初遭遇として『チム・チム・チェリー』を取りあげていたのを教わり、より深く知りたいと思いました。







家事使用人というか、1970年代の諸作品はヨーロッパへの憧れを想起させる作品設定のものが目立ち、その中でメイドも背景として描かれていることもありました。『風と木の詩』にも執事やメイド(アデル)が登場していたのです。また、2012年に倉敷へ旅行した際にいがらしゆみこ美術館を訪問した際に、メイド的な雰囲気ノ作品や、パフスリーブやエプロンといった19世紀的な衣装のイラストも多数見る機会があり、こうした延長線上に少女文化としての「メイド」があるのではないかとも考えていました。



実際には開催できませんでしたが、2回目の勉強会は、少女漫画に置けるメイド表現にしたいとも話していましたし、個人としては[特集]少女漫画に見る家事使用人(メイドや執事など)(2011/02/05)にまとめてもいます。



広がりすぎたので収束しきれていませんが、この辺りは後日にまとめます。



カフェ文化というところでも、話を広げられますが、そこはまた別途。


『ミステリマガジン』への寄稿

http://d.hatena.ne.jp/spqr/20121026/p1
『月夜のサアカス』でいただいた別の機会の一つは、「メイド喫茶とゴシック」についての考察です。元々、私は「メイド喫茶ゴスロリ」に興味を持ち、ゴシック関連の著作もかなり読みました。そしてたまたま『月夜のサアカス』自体がいわゆる「ゴシック」的な雰囲気の展示を過去に行っていたり、蔵書にそうした本が含まれていたりとしたこともあり、はるきさんにご相談しました。そこでいくつかの示唆をいただき、さらには雑誌に掲載する写真素材もご提供いただけました。



『ハヤカワミステリマガジン』2012年12月号にコラム「ゴシック小説の家事使用人からメイド喫茶へ」を寄稿(2012/10/26)に記した通りです。
http://twilog.org/kuga_spqr/date-121026

終わりに

この「終わりに」のテキストを書くのは実に一年ぶりです。上述のテキストは2013年6月、『月夜のサアカス』閉店直後に書いていましたが、その後、気持ちの整理がつかないまま、公開までにずいぶんと時間がかかりました。熱心なメイド喫茶利用者ではない私は、多分、この界隈の方々が経験しているであろう「お気に入りの店が閉店する」場面に遭遇したことがありません(お気に入りの店がほとんど無いことも理由ですが)。



ですので、閉店の話が現実化してからのショックというのか、喪失というのか、そうした感情を消化するのに時間がかかりました。また、ブログの公開までに時間がかかったのは、閉店後のお店という「本当の終わり」にも立ち会ったことも影響しているでしょう。前述した「英国メイド書架」の公開も終了するので、蔵書を自宅に送り返す必要があったため、私は『月夜のサアカス』に足を運び、後片付けを手伝いました。



私はそこで別離の寂しさだけではなく、一緒に道が重なったことの有り難さや、この先にもまた交錯するであろうことを強く感じることが出来ました。







たまたま昨日、Twitterで『月夜のサアカス』への言及があり、タイムライン上がその思い出で賑わったことも、このテキストを書き上げるきっかけになりました。



ふと、立ち会った2013年6月1日のtweetを見返すと、いろいろと感じるものがありますね。



























2013年は『メイドカフェ批評』への「雑誌メディアにおけるメイドイメージ」の伝わり方のテキストや、『メイドイメージの大国ニッポン 新聞メディア編』、そして『メイド表現の語り手たち 「私」の好きなメイドさん』といった自分にとって集大成と言える発表を、数多く出来た年になりました。



こうした言葉を2014年に読むと、今の自分の至らなさにも気づかされますので、そろそろ、研究に戻ります。