ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。同人・出版活動の報告を含みます。

『英国メイドの世界 エッセンシャル版 屋敷で働くメイドの仕事・エピソード集』2013/04/26(金)発売・配信開始と電子書籍化の意図




本テキストの目次

  • はじめに
  • 「エッセンシャル版」の意義=広義の「読みやすさ」の向上
    • 1.資料本ではなく、「読み物・エピソード集」としての楽しみ方を
    • 2.入手しやすさの向上のための同人からの出版、そして電子書籍
    • 3.読んで欲しい要素を絞る=『英国メイドの世界』の中心にある「メイドの仕事」
  • 電子書籍版」と「紙本」の違い
    • 1.紙本で実現できた「レイアウト」の喪失
    • 2.「電子書籍化のコスト」がかかる
  • 終わりに:「紙の本」にしか出せない良さがあるし、電子書籍の良さすべてをまだ引き出せていない
  • 余談:電子書籍=売れた分での印税なので、刷った分で印税が入る紙本の方が生活は安定?



はじめに

2010年11月に講談社より刊行した『英国メイドの世界』が2013/04/26(金)、無事に電子書籍として配信されました。電子書籍版=「エッセンシャル版」は、『英国メイドの世界』全七章から、「第三章 家政系メイド」と「第四章 料理系メイド」の2章分を電子書籍向けに再構成した内容です。



女性の家事使用人である「メイド」に焦点を当て、掃除や洗濯を担う「家政系」と、食事の用意を軸とした「料理系」に分業された職種ごとの業務内容を解説しています。




【目次』
■まえがき

■1 家政系メイド
ハウスメイド(housemaid)
パーラーメイド(parlour maid)
ナースメイド(nurse/nurse maid)
ランドリーメイド(laundry maid)

■2 料理系メイド
スカラリーメイド(scullery maid)
キッチンメイド(kitchen maid)
コック(cook)
デイリーメイド(dairy maid)
スティルルームメイド(still-room maid)

■参考文献


「エッセンシャル版」の意義=広義の「読みやすさ」の向上

「エッセンシャル=最も大切な要素の抽出」的な意味合いとした場合、今回は「メイドの仕事」を抽出しました。原本となる『英国メイドの世界』は英国貴族の屋敷の日常生活を、そこで働く家事使用人や所有者の貴族たちの視点で照らしたエピソード集・資料本です。実在したメイドや執事など、その時代を生きた人々が直接語ったり書き残したりした言葉から「屋敷という職場」を浮かび上がらせています。


1.資料本ではなく、「読み物・エピソード集」としての楽しみ方を

今回はタイトルに「屋敷で働くメイドの仕事・エピソード集」を追記しました。これは『英国メイドの世界』と言う本が、「資料本」でありつつも、「誰でも読める、その時代を生きた人のエピソード集」である点を、再度伝えるための試みになります。



『英国メイドの世界』には語り手として登場するメイド、執事、ガーデナー、貴族などの一覧(ページ中央)に記したように、大勢の「元家事使用人」たちの声を載せています。



情報の羅列ではなく、気軽に生きた人々の視点で見える世界を感じて欲しいと、そうした意図も「電子書籍化」には含まれています。


2.入手しやすさの向上のための同人からの出版、そして電子書籍

私は多くの人にこの本を読んで欲しかったので、同人誌から商業出版の道を模索し、運と縁があって講談社からの出版にこぎつけ、私個人では作れないレベルに仕上げることができました。出版社から出ることで同人誌はどう変わったか?(2010/12/07)にその経緯を書きましたが、それから2年以上が経過する中で、絶版を免れつつつも、多くの人にとって読みやすい環境を作れていないとの自覚もあります。





英国メイドの世界

英国メイドの世界





元々「メイドに興味がある人」を読者として想定しつつ、私は「メイドに興味が無い人にも、『仕事』『職場』という現代に通じる要素」によって、読者の方が既に持っている関心へ響かせることができるのではないかと考え、いろいろな伝え方を試みました。しかし、2800円と言う『英国メイドの世界』の値段は簡単に試せるものでありません。興味がある方は「値段相応」「むしろ安い」と言ってくれることもありますが、こうした点を解消する手段として考えられたのは「分冊」であり、コストの面では分冊よりも現実的な今回の「電子書籍版」です。



今回、800円と「新書一冊」ぐらいの値段になりました。


3.読んで欲しい要素を絞る=『英国メイドの世界』の中心にある「メイドの仕事」

よく誤解されますが、『英国メイドの世界』はメイドだけの本ではありません。執事やフットマンからガーデナー、コーチマン、ゲームキーパーと男性使用人も含めて、屋敷で働く広範な使用人を「一冊」でまとめきっています。『英国使用人の世界』でもタイトルが良かったのでは、と聞かれたこともありますが、私は同人誌を「メイドジャンル」で出し続けてきたこともあって、「メイド」に名前にこだわりました。



タイトルにある「メイド」の名前は、秋葉原を中心としたメイド喫茶ブームによって「メイド」の名前が知られていることでキャッチーでありましたが、その反面、本文に含まれている前述した要素をすべて伝えきることはできませんでした。その点で今回の「エッセンシャル版」は「メイドの解説」に絞ることで、タイトルと内容が一致するようになったといえるかもしれません。



さらに、650ページに及ぶ分厚さは読破を難しくしました。「メイドの仕事だけ」に関心がある方がいたとしても、同人時代の経験では、「読破できていない」という方は律儀に一章、二章と順番に読み込み、「好きなところだけ読む」ことをしていないようでした。その点で、この「エッセンシャル版」で、「家政系メイド」「料理系メイド」の9職種に絞ったことは、本来読んでほしい彼女たちの魅力を伝えやすくするための、電子書籍における「改善ポイント」と言えると思います。


電子書籍版」と「紙本」の違い

紙の本では実現できなかったことを電子書籍版で実現しましたが、メリットばかりではありません。紙の本で備えていた要素を失った点もあります。それが、「デザイン・レイアウトの自由度の喪失」です。



出版社から出ることで同人誌はどう変わったか?(2010/12/07)に記したように、『英国メイドの世界』は個人ではできないことや同人で感じた「直したい」点も改善しました。その中で大きな比重を占めたのは、「プロのデザイナーによるデザイン・レイアウト」でした。適切な文字量、情報階層を示す見出しのデザイン、引用文献をページ下部に集約する方式、そして雰囲気を伝える装飾など、随所に盛り込んでいただきました。


1.紙本で実現できた「レイアウト」の喪失

『英国メイドの世界』電子書籍版は、携帯電話、スマフォ、タブレット端末、そしてPCなど、マルチデバイスで読まれることを前提としており、そうした「どの端末でも読めるような電子書籍ファイル」でなければなりませんでした。そのため、レイアウト情報は必要最小限となり、まずテキスト、次に掲載する画像の選別が行われました。



レイアウト情報を失ったことで、「引用」文の表記も変わりました。「ページ下部」と言う概念が無いため、引用文の直後に引用書籍とページを銘記する方式へと切り替わりました。


2.「電子書籍化のコスト」がかかる

「なんで電子書籍化したのに、2章分しかないの?」との問いに対しては「読みやすい値段での分冊」とお答えできますが、では「なんで他の章は分冊されていないの?」との問いには、「コスト」が挙げられます。



通常の小説と異なって『英国メイドの世界」は「デザインをきっちり作りこんだ本」で、またマンガのように「画像」をそのまま1ページに落とし込める本でもなかったので、本を前提としたデザインをどのように電子書籍化する際に変更していくか、との課題を抱えました。



さらに掲載していた写真資料のいくつかは紙を前提とした版権処理を行っていただいており、電子出版を前提としていない契約だったので、権利元への確認やコストの都合での削除も起こり得ました。


終わりに:「紙の本」にしか出せない良さがあるし、電子書籍の良さすべてをまだ引き出せていない

現時点でタブレット端末が劇的に普及していない以上、そして日本でのスマフォ利用者の多さを考えるに、「紙の本と同じレイアウトを再現できる時期ではない」と考え、今回の「エッセンシャル版」が作られました。現在のエッセンシャル版=メイド編が好調に売れれば出版社はそれ以外の「分冊」を検討してくれるでしょうし、そうでなくとも、電子書籍版で興味を持った方が「本」を手にする機会もあるはずです。



ただ、「紙の本」で出来たことが「電子書籍で出来ない」とは言い切れません。電子書籍の記述方式はHTML5/CSS方式もあり、最近話題のレスポンシンブWebデザインで様々な端末に応じた見せ方を行えるように、端末に応じたレイアウト情報を持つこともできるようになるでしょう。



既にできる工夫でも、今回に限れば、たとえばカラー写真や動画を埋め込むことや、Webに存在している様々なアーカイブや参考資料へのリンクも盛り込めませんでした。この点ではまだ「紙を電子書籍化」したレベルで、本来の電子書籍が持つウェブとの親和性や柔軟性を引き出せていると言えません。



こうした点がありつつ、「重量を感じることなく、いつでも読み物として楽しめる」点を強調した作り変えによって、異なる読者層にアプローチし、より多くの人に興味を持ってもらえること、そして「実は興味を萌える要素を持っていた自分」に気づいて欲しいというのが、今時点での電子書籍化の意味になります。



今までに『英国メイドの世界』をお読みいただいた皆様のおかげで、こうした機会をいただけましたこと、御礼申し上げます。同じ世界を、似た景色を好きな方がひとりでも増えていくことを願いつつ、良き出会いがあり、またお楽しみいただければ、幸いです。



尚、電子書籍化に際しては講談社BOX編集部の最初の担当編集の方に具体的に検討していただき、議論し、その意見を反映しています。現在は新しい担当編集の方が出版に向けた様々な編集を行って下さったことで、出版にこぎつけました。本がこうして長く生きられる可能性を得られたことを、深く感謝しております。


余談:電子書籍=売れた分での印税なので、刷った分で印税が入る紙本の方が生活は安定?

電子書籍化の議論の中で、最も大きく紙本と違うのは、基本的に電子書籍=売れた分での印税なので、1万部分の印税は1万部売らないと入りません。一方、紙の本は「1万部刷った」ならば、たとえ50%が返本されようとも、「1万部分で印税が入る」のが一般的です。



その点で、作家が受け取る金額に大きな差異が出てきます。原稿料を受け取れるレベルの作家ならば、原稿を書いた時点でお金が入りますが、原稿料が無い場合には、印税のみが収入源です。「一艇部数売れてから印税が入る」のと、「最初に印税が入る」のとでは、大きく違います。



あと、余談ついでにこの観点での「最新刊を巡る紙の本と電子書籍のタイミング」についての仮説をば。



私はKindleとBookwalkerでそれぞれ100冊以上の本を買うぐらいに電子書籍を利用していますので、紙の新刊が出ると「電子書籍版は無いの?」と考えるようになっています。『宇宙兄弟』はだいぶ同期していますが、まだまだ多くの本でタイムラグがあります。最近、『RGD』を読み始め、完結となる6巻を購入する際には「文庫本ではなく、単行本」の値段で配信されていて、「なんだろうこれは」と考えたものでした。



しかし、「印税」の観点で考えると、出版社が在庫リスクを避ける意味で、こうした行動は合理的に思えます。出版社は紙の本を刷った段階で著者に印税を支払い、売らなければなりません。ならば、在庫リスクを減らす上で、紙の本の売り上げを妨げるかもしれない電子書籍の販売を遅らせるのは、当然の行動に思います。



とはいえ、私を事例にすると、多くの本が「紙だけ」だったら、買っていません。家のスペースを圧迫するので、物理的な本を買い控えているからです。また「電子書籍」になることで心の中での購入の敷居が下がり、普段ならば購入しない本も結構買ってしまっています。その点で、「紙の書籍の購入者」と「電子書籍の購入者」は完全に一致しておらず、新しい層を開拓できる可能性があるとは思っています。



さらに余談では、『週刊少年ジャンプ』や雑誌なども、電子書籍で定期配信するビジネスモデルをやってくれないかなぁと思っています。雑誌販売だけでは赤字で単行本で儲けるビジネスモデルと、情報が残る「雑誌の電子書籍」は相性が悪いように言われますが、電子書籍配信を「1週間」の時限・賞味期限としてしまえば解消します。次の号を読むには過去の号を消さなければならないなどでもいいでしょう。



私はほとんどジャンプを買ったことがありませんが、毎週200円配信で1週間(3日でもいいです)の賞味期限で配信してくれれば、購入します。「電車の中」「出版社が指定する特定のエリア(リアル書店併設のカフェなど?)でしか読めない」というシーン限定でもいいのかもしれません。



と、脈絡もなく。

『英国メイドの世界』電子書籍化 「エッセンシャル版」を近日発売予定 

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『英国メイドがいた時代』をパブーで公開中

2011年夏の新刊『英国メイドがいた時代』電子書籍化(PDF)して、パブーで公開し始めました。




  • 英国メイドがいた時代
  • 久我真樹
  • 500円(税込)
  • 英国のメイド雇用衰退の歴史を解説します。「メイドの時代」が形を変えて復活した現代英国事情も扱います。『英国メイドの世界』の「続き」の位置づけです。『英国メイドがいた時代』が繋がっていくテーマの補足(http://d.hatena.ne.jp/spqr/20110806/p1)も合わせてご参照ください。




現代英国の格差を照らし、現代日本の労働環境も相対化する『英国メイドがいた時代』(2011/08/13)

『英国メイドがいた時代』が繋がっていくテーマの補足(2011/08/06)

「2つの使用人問題」を巡る19世紀末時点での女主人の見解(2011/06/26)



上記で書いたように、この『英国メイドがいた時代』は労働環境を軸に扱っています。これは私の会社勤務の体験や、子どもが生まれて育児環境を考える友人や知人にも通じていく、自分にとって重要な視点です。今日も少し、Twitter上でつぶやきました。



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終わった時代を終わった時代として楽しみつつ、現代を生きる人にとってどう繋がるか、というところは物を伝える立場として、忘れたくない視点ではあります。


『英国メイドの世界』発売8か月経過報告と電子書籍のアクションなど

久しぶりの経過報告となります。『英国メイドの世界』は2010/11/11の発売から、先日の2011/07/11で遂に8か月を経過(9か月目に突入・もうすぐ10か月へ……)しました。発売から半年で返本期間を迎えると、基本的に本は在庫となって出版社に戻ってきます。半年が経過しても尚、書店の棚に残り続けられる本は、わずかです。



半年が経過した5月に書いた『英国メイドの世界』刊行から半年経過と振り返り(2011/05/13)時点では「これから、返本ラッシュが始まる」と書きましたので、その辺りの続きとなります。



そうは言いつつ、自分で出来ることはしようと、書店の方に「この本は残せる」「他の本との併売ができる」との見込みを持ってもらおうとしたり、様々な角度で伝えて本の売り上げをなんとか伸ばせないかと努力したりしました。そうした様々なアクションの振り返りもします。



結論を最初に書くと、初期のインパクト以降、それに匹敵する山や話題性は、個人の努力で作れませんでした。本自体の販売数はお陰様で、「この手の本(歴史資料・2800円)にしては、かなり売れた方」となりますので、私がアクションしたこと自体に意味はありましたし、多くの方に出会えました。アクションを何もしなければ「3版」という2回増刷の結果は出なかったでしょう。



なので、この8か月で出来なかったのは、「この手の本」という但し書きをとるに至らなかった、この点です。選択と集中をし切れなかったというのもありますし、メディア露出も一切聞き及んでいません。取り上げてもらえる存在として認知されなかったようですね。多くの人を巻き込める、興味を持ってもらえるような伝え方をできませんでした、というのが現状です。



このテキストの最後に、今後の話として、『英国メイドの世界』電子書籍化に向けた話(具体的には何も進んでいません)や自分の気持ちを書いています。



何はともあれ、自分で「自分の本を殺す」(忘れる・諦める)ことだけはしないように、これからも魅力を伝え、語りかけ、大切に育てていくことは続けます。


目次

  • 1.書店からの返本は始まっている
    • 1-1.シリーズの強みを得られなかった
    • 1-2.歴史本としての認知は得られている
  • 2.著者によるネットでのアクション・提案は中途半端に
    • 2-1.著者によるコンテクスト作り
    • 2-2.感想の共有
    • 2-3.Facebookの活用
    • 2-4.異なる接点での伝え方
    • 2-5.『英国メイドの世界』第一章PDF・見本誌の効果について
  • 3.電子書籍化を相談中・自分でできるものは自分で進める
  • 4.終わりに


1.書店からの返本は始まっている

結論から言えば、2か月経過した時点で一定数の返本が行われています。実際の印刷部数や返本率は公開しませんが、幸いなことに新刊書籍・雑誌出版点数や返本率推移をグラフ化してみる(Garbagenews.com)に記載されている約40%という数字は大きく下回っています。それでも、もう一度、増刷がかかるような残り部数ではありません。



元々、『英国メイドの世界』は初期に幅広い書店へ行き届かせる配本を行ったので、一冊だけ書店に送り込まれるようなこともありました。こうした書店からの返本が多数を占めるのか確認をしていませんが、個人的には文脈を作りにくい状況に配置されると(たとえば歴史ジャンルや、シャーロック・ホームズ『エマ』の近くのようなコンテンツのテーマが近い領域)、売りにくかったと思います。



また、一過性のネタとして仕入れてもらえたかもしれないコミック系やオタク系のショップで「定常的な在庫」として置かれているのかも不明です。私がふらっと訪問した『とらのあな秋葉原店では、見当たりませんでした。平積みで売って下さったメロンブックス秋葉原店でも、その後、「どのコーナーに配置されているか」を追跡していません。



観察の結果ですが、ベストセラーでもない限り、書店に残る確率が高まるのは、下記2点の要素だと思います。


1-1.シリーズの強みを得られなかった

本は、「自分が所属できる場所」があると、書店に残りやすいです。『英国メイドの世界』の後に刊行された『図説 英国メイドの日常』の書店での扱われ方を見て確認できたことですが、「図説シリーズ」として近所の書店にも入っています。



「シリーズ」に所属していない、カテゴリーエラー的な『英国メイドの世界』は、時間がかなり経過してからの書店での生存率が低いのではないでしょうか。



同ジャンルの『図解メイド』も新紀元社の「図解シリーズ」に入り、見かける機会は多いです。シリーズに所属する本は書店での配置面が分かりやすく、そのうちの一冊として残りやすくなるはずです(書店での観察や、後者の場合は図書館への入庫を含めて)。



一応、『英国メイドの世界』は「講談社BOXピース」のカテゴリに所属していますが、同シリーズだけを集めた書店をほとんど見たことがありませんし、「ピース」の中でも異質な本である現状、集合してレーベルの力を借りるに至っていません。



本が一番売れる宣伝手段は「新刊を出し続けること」だと思いますので、仮に、自分でもう一冊、類書を刊行できれば「自分でジャンル・シリーズを形成する」ことも可能ですが、そうそう機会があるものではありませんし、誰もが選びえるものではありません。


1-2.歴史本としての認知は得られている

とはいえ、嬉しい出来事も体験しました。ベンチマークとしていくつかの大書店を見る中、紀伊国屋書店新宿本店と新宿南店、それにジュンク堂新宿店で、ようやく「歴史コーナー」に配備されました。紀伊国屋書店では『図説 英国メイドの日常』と並んで平積み、ジュンク堂新宿店でも平積み的な置き方になっていました。



紀伊国屋書店は好きなのでこまめに足を運ぶ場所です。私の観察という但し書き付ですが、販売後は『英国メイドの世界』は新宿南店にしかありませんでした。在庫が尽きてから補充されませんでしたが、その後、新宿本店の講談社BOXコーナーと、マンガ・ゲーム攻略本のエリアに配置されました。



しかし、最近になって紀伊国屋書店新宿本店と新宿南店の歴史コーナーに配備された次第です。ジュンク堂新宿店の場合は、「マンガ技法」というコーナーに配備されていましたが、こちらも歴史コーナーと、大きめの書店で配置され始めていたのは希望を感じました。


2.著者によるネットでのアクション・提案は中途半端に

ネットでのアクションはいろいろとやってきましたが、五月雨式になってしまいました。振り返り、という趣旨に照らし合わせて、自分のアクションを見てみましょう。



難しいのは、完全に効果を把握しきれない点です。ネットで存在を知って本を買ったのか、他のサイトで本を買ったのか。担当編集の方より流通面(リアル書店やネット書店等のどこに渡ったか)の比率概要をいただき、その数字や自分個人のAMAZONアフィリエイトIDを見る限りはネットでのアクションに意味はあったと思います。



しかしそれでもなお、書店の偉大さを再認識したところも大きいです。



前置きが長くなりましたが、以下、アクションです。


2-1.著者によるコンテクスト作り

出版状況の振り返りを行い、まだ私の本を知らない人に出会うため、ネットで情報を発信し続けよう、その方たちの目に入るような伝え方を考えようと、いろいろとコラムにもしてきました。



第1回目:出版した本に1日でも長く生きてもらうため、著者に出来ること(2011/01/16)

第2回目:本を書店で初めて売る体験から気づいたこと(2011/01/26)



そして、第3回目として書店で本を売る現状認識と著者が提案可能なアクション(2011/02/07)を書き、具体策として書店・店員様向けの案内を告知するカテゴリを、サイトに新設(2011/02/16)と行動し、自分の本(『英国メイドの世界』)と重なりを持ち得る本の紹介を行い、コンテクストを共有しようと結論付けました。



ところが、他の作業や同人活動の準備で忙しく、更新が止まっています。いろいろと面白いコンテクストは存在しているのですが、自分の処理能力が追い付かない状況で、更新の優先順位を下げています。


2-2.感想の共有

『英国メイドの世界』を読んでいるのはどんな人なのだろう、どういう観点でこの本に興味を持ったのだろうと、ネット上での感想をいろいろと読んでいました。梅田望夫さんレベルには到底届きませんが、可能な限り、読もうとしました。



その中で、「他の人がどう読んでいるのか、読者にとっても興味がある」との話をうかがい、ひとまずTwitterの感想を紹介しつつ、自分が補足を行うアクションを行ってみました。



『英国メイドの世界』ネット上での感想のまとめ:その1(2011/05/07)

『英国メイドの世界』ネット上での感想のまとめ:その2(2011/05/15)



ただ、これが意外と大変で、あんまりやりすぎてもどうかなぁと迷いがあり、徹底したアクションに繋がりませんでした。実際に自分のアクションに意味があったのか、というところも可視化できていません。



他にもブログでの感想読書メーターなどでいただいている感想を取り上げたいと思うものの、なかなか出来ていません。


2-3.Facebookの活用

Facebookにファンページを作りました。認知度の問題だと思いますが、あまり見つけてもらえていません。とはいえ、これは自分でも積極的に宣伝していないので、当たり前の帰結です。



Facebook/英国メイドの世界



あと、世の中的にマスメディアで報じられる「萌え」に特化した「メイド」認知を見る限り、この辺りをプッシュするのは難しいのではないかと思われます。


2-4.異なる接点での伝え方

自分が好きなテーマでブログをいろいろと書いて、それぞれが入り口となってこのジャンルに興味を持つ人が増えるといいなぁと思っています。ただ、ブログではあくまでも自分が好きなことを好きなように書き、考えをまとめることの方が多く、特に本に興味を持ってもらえるような内容にしていません。



たとえば、ここ最近、なんとなく考えをまとめるために書いた「2つの使用人問題」を巡る19世紀末時点での女主人の見解(2011/06/26)は、本当に「なんとなく」書いたので、多くのブックマークを集めて閲覧されたので驚きました。そういうレベルなので、そこから著者である私や『英国メイドの世界』に興味を持ってもらう、などという発想はありませんでした。



とはいえ、今回接点を持つことで、また何かがあった時に、思い出してもらえたらありがたいですし、その中に興味を持つ人がいたらいいなぁと思っています。まったく興味がない人に買ってもらえるとまでは思っていませんので、興味を持ち得る人とどう出会えるかは永遠の課題です。


2-5.『英国メイドの世界』第一章PDF・見本誌の効果について

ページ数が多いので事前に中身を知りたいだろうと、担当編集の方にお願いをして『英国メイドの世界』第一章「英国使用人の世界」PDF公開開始(2011/05/30)を行いました。これが五月末なのでだいたい7週間を経過しました。



まず、PDFへのリンクがある[参考資料]英国メイドの世界(著者による紹介)の閲覧数(PV)と、PDFのダウンロード数を見てみます。


年月 PV ダウンロード数
2011/05(02日) 224 70
2011/06(30日) 227 179
2011/07(28日) 165 73



5月が2日でこの数字なのは、TwitterでRTいただいた効果ですが、以降はそれほど集まっていません。ダウンロード数はPVに比して非常に高いですが、これはPDFを台湾系のSNSやダウンロードツールらしきブラウザから直接リンクをされたのが要因のようでした。



いずれにせよ、322ダウンロードに対してどれだけ売れたのか、というのは一切わかりません。PDFの最終ページに、JコミのようにアフィリエイトIDを含んだ商品へのリンクを貼っておけば違ったかもしれませんが、そこまで頭が回りませんでした。



PDF化自体によって、知人に出版の報告をする際、以前よりも伝えやすく、また読まれやすくなったかなぁとは思います。以前は直接会わない限りは、AMAZONのURLをメールで案内するだけでしたが、今はPDFである程度読めるようになっています。また、『英国メイドの世界』を気に入った読者の方が、知人の方に紹介するときに使っていただけているならば、意味はあったと思います。



本当、最初に設計しておかないと難しいです。


3.電子書籍化を相談中・自分でできるものは自分で進める

これは中期的なところで、電子出版領域の発展を見据え、担当編集の方と『英国メイドの世界』の電子書籍化の相談を始めました。まだまだ相談レベルで具体的な進捗はありませんが、私の出版経験として電子書籍を体験したい気持ちがあります。


3-1.『英国メイドの世界』の電子書籍

本を書店で初めて売る体験から気づいたこと(2011/01/26)で書いたように、書店で本を売ることから見えることがありました。同時に、本を売る前から分かっていること(電子書籍化しても、人が通らない「書店の本棚」に並ぶだけで、何もしなければ売れるはずもない)もあります。「売れない」と言われるものがどの程度のレベルなのか、売るには何ができるのかを経験したい気持ちもあって、始めるつもりです。



個人的には『英国メイドの世界』はそのタイトル故に、「メイド本だけ」と思う方々もいます。しかし、実は、執事やフットマン、ガーデナー・ゲームキーパーといった男性使用人の解説が、非常に多く掲載されています。それが伝わっていない実情があり、電子書籍化のタイミングで、こちらを強く打ち出せないかと考えています。



入れ込めなかった索引もなんとかしたいと思っていますが、果たして作業コストが見合うのか、というところも考える次第です。「売れない・赤字」となる見込みのものを出版社にお願いするわけにもいかず、出来るだけ、数字を保証できる材料は揃えたいところです。



今のところ、担当編集の方とやり取りをしていますが、実現可能性は分かりません。ただ、方向性として紙でできることは紙でやれば良くて、紙でリーチ出来ていない読者層にアプローチする方向になるのではないかと。


3-2.同人誌の電子書籍

電子書籍経験を積みたいのは、商業版だけではありません。元々、私は「個人が好きな表現を行い、読者と出会ってやりがいを得て、その上で何かしらの代価を得て、表現に費やす時間を増やしていける・幅を広げられる」環境に興味を持つようになりました。



同人誌即売会で得られる「創作を続けやすい環境」(2010/04/17)や、同人活動の継続性を高める手段としての「利益(2009/09/11)に書きましたように、同人誌即売会への参加を経て、「好きなことで食べられるレベルに行かないまでも、好きな領域の活動を続けられる」ことに肯定的です。



電子書籍元年」と言われた去年よりも遥か前から同人では取り組んでいる方々もいますので、大げさに語るものではありませんし、電子書籍は「コミケ」「コミティア」になりえるのか、というところでは違うと思いますが(ニコニコ動画やpixiv的なコミュニティ・メディアがそれほど見えないので)、「電子書籍」を通じて、今まで出会えなかった読者にどれぐらい出会えるのかに興味があります。



さらに、今度の夏コミで刊行予定の同人誌『英国メイドがいた時代』は、講談社版『英国メイドの世界』で描けなかった、いわば「続き」です。商業化に至らなかったテーマや内容でも、自分で好きなように作れるのが同人誌です。そして、商業版を読んだ方にこの本を届ける機会を広げたい意図もあり(同人だけではなく)、同人誌の電子書籍化に力を入れ始めました。



今のところ、2009年の夏に作った『英国執事の流儀』、2010年夏の『英国メイドにまつわる7つの話と展望』を公開しました。



公開場所のパブーについては、メディア化が進んでいるようで閲覧数自体は集まっています。ただ、販売数は非常に少ないです。値段の影響も大きそうですね。


タイトル 定価 閲覧数 販売数
英国メイドにまつわる7つの話 100 352 3
英国執事の流儀 500 1669 3



一番驚きなのは、自分で宣伝を続けてきた『英国メイドの世界』PDFダウンロードページよりも、閲覧数が大きいことです。



もう少し様子を見て、面を広げていこうと思います。DLSiteでは、『英国メイドにまつわる7つの話』の公開をしていますが、こちらは43ダウンロードと10倍近いです。閲覧数や閲覧機関の相違もありますが、近々、『英国執事の流儀』もDLSiteで公開してみます。


4.終わりに

こうして振り返ってみると、散発的と言うか、効果が見えないことにリソースを使い、また適切な効果検証を行えていないのではないかと思える結果になりました。書店での販売も含めるのでネット上だけで販売の変化を追いきれるものではありませんが、更新し続ける必要があるものは腰を据えて、長期的にやっていかないとダメですね。



とはいえ、逆に、そろそろ自分が「子離れ」してもいい時期かと思いもします。『英国メイドの世界』に捕らわれてしまっている気がしなくもありません。あくまでも出版は「手段」です。それでも、わが子可愛さや、「伝え方を適切に行えれば、もっと多くの読者に出会える」との確信はあるので、うまい距離の取り方を考えたいものです。



また、本を出した時、「小説・物語として本を作らないの?」と以前の職場の社長と同僚1名に言われました。より広範な層に届けていくには、こうした方向に進むことも必要なのではないかと。元々、創作のために作っていた本なので、こちらにも力を入れたいところです。



今回は数字面をテーマにした話でしたが、同人時代には出会えなかった多くの感想や反響に出会えているのも、個人としてはとても大きな体験でした。読者の顔が見え、声を聞けるのは、良い時代だと思います。


執事の働き方・エピソード集『英国執事の流儀』パブーで販売開始


同人誌『英国執事の流儀』電子書籍版をパブーで販売開始しました。この本の電子書籍化は初めてです。



実在する英国執事7人を軸に、「どのように執事が管理職としてマネジメントを行ったのか」を紹介するガイド本・エピソード集です。同書は一冊で完結しており、読み物として気軽に楽しめる内容です。



パブー/英国執事の流儀



英国執事が記した自伝や手記から転職・職場遍歴や仕事を分析しており、オリジナリティが高い内容に仕上がっています。執事が好きな方には、特に「働くおっさんの執事」が好きな方にオススメです。



本の内容詳細は[同人誌]英国執事の流儀や、『もしドラ』と英国執事のマネジメント本に記しています。



直近では、英国メイドにまつわる7つの話と展望』をパブーで公開しています。



尚、電子書籍版は2点、変更があります。


変更点

1.価格を200円値下げ

700円から500円に値下げしています。


2.表2(表紙の裏の空白ページ)を削除

電子書籍化した場合、見開きが実際の本と異なるために行いました。このため、2ページ目(表紙を1ページとしている)が存在しません。3ページ目以降のページ表記はそのままですが、ご了承ください。



今回の本は左綴じ・横組みです。本を見開きで見る場合、通常、右ページのページ数は奇数になりますが、現在の私が加工できるレベルのPDFを用いた電子書籍で見開きにすると、表紙と表2が見開きになってしまいます。



通常の本:表紙(1)→表2(2)|扉(3)→(4)|(5)

電子書籍:表紙(1)|表2(2)→扉(3)|(4)→(5)|(6)

その対応:表紙(1)|扉(3)→(4)|(5)→(6)|(7)


『英国メイドにまつわる7つの話と展望』をパブーで公開・パブーの便利さは異常

明日ぐらいにまたコラムを書く予定ですが、現在、『英国メイドの世界』の電子書籍化を担当編集の方に相談しています。とはいえ、同人ほどのには電子書籍経験がないので、いろいろと経験を積もうと、最近機能向上を盛り込んだプロ版をリリースした『パブー』で、『英国メイドにまつわる7つの話と展望』を公開しました。



http://p.booklog.jp/book/20889



※この本は、DLSiteで既に公開し、42ダウンロードされています。


使いやすさが洗練されたパブー

DLSiteを検討したのと同時期にパブーも試してみたのですが、その当時は正直なところ、私には使い勝手が悪かったです。なぜならば同人誌原稿をPDF化しており、ツール上でいちいち画面上のテキスト入力フォームに入れるのは手間だからです。



代案として、PDFをJPG画像化するツールを使い、マンガのように入稿する方法も考えましたが、これも1ページずつ画像を指定しなければならず、面倒でしたし、画像化してしまうとテキスト選択やリンクが押せなくなってしまうデメリットもありました。



ところが、今年になって、まず画像ファイルを連番化してZIP化して入稿できるシステムが加わりました。さらに、直近でリリースされた有料のプロ版では、自分で作ったPDF(+epubも)ファイルを入稿し、ユーザーがダウンロードできるようになりました。



今回の私の場合は、「ウェブで読める」「試し読み設定を有効にする」ために、まずPDFを画像化したファイルをZIP入稿して、その上で元々のPDFをアップロードして、「ウェブで見る限りは画像だけど、ダウンロードすれば通常のPDFと同じ」環境にしてみました。



これは、便利です。



あと、プロ版の機能に、かつて竹熊健太郎さんが不正コピー問題の意外な解決策として紹介した「ダウンロードファイルへのユーザー情報の埋め込み」による不正コピー防止に似た、米光一成さん中心の電書部による「ファイルへのメールアドレス埋め込み」の施策が盛り込まれているのは、驚きでした。



余談ですが、星海社は「献本制度」を現在はPDFダウンロード方式で行い、尚且つ、ダウンロード者の名前がPDFに入るシステムを採用しています。これも試みとしては面白いですね。



とりあえず、次は『英国執事の流儀』を公開する予定です。


『348人の女工さんに仕事の話を聞いてみました』感想

『348人の女工さんに仕事の話を聞いてみました』が描き出す「個人の言葉」と英国メイドとの共通性(2011/03/08)で取り上げた本が、先日届きました。



電子書籍を紙で売る! 「コトリコ」挑戦への道と2011/04/01に取材も受けられていて、こちらの記事も面白かったです。



過去を生きた人の働き方や生の声を聴く機会は少なく、よほど主体的に関心を持たなければ出会いにくいものです。何かしらのきっかけで興味を持って出会うというところで、コトリコさんの本との出会い方は、様々なテーマを伝えたい人にとって参考になると思います。



主にTwitterで感想を呟きました。