ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

船戸明里さん、日本ヴィクトリア朝文化研究学会会員に

(08.06.11) 新入会員:船戸明里『アンダー・ザ・ローズ』(作者ブログ) との記事が出ていました。



本物を追求すれば門を叩くのか、或いは誘いがあったのでしょうか?



ある種、船戸先生レベルで貴族とガヴァネスを描けている作品は少ないので、当然と言えば当然です。久我も情報が欲しいので、門を叩いてみるべきでしょうか?


『Under the Rose』文庫版発売

[あんだろ]「冬の物語」文庫版 6月24日発売ですと、船戸明里先生のブログに公開されていました。







そういえば最近、『金色のガッシュ』の漫画家・雷句誠先生と、出版社・小学館の間で、漫画原稿や契約についての話が相当熱いですが、このトピックスが出る前に、船戸先生はネットでの著作権問題の中で、契約について触れています。



[無断転載]の話その4 韓国の取締りガイドライン



直接アンカーが引けないのですが、「作家と出版社の契約について」という見出しから書かれていますので、興味のある方はご覧下さい。これまで幾つか雷句先生の問題のwikiを見てきましたが、船戸先生の書かれた事に対する引用は無かったようなので、ご参考に。


船戸明里先生・作品を作者が守る時代

船戸明里先生のブログにて、自身の作品がネットで語られることについて、言及されています。



Wikiぺディあとあらすじ



以下は、上記ブログを読んだ上でお読み下さい。








以下、当ブログで言いたいこと(自分の感想)です

・作者が、自分の作品と読者との「出会い」を守る時代に思える。

・その為に、情報を公式で出していく、見えやすい場所に置く。

・出会いの機会自体を読者が増やすことを否定するものではない。

・船戸先生の試みは興味深く、支持したい。

・「反響」で判断される前に、まず「本物」に接して欲しい。

・自分も、「感想」と「あらすじ」と「ネタバレ」は意識したい。









































個人的に久我は、作品の性質によって「あらすじ」(冒頭だけではなく、ストーリーそのもの)と「感想」を明確に分けています。『Under the Rose』は船戸先生が書かれるように、情報によって作品への印象が左右されます。翻弄されまくっています。下手に未読の人が触れてしまうと、作品の面白さを永遠に奪います。その為、なるべく「感想」を書きます。



一方、作品の背景世界や描写の意味を深めて読みたいときは、「ネタバレ」という形で明示し、メイドや屋敷などを関連させて、書いていますし(『エマ』ですね)、「参入障壁が非常に高いであろうもの(興味を持ってもすぐに体験できないもの)」は、ネタバレを断った上で、紹介しています。



読書感想文と一緒で、あらすじだけでは「情報」であって、面白くない、作品を読む楽しみを奪う、感想だからこそ書く意味があると思います。それは、同じ作品を好きな方を意識していますし、万が一、筆者の方が見ていたら、「こう受け止めたよ」という、ファンレターのようなものにもなります。



梅田望夫さんは自著の感想を数万のブログから読み取ったと言いますが、今はそのようにある程度、筆者に「情報をフィードバックできる」時代だと思います。



話がそれましたが、船戸先生の言及で面白いと思ったのは、「wikipediaは作品を知らない人が訪れる場所」「個人サイトとは規模が違う」と言う視点です。



ネットの時代において、作品の価値を伝えるのはとても大変ですし、自分が意図しない形で作品や言葉が曲解されることは多いです。久我の感想も、そもそも見当違いで、ノイズかもしれませんが、『Under the Rose』の感想を読みに来る方もいます。



自分レベルで恐縮ですが、時々ニュースサイトに日記が取り上げられることがあります。しかし、「意図しない形」「相手が言いたい言葉」で括られ、自分が伝えたいことが抜け落ちていることもあります。



同じ事実を見ても、違う解釈が成り立つ、だからこそ人間は面白いのですが、それが作品の正しさを奪うとなれば、話は別です。船戸先生は自分の作品を、「未知だからこそ楽しめる最高の喜び」を「これから出会う読者の為に、『情報』から読者を守ろうとしている」ように思えます。



公式サイトでの『Under the Rose』のあらすじを用意したり、1巻の立ち読みを出来るようにしたり、「初心者に読んで欲しい情報」も用意しています。



「反響」だけで判断せず、「音源である本物に目を向ける」、作品で得られるものは、作品に接して、自分で得て欲しい、その機会は用意しているよ、と。(自分のこの感想自体が「反響」でしかありません)



もちろん、読者にも「どこで情報に接するかの自由」はあります。



昔、マルセル・プルーストの長編『うしなわれたときを求めて』を読みましたが、正直、長さに辟易しました。挫折しかけましたが、「読み終える」ことを目的に頑張りました。読み終えてからしばらくして、短くまとめた抄訳版が出ました。楽しそうでした。結局買いませんでしたが、「あれは、本来の楽しみを奪うのか、楽しみきれない人に光明を与えるのか」と考えたことがあります。



しかし、今回の話は、それと違います。様々に情報が錯綜する中、「作品の面白さを損ねる可能性が高い情報に遭遇する」可能性もあります。意図せずに接して、最高の楽しみを失うのは、避けたいものです。



交通事故のようなものです。



だからこそ、船戸先生は声を上げているのだと思います。読者から、「未読」の楽しみを守るために。「未読」こそが、一度しか味わえず、読んでしまえば戻ることの出来ない楽しみ方、ですから。



久我も、時々は未読の作品のあらすじサイトを使います。「自分の人生を考えて、この作品をすべて読む時間は無い。しかし、あらすじは知りたい」と言う時です。



例えて言えば、「『機動戦士Zガンダム』をいまさら全話見る時間はないが、概要を見返したいので劇場版ぐらい(劇場版は見ていないです。時間の話)にまとめられていると嬉しい」という横着なものであったり、「このゲームをやる時間は無いけど、キャラクターは面白そうだから知りたい」時などです。



それが作品の楽しさを損なうことは承知していますが、「知りたい」作品に出会ってしまうのも、簡単に「消費」してしまうのも、ウェブだからこそでしょうか。(作品を楽しむ時間が何故無いのかを考えないといけませんが)



そうした意味で、「あらすじサイト(概要・ネタバレすべてがわかる)」ではなく、「公式の体験版」などを用意し、「短時間で本物を経験させる」試みは、作品との出会いを繋がりへ転化する点で大切になってくるのかもしれません。



Under the Rose』は1巻の立ち読みも用意しています、とまで言われれば、公式の情報に接しない理由は無いと思います。



その一方、「自分以外の人はどう読んでいるのかな?」「読み落としは無いかな? 知らない楽しみ方は無いかな?」と、「他者の視点と言う光で照らされた作品の姿(=感想)」を探すことも、作品を深く知る意味で、必要だと思います。



もっと論理的な人が適切にまとめてくれることを願いつつ。



書くのにエネルギー必要です……


『Under the Rose』5巻感想「疑うこと、信じること」〜貴族とメイドの織り成す最高の世界

結局、読み終わった余韻が忘れられず、なんとかこの作品の魅力を言葉にしようと、ブログに向かい合っています。



結論から言えば、「ここまで使用人の世界を描き、また噂に支配される社交界を描けた作品は皆無」、ということです。



正直なところ、『Under the Rose』の作品としての完成度は、群を抜いています。この作品がネット上で爆発的な評判を得ていないこと自体、信じがたいことです。それこそ、「人の噂が当てにならない」と言うこととも似ていますが。



物語の密度、描写、イラストのひとつひとつに込められた重さ。読む人によって、読むときの心境によって、そこに見える姿は異なってきますが、今回、様々なシーンに心が震えました。胸に響く台詞も多く、電車の中で読まなくてよかったです。



久我は、数多くの使用人の資料を読みました。比喩ではなく、日本で五番目ぐらいに使用人には詳しいつもりです。しかし、船戸先生の描く使用人像、存在感、距離感、貴族的な価値観はそうした知識だけでは到達できない、「人をよく知っている」作家だけが到達しえるレベルで、感嘆し、自分では絶対に見えない世界だと感じます。



あまりにも美しく魅力的に、真似しがたい価値観を提示し、その世界に生きる人間を描き出して、人間の強さも弱さも醜さも、美しさも、すべてが描かれていて。



作品としての完成度が、一段と高くなっているように思えます。そこに余分な雑音は無く、あるのは家族と使用人、それに生きる人間たちの姿。壮大なストーリーでもなく、倒すべき魔王も、世界の危機もありません。それでも、ただ人を魅せていきます。



過去に、最大のミステリは人の心、と書きました。第4巻までを読み終えた時点での感想は、「人の心は、迷宮の森のよう」というものでした。



誰が何を言っているのか、わからない。



その言葉が本当なのか、わからない。



目の前にいる本人と、人から聞くその人の大きな相違。



登場するキャラクターの行動原理が、まったくわからない。



そうして森の中をさまようように進んできた物語も、今回の5巻で少し趣が変わります。それは、公式サイトで公開されていた表紙からも感じられたことです。しかし、テーマは同じだと思います。



人の心はわからない、だからこそ、その真実を知りたいと思ったのが第4巻でしたが、「何かをきっかけに、変わっていくわからなさ」、そうした人の心を描き出したのが第5巻だと思います。何かをきっかけに、人は変わっていく。



噂に翻弄されず、自分の目の前に見えた姿を信じる。



逆に、描写された姿に翻弄され、騙されているのではないかと、まだ不安もある。



しかし、信じることで相手が変わることもある。



最終的には、「人を信じることも、疑うことも同じ」だと思っています。結局、「信じるのは信じる根拠を信じる」、疑うのは「疑う根拠を信じる」、両方「信じる」ことに変わりはありません。であるならば、出来る範囲とはいえ、信じてみたいものです。



暖かな世界を信じ、ひっくり返される。そうした展開の中、「今度は信じていい?」と、読者の心を、様々に揺さぶってくれます。しかし、そうした思考も、「物語」に毒されているのかもしれません。



そうした読者の心を抉り出すように、老婦人の言葉は胸に突き刺さります。対象をありのままに理解するのは難しく、結局、自分の理解できる範囲にまで対象を引きずり落とす、のもよくあることです。



真面目すぎる題材を扱いながらも、その美しい作品世界とイラストで、読者を導いてくれる、そして愛すべき楽しい描写も織り交ぜ、人の虚実を描き出していくその構成力には驚くばかりです。とても心地いい時間、しかし同時に、まだ久我は船戸先生を疑っています。この後、どういう展開で落としてくるのか、と。



でも、この心地いい時間の先にある幸せな結末を信じたいです。この『Under the Rose』と言う作品はどのような終わりを迎えるのでしょうか? 今後、翻弄されても、構いません。もっと、この世界を、キャラクターを、見ていたいです。



今回はアイザック、メイドのメアリ、アーサーの優しさ、それにウィルとレイチェルの表情が素晴らしかったです。子供たちのいたずら描写、そして最後に登場したライナスも。さらに付け加えるならば、ローズは相変わらず最高です。



ローズみたいな存在感あるキャラクターを生み出された時点で、久我はもうメロメロです。そういえば、あの喋れない三つ編みのメイドの女の子はいずこへ……ゲストが来ているからへましないように、奥に引っ込められてしまったのでしょうか?



Under the Rose 5―春の賛歌 (バーズコミックスデラックス)

Under the Rose 5―春の賛歌 (バーズコミックスデラックス)





余談ですが、そうしたテーマを作品で伝えていればこそ、画像の無断転載について(船戸先生のブログ)、このように書かれているのかもしれません。


『Under the Rose』5巻発売・感想は後ほど

月曜日の労働を終え、乗換駅の書店で『Under the Rose』5巻を買いました。しかし、帰りの電車では読むのを我慢しました。夢中になって乗り過ごすことがたまにありますし、予想外の展開で感情を表に出すことになったら困りますので……



家に帰り、食事を終え、風呂にも入り、誰にも邪魔されないひとりの時間を得て、ようやく読み始めます。



Under the Rose 5―春の賛歌 (バーズコミックスデラックス)

Under the Rose 5―春の賛歌 (バーズコミックスデラックス)





昨日、大変なイベントがあって今日は抜け殻に近いので、元気があれば感想は今日中に。


『Under the Rose』5巻・03/24発売

Under the Rose 5―春の賛歌 (バーズコミックスデラックス)

Under the Rose 5―春の賛歌 (バーズコミックスデラックス)





来週03/24はいよいよ『Under the Rose』5巻発売です。単行本派なのでどのように展開しているのか予想がつきませんが、船戸明里先生のブログからリンクされている表紙サンプルを見る限り、「春」っぽく。



また、「紀伊國屋書店 阪急32番街店」のみ、特製ポストカードの配布があるそうです。欲しい……



さらに三省堂の一部書店では複製原画の展示もあるそうです。久しぶりに足を伸ばして、かつて高校時代に通った駿台のある、神保町に行って来ようかなぁ……今のような本ヲタクになったのは、すべてあの街の品揃えのせいだと思っています。



あ、船戸先生のリンク先には作品の登場人物の話と、若干の文学の話も書かれています。これ、面白いですよ。個人的には「存在しない理想」が大切だと思います。現実にそれが無いのをわかっていつつつも、「わかってはいるが、わかるわけにはいかん」的に、でもそれを求めていかなければならないと思うのです。


『Under the Rose』後の世界の作品・『Honey Rose』完結

気づいたら、ページをめくり終えていた

配信されたコミックス、先ほど、読み終わりました。



感想はただ一言、「気づいたら終わっていた」。ここまで周囲に目が向かず、ただひたすらページをめくったのは久しぶりです。読み終わった後の余韻も非常に深く、この感覚を誰かに伝えたくて、日記を書きました。



冒頭から、前回のクライマックスの続きが始まります。そこでの展開の早さに驚きつつも、そこから二転三転する物語。「謎」がどうのこうのと余計なことを考える時間は一切なく、一気にラストまで行きました。



Honey Rose』の物語でストーリーをメインで動かすのはライナスですが、それが故に、『Under the Rose』の1巻は主人公だったのかなぁと。



そして『Under the Rose』謎の核心であるウィリアムとフィオナとの関係性、複雑に絡まって見える「真相」の先にある、人々の感情。人間描写、貴族と屋敷と使用人と言う限定された「密室」の世界は、完璧に構築されています。



比類なき世界を、数年前に構築されていたんですね。その世界を、こうして知ることが出来て、嬉しいです。言葉で感想を語るよりも、もう一度読み直したい。何度でも、読み直せます。



Under the Rose』の子供たちが、どのようなプロセスを経て『Honey Rose』の大人になったのか?



Honey Rose』を読んだ人からすれば、『Under the Rose』に登場した子供たちの過去に驚愕したことでしょう。しかし、月刊ベースであれを読んでいては、「まだ次は出ないのか!」と、ファンは「次の話」に渇いてしまっていたかもしれず。



フィオナとウィリアムのエピソードが、いちばん好きでした。あの肌感覚での描写は、心に響きます。劇的なところは苛烈なまでに劇的なのですが、ほっとさせるところの描写も徹底していて、もう翻弄されっぱなしです。



と、この感想を書いていて読み直そうとして周囲を見渡して本を探してしまってから、「あぁ、そうか、デジタルなのか」と。紙が好きな人間としては、単行本化を待ち望みます。




最高級の「ヴィクトリア朝」作品

本当に思うのですが、このクオリティならばBBCなど海外でドラマ化したらより多くの人にふれることが出来るのではないでしょうか? ローズのエピソード、貴族の価値観の描写含めて、日本ではあまり見てこなかった高いレベルのドラマ性で、キャラクターの描写、フィオナの可愛さも群を抜いています。



とはいえ、船戸先生の描かれたキャラクター、世界、構図だからこそ、ここまで読者を魅了するのでしょう。繰り返しとなりますが、この作品の「存在が伝説」として語られていた、これまで読めなかったことは、ただ残念なことです。



しかし、ウェブにおいて読めることは幸せなことであり、とにかく、この日記に接した方は、騙されたと思って「1〜3話」から始めてみてください。



久我の中では、これまで接してきた映画・映像・小説含めて、「最も美しく、完成度が高い、ヴィクトリア朝を描いたストーリー・作品」となりました。同人活動を始めてから出会った、このジャンルにおける「至上の世界」です。



ただ、『Under the Rose』を含めての感想でもあります。相互に補完しあえるこの作品の魅力は、言いがたいです。




二者択一、一生に一度の「選択」

まだどちらの作品を未読の方は、ウェブで『Honey Rose』を先に読むか、『Under the Rose』を先に読むか、ご自分でお決め下さい。



どちらを先に読むかで、作品の感想、受け止め方はまったく違います。片方を選べば、もうひとつの楽しみ方は永遠に失われてしまうでしょう。



久我は『Under the Rose』しか選べませんでしたが、『Honey Rose』を選べる今、その選択肢があることは面白い出来事ではないかと、思うのです。



謎に翻弄されたいならば、『Under the Rose』が先の方がいいかなぁと思いますが、それは自分が『Under the Rose』を先に読んでいるだけなので、フラットな意見ではありません。ただ、もう一度読みなすとしても、『Under the Rose』を先に選ぶと思います。



船戸明里先生の作品が、より多くの人に読まれることを、ただ願います。



Under the Rose (1) 冬の物語 バースコミックスデラックス

Under the Rose (1) 冬の物語 バースコミックスデラックス




2009/05/24注:「まだ読まない」のも選択肢の一つです

読むことによって、現在連載中の『Under the Rose』の楽しみ方も変わります。なので、「まだ読まない」ことも、選択肢の一つとしてご検討下さい。久我はもう、それを選べません。


関連するサイト

[はにろ][あんだろ](船戸先生のブログ内での配信告知)

『Honey Rose』公式サイト



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