ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。同人・出版活動の報告を含みます。

メイドさんを追いかけた六年〜同人誌で振り返る

総ページ数が膨大なものになったと今更ながら気づき、同人活動を振り返ってみました。千ページまであと8ページです。ページ数がすべてではないですが、よく続いていますね。自分のことながら。



これだけヴィクトリア朝と屋敷とメイドさんを書いても、伝えきれないというのは、奥深いような、己の未熟を痛感するような。二四才から始めたこの世界。人生三十年の中で最も時間を費やし、書き連ねた言葉になるのでしょう。



ただひとつだけ言えるのは、これだけ描いても、金髪・蒼い目のメイドさんのいる屋敷の風景には、まだ届かないのです。



以下、どちらかというと当時を振り返りながらのざっくり紹介です。本のスペック・詳細はリンク先でご確認下さい。


2001年冬:落選:1巻:貴族とその屋敷:84P



だいたい2000年ぐらいから同人活動を始めています。当時あの時代を描きたかったものの、満足できる資料本を見出せなかったので、自分で作ることにしました。元々は「貴族」を描くつもりだったのですが……



「屋敷あってのメイド」「貴族あってのメイド」と言うもので、「メイドだけ」と言う切り離された存在では、本来の価値を発揮できない、と思っていました。



そこが、最初のオリジナリティでした。



あと、これは性格的なものですが、「知りたいのは事実」です。何も知らずに、物は語れません。したかったのは「議論」ではありません。なので、久我の同人誌は「事実に基づき、判断し、想像した」ことが書いてあっても、「メイドはこうであるべき」という論理はありません。



論理に好き嫌いはありますが、事実は事実なのです。



多くの人に、自分が感じる魅力を伝えたかっただけですが、それが唯一の答えだとは思っていない、人の数だけ解釈は存在するので、出来れば、「判断材料を提供したい」と思っていました。



2002年冬:2巻:貴族と使用人(一):52P



一年目は「コミケ落ちたけど本作っちゃった」、で二年目は「物足りないから、深めよう」でした。このときから、英書に目が向き始め、現在の方向性が決まりました。和書に、知りたい事実はあまり無かったのです。



運も良かったのでしょう。



偶然AMAZONで「表紙買い」した『THE COUNTRY HOUSE SERVANT』の筆者Pamela Sambrook女史の本は、以降、新刊が出る度にほとんど買い続けています。また、『ヴィクトリアン・サーヴァント』の原書に出会ったのも、このときです。



The Country House Servant

The Country House Servant



注:久我が買った当時はこれ。表紙最高です。今はPB(ASIN:075092988X)で出ています。


ヴィクトリアン・サーヴァント―階下の世界

ヴィクトリアン・サーヴァント―階下の世界



これが2005年に翻訳された和書で、原書はこちら。



The Rise and Fall of the Victorian Servant (Illustrated History Paperbacks)

The Rise and Fall of the Victorian Servant (Illustrated History Paperbacks)





上級使用人である執事やハウスキーパーに着目して、そこから段階を追って「メイド」への道筋を描いたのも、個人的には正しかったと思っています。



本との出会いだけではありません。コミケでは初参加・完売という手ごたえもあり、気持ちがこちらへ向かいました。


2003年夏:外伝1巻 Victorian Life Style Vol.1:52P



その延長線上で本を作ろうとしたとき、ちょっと休憩が必要になった、語りたいことを語るには準備が要る、というので外伝を作りました。



外伝のコンセプトは「雑誌っぽく、でもマニアックも」と言う感じで、ここで結構、新しい読者の方に出会えたと思います。


2003年冬:3巻:貴族と使用人(二):108P



で、自分にとって絶対の確信を得たのは、3巻です。ちょうど『エマ ヴィクトリアンガイド』の発売に重なりましたが、目次や内容を見ても、「戦える」との確信がありました。



それは、自分が歩んできた方向が同書と異なっている、であればこそ重なる部分が少なく、「決して真似にならない」価値を持てていた、との自負にもなりました。



内容も「ようやく、メイドさんだ!」と、家政系メイドを描くことに喜びがありました。実に、ここにいたるまでに二年以上を要したのですから。尚、『エマヴィクトリアンガイド』の参考文献には、上で挙げた英書が「両方」含まれています。



エマヴィクトリアンガイド (Beam comix)

エマヴィクトリアンガイド (Beam comix)




2004年夏:外伝2巻 Victorian Life Style Vol.2:68P



この年は、自分にとって最も大きなイベントがありました。それは『MANOR HOUSE』との出会いです。久我が同人メイド界に残したもの、と誇れるものは、『ヴィクトリアン・サーヴァント』の原書を伝えたこと、そしてこの『MANOR HOUSE』を、広めようとしたことにある、と今でも思えます。



Manor House [DVD] [Import]

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最初の紹介が2004/04/15の日記:最高のメイドさん・屋敷映像。あれから既に2年半が過ぎますが、色あせない作品です。



が、その自負が思わぬ方向に転んだのも事実です。外伝2巻はマニアックに作りすぎ、読者を置き去りにした感じもしてしまい、自分としては不本意な結果となってしまいました。



ちなみに、資料の濃さで目立っていませんが、短編集「リリィ」と「侯爵と共に」は結構気に入っています。


2004年冬:4巻:貴族と使用人(三):100P



気を取り直して、「料理系メイド」を描いたのが、4巻です。あまり記憶がないぐらいに忙しかったような、そうでもないような。料理を描くべきか、仕事としての側面を描くべきかで、悩んだような気もします。



3巻が自分の中で大きすぎたこともあって、「続き」を作るのがとても苦しかった、プレッシャーだったんですね。ただ、意外と後に繋がる重要なキャラクターを登場させていたのを、最近読み直して気づきました。



実は、今回の最新刊の主役セシリーは、この4巻「スティルルームメイド」で登場していました、と筆者が思い出すぐらいに、この巻はあまり記憶に残っていないのです。



その結果、折角の設定や伏線を使えない結果にもなりましたが……



イギリスに初めて行ったのもこの年です。


2005年夏:5巻:使用人の生活風景:100P



今思えば、自分にとっての転換点がこの巻でした。



それまでの久我は、「メイドは屋敷と主人がいてこそ」と思いましたし、そこに魅力を感じればこそ、その風景や、仕事の内容を伝えるのに必死でした。



しかし、この巻のテーマとした「転職」の資料を調べていくと、現代との類似点が多すぎたのです。久我は何度か転職していますので、共感する部分が多く、「そうか、メイドさんって、会社員だったんだ」「働く自分の先輩みたいなものか」と、新しい視点を得ました。



この結果、これまで物語を引っ張っていた「主人とメイドの絆」の主軸である公爵家の幼い後継者ジョアンとメイドのレカミエが表舞台から去り、「働くメイドたち」が主役になりました。



ただ、これは後追いの話であって、まだこの頃はそれほど固まっていませんでした。



セシリーを主役にした中編を書いたのが、この巻です。


でも、こんな馬鹿な日記/「紳士再び」書いてました……



創作もちゃんとしてます。自分で忘れてばかりですが。
外堀は埋まり、山が出来そうな勢いです(00:55)


2005年冬:6巻:使用人として、生きて:68P



カントリーハウスの魅力をすべて語りつくしたい、それがこの6巻です。方針決定〜カントリーハウスの使用人を扱う理由に、なぜカントリーハウスを描いたのかを書きましたが、最初の頃から抱いていた気持ちは、すべてここで書き尽くしました。



しかし、私生活はボロボロでした。イギリス個人旅行をしたものの、仕事が尋常ではないトラブル・忙しさに見舞われ、四面楚歌、苦しさのあまり逃げ出したくなるほどでした。



去年の今頃の日記を今、読み直そうとして、一瞬、躊躇するぐらいです。


2006年夏:7巻:忠実な使用人:180P



「正直、読者がいるのかなぁ」と思ったものの、必要ですし、伝えたかったので作ったのが、この「男性使用人」の本です。ページ数は過去最高、値段も過去最高となりましたが、この領域において、日本最高の本を、自画自賛ではなく、作れたと思っています。(手直ししたいところも多くありますが)



この本は、Pamela Sambrook女史とPamela Horn女史がいなければ、生まれませんでした。その辺はあとがきに書いています。



で、面白いのが、「主人との絆」を離れて、「個人として働き、生きるメイドさん」への志向を強めたはずなのに、「主人との強い絆で結ばれた実在のメイド」の資料本を手に入れて、感銘を受けているのです。



あ、男ばかりが目立ってますが、実は「メイドさんの恋愛と結婚」や「主人との絆」も、いい解説ですよ。


2006年冬:8巻:使用人として、生きて:180P



ようやく、8巻です。仕事が猛烈に忙しくなった6巻辺りから、自分の中で「会社員として組織の中で働くこと」と「メイドを描くこと」が一致した、と思うようになりました。



「主人との絆」

「屋敷で働くメイド」



それを描くには、もう自分の中でメイドさんは動き出し始めていました。彼女たちは仕事の中で生きて、自己主張を始めていたのです。



ちょうど自分自身、社会人人生の転換点でもあり、管理職に就いたり、自分を成長させる必要や転職、機会、人を育てることなどに目が向き、視点が変わりました。



メイドさんは、百年前の先輩なのです。



「屋敷」

「職業による自立」

「働くことの多様性」

「人の上に立つこと」

「人の下で働くこと」

「仲間に出会うこと・学ぶこと」

「主人になること」

メイドさん

「男性使用人」



そして、「メイドさん」を卒業し、「ハウスキーパー」になること。



これまでの長きに渡る同人生活で培った視点、感じてきた魅力を多様に表現したくて、短編を48本作りました。未熟で物語として完成していないものもあるかもしれませんが、単なる「主人と使用人の絆」ではないものを求めつつ、けれどやはりそこに帰結していくこの不可思議なものを、感じていただければと思います。



前半のほとんどはネットで公開しているものです。



今までの活動の振り返りなどはだいたい同人活動全般ですが、今回は作品面について紹介してみました。ここで書いていることもいろいろありますが、読んでいただいて、伝わったことが、すべてです。


毎年年末年始は振り返り

2005年を振り返って大きなプラスの出会いたち

2004年を振り返ってコミケ後に振り返りその年のニュース

2003年を振り返って制作日記2003/12