ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

『ローマ人の物語13 最後の努力』(塩野七生・新潮社)

高校時代に出会い、実に十年以上読み続けているシリーズの最新刊が発売されました。今まで同様、世界史を知らなかった自分にとって、「東西のローマ帝国」や「コンスタンティノープルの誕生」の辺りは非常に新鮮な話でした。



最後の方、キリスト教を保護したコンスタンティアヌスを考察した部分には、人間が一生のうちに出会えるか出会えないかというレベルの、綺麗なロジックがありました。



かつてこれほど明快に、わかりやすく、そして鮮やかにキリスト教を語った言葉を知りません。自分自身は無知であり、塩野さんの書いたロジックも誰か知識のある人が見れば矛盾や誤りがあったり、原典があるのかもしれません。



しかし個人的には、塩野さんの築き上げたロジックは、誰かの言葉ではない、ローマ史を自分で調べ、肌で感じるまでに徹底して咀嚼した塩野さんだからこそ作れた言葉、到達できたロジックではないのでしょうか?



何か、塩野さんの遺言にさえ、思えました。



宗教の持つ狂信性を『銀河英雄伝説』『アルスラーン戦記』『創竜伝』などで描いてきた田中芳樹氏は『創竜伝』の中で、主人公の口を借りて塩野七生さんをあげつらっていましたが(モンゴル帝国に関して)、それを反省して欲しいと思えるような、美しいロジックです。このロジックを読むためだけに、これから既刊すべてを読みはじめる、それだけの価値があります。



論理の美しさでは、『竜馬がゆく』で大政奉還の魔術的な意味合いをわかりやすく解説した司馬遼太郎さんの文章も忘れられません。



薩長にとっては「将軍家が拒否した場合、武力征伐できるだけの軍事力を京都に配備できる大義名分を得られる」、竜馬の土佐藩にとって「忠義を尽くしたい徳川家への義理立てができる」、徳川家にとっては「家を存続して戦争を避けることができる」、ひとつの政策・方針が、見る人・立場によってまったく異なる意味合いを持つ、この司馬さんによって描かれた「魔術的な」大政奉還は、『竜馬がゆく』で最も好きな箇所です。



こんな、震えるほどに感動的な文章に出会えて、幸せです。



ローマ人の物語 (13) 最後の努力 (ローマ人の物語 13)