ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

『エマ ヴィクトリアンガイド』

エマヴィクトリアンガイド (Beam comix)
注:この文章は2003/11/26の日記を再編集したものです。



『エマ』3巻と、『ヴィクトリアン・ガイド』を読みました。ガイドはコミックスと同じ大きさだったので、少し意外でしたが、書店売りのスペースを考えると、妥当ですね。



一部の構成は、以前日記で予想した「『ヴィクトリア朝百科事典』に森薫さんのイラスト」という予想通りの物でしたが、内容は予想以上でした。



数年前、同人誌を作っていなかった頃ならば「こんな便利な本があるんだったら、同人誌を作らなかったよ」と思ったかもしれません。



実際は自分の興味対象・関心分野と異なる物も多いので、作っていたでしょうが、自分が書けない部分や、作ろうと思って整理できない部分も書いてありました。



書かれている文章から、だいたい、どの本を参考にしているかもわかるぐらいの深淵に落ち込んでいるので、「この本から得る新しい知識」は、自分にとってほとんどありません。



しかし、「整理されて読みやすく、わかりやすくなっていること」、森さんの絵が楽しませてくれる点で、有り難い物です。ロンドン市内のマップとガイドも、素敵です。



「何も原作を知らない人にも推薦できる」資料に仕上げ、さらに言えば、「この分野のどの研究書よりも読者に優しく、値段も安く、最高の一冊」になっていると思います。



「コミックス」に縛られる売り方は勿体無いですね。ヴィクトリア朝関連の資料は値段と敷居が高い本が多く、生活誌的アプローチは少ないので、この一冊が、コミックスだけで終わる売り方にならないことを、願います。



その筋では有名な話ですが、ジェーン・オースティンの『分別と多感』は、映画のタイトルが『いつか晴れた日に』なった途端、映画も原作も売れたそうです。



各書店の歴史コーナーに並べるべきと、本気で思いますし、これが売れなければ、出版社の大きな責任でしょう。ディケンズやその他、イギリス作家の本と絡めて売って欲しいものです。



「筆者の方が、あったら便利」と思って作られている構成で、大学の先生などの専門家が作った物より、圧倒的に便利です。1ページの情報量が多すぎる気もしますが、絵がどのページにも入っていて、いい構成です。



英書の参考文献は阿羅本さんの同人誌や、自分の同人誌で取り上げた、有名どころ(?)の資料が重なっていますね。奇書『THE COUNTRY HOUSE SERVANT』もあります。あれを読んだかと思うと、同情を禁じ得ません……というか、あれに手を出した日本の仲間がいるという事実は、嬉しいです。



和書は自分の知らない本も多くありますし、書かれていないもので、是非にも読んで欲しい本といえば、『ヴィクトリア朝万華鏡』ぐらいですね。



自分が作るスタンスと似ていないところがほとんどなので、今回の本を読んで、今までの原稿を直す部分はありません。その点では助かりました。



このガイド本によって関心を持ち、各メイドを深く知りたい人には、本同人誌は適していると思いますし、本同人誌で解説していない部分(当時のイギリス全体の歴史や、細かいアイテムなど)で、ガイド本はものすごい参考になるでしょう。



ガイド本効果で興味を持つ人が増えるといいなぁと、思います。ただ市販本としては今までに無いほど高いクオリティで、今後、同人のメイドさん資料本への興味や需要が減っていくのではないかとも……





以上、どれかひとつでも、心に残るような作品をご紹介できていれば、幸いです。そして、アニメ版『エマ』の成功を、願っております。



もっと多くの資料に興味のある方は、ヴィクトリア朝の資料一覧をご覧下さい。