ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

コミックス『エマ』

エマ (5) (ビームコミックス)
言わずと知れた、正統派メイドさんコミックスです。舞台は19世紀イギリス、ヴィクトリア朝産業革命により飛躍的な経済発展を遂げた時代を背景に、当時の暮らしを丁寧に描いた作品です。



主人公エマは引退したガヴァネス(女家庭教師)ケリーの家で、メイドとして働いています。そこにケリーのかつての教え子であった、上流階級の子弟ウィリアムが訪問し、エマと出会います。ウィリアムは彼女を見初めて、エマもウィリアムに好意を抱き、物語は始まりますが、この恋愛は当時の価値観では、認められないものでした。



イギリスにおいて階級の壁は高く、『エマ』の作中でも有名なディズレーリの小説の言葉を元にした台詞が記されています。メイドであるエマに好意を寄せるウィリアムに対して、父親はこう述べます。




『英国はひとつだが、中にはふたつの国が在るのだよ
 すなわち上流階級以上と、そうでないもの』

『このふたつは言葉は通じれども別の国だ』

『エマ』1巻P.184より引用 森薫:作/エンターブレイン刊行



「別の国の住人」であるメイドと結婚することは、社会的地位の喪失に繋がりました。ウィリアムがエマとの結婚を選べば、父親はウィリアムの相続権を剥奪し、彼を屋敷から追い出すでしょう。



幾多の障害を乗り越え、果たしてふたりは幸せになれるのでしょうか? 忠実に再現された価値観と生活風景が、物語に深みを与えます。筆者の森薫先生のヴィクトリア朝に対する理解が、巻を重ねるごとに深まっています。