言わずと知れた、正統派メイドさんコミックスです。舞台は19世紀イギリス、ヴィクトリア朝。産業革命により飛躍的な経済発展を遂げた時代を背景に、当時の暮らしを丁寧に描いた作品です。
主人公エマは引退したガヴァネス(女家庭教師)ケリーの家で、メイドとして働いています。そこにケリーのかつての教え子であった、上流階級の子弟ウィリアムが訪問し、エマと出会います。ウィリアムは彼女を見初めて、エマもウィリアムに好意を抱き、物語は始まりますが、この恋愛は当時の価値観では、認められないものでした。
イギリスにおいて階級の壁は高く、『エマ』の作中でも有名なディズレーリの小説の言葉を元にした台詞が記されています。メイドであるエマに好意を寄せるウィリアムに対して、父親はこう述べます。
『英国はひとつだが、中にはふたつの国が在るのだよ
すなわち上流階級以上と、そうでないもの』
『このふたつは言葉は通じれども別の国だ』
『エマ』1巻P.184より引用 森薫:作/エンターブレイン刊行
「別の国の住人」であるメイドと結婚することは、社会的地位の喪失に繋がりました。ウィリアムがエマとの結婚を選べば、父親はウィリアムの相続権を剥奪し、彼を屋敷から追い出すでしょう。
幾多の障害を乗り越え、果たしてふたりは幸せになれるのでしょうか? 忠実に再現された価値観と生活風景が、物語に深みを与えます。筆者の森薫先生のヴィクトリア朝に対する理解が、巻を重ねるごとに深まっています。