ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

小説『荊の城』

荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)
2004年に『このミステリーがすごい!』「海外作家」で1位を受賞した作品です。筆者のサラ・ウォーターズは前作『半身』でも、2003年の同賞1位を受賞しました。今、日本で最も注目を集める作家のひとりです。



『半身』も『荊の城』も、ヴィクトリア朝を舞台としています。主人公はスリの少女、スーザンです。彼女は人を騙して生きていく『紳士』に持ちかけられて、あるお屋敷の侍女になり、お嬢様に仕え、彼女を騙すのに一役買うことになります。



物語はスーザンの一人称で描かれ、彼女の価値観で物を見るので、日の当たらない稼業の彼女がメイドや使用人をどう見ているか、彼らの衣服をどう思っているのかなど、かなり珍しい視点です。



侍女として働くので「侍女の仕事を叩き込まれる」シーンや、実際に侍女となって屋敷に上がり、上級使用人として生活をする風景は面白いです。



スーザンは「部外者」であり、使用人を軽蔑しているような人間ですが、の彼女が「人に仕える『役目』を演じる」ことで、次第に令嬢モードに好意を抱く心理描写は秀逸です。物語はやや長いですが、ラストシーンは見事です。