ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

DVD『THE IMPORTANCE OF BEING ERNEST』

最初は小説から

ずっと昔、『名探偵ポワロ』のドラマの中で出てきたオスカー・ワイルドの『真面目が肝要』。そこで原作に興味を持ち、1〜2年前に小説を読んだところ、電車の中にもかかわらず、ユーモアに思わず笑ってしまうほど面白い本でした。テレビの中のお笑いとか、今風のコメディと違い、何段階にもひねられていて、笑わそうとしないのに笑ってしまう、虚が実に、実が虚に置き換わっていく構成が見事な作品なのです。



が、ドラマがあるとはずっと知りませんでした。


コリン・ファース主演

最近、機会があって『スパイダーマン2』を見ました。この映画の中にはヴィクトリア朝的舞台に置き換えると面白いネタが幾つもありましたが、ヒロインのDJが舞台で演じていた劇が、この『THE IMPORTANCE OF BEING ERNEST』でした。そこで、「こんな有名な映画の中に出るぐらいの劇なんだから、ヨーロッパだとメジャーなのかな?」「だったら、これって映像化しているのかなぁ」と探したところ、あっさり見つけました。



世界が狭いなぁと思ったのは、『高慢と偏見』のコリン・ファース、そして『クィーン・ヴィクトリア』で女王役を演じているJudi Denchが出演していたことです。という長い前置きから始まりましたが、話のネタはさておき、ロケ地とカントリーハウス、それに主人と使用人とが絶妙です。


あらすじ

これだけでもう胸がいっぱいです。メインキャストは4人。上流階級のジャック(コリン・ファース)はカントリーハウスに住んでいるものの、地方での暮らしが退屈で、架空の弟Ernestを名目にしてロンドンに出かけていきます。被後見人のセシリーや使用人たちの前では眼鏡をかけ、謹厳実直な態度の彼も、ロンドンに出て行くと態度は一変、Ernestとして振る舞い、羽を伸ばします。



もうひとりの主人公はアルジー。享楽的な暮らしをする彼は借金ばかり。ジャックとは親友で遊び仲間、というのでしょうかね。ロンドンに来るジャックは名前をErnestと偽りつつ、アルジーの従妹グェンドリンと相思相愛になりますが、結婚の話になると、彼女の母ブラックネル卿夫人が立ちはだかるのです。



アルジーはアルジーでセシリーに興味を抱き、ジャックのカントリーハウスを探り出すと、セシリーに会うため、出かけていきます。そこで彼は、Ernestを名乗るのです。夢見がちな乙女であるセシリーは、いつもジャックから聞いていた「Ernest」に出会い、恋に落ちるのです。



 あとはもう、小説なり映画で確かめてください。真面目に馬鹿馬鹿しく、上質の笑いが約束されています。


上流階級のロンドンとカントリーハウス

『THE IMPORTANCE OF BEING ERNEST』(Cheeky's Garden★英国党宣言)の解説には、この映画に出た舞台の建物名が詳細に出ています。



物語の舞台はロンドンでは「アルジーのタウンハウス」「Savoyホテル」、そして個人的に何回見ても飽きない、「高い天井、両翼に広がる階段」のブラックネル卿夫人の屋敷として登場した「Lancaster House」! この屋敷を見学できれば本望です、と言えるほど理想的な空間設計です。



建っている場所はバッキンガム宮殿の近く、スペンサー・ハウスのすぐ傍、聖ジェームス宮殿の裏の辺りです。地図には出ていますが、見学は出来ないようです。



そのジャックはロンドンに邸宅を構えています。久我がこの前の旅行で歩いたBelgrave Squareだそうですが、娘の結婚相手を審問するブラックネル卿夫人のお気には召さなかったようです。








ベルグレイブ・スクエアの風景です。今は大使館が多いです。



カントリーハウスはWest Wycombe Park(National Trust)だそうです。パラディアン様式なので、久我的には好みな時代です。



また、夢見がちで白馬の王子様の登場を信じるセシリーの空想に使われた当時の絵画には、何度か書いていたジョン・エヴァレット・ミレイの『遍歴の騎士』が含まれていました。この絵画は確か、日本で開催された『ヴィクトリアン・ヌード展』で展示されていたものです。そういう繋がりも面白かったです。


使用人の登場頻度は?

アルジーの執事は味があって、給金を貰えている様子が無いにもかかわらず、きちんと仕事をしていて、その辺りの苦情も上品に伝える雰囲気が良いです。ジャックのカントリーハウスにはセシリーのガヴァネスでミス・プリズム(ドイツ語を教えている)や、執事やメイドがいっぱいいました。



執事とミス・プリズム以外はさして目立ちませんが、主人たちの会話というのか、ちょっと困ったような会話の時に、居合わせたメイドたちが顔を背けるようにして動かなかったのは、映画上の演出か、当時のコードでしょうか?


年代はちょっと新しい?

ヴィクトリア朝かと思いきや、映画の中では気球や自動車が登場していました。オスカー・ワイルドが描いた時代はヴィクトリア朝なのですが、映画の中ではエドワード朝っぽい設定にしたのかもしれません。



ヴィクトリア朝という時代に連想される退廃的で偽善的であるというマイナスイメージ、その中で退廃的イメージを担わされるオスカー・ワイルドですが、彼の描いたこの劇は、非常に明るいです。ゴシックや重々しいまでに装飾過多、そして『シャーロック・ホームズの冒険』やサラ・ウォーターズヴィクトリア朝の雰囲気を一切感じさせず、現代劇としても通じるほどに、そのユーモアも会話も素敵な作品なのです。



トマス・ハーディの重苦しい雰囲気が苦手な人でも、この喜劇はオススメできます。映画には字幕もついているので、英語が不得手な方も安心です。



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Region2なので、パソコンのDVDならば見られます。普通のテレビに繋いでも、PAL形式なので視聴できません。