ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

その8:最終日

かなり間隔があきましたが、ラストです。


起床:06:00



最終日、前回の旅行ではヒースロー発11時の便で帰国しましたが、今回の全日空は19時発。十分に余裕があります。この日は、特に細かい予定は考えていませんでしたが、折りよく日曜日だったので、日曜にしか開いていない「Spencer House」訪問は確定でした。開場が10:30、微妙な時間なので他に立ち寄ることも出来ません。



他にどこか行きたい場所が無いかを真剣に考えましたが、「どうしても」という場所は思い浮かびませんでした。前回の旅行もそうでしたが、ある程度滞在していると、段々と疲れや倦怠が襲ってきて、観光に対して乗り気ではなくなってきました。いわゆる幸福感の飽和、ですね。



イギリスに行ければ幸せだったのに、段々と、そこに麻痺してくる、という感じでしょうか。本音を言えば、体が疲労していただけかもしれませんが。












予定1:Cromwell Roadを歩く

この日は最初にチェックアウトします。それから、何度かガイドブックを見て練習していた、「ホテルに荷物を預ける」お願いをしました。旅行前、いろいろなサイトをチェックしていましたが、ヨーロッパでは当たり前のサービスだそうで……



時間が有り余っているので、ひとまず、昨日とは違った経路でロンドンを歩こうと、Cromwell Roadを東に向かって進みました。もう、ロンドンを歩きまくりました、今回の旅行は。


自然史博物館

最初に通るのが自然史博物館、まだ開館していません。去年はここで友人と、おバカな写真を撮っていました。ところがおバカは世界共通らしく、外国の人も似たようなことを……その時は日曜日に訪問して、子供がものすごい数でいました。家族揃って、公共の博物館に来るんでしょうね。日本ですと、上野になるんでしょうか。



名探偵ポワロ』でバーリントン・アーケードが舞台になった宝石泥棒の話で、この自然史博物館も舞台のひとつとして登場しています。


ヴィクトリア&アルバート博物館

何度もお世話になっている博物館ですが、ここもまだ開いていません。ふと顔を見上げてみると、上の階の外壁装飾に、彫像が幾つもありました。「もしかしたら」と思って探すと、案の定、ここでもミレイに出会えました。





ここまで来ると、久我の運がいいというより、ミレイがそれだけ有名なんでしょうね。


ハロッズ



開店しているじゃん、と最初に思いました。この時間帯は開店していませんが、年末に向けて、日曜日も営業とのこと。お土産を買いたい人、足を踏み入れたい人は事前チェックを。



今回の久我はウォーキング仕様だったので、結局、素通りでした。


予定2:HydePark



高級ホテル、マンダリン・オリエンタル、入り口には背が高くカッコいいドアマンがいます。いつか、泊まってみたいものです……





そのすぐ近く、連日通ったHydeParkの中は自転車レースの真っ最中でした。もう、なんとなく気だるかったので、ベンチに腰掛け、日に当たっていました。こういう時間も、いいのでしょう。







写真は馬の飲み水用の石桶です。ロットン・ロウがあるぐらいですから。






予定3:Greeen Park

それから、先日とは別の道を使って、GreenParkへ向かいました。日本大使館を眺めつつ、GreenParkの中を散歩して……




予定4:Spencer House

本当にあっているのかわからない





前日下見をしたものの、実はどこがSpencer Houseかの確証を得られませんでした。表に看板や目印が何もないのです。唯一、GreenPark側から見た屋敷の姿は写真が幾つもあるのですが、似ている建物があって、ちょっと判断に困りました。



が、目星をつけたところで待っていると、観光客っぽい人も姿を見せます。さらに、入り口の扉が開いて、中から出てきたお姉さんが小さな立て看板っぽいものを置きました。



ここが、Spencer Houseでした。


一流と思しきお姉さんたち

これが「英国クオリティです」と言わんばかりに、受付にいたお姉さん3名は背が高く、美しい人ばかりでした。屋敷で言えば金色の髪のパーラーメイド、ですね。S級です。ハウスキーパーっぽいおばさんもいましたが、その方も昔は美しかったのだろうなぁ、威厳あるなぁという感じで、ハウスキーパーっぽく、現場を仕切っていました。



中に入ると荷物を預けて、後はガイドの始まる10:30まで待ちます。Spencer Houseはバッキンガム宮殿のように時間での入場者数に制限があり、また屋敷の中の移動は自由ではなく、ガイドのコントロール下に完全に置かれます。



入場まで待機する部屋はMorningRoomで三方に肖像画が飾られています。部屋としてはちょっと狭いのですが、Spencer伯爵がビジネスの目的で使うとのことです。


多国籍

観光客は、多種多様でした。フランス、アメリカ、イギリス、そして日本。「本当に観光地で日本人に会わないなぁ……」と思いました。地下鉄のエスカレーターで日本人旅行者が近くにいた時、日本語に聞こえず、しばらく認識するのに時間がかかるぐらい、日本語を聞きませんでした。



それはさておき、ガイドは初老のおばあさんで、懇切丁寧に解説してくれます。英語能力が低い久我、本来ならば屋敷マニアの意地を見せたいところですが、SpencerHouseの歴史を何も知りません。なので、よくわからないまま、適当に聞き流していました。



アメリカから来た老夫婦のうち、奥さんの方がかなりマニアックなようで、ガイドの質問にも率先して答えていましたし、深い話題を突っ込んでいました。いるところにはいるものです。ダイアナ妃の勉強をしていれば、この屋敷のことも詳しくなれたかもしれません。



久我が気になっていたのは、ロングブーツに乗馬服っぽい格好をした、「この人、上流階級」という雰囲気を持つ女性でした。上流階級ならば平日に入れないのかなぁ、お供の人はいないけど、でも端然とした人だなぁと。


あんまり落ち着けない?

人が暮らしているところでもあるので、かなり制限があります。部屋に入っても踏み込める場所が限られ、またガイドの方のコントロールで動かなければならないので、今まで自由に、適当に観光していた久我には、若干、負担でした。



屋敷の内装そのものは色彩にメリハリが利いていて、「これぞ屋敷だ!」という豪華で立派な部屋も数多くありました。The Great Roomは本当にGreatで、久我の中のヴィクトリア朝イメージ、緋色を基調にした天井の高い大きな部屋で、きっと天井の複雑な紋様や空間の素晴らしさを、言語でも写真でも、伝えきれないでしょう。



そうかと思えば、薄い若草色の新古典様式的な部屋が幾つもあったり、ギリシア的な円柱があったり、ローマ的な石膏像があったり、個々の要素としては素晴らしいものの、なんというのか、四番バッターばかりのようで、その間を繋ぐ隙間、久我が大好きな廊下や窓、それに階段の下、という要素を、あまり感じられなかったのが、心に響かなかった理由かもしれません。



すごすぎて、麻痺してしまうのです。



本来ならば感覚を落ち着けるため、適当に休んだり、落ち着けそうなエリアでのんびり出来るのですが、時間制限・完全にガイドにコントロールされるので、そういう「間」がありませんでした。





窓から見下ろすGreenParkの光景はなかなかのもので、選ばれた階級の人々という気分を少しだけ味わえましたが、もう少し総合的に屋敷と言う空間を、感得できれば、或いは、もっとこの屋敷についての歴史を知っていれば、面白かったと思います。



尚、ここで結婚式も出来るそうです。他のイギリスのカントリーハウスでも結婚式はかなり受け付けているので、やってみるか、立ち会ってみたいなぁと思います。予定ないですが。


予定5:大英図書館

だいたいこれで正午ぐらいになりました。前回行きたくて行けなかった場所を巡ろうかと、一路、北を目指します。目的地は大英図書館です。かつては大英博物館の中にありましたが、蔵書の増加など様々な理由で切り離されて、今はEustonとSt.Pancraseの中間辺りの場所にあります。





St.Pancraseはものすごいですね。工事中でしたが。





大英図書館です。



特に本を読むつもりは無く、備え付けの書店を物色する程度でした。ここでは特に目新しい本を買うことはありませんでしたが、久我が好きな研究者の本が書棚に並んでいて、「大英図書館お墨付きだ!」と、感じ入った次第です。


大英図書館推薦のメイド本

Keeping Their Place

Keeping Their Place





久我が尊敬するダブルPamelaのうち、『ヴィクトリアン・サーヴァント』の著者Pamela Horn女史ではなく、マイナーな方のPamela Sambrook女史の最新刊なのです。発売と同時に買っていました。



本の内容は、今まで最も足りていなかった部分、「使用人だった人たちの生の声」です。様々な資料本を読んでいくと、いろいろな引用にぶつかります。そうなると、「どうせだったら、そうした引用に使われた本を読みたい」と思うようになります。



就職に際して、転職に際して、それに「紹介状」、主人と使用人の手紙のやり取りなど、手記や日記、手紙など現存する資料を惜しみなく紹介してくれているのが、同書です。


予定6:Foundling Hospital


去年の旅行で存在を知る

観光客にはほとんど知られることが無いマニアックな観光地です。ここの存在を知ったのはたまたまで、去年泊まったボニントンホテルにあったパンフレットです。







読んでみると、ホテルの近くにあった孤児院の紹介で、作曲家のヘンデルや画家のホガースなど、当時を代表する著名な芸術家が支援していたそうです。一度は訪問したいと思っていました。



大英図書館から南下し、しばらく細い道を歩いていくと、到着します。建物は小さく、学校のようでもあります。入り口で確か入場料を払って、中に入ります。ここの活動は現代も部分的に続いているようです。





創始者のトマス・コーラム。



1階はこの孤児院の歴史を紹介しています。創立以来、孤児院の記録が写真やテキスト、それに当時使っていた衣装などで紹介されています。建物の構造図などもありました。



2階は一転して、ささやかながらも美術館のように様々な絵画が飾られていました。キュレーター、というよりも現地のボランティアのおばあさんが、久我に話しかけてきて、部屋の中央にある洗面器のような、陶器の皿を紹介してくれました。



「ホガースが描いたものなんですよ」



画家として知られるホガース、その珍しい作品を、英語を聞き間違えていなかったら、見ることが出来たのです。他にも、テイト・ギャラリーで見たターナーや、英国を代表する画家たちの意外な作品が、ちらほらと見受けられました。



なんというのか、びっくりです。


3階でヘンデルの曲を聴く

3階で動ける場所は非常に少ないのですが、音楽室、というのか、小さな部屋があります。ここにはソファが並んでいますが、そのソファ、スピーカーつきで、ヘンデルの作曲した音楽を、自由に聞くことが出来るのです。



ソファに深々と腰掛けて、孤児院のためにその収益金の一部が寄付された『メサイヤ』を聞きながら、百年以上も前の時代に思いを馳せながら、静かに時間が過ぎていきました。





予定7:大英博物館



1回目に渡英した時のメイン観光地でした。あえてここに近いホテルを選ぶほどでした。

裏側から

今回は裏口から入り、エドワード七世に挨拶して、土産物を物色し、ロゼッタストーンと図書館を見て、通り抜けました。特別に見たいものが無かったので。


古本屋へ

その後は、博物館の目の前の通りにある古本屋に踏み入りました。昨年目をつけていたものの、友人の手前、入ることは出来ませんでした。去年は本を買いすぎて、荷物が異常に重くなったこともあって、今年はなるべく買わないように心掛けていました。とはいえ、眼鏡にかなうものは無く、無事に手ぶらで出ました。





去年泊まったボニントンホテル。


予定8:ホテル、そして空港へ





この時点ではまだ14〜15時ぐらいでチェックインには早かったですが、もうだいたいやりつくしたので、荷物を受け取り、空港へ向かいました。



全日空のカウンターは16時ぐらいには受付が始まっていたので、それからはしばらく、免税店で時間を潰し、後は飛行機の到着を待ちました。飛行機の搭乗ポートが決まるのは、かなり出発時間が迫ってからです。確か、テロ対策の意味があったかと思いますが、前回も、ぼけっとしていました。



それから、飛行機に乗り(満席)、あとはもうぐったりと寝込んで、日本に戻ってきました。日本に戻ってきたら、とても大変な事件が起こっていたのですが、こんな形で、二回目のイギリス旅行、初めての海外ひとり旅は終わりました。



本物のメイドさんには出会えませんでしたが、百年前のメイドさんたち、そして貴族や屋敷には、そこそこ近づけたのかなぁと思います。特に、今回は意地になってロンドンを歩きました。そういう目線、今後に活かせたらと思います。



長々とお付き合い、ありがとうございました。