ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

『英國戀物語エマ 第二幕』第六話「成功と喪失」感想

MANOR HOUSE』を書こうと思ったのですが、ここで書いておかないとやばそうなので、先にこちらを書きました。代わり映えしない前置きですが、前回同様、内容やストーリーの感想ではなく、描写として気になったところや「ここを見ると面白いよ」という制作側のこだわりを見つけていきたいと思います。




見出し

・朝食の話のようで父リチャードの話も

・クリスマス



描写の解説面で説明の都合上、描き方に踏み込んでおります。まだ見ていない方はネタばれになるので、ここから先は読まないようにお願いいたします。










































朝食の話のようで父リチャードの話も

テーブルの上の描写とテーブルクロス

ジョーンズ家です。



何気なく始まる朝食のシーン。エマさんとの再会を焦るウィリアムの気持ちが前面に出ているシーンですが、幾つか気になるところがあります。意外と、と言う言い方は失礼ですが、丁寧に机の上が描写されています。



角度も片側だけではなく、複数の視点で書かれていて、中央に果物、机の上にはトーストやジャムや調味料置き、メニューは遠くてわかりませんが、キドニーや卵料理なんかでしょうか?



飲み物は見たところ、水のようです。



で、今回のテーブルを見ると、机全体ではなく、「個人用のテーブルクロス」(給食でありましたね)を使っています。テーブルクロスは、実に厄介な代物です。ランドリーメイドを調べた頃は「テーブルクロスを洗う頻度について」という記述もありました。洗濯が大変だった時代なので、ごみを払って、何回か使い回すこともありました。



こうしたことを考えると、すべての食事でテーブルクロスを使うと非効率的というか、汚れやすくなるので、使わない可能性もあったでしょうし、今回のような個人でのテーブルクロスは実に合理的です。



ちょうど『MANOR HOUSE』では「テーブルクロスにしみをつけるのは、下品」という上流階級のエチケットが語られましたが、使用人にとってはありがたいルールですね。


使用人は何人つきますか?

記憶にある範囲では『クィーン・ヴィクトリア』(Mrs.Brown)で朝食のシーンがありました。ここではテーブルクロスは一面に敷かれています。また、細部なのですが、女王の食卓では参加する全員に使用人がつき、女王が皿を下げさせると全員分が下げられるシステムです。



テーブルの上にデザートしかなく、そこにコース料理が運ばれてくるこれは「ロシア式」と呼ばれるもので、非常に贅沢な方式です。一人一人に使用人がつくからです。



一方、ジョーンズ家の朝食は、執事だけが給仕につくシステムですね。テーブルの上に皿や料理が並んでいて各人が選択できるシステムで、これは「フランス式」です。その場に給仕する使用人の数が少なくてすみました。



給仕する使用人の数は食事の出し方で変わってきますので、主人とコックと執事はパーティを行う場合、「食事を給仕する使用人がどれぐらい必要か」から、食事のコースを変更することもあったのです。エピソードがあるのですが、今回は紹介できず……


お茶飲まないの?

ふと気づいたのですが、テーブルの上にある飲み物は「グラスと水」だけです。紅茶やコーヒーがありません。で、これは『エマ』だけではなく、事例としてあげた『クィーン・ヴィクトリア』でも同じでした。



何かルールでもあるのでしょうか?


雑談その他

ちなみに『MANOR HOUSE』での朝食は、「部屋」で済ませていました。いろいろと調べていますが、この辺り、基準がよくわかりません。選択権は主人たちにあったのでしょうが、部屋で食べるのかみなで食べるのか……



余談ですが、主人たちが食事をするテーブルの責任者は、執事です。テーブルクロスを敷いたり、フォークやナイフや銀器を並べたり、銀食器を整えたりと、給仕をする以外にも様々な仕事がありますが、執事が関与しない仕事もあります。



それが、今回テーブルの上に並んでいる「果物」です。当時のテーブルの上には果物が盛られていたり、それ以上に、多様な植物(様々な花や緑)で飾られていました。こうした責任者は、ガーデナーになります。



これも場合によりけりで実際は執事の仕事だったかもしれませんし、確か実在の執事フレデリック・ゴーストが上司を褒めた記述もあった気がします。


子供も一緒に食事する?

もうひとつ、上流階級の家庭ではあまり「子供」と一緒に時間を過ごさなかったと言われています。朝食も昼食も夕食も、子供はナースやナースメイド、或いはフットマンの世話を受けて、そのほとんどの時間を家族から切り離されて過ごしました。



MANOR HOUSE』はこの辺を再現して、セカンドフットマンが給仕と世話を、家庭教師が勉強を見ました。『エマ』の原作を含めて、ヴィヴィアンとコリンについてはこのような描写がされていませんが、家庭的な雰囲気というか、大家族的な暖かさがあります。



アニメにおいて、ヴィヴィアンとコリンが一緒に食事をしているのは、母が不在の家庭を慮った、父リチャードの愛情でしょうか。表情が出ていなかったり、社交界の都合を優先したり、するように見えるリチャードですが、表に描写が出ていないだけで、暖かい人なのではないでしょうか?



それを裏打ちするかのように、アニメではリチャード、オーレリア、ウィリアムとグレイス、この四人で描かれた肖像画や居間でのエピソードが盛り込まれています。一瞬の風景ですが、スローで見てみてください。



以下、家族の肖像画が4つ出てきます。



・1:オーレリア(これのみ原作)

・2:両親、ウィリアムとグレイス:書斎

・3:両親、ウィリアムとグレイス、アーサー:庭園

・4:両親、ウィリアムとグレイス、アーサー、ヴィヴィアン、コリン:ピクニック?



原作では「シーン」としてあった描写を、アニメではアニメらしく「カラー」+「流れに織り込む一枚の絵」に仕上げて、別角度で伝える見事なものだと思います。原作とは違った形で、リチャードとオーレリア、そしてウィリアムたち家族の流れる時間を、伝えてくれます。



ウィリアムの屋敷には、これらの絵が並んでいるのでしょう。家族を大事にする「イギリス人らしい」風景が、盛り込まれています。こういう親だからこそ、ウィリアムが社交界のルールを破っても、最後は息子を守るのでしょうね。



感情を表に出さないだけで、最後の基準は「家族」と言う、そんな情愛深い人なのではないかと。



この後に出てくるメルダース家のクリスマスでは、一緒に食事してましたね。クリスマスだから?


クリスマスで来ましたか!

正直なところ、「使用人のパーティ」は期待したレベルではありませんでしたが、今回、「使用人のクリスマス」を描いてきたのは、いい意味で予想を裏切りました。



が、前半の「食事」の話が、リチャードパパの話で広がりすぎて長くなってしまったので、手短に進めます。


クリスマスプディング

エーリヒとイルマがかきまぜているのはクリスマスプディングの材料です。クリスマスプディングに関しては「かきまぜる」「煮る」「ブランデーで火をつける」「食べたときに【当たり】が出る」は、ひとつの大きな流れです。



クリスマスプディングで短編小説を描いた大作家にはアガサ・クリスティがいます。その名も『クリスマスプディングの冒険』。ドラマ版では『盗まれたロイヤル・ルビー』と改題しておりますが、「かきまぜる」「ブランデーで火をつける」「食べたときに【当たり】が出る」ところが、描写されています。



と言う経緯もあり、どうしても食べてみたくなって、久我は初めてイギリスに旅行した折、ハロッズで「クリスマスプディング」を買いました。味はそういうものなのだろうと、思ったよりもおいしかったです。



で、クリスティの小説の中ではそんなに目立たなかった「煮る」を、今回はうまくエピソードに織り込みました。屋敷の大きさを伝える手段として、ですね。数多い使用人にも与えられるクリスマスプディングを一度で作るには、キッチンの鍋では間に合いませんでした。



そこで、ランドリールームの巨大な湯沸し鍋を利用して、ふたりがかりで、肩で担ぐぐらい大きなプディングを煮たのです。『英国ヴィクトリア朝のキッチン』には、確か、流し場(スカラリー)にある大きな鍋で湯を沸かして、屋敷中のお湯を供給したとあったかと。ついでに野菜を煮たりもしたとあったので、そのエピソードから膨らませて、ランドリールームの鍋にしたのかもしれません。







いろいろエピソードがあるのですが、疲れたのでこの辺で……


エレノア

可愛いです。



第一期・第二期で見た中で、最も繊細に描かれていたかと。



今日見た『名探偵ポワロ』の新シリーズ『杉の柩』のヒロインも、そういえば「エリノア」でした。



関連するコラムなど

メルダース家の屋敷のモデルはshugborough(正解でした)

ウィリアムの屋敷のモデルのひとつ〜Kenwood Houseへの訪問記

リスト:-ヴィクトリア朝の生活関連本リスト

公式サイト:英國戀物語エマ



英國戀物語エマ』第二幕の感想

・第一回目の感想は『新しい家』

・第二回目の感想は『月光』

・第三回目の感想は『涼雨』



英國戀物語エマ』第一幕の感想

・第一回目の感想はこちら

・第二回目の感想はこちら

・第三回目の感想はこちら

・第四回目の感想はこちら

・第五回目の感想はこちら

・第六回目の感想はこちら

・第七回目の感想はこちら