ストーリーのレベルと絵の密度、描写の自然さがますます際立っていますね。以前は、「このシーンを描きたい(知識として得た風景を使ってみたい)」ようなところもありましたが、今はもう、視点が完全に「ヴィクトリア朝」に入り込んでいて、自然体です。
8巻からだいぶ肩の力が抜けて、「完結させる」ではなく、如何に短い話数で「綺麗なシーン、魅力的なキャラクター」を描くかに注力している感じがしていて、静かに流れる川のような雰囲気です。完成度が、非常に高くなっています。
映像化(アニメ化ではなく、実写化)してくれないですかね、イギリスのテレビ局で。最近、ジェーン・オースティンの三作品のドラマを見ましたが、一作品一時間半という制約だったので、脚本がひどいものでした。今の『エマ』ならば、本場でも通じるいい映像に仕上がると思います。
いちばん気に入ったシーンは、メイド・アメリアの台詞です。
声を出し、歌を仕事にする主人が喉を痛めないかどうか、乾燥しがちな環境に常に配慮しているからこそ、自然に出てくる主人想いの台詞は、いい意味での「使用人らしい」台詞ですね。ちょっと図々しいぐらいに思える使用人にこそ味がありますし、主人をしっかりコントロールする距離感も大切ですね。(この「花が多い」→「湿度があって、喉を痛めにくい」と主人を思いやる言葉につなげた森薫先生の台詞回しも、非凡だと思います)
「いつ来てもすごい花だ」
「空気が乾燥しなくてようございますわ」
『エマ』9巻「第十二話 三人の歌手(前編)」P.186より引用
今回の主役は久我的にはアメリアです。
あとがきにも登場するぐらいですから……
ストーリーとしては単体の完成度では「三人の歌手」がよかったです。あぁいう話は大好きですし、あの時代のアーティストを描いてみたいとは思っています。
- 作者: 森薫
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