ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

映画『ニコラス・ニクルビー』





AMAZONレコメンドで存在を知り、「1000円」と言う値段と、「アン・ハサウェイ」の文字に導かれて、買った作品が昨日届きました。コストパフォーマンスの点では非常によい作品で、かつディケンズの原作を知らないので、そこそこ楽しめました。



ネタバレしない範囲で概要など。


概要

紳士階級のニコラス・ニクルビー。家族と共に楽しい日々を過ごしますが、生活を豊かにしようとした父が投機に手を出したものの、失敗。屋敷と財産を失い、その上、失意の父も亡くなります。



一家の養い手を失ったニコラス、妹のケイト、そして母の三人は、投機や高利貸しを仕事にするロンドンの伯父ラルフに庇護を求めますが、伯父のラルフは一筋縄ではいかない人間でした。



伯父はただ庇護するようなことをせず、ニコラスには「寄宿学校での教師」という仕事を与えました。



ここまでは正直なところ、「確かに、財産が幾らあるからって、養う義務は無いよね」と、必ずしも伯父のラルフを否定的に見ていなかったのですが、段々と伯父がサディスティックな振る舞いに出ていき、ニコラスやケイトの前に立ちはだかってくるのです。



ニコラスが派遣された寄宿学校は預かった子供を校長一家が虐待し、支配していました。理想主義で正義感の強いニコラスはこの環境に戸惑い、校長一家の振る舞いに忸怩たる想いをします。



さらに、授業料が払えず、こき使われる元生徒スマイクへの強い同情もあって、ニコラスは校長一家と戦い、スマイクを守ることで自分自身のプライドを守っていきます。(寄宿学校は実在の学校をモデルにして、ディケンズはこの小説でその非道を告発した、とメイキングで監督が述べていました)



一方、ロンドンでも問題は起こっていました。伯父はニコラスの妹ケイトのプライドを傷つけるような振る舞い――資金を出してくれる好色な貴族によるケイトを辱めるような言動や行いを助長・甘受――を助長していき、ここでもケイトは生活と言う現実と、「プライド」で苦しみます。



伯父が引き起こす様々なトラブルや問題を、ニコラスが解決する。それもひとりで解決するのではなく、困難に立ち向かっていくニコラスの姿に惹かれた人たちが支えてくれる、と言う展開が繰り返します。



まっすぐな主人公ニコラスの台詞がいちいち、カッコイイのです。なんというか、とても男らしい映画なのです。そうした反動なのか、時間の都合なのか、その分、アン・ハサウェイ演じるヒロインとの関係性に自然さ(ゆとり)が無く、「恋愛」の要素を強めていくところは、展開が速すぎて強引な感じがしました。



ヒロインが、ニコラスを輝かせなかった、というのでしょうか?



伯父がニコラス潰しに固執する理由も、映画ではあんまりわからなかったです。面子を潰されたことや、「お金よりも大切なことがある」と理想に生きるニコラスへの嫌悪の情があっても、悪辣すぎます。



もうちょっと、どうして「そうなってしまったのか」の部分の描写が欲しかったです。ただの悪役になってしまい、可哀想でした。演じた方も、あんまり気持ちよくなかったような気がします。



ディケンズ的な大どんでん返しの最後の伏線も、伯父に救いが無さ過ぎて(「(この絶望を知るならば)今日より前に死ねばよかった」)的な台詞は、この場面の直後に出てくるハッピーエンドの場面だけでは覆せない暗さを残したのではないでしょうか?



全体的に見れば映画の時間の短さもあってか、ちぐはぐなところも目立ちますが、生き生きとしたキャラクターたちに華があるので、この値段ならば見る価値はあると思います。アル中の執事もめちゃくちゃいい味出してましたが、ちょっと描写が足りず、もったいなかったですね。



唯一気になったのが、「寄宿学校で物を教えてもいい」というような申し出をしたケイトが、伯父から「お針子」の仕事を紹介され、簡単に受諾したことでしょうか? まだ「物を教えるガヴァネス」的な立場の方が、「激務・薄給」で知られるお針子よりも、ましだと思うのですが……



「売れるかわからないから、制作された2002年に日本に入ってこなかったけど、アン・ハサウェイがブレイクしたついでで今回DVDになりました」的な売り方(キャッチも、あんまり目立たないヒロイン役のアン・ハサウェイをプッシュ)なので、だいたい内容の予測は出来ましたので、期待以下ではありませんでした。



AMAZONの商品情報見ても、「出演:アン・ハサウェイ」で主役の名前ありませんからね……主役を演じたチャーリー・ハナムはきっと、この役では売れなかったのでしょう。また、メイキング映像で出てくる「髭・撮影後にちょっと太った?」彼の映像は、本編とのギャップもあって、ショックでした。



俳優・演技   :☆☆☆☆

男度数     :☆☆☆☆☆(ニコラスとスマイク)

渋さ・いやらしさ:☆☆☆☆☆(伯父とマルベリー卿)

名脇役     :☆☆☆☆☆アル中執事

ヒロイン    :☆☆☆  (妹がいい。アン・ハサウェイ目立たない)

シナリオ    :☆☆☆(後半強引・失速・伯父可哀想過ぎる)



感想の割りに高い評価をしていますが、出演している俳優のレベルや存在感は非常に大きなものでしたので、「アン・ハサウェイの」という売り出し方自体が、この作品の魅力を損ねる「事前情報」になってしまうのではないかと、感じた次第です。







上のDVDパッケージで主役が誰かわかるでしょうか?