ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

手記を残す使用人は王族とすれ違う傾向があるのか?

最近入手したメイドの手記は「カントリーハウスで働くのが大好き」なハウスメイドの人のもので、屋敷ありきの久我にとってはとても面白いものでした。



過去に読んだメイドやフットマンの手記は当たり前ですが、だいたい「自分中心」に描いています。しかしこの手記の筆者の興味は自分以上に、「周囲の屋敷」「使用人の仕事」の解説に向いています。彼女は自分が大好きだった屋敷という世界を、ドラマ『Upstairs Downstairs』や同じスタッフが作った『Duchess of the Duke Street』といった作品のイメージと戦う為にこの本を書いており、その目的は果たされたように思います。



何よりも面白かったのが、彼女がこれらドラマを「Upper Middle Class」と言い切って、「真の上流階級ではない」としていることです。彼女からすると、地方の屋敷に領地を構えておらず、ロンドンのタウンハウスをメインの舞台にしている人々は、「上流階級」ではないのです。



彼女がタウンハウスに出てくるのも、数件のカントリーハウスを経験してからでした。



彼女のキャリアで興味深いのは、「最初、コックの姉のいる屋敷でTweeny(キッチンメイドとハウスメイドの仕事を兼務)」をして両方の仕事を知っていること、その上でハウスメイドの仕事を語るだけではなく、同僚の執事やフットマンの仕事もよく見ており、「彼女自身」が解説者として、世界を紹介してくれるのです。



自分の人生を語ることがほとんどの使用人の手記において、ここまで丁寧に仕事内容を伝えてくれる人は少ないです。



もうひとり、読みかけている執事の本は当時のフットマンの転職事情を物語っていて、如何に職場がよくても執事に必要な経験を満たせなかったり、昇進の可能性が無いと、あっさり転職していく姿が非常に現代的です。



そして両者共に、「王族と縁がある上流階級」に仕えています。片方の執事は、執事になる前の時期ですが、ヴィクトリア女王の遺体と接見しているような描写がありました。ある種、「有名人と知り合いなんだぜ〜」的なものもあるかもしれませんが、「単行本」として一冊を刊行している使用人で、この基準から外れる人は、少なくとも手元にある本では少ないのです。



そういえば、AMAZON.COMで買い物しましたが、決済の表記が日本円対応をしてくれていました。地味ですけど、すごいですね。