ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。同人・出版活動の報告を含みます。

DVD『The Duchess』(邦題『ある公爵夫人の生涯』)の見どころ〜ロケ地





以前、AMAZONからのメールに誘われ、ふらっと訪問した際に買ったDVDが発売され、日本に届きました。この春に日本で『ある公爵夫人の生涯』と言うタイトルで上映されるみたいですね。



なので、ストーリーのネタバレになることは書かず、屋敷と使用人の観点で主に気になったところを感想として書きます。何よりも、本で知っているか、自分が訪問した数少ない場所が出ていて、驚いています。



ちなみに、映画の売りは「ダイアナ妃の先祖」です。




































見知った屋敷が出てくる出てくる

物語の冒頭はダイアナ妃のSpencer伯爵家の領地Althorp Houseとのことでしたが、屋敷の外見を見た瞬間、大好きな建築家ロバート・アダムの『Kedleston Hall』だと、気づきました。その時点で、気持ちが違う方向へ向きました。



写真集『英国貴族の邸宅』で何十回と見ていたので、脳裏に焼きついています。個性的な階段を備えており、忘れられるはずがありません。





英国貴族の邸宅 (ショトル・ミュージアム)

英国貴族の邸宅 (ショトル・ミュージアム)





次に舞台となるのが公爵家のロンドンの屋敷、Devonshire Houseですが、これも見覚えがありました。「ここって、コートルード美術館(Somerset House)じゃない?」と。ここは2004年に初めて渡英した際、友人のレコメンドで行ってきた場所です。



美術館よりも、その外観と建物自体の美しさが気になっていて、そわそわしていたのを思い出します。



その前提で見ていたので、屋敷の前で馬車が止まり、デヴォンシャー公爵と公爵夫人(キーラ・ナイトレイ)が屋敷の玄関をくぐった瞬間、違和感がありました。



「こんな立派な玄関、あったっけ?」



建物の幅と高さを考えると、別の場所で撮影している、と思われました。それを裏付けるのが、印象的な玄関、Marble Staircaseとでも言うのでしょうか、波打つような形状をした玄関ホールの階段。実は、これも久我の脳裏には焼きついていました。



「『英国カントリーハウス物語』で見た写真だ」







引っ張り出すと、確かに写真と同じ形をしています。写真の建物は「Holkham Hall」、そしてその前には聞き覚えがあります。ぐるっと巡って、「あ、これも『英国貴族の邸宅』に載ってなかったっけ?」とページをめくると、アダムの作品ではありませんが、巻末に載っていた屋敷でした。



そして勿論、デヴォンシャー公爵家といえばChatsworth Houseです。今回ここがメインでなかったのは、映画『プライドと偏見』の撮影地であり、またその映画で主演を務めたキーラ・ナイトレイが今回の主役で、イメージが重なるからではないか、と邪推していますが、登場してくれて嬉しかったです。


他にも観光した場所も続々

というところでお腹がいっぱいだったのですが、舞台は十八世紀。十八世紀と言えば社交場の世界遺産Bathの存在を忘れてはいけません。ロンドンから鉄道で二時間ばかりの場所にあるBathは、ジェーン・オースティンの小説でも舞台となりました。



観光名所、これこそBathだと言うRoyal Crescentも登場です。



2004年に初めてイギリスに行った際、ここにも久我は行っていました。なのでどれだけお腹いっぱいにさせてくれるのだと思っていたのですが、映画を見終わった後の映像特典で、驚愕の事実を知ります。



公爵夫妻がロンドンに到着した際、馬車が駆け抜けたロンドンの街並みは、2005年にひとりで旅行した際に訪問したGreenwichだったのです。グリニッジの海軍大学や海洋博物館の外観を撮影で使っていたのでした。







勿論、他にも撮影地があり、すべてを見知っているわけではありませんし、知らないところの方が多いですが、自分が訪問した場所がひとつの映画でここまで出てくると(それも必ずしもメジャーではない)、ロケ地のディレクターとは語り合いたい気持ちにもなってきます。(尚、Greenwich自体は映画撮影で有名な場所みたいです。ここも世界遺産です)


貴族の権威が伝わる

という屋敷ばかりの話だけだとあれなので、貴族と使用人です。



今回、貴族の描写が面白かったです。公爵の権威がここまですごいんだなぁと感心しました。誰もが公爵を無視できない、どんな場所に現れるにしても、そして席を外すにしても、公爵の存在が際立っているのです。



そして公爵はといえばその権力を活用し、主催のディナーでは退屈だからと途中で席を外し、メイドを寝室に呼びつけ公爵夫人に見つかる、メイドに生ませた子供を引き取って公爵夫人に面倒を見させる、愛人を囲うなどやりたい放題です。



とはいえ、それってお金持ちならばやっていそうだなぁ、イギリスに限らないのかなぁとも思ったりもしましたが、周囲の反応から、目に見えない「権力」がひしひしと伝わってくるように、うまく描写していますし、「世継ぎの男の子」への執念と、当時の正妻が抱えていたであろうプレッシャーも感じられるものでした。


使用人は見ざる・言わざる・聞かざる

主に映画を見る人の目は公爵へ向けられていますが、貴族の生活を支える、周囲にいるフットマンやメイドは、目立ちませんが、いい仕事しています。



公爵に怒鳴られてみたり、公爵の逢瀬を扉越しに聞き耳を立てたり、公爵に踏みにじられる公爵夫人の悲鳴を聞いて顔を背けることしか出来なかったり、公爵夫人の下を訪れて玄関で暴れる政治家の相手をしたり、メイドの子供を世話したり、赤ん坊を引き取ったり……メイドもフットマンも、多くの場面に登場しています。



彼らがいればこそ、貴族も手を動かさない貴族でいられるのです。



個人的にはシャンデリアを下ろし、蝋燭に蓋をして火を消しているフットマンたちの姿と蝋燭が消えていく音に、しびれました。主人公の公爵夫人Georgianaに侍女がいたら、また別の映画になっていたのでしょうね。この映画での彼女は、使用人との関わりがありませんでした。



尚、以前、日記で書きましたが、今研究している使用人の資料本には、この公爵夫人が登場しています。赤ん坊の世話に関して母とやり取りをした手紙が残っているのです。そのうち、久我も貴族の研究を始めますが、その点では「貴族の存在感」を感じられたので、いい映画でした。


いちいち部屋が広すぎる

最後の言い残しですが、食事の席にせよ、玄関ホールにせよ、寝室にせよ、部屋が広すぎます。天井が高すぎます。屋敷に勤めるメイドが掃除をしていた「部屋」とは、自分がイメージするよりももっと広く、天井が高い空間なのだと言うことを、リアリティとして思い出させてくれました。



掃除大変です。



屋敷の部屋の多さを伝えてくれる描写も、よかったですね。



ストーリー的にはいろいろとありますが、冒頭の時点で屋敷に心を奪われてしまったので、視点はそこから広がりませんでした。とはいえ、100分ぐらいの映画なので長さ的にはちょうどよかったです。



あ、最後に言い残しが。



公爵夫人の髪型がいろいろと変わっていて、お洒落で楽しいです。


全体に

公爵度:☆☆☆☆☆

使用人:☆☆☆

脚本 :☆☆☆

映像 :☆☆☆☆☆

衣装 :☆☆☆☆☆

田園 :☆☆☆☆

建物 :☆☆☆☆☆