ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』感想(ネタばれなし)

作品は、圧倒的でした。



知人たちが軒並みべた褒めしているので気になって、昨日の映画の日に行きました。これほど知人が揃いも揃って映画の話題をすることはないので。二度行く人もそこそこいました。まだ上映1週間経過していないのにです。



見終わった後、確かに、何度でも見たくなりました。商品化されたら絶対買います。



面白いとか、感動したとか、そういうのはもちろんあるんですが、この時代でなければこそ、今までのテレビ版や劇場版含めて、見る側も作る側も、この長い十数年の歳月は、今回の映像のためにあったのではないかと思えるほどです。



「スタッフも成長している」「映像で使われる世の中の技術も向上している」「新しい着想の人も加わっているはず」「見る側も成長している」、というのでしょうか。



時間が経過して、かつ成長がなければ、生まれなかったはずです。



日本にいてよかったと思えますし、この作品は、表現が難しいのですが、「日本が今の形で存在していなければ産まれない」はずです。庵野監督が愛した特撮やアニメといった世界、それらの文化的な蓄積もあった上で、才能が結集し、想像力を駆使し、ここまでに仕上がったのでしょう。



一度でもエヴァを見た経験のある方は、今週金曜日の地上波で放送される劇場版「序」を見てから、劇場に行くことをオススメします。



妥協がないというか、命削って作っているなぁというのを本当に感じます。この作品が生まれたことが嬉しく思えるのは、いろんな表現が今まで見たことがなかったり、「これを創造した人すごいな」と素直に思えるものだったり、手を抜いていない、いいかげんじゃない、見る人をなめていないのです。



ただ見た人を楽しませる、驚かせる、圧倒する。



作品そのものからは、真剣にモノを作り、最大の事をしようとする気概が伝わります。真剣に作られた圧倒的な本作には畏怖すらありますが、これだけの作品が存在したことが嬉しく、この気概を自分の中にも取り込み、最高のものを作りたい気持ちになります。



「作らされて作る」でも駄目ですし、「作りたいように作る」でも駄目ですが、「作りたくて、伝えるために作られた」ようにして生まれ、そして見る側も待望した作品になったと思います。特に最後は、「一度、産み落とされた作品」でないと、成立しないはずです。ゼロから見る人と、僕とは感想が違うかもしれませんが、リアルタイムで見たことがある人は、この作品を、祝えると思います。



これほど質が高く、エネルギーが注がれたものを見てしまうと、いかにジャンクフードに囲まれているのかを感じますし、これほどのものはお金だけを目的としたスタイルでは生まれません。竹熊さんの『「ヱヴァ」は品川駅を出発しました(ネタバレなし)』の中にあったような、『今回庵野さんがやっていることは、史上最高レベルの自主映画だ』とも思えます。



竹熊さんのコメントを見る前に、自分が連想したのも「同人」でした。同人誌を見れば、その人の情熱や気概や魂がこもっているかまで、伝わってきます。細部に気を配っていない人、読者の読みやすさを考えていない人……自分も誤字脱字や読みにくさという多くの欠点を持っていますが、少なくとも今回のエヴァには、「作品から、気持ちが伝わってくる」「見る人への最大限のもてなし」を感じます。



以前の劇場版とは、見る人への気持ちが違っているとも。



テレビでの放送終了から十年以上が経過する中、よくスタッフやキャストの方が、良く再結集できたものですし、日本のアニメに限らず、特撮や映像文化の蓄積がなければ生まれず、市場がなければ成立もせず、過去の作品がなければこのスタート地点にも立てず、何よりも再度この時代に作ろうとした庵野総監督の意思がなければ、存在しません。



意思がなくても様々な思惑で存在してしまう映画が多い中、意思がなくては存在し得ないものはまさしく同人的でもあり、竹熊さんの「自主映画」とう言葉に重なるのです。まだ制作は完結していませんが、NHKあたりで、メイキングやインタビューの映像を見せて欲しいですね。少なくともこの映画のために会社を立ち上げたわけで、それは驚嘆すべきエネルギーです。



とはいえ、そこには「大人」としての成長もありますね。関連グッズの売り方やパンフレットに載っていた「映画に出る商品」という、広告媒体と商品開発との連動(携帯とかノートPCとか)が、作品のクオリティとは関係なく、織り込まれています。過去最高ではないでしょうか?



その点では、先ほどの言葉に矛盾しますが、極めて「商業的」です。



とはいえ、お金がなければ好きなものは、作れません。スポンサー探しや「次に繋ぐためのお金集め」も、いい意味でうまくなっています。いいモノを作るためには、いい意味で手段を選んでいません。その結果、素晴らしい映画になりました。



あと、竹熊さんの比喩で言うところの京浜東北線より「新幹線」の方が適切に思えます。路線や見える風景は同じでも、速度と停車駅は違い、そしてその果ても、もっと先へいけそうです。



今この作品を見た人たちの間から、何年後かに、新しい何が生まれてくるでしょう。文化は続いていくんだなぁと感じつつ、本当に、本放送からこの作品、そして次回作まで含めて、壮大な作品とも言えそうですね。結果論ですが、過去は変えられますね、今によって。


あと、公開予定映画の予告編が感慨深かったです。世界の破滅ネタの映画が何本かあり、「破滅させるより、救うとか幸せとかにする映画にしろよ」と思ったものの、エヴァも「世界の危機」ネタですからね。ただ今回映画を見て、前回もそうでしたが、「近未来」というのを感じました。



今の日本の風景を残しつつ、技術が発展していく、未来絵図。



次の公開の内容も含めての作品だと思いますが、とても楽しみですし、あと何度もこの「破」を見に行くでしょう。



個人的にはアスカですが、スタッフだけではなく、劇中でも、そこに生きるキャラたちは変化・成長していますね。見る側も巻き込んだ、壮大な長い物語になりました。