ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

同人活動の継続性を高める手段としての「利益」

「同人誌が儲かるか」については様々な議論がされ、まとめられてもいますし、毎年繰り返す話題です。



以下、儲けに関する議論や考察が整理されているサイトです。



9/5 同人誌は儲かるとか儲からないとか

コミケは色んな人が色んな思惑持って集まってくる色んな要素の集まった場所なんだよね



本考察は実際に活動し、リスクを取っているサークルの立場から、異なる視点で光を当てるものとなります。


目次

[1]はじめに
[2]営利と非営利を考える
[3]サークルが利益を出すことは活動継続に必要
[4]終わりに〜

[1]はじめに

本を作る目的と活動のリスク

同人活動はそれ自体が楽しみです。本を作る、祭りの場に出て目の前で読者に出会い、言葉を交わしたり、その笑顔に癒されることも多々あります。自分が作った本を目の前で買ってもらえる喜びは体験した人には忘れがたい大きなもので、参加し続けることでまた来訪してくれる方にお会いできると、絆のようなものも感じます。もっと楽しませたい、それが創作の原動力にもなります。



しかし、同人活動をしていく上で、幾つか活動の障害になるものがあります。本を刷るのに印刷代が必要で、それは日常の生活費から捻出されます。印刷代は数万円から数十万円まで幅があり、「多くの人に読んで欲しい」「良い本を作りたい」と思って部数を増やしても、「部数計算のミス」で在庫が過剰になったり、「値段を安くつけすぎる」ことで完売しても赤字になったり、という話が出てきます。



完売しても赤字ならば再版を望むのは酷なことですが、折角読者がいるならば読んで欲しいと思うのも人情です。しかし、その増刷で何部刷るのかは難しい判断で、過剰在庫を抱えるリスクをもう一度、背負うことを意味します。根本的には、「お金」が同人活動には大きな比重を占めます。数万円の損失でも大きいですが、数十万円の損失はシャレになりません。(本にするからであって、ウェブにすれば良い、という話はここではしません)



趣味にしては、費やす金額が高く、リスクが大きくなります。楽しみではなく、時にそれらが重荷となります。その苦しみを回避する方策を探すのが、これら考察の目的です。


活動をしていて遭遇する悩み

同人誌は儲かるか、儲からないかの話がコミケの後には盛り上がりますが、「儲けてはいけない」とギリギリの値段設定をしていた知人もいます。サークルの中にも、「儲け」を出してはならない、という気持ちの方もいます。(二次創作には著作権上の負い目もあると思いますが、自分の体験ではない想像なので今回は話題にしません)



しかし、サークルの活動を広げたり、完売後により多くの読者に出会おうとすると、部数を徐々に多く発行していくことになります。100部→200部→300部……気づいたら自転車操業、100部再版→完売を繰り返したので思い切って300部刷ってみたら、壮絶に200部余る、など。



「あと100部刷りたいけど、在庫が家に置けない」という人には「在庫預かりの印刷所」があるよと、「部数計算のミス」は「どれぐらいの人がスペースに来ているか知るとリスクが下がる」という話を書きましたが、「値段設定」を安くしすぎて「完売しても赤字」ということも珍しくないと思います。(同人サークル三重苦と向き合う


「大切な創作を続ける」「読者に出会う」ための利益を否定しない

サークル活動を続けて本を作り続けるにはお金が必要で、活動で得た利益を罪悪視しないことが、スムーズに活動を続けるのに役立ちます。「お金がないから、新刊を刷れない・作りたい本が作れない」ことがないように、趣味が「日常生活に支障をきたさないように(家族の視線・自分への言い訳)」、この趣味を続けられるように、好きなものを好きでい続けるには、現実として好きでい続ける努力が必要です。



このテキストは「完売経験がある一定部数を出しているサークル」を想定したノウハウとして書いていますが、その方の作品を楽しみにしている固定の読者の方がいるとも思います。そうした読者の方たちともう一度出会う可能性を高め、またその笑顔を見る機会や、前回の感想を聞かせてもらうためには、「参加し続ける」ことも大切です。



同人にまつわる話の中で、「儲け」という言葉は広い意味で使われています。この言葉を使い分けたら、サークル活動がもう少し自由になるのではないかと思いましたので、このテキストを書いています。ここでは印刷した同人誌を販売して得られたプラスのお金を「儲け」ではなく、「利益」といいます。



利益は額の大小関係なく、「単価×同人誌販売数−印刷代(印刷に関わる諸経費)」と定義します。その上で、久我は「もうけ主義=利益の極大化を目指すことを目的とすること」を推奨しないものの、「結果として利益が出ることを否定しない」立場で、建前を抜きにこのテキストを書きます。



もちろん、その前提は「自分が作りたい本を、作る」ことが第一義であり、「売れるためならば何でもする」という発想ではありません。考え方のひとつとして、「こういうのもある」ぐらいに思っていただければ、幸いです。


[2]営利と非営利を考える

同人活動で大切なのは、「利益だけを得ることを目的にしない」ことです。数字を追いかけると、楽しみを見失い、部数に一喜一憂し、訪問して下さる方が数字にしか見えなくなります。1部は1部であっても、その方がその本のために初めて同人イベントに来てくれたならば、「人の人生を変えた1部」なのです。買って下さる方の「時間と、お金」をその代価として受け取る意味の大きさを、もっと誇りにしていいと思います。



趣味で、それだけの可能性を秘めているのは、すごいことです。少なくとも自分は、多くの「普段ならば出会えない人たち」に出会ってきました。これは参加し続けた結果、本を出し続けた結果です。



しかし、本を無理なく印刷するにはお金が必要です。どんなに性能の良い車でも車検が必要ですし、ガソリンを入れないと走れません。そのメンテナンス代となる同人活動の利益を考えてみます。


コミックマーケットは「営利を目的としない」団体・個人の発表の場

同人活動を「お金のためにする」ことは、少なくとも一番大きな場所であるコミケにおいて、否定されています。コミケのサークル参加申込書セットに、頒布物についての規定があります。この中で営利企業としての参加を断ること以外に、頒布物の値段についての言及もあります。




制作原価よりも著しく高い価格をつけたり、ビニ本まがいの悪質な売り方、もうけ主義、営利主義はコミケットの趣旨に反するのでやめて下さい。
しかし、コミケの中で営利を否定しているのは「利益を目的とする」「利益を出しすぎる」「利益を得るために手段を選ばない」ことであって、作品発表と出会いの場であるという本筋を忘れなければ、後は自由、というふうにも解釈できます。少なくとも、「同人誌で結果として利益を出してはいけない」とのコメントはありません。



サークル運営はコミケの運営スタイルに似ています。コミケはサークル参加費を集めたり、企業にスペースを貸して資金を集めていますが、それは場の運営・維持に使われています。スタッフはボランティアで、仮に利益が出たとしてもスタッフ間で分配するものではありません。



サークルも、同じ考えで良いと思います。お金があれば、無理なく2冊新刊が作れるかもしれませんし、ちょっと変わったデザインをできるかもしれません。イベント参加の機会を増やせたり、制作を便利にするソフトウェアを買ったり、必要な資料集を買うこともあるでしょう。



得た利益は創作に費やし、作品として返せばいいのです。


「営利」「非営利」、どちらも利益を上げるのは同じ

今回、これを書いていて、似た構図の話があるのを思い出しました。



NPOです。




Q.NPOは利益を上げてもいいのですか?

回答
 「特定非営利活動促進法NPO法)」でいう「非営利」とは、団体が利益を上げても、その利益を構成員に分配せずに、団体の目的を達成するための活動費用に充てるという意味です。
 利益を得て配当することを目的とする企業との比較で、「NPOはもうけてはならない」という誤解がありますが、団体の目的を達成するためにも、そして、継続的な運営を行っていくためにも利益は必要です。

青森県http://www.pref.aomori.lg.jp/life/faq/contents2-5-10.html より引用



NPO 利益Google検索



NPOの話を見ると、「非営利」でも利益を出すことは否定していませんが、罪悪視している・される傾向があるとの立場も出ています。同人でも、似た傾向があるように思います。



活動で得た利益を構成員で分配するのが営利、利益を活動の継続に使うのがNPOだと理解します。NPOの流れを見ると、むしろしっかりと利益を上げて「活動結果」を出し、事業の継続性を高めることを推奨しています。



公共的で社会性が高いNPOと同人を同一に論じることは極論ですし、同人の場合は幅が広くて著作権侵害に繋がるグレーゾーンがあるのも確かですが、「営利」「非営利」の明確な違いがあることは、自分にとっては新鮮でした。確かに、NPOでどれだけ良い活動をしていても、経営が悪ければ続きません。


[3]サークルが利益を出すことは活動継続に必要

無理なく続けるために

同人の難しいところは、趣味でありながらも「読者」がいることです。ニーズに応える、ニーズの声にイベントごとに直面するというところが、他の趣味にはあまりない形です。これはサークル主にしかわからない視点ですが、完売したら、ほぼ次の参加時に聞かれます。自分のようにシリーズで作っているサークルには、それが顕著です。



「新しい出会いがあるならば、読んで欲しいし、刷ろうか」という気になりますし、完売は読者がいる限り許容しないようにしたいと思っています。しかし、それが時として大きなリスクを招く要因になります。読者のためといいながら、部数計算を間違えると大きな負債を抱えることになり、それが理由で新しい作品を作れなくなるような悲しい事も起こりえます。



同人活動は創作発表の場ですが、「新しい読者に出会う(既刊)」ことと、「常に新しい創作を発表する(新刊)」を良いバランスを求められるのです。創作発表する自分を守るためにも、「リスク管理」思考は大切です。



完売がずっと続くような「ブランド」で大勢が訪れるサークルならばいざ知らず(そのサークルも母数が大きい分リスクは巨大ですが)、ほとんどのサークルは部数に変動があったり、来訪数の影響を受けやすかったりしますし、社会人として働きながらやっていると「いつ止める」機会が来るとも限りません。その時、在庫を多く抱えていたとして、「やらなければ良かった」と思うかもしれません。



もちろん、リスク回避以外の観点でも、利益が出せるならば出した方がいいと思います。利益を出すことを否定しないのは、「同人活動を趣味に留め、日常に影響を与える金銭的リスクにしない」ためです。利益をタブー視しないことが、その作品を期待してくれる読者の方に次の作品を返せる確率を高めてくれます。


「大手以外の同人サークル」における利益は「結果」


制作原価よりも著しく高い価格をつけたり、ビニ本まがいの悪質な売り方、もうけ主義、営利主義はコミケットの趣旨に反するのでやめて下さい。
もう一度の繰り返しになりますが、価格の何パーセントが適正な原価なのか、どれぐらいの金額がもうけなのか、これはイベント側が定義できる問題ではありません。自分の場合は「在庫リスク」を考慮して、印刷代を回収することを念頭に置きます。原価率が50%の時もあれば、70%の時もあります。



しかし、率による一律規制はナンセンスです、本の制作単価が高ければ率は同じでも金額の差は大きくなります。原価500円を1,000円で売るのと、原価1,500円を3,000円で売るのは同じ50%でも、結果として得られる利益が大きく異なるのです。



では、率ではなく、金額ならば良いのでしょうか? これもナンセンスです。売上は本が実際に売れたかどうか、で決まります。しかし、本が売れるかどうかは事前に誰にも分かりません。予測はできても、保証はありません。



たとえば原価1,500円で価格3,000円の本を1,000冊刷った場合、想定では150万円の利益が出ます。これは儲けすぎだと思われるかもしれませんが、この本が「どれぐらいの期間で売れるのか」を考えなければなりません。



1年で売れるかもしれませんし、5年かかるかもしれません。後者の場合、年間の平均利益は30万円になります。これが妥当な金額かはさておき、完売を繰り返すようなブランド力がある大手サークルでもない限り、完売までどれぐらいかかるかは分かりません。



仮に5年後までに半分の500冊までしか売れずに廃棄することになれば、利益75万円・処分する原価75万円で、利益はゼロです。その5年間の在庫保管費や搬入諸経費で、収支はマイナスです。こうした不確定性があるのに、「150万円の利益が出る本はもうけ主義だから印刷するな」といえるでしょうか?



また、同人サークルは「1冊」だけしか本を作っているわけではありません。昨年体験しましたが、一冊強力な新刊が出ると、関連する既刊も相当な数で動きます。そこまで考慮して「もうけ過ぎの基準となる利益を出さない」ようにすることをサークルが計算することは困難です。



ならば、初めから完売しても利益が出ないようにするのが正しいのでしょうか?



そうは思いません。


印刷部数と値段で利益とリスクを考える

そもそも、なぜ利益が出るような設計にするのかの根底の話に戻りますが、同人サークルは「絶対に売れる部数」というのを分かっていません。計算もできないでしょう。イベントが開催されるのか、自分が参加できるかどうか、個人の事情で参加し続けられるかも分かりません。そうした「リスク」を考慮して、「せめて印刷代だけは回収したい」と考える場合、原価率は低めに設定されます。



自分は「リスクの最小化」をしています。



本の内容によって印刷部数を調整しつつ(マニアックすぎるものは部数を減らす・買いやすいものは部数を増やす)、利益が出ることを恐れた値段設定をせず、「売れなかったことを考えた値段設定=例えば50〜70%程度の原価率」にして、利益が出ることを許容しています。結果として利益が出たとしても、印刷部数が数千部もあるような大手サークルでも無い限り、世間的に見れば巨大という結果になりません。



「半分売れれば、印刷代は確保できる」

「2/3売れれば、印刷代は確保できる」



そうした本がたまたま完売したら、利益は出ます。その利益があるお陰で次の値段を下げたり、印刷部数を増やせたりと、選択肢は広げられますし、「同人活動に費やすお金」を賄うこともできるようになります。



運転資金です。



「利益が出る」のは結果であって、まず値段設定は「リスクを回避する」のを主体で考えています。何よりも、「全部完売しても赤字!」という状況が続くと、よほどの道楽でない限り、続きません。自分の場合、活動を続けることで読者が増えて小部数印刷で完売が続いた結果、あらかじめ多めに部数をするように、行き渡るように、せめて完売が出ないようにと考えるようになりました。



総集編『英国メイドの世界』の印刷代と向き合った話を書きましたが(同人誌1トンの印刷コストと向き合うリスクマネジメント)、稀に出会ってしまう「普通に考えたら作れない本」も、利益を出す構造にしておかなければ、ひどい損害を受けるので、作るのを躊躇したでしょう。万が一、まったく売れなかった場合、誰も損失を引き受けてくれません。なので、入手しやすさに繋がる値段を下げつつも、原価率を自分が許容できる範囲に納める必要がありました。



お金が理由で作れない本があること、そして欲しいと思う人に出会う機会を作れないこともあるのです。


同人活動に費やす印刷代以外のお金

手前味噌ですが、分厚い同人誌(ボリュームが大きい)は製造コストだけではなく、関連コストも高いです。通常、久我の同人誌はダンボール1箱に100冊入ります。1kgあった総集編は20冊しか入りません。その結果、100冊の同人誌を移動させる場合のコストが、今までの5倍になります。先ほど少し去年の数字を見直していたのですが、総集編が登場した8月から年末の冬コミまでのわずか5ヶ月間の宅急便費用は、「11万円超」でした。



搬入時にも問題があります。コミケでは200冊(10箱)持ち込むのが限界でした。搬入スペースが狭いコミティアでは壁になる保証がなかったこともあって、周辺サークルに迷惑をかけないため、合体サークルとして申し込み、2スペース(2倍)の参加代を支払いました。在庫のある既刊でも完売が出ないように多めに持ちこみ、あまり出ないで持ち帰りの宅急便コストが膨らむこともよくあります。



これはすべて利益から賄いました。利益がない本つくりをしていたら、とてもではありませんが、対応をためらうものでした。



同人イベントの1スペースはいくらでできているの?



こちらのわかりやすいエントリを見ていただくと、印刷代以外でもお金がかかっているのが一目瞭然です。このコストを同人活動内で賄えるのは、同人誌の利益だけです。利益が出るのは運がいいことですから、その結果を引き受けて、同人にまつわる諸経費に使うのは悪いことではない、と信じてやってます。



また、久我の同人誌は資料本を入手していつも作っているので、利益が出ても、長い年月で見れば赤か、ようやくトントンぐらいです。正直なところ、これだけ膨大な時間と手間を費やして、得られる利益と直面する在庫リスクを考えれば、会社員として働いた方が圧倒的に効率が良いです。



しかし、お金が目的ではないので、この活動にしか見出せない楽しみを多く見つけ、続けています。利益は出ていますが、「儲けている」との認識はありません。ただ、今回の数字が出たことでより同人活動は「楽に回せる」ようになったのは事実です。許容できる失敗の量が増えたのですから、実験的な試みを行えるようになりました。


補足:最も簡単な利益を出す方法は早期入稿

利益を出すにはコストを抑えるのが一番で、コストである印刷代を抑える最も有効な手段は「早期入稿」です。印刷所はイベント前に繁忙期を迎え、入稿される数が大変なことになります。そこで、比較的空いている時期に入稿される量を増やすため、「早期入稿割引」をしています。



印刷所によって割引率は異なりますが5〜25%ぐらいの範囲で設定されており、スケジュールどおりに入稿できるならば、一番簡単に利益を得られる方法です。10万円の印刷代で400冊刷る場合、通常原価は250円になります。しかし、20%割引ならば8万円となり、200円で刷れます。



逆にイベントに間に合うぎりぎりの時期に近づけば近づくほど、印刷代は上乗せされてコストは大きくなります。ミスが起こった場合の対応時間も限られ、印刷所としても嬉しくない事態となります。



プロにプロの仕事をしてもらうには余裕のある早期入稿がオススメですし、原価を下げてリスクを下げる意味でも、とても大切です。そのためには時間の余裕を持てる計画性と、落としどころを見極めるのが必要ですが、それは別の話となります。


[4]終わりに

読者との出会いを大切にする

なぜ、利益の話をしたかといえば、結果としてその利益を使って(損失を抑えて)活動の継続性が高まる方が、同人全体が盛り上がると考えるからです。完売という結果に直面したサークルは多くの読者に出会い、また新しい読者に出会う可能性も持っています。しかし、その「新しい人」との出会いは、「増刷」という金銭的リスクを背負わなければできません。



良い本だと思うから、読んで欲しい。



欲してくれるならば、その機会は最大化したい。



イベント会場での出会いは一期一会だとも思っています。だから立ち寄ってもらった偶然を大切にしたいので、完売はなるべくでないように考えています。



同人におけるマーケティングは賛否あると思いますが、「個人で負えるリスクの範囲で欲しいと思ってくれる人に本を用意する」(部数を伸ばす・完売を許容しない増刷対応・過搬入)ことと、「印刷代を極力回収し、次の印刷代を確保し、活動の継続性を維持する努力」のため、だと考えて、一連のエントリを書いています。



同人でも印刷代以外にも様々な活動にお金がかかる以上、同人活動を続けるのに必要な諸経費を補う利益は出るように念頭においていますし、それができているから、無理せずに続いている、とも思います。『英国メイドの世界』を除き、最近では印刷代を支払うために他の何かを止める、という決断はしていません。順調に回転しています。



この考え方ができ、かつ表明できるのは、ジャンルによるかもしれませんし、オリジナルでやっていることが主要因かもしれませんが、「利益を上げる・上げない」で見るのではなく、「同人で得た利益を何に使うか」の視点も欠かせません。


創作発表の機会を自分で作り続ける楽しさ

大切なのは、継続性です。



どんなに才能があっても、伝える力がなければ、潰れてしまうことがあります。同人は成長の機会です。長く続けて初めて芽が出ることもあります。評価を受ける機会も増えていきます。



その継続性を担保することは、同人ノウハウなどであまり扱われなかったことだと思いますが、自分は「創作」と、同人活動における「持続的なサークル運営」を切り分けて考えています。後者を行うために、前者の評価によって得た利益を使い、より多くの機会と出会いを得ていくことを肯定します。



継続性には、蕭何キャゼルヌ的な概念が必要です。項羽のように戦い続けるだけでは大切な虞美人も守れませんし、生き残れません。



だからといって、「持続的なサークル運営」を第三者に完全に委ねることは反対です。自己完結する、自分が作ったものを自分で届ける、それを怠ると「プロ」となんら変わりませんし、その運営自体が同人活動の楽しみ、自分にとって良い経験を重ねる機会だからです。これを人に預けるのは、もったいないです。(その楽しさを伝え切れていないのですが、別に書きます)



それに、利益以外に得るものがないかといえば、そんなことはありません。例えば、同じお金を支払ったとしても、そのサークル主と同じ体験は誰にも出来ないでしょう。自分の作品を発表し、頒布する楽しさは人によって違います。趣味でここまで幅広い選択肢があり、趣味そのもので人と出会いやすいのも、「好き」を共感できるのも、同人活動ならではです。



ある種の「ファン」「読者」がつく趣味は、とても限られています。



一方で、楽しみを得るはずの趣味で苦しみかねない活動であることの自覚も必要です。多くのサークルは利益が出ない現状ではありますが、利益が出るサークルは出ていることを受け入れて良いと思います。それがいつまで続くかも分からないのが、同人でもあります。そして無理をせずに活動を続けて欲しい、そう思ってこのエントリを書きました。



同人活動の棚卸みたいなものですが、お金の話はこれぐらいにしておきます。ガソリン代を稼ぐために走っているというよりも、走るのが楽しいから走っているわけです。その走る楽しさを伝え切れていないので、味わってきた楽しさを伝えるエントリを、次に書きます。




言及していただいたブログ

同人活動と利益の話、そして活動の形。

具体的にサークル参加者としての立場、数字、それに「同人誌以外の同人活動」についても言及されています。