ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

『午前零時のサンドリヨン』感想(ネタばれなし)

午前零時のサンドリヨン

午前零時のサンドリヨン





ミステリ小説は好きです。といっても最近はヴィクトリア朝と使用人資料に圧倒的にリソース(時間とお金)を費やし、ほとんど読まず、アガサ・クリスティを読み直すか、ヴィクトリア朝を舞台にしたミステリ経由でサラ・ウォーターズをチェックするか、京極夏彦さんの新刊(主に京極道シリーズ)が出たら買うぐらいの状況です。



最近のミステリは不勉強ですが、今回読んだ『午前零時のサンドリヨン』はネットでサラ・ウォーターズヴィクトリア朝経由で接点があった相沢沙呼さんが第十九回鮎川哲也賞を受賞された作品とのことで、購入しました。



今、1.5周目です。



以下、ミステリとしての感想を書けるほど最近のミステリを知らないので、本から感じたことです。



一度目は自分が知らないマジックに魅了されたように、ページをめくっていました。二度目でじっくり腰を落ち着けて、ちりばめられた伏線や伝え方、明らかになったことで伝わる登場人物の感情表現を、楽しんでいます。ミステリの系統は数多くありますが、今回描かれた世界や舞台の温度は、久我の好みでした。「本人が心底好きな題材」をメインのモチーフにしていて、好きを語ることの力強さを感じ、その好きでなければ見えない視点と自分にとっての未知の題材に興味を持ちました。



作品を通じて流れるテーマや伝えたいことだと自分が感じたことは、まえがきに書かれていたことや、マジックを通じて人に伝えていく、人の気持ちが人を動かしていくこと、なのだと感じました。ネットの時代だからこそ、この価値観は、非常に同時代的であると思います。楽天的とはいわれてもいますが、『ウェブ進化論』的な要素として、見ず知らずの誰かの書いたものが、表現したものが、人を楽しませようとした気持ちが、伝わっていく。それを受け取った人から、また別の人へと波及していく。そしてその感想を、筆者に返せる。もちろん、ポジティブもネガティブも含めて過去の時代に体験したことがない評価を浴びることになりますが、僕はこの感想を書くことで、いろいろと自分の中のことを考えることもできました。



根本的に、自分がなんでミステリが好きかといえば、「問題が解決される」からです。少なくとも殺人事件が起こり、なんだかんだで犯人が捕まる。そして終了。(この図式に挑むものとして『うみねこのなく頃に』はすさまじいレベルの挑戦をしていると思います) 時に残虐な描写や、美意識のために描かれることも少なくないと感じていますが、「課題達成型」と「問題解決型」では、自分は「問題解決型」が好きです。会社の仕事でも問題解決の方が向いています。



ある種、正義の味方は悪を必要とする的な議論であり、人が問題を抱えている状況を欲しているような側面もありますが、そういった主体的なものがありつつも、自分には見えない自分の能力や視点が他の誰かの役に立つかも知れず、それに気づいた他者がパズルのように組み合わせていく可能性を、自分自身は好んでいます。



これは山本弘さんの『詩羽のいる街』の読後感に似ています。



誰もが探偵小説の主役になれるわけではありませんが、「問題を解く」こと自体は、日々誰の周辺でも起こっていますし、本人にとって些細なことでも、その言葉や行いが、人を変えることもあります。他人に関心を持つと、急に見えることもあります。個人で解決できなかったとしても、人に相談することで解決することもあります。もちろん力になれないときもありますし、手ひどい拒絶を受けるかもしれませんが、そうした「日常」を照らした作品に思えるのです。



そして、いわゆる「ミステリの感想」として正しいのか分かりませんが、この小説は題材となっているマジックのようです。題材としているマジックの与える影響と、読後の感想が与える影響が、一致している、と思えるのです。物を作ることを大切にしているのが感じられますし、時に存在そのものを拒否されることもありますが、人を驚かせること、楽しませること、「相手がいて、自分がいる」ことが、伝わってきます。



コミュニケーションの絶対量が増えていても、質的には落ちているようにも思えればこそ、作品が提示している在り方、人との関わり方は同時代的であり、その伝えること・伝わっていること・伝わらないことを含めて、人間らしいなぁと思うのですし、不確実性の塊である人間こそがミステリの魅力でもありますね。



表紙の絵も可愛いですし、デザインの細かい所でもこだわりが感じられますし、読みやすい作品でした。ここに登場した手品を映像で見てみたいですし、その他、登場したいろいろなものに、興味が広がりました。


関連

小説『詩羽のいる街』感想(2008/10/02)

ちょうど1年ぐらい前ですね。不思議なものです。