ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

電子書籍のインフラ普及が「同人活動」に及ぼす影響を考える

AMAZONの電子媒体Kindleは、作家にとって表現の場としての敷居の低さを実現しつつあり、日本の電子書籍市場では目立たなかった「個人の作家(プロ/アマ問わず)による電子書籍化」の動きを加速させています。日本の作家(プロの漫画家・ライトノベル作家など)が登録を始め、先日、同人誌の登録を行った方も現れました。



日本初? kindleで日本語漫画を出してみよう企画(漫画家・うめさん)

Kindle Storeで小説を出版・その後ライトノベル作家・木本雅彦さん)

以前サンクリで出した本イラストレーター・なきうささん)



こうした動きを踏まえつつ、「同人誌の電子書籍化+一般流通に乗る」流れが、同人にどのような影響を与えるかを考えました。以前から少しずつ考えていたのですが、作家の方たちの動きが早いので、このタイミングでまとめました。



電子書籍の概要については、前のエントリ電子書籍・出版業界についての私的なメモ帳(2010/01/30)にまとめています。



以下、同人への影響の考察です。


注意事項

ある程度、AMAZONAppleなどの電子書籍の端末が普及し、かつ個人個人の作家が自由に販売を行える未来図を想定し、その際に生じえるメリットとデメリットを検討しています。まだまだ先の話かもしれませんが、今考えられることを列挙しました。また、私自身は同人誌における二次創作については当事者ではなく、そのジャンルで活動する友人の話や、ネットで見かけた情報を基に以下の文章を構築しています。当事者の方には当然、別の見解があると思います。



電子書籍と同人誌のどちらが優れているか、という議論ではありません。


目次

1:電子書籍メリットの考察
 1-1:出版しやすさ/在庫
 1-2:買いやすさ・マーケットの接点
 1-3:表現技法の広がり
 1-4:換金化/コピーコンテンツへの対応
 1-5:誤字脱字/改訂の容易さ
 1-6:海外市


2:電子書籍のデメリットの考察
 2-1:「利益追求」か「趣味の範疇」かの議論〜印刷代からの解放とその先
 2-2:電子書籍による買いやすさの向上がもたらすリスク:「同人」の枠を出ること
 2-3:電子書籍による買いやすさの向上がもたらすリスク:「書き手の責任」


3:「同人誌」のメリットを逆算し、電子書籍にできることを考える
 3-1:「同人イベント」「同人誌」のメリットは何?
 3-2:電子書籍時代の同人イベント


4:まとめ


1:電子書籍メリットの考察

まず電子書籍同人活動にもたらすメリットから考えます。


1-1:出版しやすさ/在庫

最も大きいのは印刷代をかけずに出版可能になることです。



50部単位、100部単位ではなく、それ以下からでも可能です。その概念が無くなりますから。



また、同人活動を続ける上で部数設定を間違えて膨大な在庫を背負うことは、とても辛いです。初心者ばかりではなく、「完売を続ける」中小規模のサークルでも起こりえます。小なりといえども、私自身、コストの大きさに再版を行わない判断をした経験しました。シリーズで同人誌を作るサークルにとって、過去の作品が在庫切れを起こして新しい読者が作品に接しにくい状態は避けたいものです。「既刊ありませんか?」と聞かれるのは申し訳ない気持ちになりますが、再版をしたとしてどの程度出るかは分からず、また総集編を出すにはページ数が増えすぎてコストが高い場合が多いです。



しかし、電子書籍市場が普及し、個人の発表が容易になれば、環境は変わります。



同人活動をする方にはデジタル入稿を行う方が一定数存在し、単純なPDF出力やデジタルデータの加工自体は難しくありません。また、マンガ表現に限れば本文中に複雑なデザインを必要とする部分は少なく、AMAZONなどで電子書籍の登録が容易になる面でもっとも活発化するのは、この層でしょう。(技術論的にはトーンの再現性や解像度の問題点等、微調整が必要とのこと。ここのKindleでコミックスを電子配信する…のまとめ(sarninの日記:2010/02/03)がよくまとまっていました)


1-2:買いやすさ・マーケットの接点

AMAZONを待たずとも、既に電子書籍で同人作家が自由に同人作品を頒布できる環境自体は、整っています。無償であればウェブで行えばいいですし、有償でも既に同人ショップ『とらのあな』DLSiteなどで同人作家によるダウンロードコンテンツ・同人誌の販売は行われています。



しかし、こうしたサービス自体がメジャーではなく、同人イベント同様の買いにくさがあります。



基本的に「個々のサービスごとにアカウントを作り、決済をする」方法は障壁が高いです。私個人の体験ですが、以前、同人誌『英国メイドの世界』を刷った折、「本は欲しいが、同人サービスは利用したくない」との見解をウェブで見かけました。ニュースサイトで取り上げられることで、本の存在が「普段、同人に関心を持たない層」に届いた事例です。



同様に、私が利用した日本の電子書籍サイト「理想書店」では電子書籍媒体ボイジャーのパッケージを使っているようでボイジャーストアとなっていましたが、別の「ディスカヴァーデジタルブックストア」では同一のパッケージを使っているように見えながら、アカウントは共有されていません。一度に買えないのは、やや面倒です。



しかし、同じ仕組みで決済できるAMAZON(古本やお菓子や家電)や楽天市場に代表されるショッピングモール形式であれば、元々の会員数が膨大にいて、そこに「お店・商品が一つ増える」だけの話で、利用者には慣れ親しんだインフラで買い物できます。AMAZONAppleのような、大きなレベルのインフラで「他にコンテンツが買えるし、同人も買える」ようになると、買いにくさの障壁は一気に下がります。これは既存の電子書籍市場にもいえることで、入口の一元化は買いやすさにつながります。この環境が同人に与えるマイナス影響は、後述します。


1-3:表現技法の広がり

単なる紙を電子媒体に移すだけではなく、その媒体でしかできない表現を盛り込んでいくことがメディアとしての電子書籍には期待されます。



最近電子書籍に、参考用の動画埋め込みやwikiへのURL、Google Books、さらには参考書籍のAMAZONアフィリエイトといった、「参考にするコンテンツへの導線」があったら便利だなと思っていたら、それってそのままウェブでした。縦書きやデザインにこだわらない限り、「どこからでもアクセスできて、情報が読める」「課金できる」「コピーされない」、これで要件は成り立ちます。



AMAZONの入稿形式はHTMLの延長です。最近買った電子書籍のひとつはコピー対策か、ブラウザのプラグインで閲覧して、オフラインでは読めません。携帯端末で言う「電子書籍」は携帯端末からの「課金・コピーしにくさ・認証」で、端末内にコンテンツがあってオフラインで読める状況でないならば、「アクセス権」を売っているだけです。



つまり「電子“書籍”」ってなんなんだろう?



そんな事を思っていたら、このエントリで十分にまとまっていました。電子媒体で何ができるのかという根本的な話がありつつ、それ以上の表現技法や試み自体は、自由に行える同人的側面で広がり、模倣され、発展していくのではないかと期待しています。


1-4:換金化/コピーコンテンツへの対応

ウェブの存在は多くの読者と出会う機会を提供しています。しかし、ウェブは「無料」文化や、課金を行いにくい構造があります。



同人誌として「形」を持つことは、複製を難しくした上で作品の代価を受け取ることを可能とします。「ニコニコ動画」のユーザータグに「振り込めない詐欺」というのがありますが、無償のものでも作家の活動を支援したいと、実際にお金を払いたい層は存在します。しかし、なかなか分かりやすく統一的な個人向け決済システムは普及していません。(PayPalは代替策となるでしょう)



書籍の話として、電子書籍化が個人で行えるようになれば、課金/決済をそのシステムに任せることで、実現できます。その上で、携帯端末と連携することは複製を難しくする効果が期待できます。最近ではKindleが早くもクラックされ電子書籍のコピーや変換が可能にというニュースを見ましたが、少なくとも複製防止は電子書籍側・インフラが行ってくれる点は大きく、「複製防止+課金」のセットが行える点で、携帯端末への期待は高いです。


1-5:誤字脱字/改訂の容易さ

電子書籍化で比較的データをいじりやすくなるので、出版後に見つかった誤字脱字の修正や文中表現の修正対応が可能となります。見かけた記事電子書籍時代の著作権侵害では、盗用を巡る裁判で文中の2行だけのために、書籍の出版停止が命じられた事例を基に、電子書籍の修正のしやすさを取り上げています。



とはいえ、売り物である以上、一定の品質は必要ですし、そもそも以前あった表記が消えるのはデメリットです。頻繁に更新がされると今後、引用を巡って問題が起こるでしょう。(引用した個所が消されているなど)


1-6:海外市

これはAMAZONAppleなど元々英語圏を母体とするマーケットに、個人レベルで乗り込みやすくなる可能性について、です。英語の吹き替えをつけられれば、マンガ表現は海外で頒布できます。2年前のエントリですが、「iPhone向け多言語対応コミック」を実現された方がいますので、Kindleに求められていくのはこちらの部分が大きいでしょう。



アメリカで同人誌を売るということ(Keep Crazy;shi3zの日記:2008/08/16)



紙で出版することは現地の市場調査や出版までこぎつける多大な労力が必要でしたが、電子書籍化すれば、障壁は一気に越えられます。英語圏そのものがマーケットとして広がることは、同人作家に限らず、魅力的です。


2:電子書籍のデメリットの考察

次に電子書籍による作品の頒布がどれだけ同人誌にデメリットを及ぼすか整理します。


2-1:「利益追求」か「趣味の範疇」かの議論〜印刷代からの解放とその先

私は以前、『同人活動を続けるための利益』というエントリを書きました。ここでは印刷された「同人誌」の印刷代(ここでいう同人誌には同人ゲームやCDを含む)、在庫の搬入・搬出のコストやそれ以外の同人にまつわる諸経費が同人活動の内部で完結し、活動をつづける原資となる利益を生む構造があった方が長続きすると書きました。サークル活動が長く続けばそれだけ、多くの作品が生まれる可能性や多くの読者、そして作り手に出会える機会は増大します。その一連のプロセス自体は、大切なものです。



同人活動の継続性を高める手段としての「利益」



同人活動で最も大きなコストは同人誌の印刷代です。同人イベントに参加し、読者と出会い続けるには、一定の同人誌を刷り、新作を出す創作活動を繰り返します。そのために、印刷代は不可欠です。そして、電子書籍化した場合、印刷代は発生しません。印刷代から解放されたからすぐに利益を生みやすい構造が生まれるとは思いませんが(見つけてもらいにくさは変わらない)、印刷代を理由にした「同人誌は儲からない」論は成立しにくくなるのではないでしょうか。



実際のところ、「完売したけど、再版するにはお金が高すぎる」場合や、時間の経過を気にせずに気に入ったときに買ってもらう利用に最も適しているのが電子出版のインフラですが、利益に対する考え方、少なくとも「外からの見え方」は変容するでしょう。



前回書いたように、同人には印刷代以外の諸経費がかかっていますし、それ以上に、利益を上げられればそれだけ「製作時間の確保」に繋がる可能性が高まります。デジタル環境で同人誌製作を行う方は、パソコンの性能やソフトウェア、道具(ペンタブレット、ディスプレイ)の制作環境への投資で、製作の効率化や時間を有意義に使えるでしょう。また、自分ではできないけれどやってみたいことを、人に外注できます。



しかし、「同人誌ではなくなった場合」、同人誌の持つ曖昧性に保護された表現が変質し、趣味の範疇を越えたと解釈されたり、利益の得やすさが注目を集めたりして、批判を浴びる可能性が残ります。


2-2:電子書籍による買いやすさの向上がもたらすリスク:「同人」の枠を出ること

個人で誰もが表現活動を始められるのが同人活動の良いところで、また同人イベントを主体にした場合は「同じく好きな人」の理解に守られています。ウェブで同人誌を電子書籍化する、それも大規模プラットフォームで行う場合、この場を失います。



「同人」という限定された空間ゆえに、「ファン同士が、ファン活動の一環として、大好きな作品のキャラクターを用いて創作を行う」ことは一定のレベルで黙認されて回っている部分があります。(すべてではないです) また、同人誌は同人イベントに行かなければ(同人ショップに行かなければ)、入手できません。既に電子書籍化した同人作品(前述の『とらのあな』やDLSiteなど)が存在するとはいえ、こちらも興味がある人でなければ近付かない配布に留まり、あえて踏み入ろうとしなければ乗り越えられません。



しかし、AMAZONAppleで同人誌が頒布できるようになると、巨大なマーケットへ繋がります。同人の文化をまったく知らない方が簡単に入手できるようになると、同人イベントの目立ちにくさゆえに守られた環境から切り離されます。



仮に問題ある作品(著作権・コピー・表現)が登場した場合、「1:紙の制限がなくなるので同人以上に普及する=被害が増大する=表現者の責任範囲が増大するリスク」や、「2:作者以外による複製コンテンツによる著作権侵害=発見までの時間・個人で立証可能か・被害者が二次創作者の場合、立場が曖昧」、「3:表現規制論者に利用される」(極端なものが目立つ・入手しやすくなる)など、リスクが考えられます。


2-3:電子書籍による買いやすさの向上がもたらすリスク:「書き手の責任」

マーケットとダイレクトにつながる結果、個人個人の責任は大きくなります。



「売れすぎる」二次創作が表舞台に出た場合にどうなるのか(同人誌として「境界を越えて普及」したドラえもん最終話同人誌問題)や、成人向けの過激な表現が表に出るリスクは、非常に少ない事例としても、念頭に置く必要があります。



二次創作でなければ済む話でもありません。私自身、オリジナルの同人誌を出版社で出す際、出版表現上の注意点で編集や校正の方の確認を受けました。時代によって表現への配慮は異なりますが、リスクを減らす判断です。また、コミケ会場で行われる「修正が甘い成人向けコンテンツの販売停止措置」は、コミケが判断し、同人イベントとして問題が起こらないようにやっている措置です。



同人世界で許された表現が、金銭を得る形でそのまま多くの人の目に触れる可能性(あくまでも可能性です)が高まることで、作者のリスクが高まります。



二次創作が「権利者」の利益を侵害する可能性がある点は、たとえば「東方のアンソロジー」に見られるように、作品を使われることに権利者が同意し、利益を権利者に戻す仕組みができれば広がるでしょう。その場合、「商業アンソロジーとどう違うの」「同人なの?」という話が出ますが。



他にも想定していない事例は数多く出てくるはずで、進むべき足場を確かめる慎重さが必要だと私は思います。


3:「同人誌」のメリットを逆算し、電子書籍にできることを考える

電子書籍市場の拡大し、個人アップロードのしやすい環境が整ったとしても、同人イベントが残っていくでしょう。そもそも同人イベントにどういう役割があり、今後「電子書籍が同人誌になっていく」にはどういう環境が望ましいのかを整理します。



その上で、電子書籍が「同人イベント」に持ち込まれるのか、という問いかけをします。技術的問題や「同人イベント」という場の性質により、電子書籍化(少なくともイベントの場に持ち込まれる)は完全に起こらず、表現媒体としての紙の完結性や紙を所有したい欲求が消えないでしょうから、あくまでもブレストです。


3-1:「同人イベント」「同人誌」のメリットは何?

同人イベントは何が楽しいのか、そもそも同人誌をなぜ作るのか。



なぜ作るのかは個人の事情次第として、同人イベントの作家側のメリットは、「1:ファン同士や作家とファンが作品を通じて好きを交流できる」「2:作家にとっては自由な表現の場となる。好きを表現しやすい」、そして「3:表現が受け入れられた場合に結果として利益が得られる可能性があり、活動を続けやすくなる・広げやすくなる」、この3点を指摘します。



同人イベントに来る方は基本的に「同人表現を好む方」です。同人誌への理解があり、同人作家の状況を知り、応援してくれる存在で、出会った方たちから暖かさを私は感じました。ある意味、「作家を育ててくれる場所」です。紙の制約を受け、読者に出会いにくい構造は確かにあります。しかし、「本の形で費用が生じる」ことは作家にとって作品を守る「防壁」にもなります。ウェブの無料コンテンツの場合は誰にでも見られることで、全く関心がない人が見たり、断片的評価を下されたりする可能性が残ります。



しかし、有料の場合は「買うまでの敷居の高さ」があり、そもそも同人イベントでしか頒布していなければ(あるいは同人ショップでしか頒布)、同人への理解がない人と作品が出会う可能性は極めて低くなります。読者数に上限はありますが、顔が見える方たちから暖かい評価を受ける環境は、創作を続けやすい要因となります。



さらにいえば、同人イベントに足を運んだ方は「目的の本を買うだけ」ではなく、「何かを見つけようと、作品との出会いを望んでいる」面があります。作家にとっては、興味を持ってもらいやすい環境です。「同人誌」であることが制約としてありつつ、「端末に依存せず、読める」「手渡しできる」「出会うきっかけとなる」「入手欲」「分厚さや大きさなど、本の不自由性が逆にメディア価値を持つ・表現手法となる」など、多くのメリットがあります。



私が事例として挙げた3点のうち、動画を主体にした表現を行う「ニコニコ動画」やイラストレーターが絵を軸に作品を投稿する「pixiv」では、「1」「2」は実現していますし、「利用者のコミュニティへの帰属意識」的なものが存在し、ある程度、創作を続ける上での「暖かい環境」でしょうし、ランキングの存在は「出会い」を提供してくれるきっかけになります。



しかし、「3」は今のところ、把握していません。制作に費やす「時間」への見返りを得ることは創作を続ける上で原動力の一つとなります。ウェブで課金の仕組みが整うこと・コピーされにくいことが、今時点では個人における創作活動にとって、電子書籍に期待されるものだと考えます。



ニコニコ動画やpixiv自体がユーザを集める部分では同人イベントと類似しています。上記した1〜3の要素、「ファンや読者と出会い」「作品が評価される環境」で「作品を作り続けるのに必要な利益」が得られる環境が作れれば、同人イベントに活動を絞る必要はありません。



この考えはまだ詰め切れていませんし、人によりけりであり、「紙」「リアル」の部分で今後も同人は生き残り、いくつかの要素をウェブがクリアできれば、同人イベントに参加しなくてもメリットを得られる作家が増えるはずですし、個人的にその存在自体は増えていって欲しいです。


3-2:電子書籍時代の同人イベント

ここから先は、妄想です。



仮に電子書籍で同人誌を作りつつ、誰もが携帯端末を保持し、それでも同人イベントで同人誌を頒布する場合の未来図を考えてみました。といっても、大したものではありませんが。



電子媒体を持ってきて、イベント会場のサークルスペース上でデータを転送する、というのが考えられるものです。コンテンツ自体のダウンロードはウェブで可能にし、認証キーをスペースで頒布する、というのもいいかもしれません。決済は電子マネーで。



このように同人イベントの構造だけは維持しましたが、スペースに在庫が不要ですし、参加者も「重さに関係なく購入できてしまう」でしょう。さすがに味気ないですが、同人誌との併売や、在庫を電子書籍化したものを会場限定頒布することなど考えられますね。



位置情報やセカイカメラ的な工夫でもう少し面白くできるかもしれませんが、リアルの場は「一回、その環境に封じ込められる」「移動に不自由さはあるけれど、その不自由さの中に自分の意図しない出会い」があります。来た以上、何かいいものを探そうとします。


4:まとめ

今時点で、考えうることを書きました。可能性の問題が多く、今後情報が増えていけば内容に変更が生じますし、事例も増えていくでしょう。ただ、事例が少ない領域である点で、個人で判断を迫られる部分が多くあります。



基本的には「作品を誰かに見つけてもらう」工夫をしなければならない点は、同人イベントと同じままです。AMAZONに登録したからといって、接点ができるだけで作品が見つけてもらえるとは限りません。



ただ、たとえばニュースサイトで取り上げられ、思わぬ露出をし、誰もが買いやすい環境が生じたところで「著作権に問題があった」場合、この被害は同人誌の比ではありません。プラスがある分、マイナスの買いやすさが増大する可能性が高いです。



とはいえ、今後個人の表現、そしてまずはマンガ表現の舞台として機能するはずで、この環境を楽しめる方には新しい視界が広がっていくでしょう。同人といっても千差万別で、私が指摘できたのは断片的なものです。




でももう売ってる場所が同じなのだったら、それは同人誌ではないんじゃないか、という疑問もなきにしも(笑) もう区別なんてなくなっていくと思います。みんな「漫画」でいいんじゃないの? http://bit.ly/cYqBgt http://bit.ly/cT0M2C

http://twitter.com/ume_nanminchamp/status/8615180928



Kindleでマンガを発売されたマンガ家のうめさんがTwitterで、同人誌のKindle発売についてコメントされていました。この言葉から私が感じたのは、「同人誌」が「漫画」となる場合に、ある種の「同人誌という保護」(先人の蓄積:参加者たちが作り上げたコミュニティとしての資産)から出て行き、表現者として個人で場と向き合う点です。



今はまだ一部の、本当に一部の方による登録ですが、日本語対応やインフラとして普及する場合には、「同人誌ってなんだっけ」との問いかけが今まで以上に議論されるでしょうし、Kindle電子書籍を母体にした新しい「同人イベント」的な、作品を生み出しやすいプラットフォームが生まれるかもしれません。



過渡期を迎えつつあるという認識でいますが、電子書籍への関心と、同人誌とどう向き合うか、自分がなぜ同人イベントが好きなのかをまとめる意味もあって、言葉にしました。私自身はKindleについては表現を行う場として試みるつもりです。