ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

『借りぐらしのアリエッティ』感想とスタジオジブリが描く「風景」

映画で描かれた「日本の洋館」

先日、スタジオジブリの『借りぐらしのアリエッティ』を見てきました。イギリスの児童文学作家メアリ・ノートンの作品ということからか、日本にアレンジされた物語の舞台となる「屋敷」は、日本的な建物とイギリス様式が若干混ざり合った、いわゆる「日本の洋館」でした。



映画のストーリーは言及しませんが、生活感あふれる小人たちの住まいも素敵でしたし、病身の少年が眠る部屋の壁紙はイギリス・摂政朝(リージェンシー)的?雰囲気で、画面の隅にぶら下げられていた小麦かハーブの束も、どこかイギリス的です。屋根裏部屋にあった装飾品も、のんびり眺めたかったです。



少年の部屋にあった「豪華な屋敷のインテリア」などは記憶の中にしかないのですが、壮麗な雰囲気で、「豪華なお屋敷」そのものでした。キッチンのデザインも好みでした。設定としてイギリスの職人に作らせたとのことですが、明治時代以降の富裕な貿易商の一族で、その商売の関連で英国に縁があったという繋がりで英国的なのでしょうかね? 小人たちは日本在住なのか、過去の貿易などで日本にやってきたのか? というところが少し気になりました。



とにかく、背景美術集は買います。なんというか、あぁいう日本的にアレンジした屋敷で初めて「暮らしたい」と思えました。







最近、たまたま理想書店電子書籍サイト)で原作の販売もはじまり(『床下の小人たち』)、いろいろとアリエッティ関連で消費しそうです。



そういえば、映画の中で家政婦の方は自動車で屋敷に通勤しているみたいでしたが、自転車・バイク・自動車の普及は、英国貴族の屋敷の勤務形態を変えたと思います。影響を示す資料はまだ見つけていませんが、財政難に苦しむ屋敷では執事夫妻だけを住み込みにして、住み込みの費用と人件費を抑えられる日勤・通いの人たちの手を借りました。これが実現可能になったのは、交通手段、だと考えます。元々、屋敷は領地に囲まれた遠隔地にあり、交通手段がなかった時代にはアクセスは困難でした。


スタジオジブリ作品の「心地良い風景」

ここからは持論というか、感じていることです。スタジオジブリの作品は、「日本人が好きな日本の暮らし(憧憬・憧れ)」と、「日本人が好きなヨーロッパ的な暮らし」を描き出す要素であふれています。



あんまりうまく書けないのですが、『となりのトトロ』を見ると自然あふれる田園に足を運びたくなりますし、『耳をすませば』を見ると、昭和の延長、自分が少年時代をすごした時代の日本の生活風景が残っているように感じられます。英国では19世紀を舞台にしたクラシックドラマが数多く作られていますが、そうした過去の時代に存在した生活風景への憧憬を満たす点で(そのすべてが本物である保証はないにせよ)、ジブリの作品には自分にとっては心地よさがあります。



同様に、自分が抱くヨーロッパ的なイメージ形成に影響を与えたのは、子供の頃に放送していたハウスの『世界名作劇場』(ジブリ作品ではないですが)ではないかと考えています。児童文学などをベースにしたアニメはヨーロッパ的世界観であふれ、異国・過去の時代という点で、自分にとっての原風景的なイメージを形成しています。



ジブリの作品のうち、『魔女の宅急便』や『ハウルの動く城』、『紅の豚』で描かれた世界は、やや現代よりも少し前の時代でファンジックな要素が混ざっていますが、基本的にはヨーロッパの街並みを舞台のひとつとしており、この系譜に属すると思いますし、その点で『借りぐらしのアリエッティ』は、日本・ヨーロッパの風景が混ざり合ったもののようで、ある種、両方の文化が好きな自分に響いたのかもしれません。



あと、これは余談ですが、宮崎駿監督作品ではスカートをはためかせて走る女性像が多くありますし、ドロワーズの描写もあります。19世紀的な緩やかなラインのスカート(たとえばクリノリンやバッスル)はある意味、女性を動きにくくするものですが、宮崎監督の作品ではアクティブなアクションの結果としてドロワーズが描写されており、逆転しているようにも感じられます。



話が逸れましたが、「アリエッティで描かれた屋敷」は、自分にとっていいものでした、ということで。



人間が好きな「自然」は「本当の自然」ではないといわれますが、イメージの形成についてはこの辺りが参考になります。



創られた伝統 (文化人類学叢書)

創られた伝統 (文化人類学叢書)