ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

ネットサービスによるメイドイメージの形成や共有

最近、メイドブームのトレンドを整理しています。ちょうど1999年ぐらいに一般作品でかなり「メイドさん」を扱う作品が増え、創作表現として「日本のメイドさん」(非秋葉原メイド喫茶・まだこの頃にはない)のイメージが広がっています。



以下、そのことに関連して考えをまとめるための雑感です。後半、ネットでのイメージの伝わり方について思ったことを書きました。


目次

  • 1.ホームページによるイラスト公開の影響力とその歴史やいかに?
  • 2.メイドさんとインターネットの関係
  • 3.Twitterによるクラスタ超えとイメージの変化


1.ホームページによるイラスト公開の影響力とその歴史やいかに?

初期のメイドブームは1990年代の頃のトレンドの中では1999年がピークに見えるのですが、メイドブームに精通する森瀬繚様から、イラストレーター・村上水軍様の活動に代表される1990年代中葉から後半にかけて、早期にネットで「イラスト作品」を公開された方々の作品によって、メイド・イメージの普及に拍車がかかったのではないかとご指摘を頂きました。



少なくとも、村上水軍様はホームページのイラスト集で確認できる限りにおいて、1997年にはもうメイドのイラストをウェブにあげられています。1999年以降はメイドゲームのイラストも手掛けています。



同人や商業とは別の文脈で「好きな絵を描いて自由に発表する」場としてのインターネットは、どれぐらいの価値を持って、どういう絵が多かったのかなぁと、森瀬様のご指摘に促されて、思いました。



インターネット初期において、ウェブに発表しえるコンテンツを持っていたのは、創作する方々や作品のファン、同人をベースにした方だったのではないでしょうか。あくまでも推測ですが、イラストを発表するサイトの誕生が創作表現に与えた影響、そしてイラストサイトを束ねたリンク集などの歴史を考察した情報がどこかにまとめられていたら読みたいです。pixivも、この流れでは最近の歴史的出来事ですね。



こうしたイラストサイトのデータが登録されたリンク集データベースは、記憶にあるのですが、正確に思い出せません。東浩紀さんの『動物化するポストモダン』P.67-69では、1996年に公開が始まったオタク系検索エンジンTINAMIに言及し、イラストサイトを萌え要素で探す機能があったと紹介しています。その選択項目に「メイド」も含まれているとのことで(本の刊行は2001年)、年代・ジャンルごとの件数を確認する術があったら、より具体的に見えそうです。



その当時、流行していたイラストはどういう比率だったのでしょうか?


2.メイドさんとインターネットの関係

1990年代のネットをさまよっていて(Google検索・期間指定)、メイドさんとインターネットの関連性でブームを感じるネットサービスを見つけました。1998年にはサービスが始まっているメイドさんネットワークです。maid.ne.jpドメインのアカウントを作成できるもので、メイドさんリンクまであります。こうしたドメインを有料でも取得する「メイドが好きな方」向けサービスがあったのです。



メイドにまつわる情報の共有・ホームページではパソコン通信時代からの『制服学部メイドさん学科』様(現在は自転車の部活動へ転換し、サイトのコンテンツは閉鎖)や、『震空館』様(1999年01月)の活動、そしてメイド喫茶ブーム以前にも「メイド」の魅力を伝えるサイトが幾つもあったと記憶しています。



こうしたトレンドは、ホームページブームと重なってもいるでしょうし、1999年には2ちゃんねるも始まっていますので、趣味の共有はしやすくなりつつあったのかなぁとも思います。私も1999年にようやくWindows98のPCを買い、すぐにホームページを立ち上げました。(今とは違うジャンルですが)



情報発信者の増加とシェアという観点で見ると、後の2004年以降の「メイド喫茶ブーム」とネットとの親和性は高そうです。2004年のユーキャン流行語大賞で既にメイド喫茶の存在自体は表に出つつありましたが、ITmediaのこの流行語大賞を報じるコメントが、なんとも言えません。




 気になるノミネート語は「メイド・コスプレ」のほか、「アキバ系」「萌え」。「メイド・コスプレ」が「メイドのコスプレ」のことなのか、「メイドとコスプレ」なのかはよく分からない。

「メイド・コスプレ」が流行語大賞にノミネートITmediaニュース:2004/11/16より引用



メイド喫茶で会いましょう』(asin:4862040780)P.31によると出店ラッシュによって話題を生み、「オタクの流行スポット」的な報道が、やがて「メイド服を着たかわいい女の子を前面に押し出す」報道のしやすさと、「広範な層に来てほしい・タレント事務所運営の場所では露出が欲しい」というところで、メディアの露出機会が増えたとのことです。



出店ラッシュは、メイド喫茶・コスプレ喫茶・メイドカフェ 年表でまとまっていますが、こうしてメディア露出によって存在が知られ、『電車男』のテレビドラマ放送で、訪問者が劇的に増えていきました。



電車男』自体、2ちゃんねる発のコンテンツがネットでシェアされ(私が読んだのはまとめサイト男達が後ろから撃たれるスレ 衛生兵を呼べだった?)、それが2005年にテレビ化した際に、ドラマの舞台となる秋葉原の分かりやすい記号として、「萌え」サービスを提供するメイド喫茶が放送されたのを記憶しています。



2005年は秋葉原ヨドバシAKIBAつくばエクスプレスが出来るなど観光地化も進んでいたので、そうした観光地的なコンテンツ(2005年には「萌え」が流行語大賞)としてメイド喫茶が消費され、そのイメージが強い印象を残したのでしょう。2005年以降、よりメイド喫茶やメイド服を着た店員によるサービスはバブルのように増加しました。



メイド喫茶はホームページでの情報共有もかなり進んでいた印象がありますし、他にも体験や好みを共有する「ブログブーム」「SNSブーム」ともかかわっていたのかなぁと。確か、mixiには様々なコミュニティや、メイド喫茶執事喫茶の起業コミュもあったと記憶しています。



メイドさんメイド喫茶サイト」の歴史(メイド喫茶の歴史ではないです)をまとめているページがありましたら、是非お教えください。どう伝わっていたのかなぁと気になった次第です。


3.Twitterによるクラスタ超えとイメージの変化

こうした流れはメイドブームだけに限ったものではなく、他のジャンルでも似たものがあると思っていますが、では今流行しているTwitterFacebook等のリアルタイム共有の影響は、何に繋がっているのかと考えたとき、「コミケ」の認知度向上や敷居が下がったところを連想しました。



まず、私がTwitterでフォローしている人々には全くコミケやアニメと縁がなさそうな人もいるのですが、昨年末のコミケに「初めて」出かける人がいたり、実は同人誌を作っている人がいたりと、Twitterでは「自分が想像していなかった繋がり」がぽろっと出てきて、驚きました。



コミケの「イメージ」自体は、以前から2ちゃんねるでの実況→まとめサイトという部分での拡散と、コスプレ写真を報じるメディアサイトが増えていたり、ニコニコ動画でネタにされたりして、伝える面は広がっています。ニュースサイトや「はてなブックマーク」がこうしたページを紹介して、「意図しないページ」との出会いの場にもなりますが、「え、あの人が?」というTwitterで見える意図しない驚きは、同時に「コミケ」への印象も変えるのではないかと。



Twitterによる意図しない出会いは、リアルタイム性を持ちますので、特にテレビの放送と親和性が高いように感じます。いきなりタイムラインがテレビ番組の実況で埋め尽くされることもありますが、リアルタイムでそうした情報に接すると、「この人が見ているならば」と興味を持ち、普段は見ない「テレビを見る」ことも起こっているかもしれません。



というのを考えていた時、今日見たエントリ私の振り返るツイッター史で、2008年10月放送開始のアニメ『とらドラ!』の感想がふぁぼったーで上位に出て、それでアニメに興味を持つ人が出たかもとの指摘があり、また「Twitterドラマ化」でTwitter自体が利用者を増やしたとの話も見て、テレビの強さや伝わり方の多様性を感じいった次第です。



最後あんまりメイドブームと関係ないですが、Twitterやリアルタイム系のサービスが、何かのイメージにどのような影響を与えているか、興味があります。