ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

『お母さんは忙しくなるばかり 家事労働とテクノロジーの社会史』購入

お母さんは忙しくなるばかり―家事労働とテクノロジーの社会史

お母さんは忙しくなるばかり―家事労働とテクノロジーの社会史



この本はとても気になっていました。前に書店で『英国メイドの世界』の近くに並んでいて、「あ、重なるじゃん」と思っていたところ、日本経済新聞でも紹介されて(お母さんは忙しくなるばかり ルース・シュウォーツ・コーワン著 家電品の「家事軽減神話」あばく)、AMAZON在庫の方は尽きているようです。値段が高いので躊躇していましたが、本を作って売る側になったので良い本には出続けて欲しいということで買いました。



アメリカの100年ぐらいの家事の歴史を扱い、どのように工業化によってもたらされた環境が家事労働に影響を与えたのか、というところを扱っています。まだ読破していませんが、私が書いた『英国メイドの世界』は屋敷を軸にしたとはいえ、ここで扱っている「料理」「掃除」「洗濯」「育児」を分業して行うメイドの仕事を個別に、かつ詳細に紹介しているので、重なりも多いです。



20世紀の前半のイギリスでは段々と電気ガス水道の社会インフラが整い、また便利な道具(ガス調理器、掃除機や洗濯機)が登場することで家事の労力が減っていきました。第二次世界大戦後に刊行された家政マニュアル『ミセス・ビートンの家政読本』(この本は夫人の死後も改定を繰り返しています)は人件費や維持費が高くなったメイドの雇用から切り替え、そっちの方が安上がりと勧めましたが、そうした観点からすると、「家電が普及しても、他の要因も合わさっていき、家事労働は楽にならない」との指摘は興味深いものです。



イギリスとアメリカの場合、そして日本の場合とはどう違うのか?



著者の方はフルタイムの研究の仕事を続けながらと家事や育児を行った実体験の上で家事労働を書いている点も、実感が伝わってきます。



あと、ふと読み進めていて、『英国メイドの世界』の特異性にも気づきました。「家事労働」という領域を19世紀の業務マニュアルや20世紀に多く記された実在の執事やメイドなどの手記から再構築する際、システムエンジニアとして会社の業務フローなどを見てきた私の経験も生かした上で書いているので、会社員経験に基づく「仕事・業務」として(主に屋敷の)家事労働を捉えた異色な本なのかも、と思いました。



その辺の話は、英国貴族の屋敷の分業・専門化した業務フローを可視化する、という伝え方(2010/11/19)に書きましたが、こちらの本も読み終わってから感想を書きます。