ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

新刊『英国メイドがいた時代』

『英国メイドの世界』の続編的位置づけ・「最盛期から衰退の時代へ」

夏の新刊情報です。通巻では18冊目です。



英国メイドがいた時代

今回の新刊は『英国メイドの世界』で主に扱った「19〜20世紀前半までの間に英国社会に広がったメイド雇用」がどのように衰退を迎えて表舞台から消え去ったかを解説する前半と、「家事労働者」へと名を変えた「家事使用人」の仕事が、「1980年代以降に形を変えて復活して現代に繋がる」要素を描く後半とで構成しています。



この両テーマは本来、『英国メイドの世界』に載るはずでしたが、本のバランスを崩さない形で私がまとめられず、掲載を行いませんでした。ある意味、映画を見終わってスタッフロールを見ていたら、次の作品がいつの間にか始まって、見ていた作品の余韻を消してしまう、という形でした。そこで今回、同人誌の形で書き直しと資料の増強を行い、独立した一冊として仕上げました。



これまでに刊行した同人誌シリーズの位置づけとしては、「家事使用人」を扱ってきた『ヴィクトリア朝の暮らし』シリーズ「使用人パート」完結編です。ある意味、同人誌1巻(2001年作成)と今回を比較すると、そのテーマの広がりも全く違っています。



24才から始まった同人活動が、35才になってまったく同じであるわけでもなく、自分も変われば、自分を取り巻く環境も変わるので、テーマへの取り組み方や視点も変化するところをお伝えできればと。



仕様

タイトル:『英国メイドがいた時代 The End of "Upstairs Downstairs"』

副題  :「ヴィクトリア朝の暮らし 完結編」

値段  :1000円

サイズ :A5判

ページ数:148ページ(厚さ0.9cm)

頒布開始:2011/08/14(日) コミックマーケット80 西た08a

委託  :「とらのあな」/「COMIC ZIN」の2ショップ



電子書籍パブー/500円DLSite/525円


制作者情報

筆者     :久我 真樹(サークルSPQR

表紙イラスト :カズノリ様

表紙デザイン :U様


内容/目次

  • まえがき
  • 目次
  • Part.1 英国メイドがいた時代・
    • はじめに
    • 1章. 英国におけるメイド雇用の背景
    • 2章. 2つの「使用人問題」・
    • 3章. 「階下」の時代の終わり
    • 4章. 「階上」の世界の終わり
    • 5章. 使用人という仕事、あるいはメイドオブオールワークの現実
    • 終章. 家事使用人から家事労働者へ・
    • 結びにかえて
  • Appendix 数字で見る英国メイド
    • 1. 家事使用人の労働人口 
    • 2. 家事使用人の年齢構成 
    • 3. 家事使用人の勤務期間 
    • 終わりに 
  • Part.2 メイドがいる時代を生きている、生きていく・
    • はじめに
    • 1章.「新自由主義」と雇用主の変化 
    • 2章.多様化する供給源 
    • 3章.現代家事労働者の職種 
    • 4章.家事労働者を巡る新旧の問題 
    • まとめ、あるいは展望
  • あとがき



まえがき(『英国メイドがいた時代』より転載)

 『英国メイドの世界』を追いかけたらいつの間にか現代に繋がっていた、その驚きを読者の方々と共有したい気持ちから、本テキストは生まれました。家事使用人の世界は「ノスタルジックに語られるもの」「過ぎ去った時代」だと私は研究当初に考えましたが、調べれば調べるほど現代に繋がる道筋が見えました。



 そこで本書では、英国社会全体に広がった使用人雇用の習慣が衰退した背景をテーマとします。使用人がいた時代がなぜ終わったのか、なぜ終わらざるを得なかったのかの整理と考察を行い、英国の家事使用人を扱ったこれまでの同人活動の完結編とします。



 講談社から2010年11月に刊行した『英国メイドの世界』の続きとなる位置づけです。



 結論から言えば、英国ヴィクトリア朝にピークを迎えた家事使用人の労働人口は、19世紀末を経てさらに増大し、第一次世界大戦の影響で一時的に減少したものの、第二次世界大戦直前までにその労働人口は最盛期に匹敵する規模に回復しました。



 しかし、第二次世界大戦を経て一気に激減し、その後、使用人の労働人口は二度と同じ水準に戻りませんでした。労働人口の推移だけを見れば突然死にも見える使用人衰退の原因を考察するのが、『Part.1 英国メイドがいた時代』です。



 『Part.2メイドがいる時代を生きている、生きていく』では、使用人雇用が著しく衰退したはずの英国で、1980年代以降、再び個人の家庭で家事を行う労働者が増大していった事情を取り扱います。住み込みで働く人々こそ減少したものの、21世紀のある調査では英国で家事サービスに従事する労働者数はヴィクトリア朝の規模を超えるものに成長したといわれています。



 掃除や洗濯、料理だけではなく、育児や介護の領域でも家事サービスへの需要は途絶えていません。



 そして英国で終焉したはずの「メイド」の仕事は、今現在、世界中の様々な国々に拡散しています。英国で家事労働がなぜ復活したのか、英国だけではなく世界で広がるメイドの雇用を成立させる条件の答えを、探していきます。



 本来、『ヴィクトリア朝の暮らし』と冠する同人誌シリーズを作り、英国ヴィクトリア朝の生活への関心を軸にした私が、なぜ現代事情にまで強い関心を持ったのか。



 その理由は、「メイド」を軸に、どこまで世の中の事象と接点を持ち得るかを私が試しているからです。現代を生きる以上、自分が扱うテーマが世の中に繋がる同時代性を持ち、今を照らす視点になって欲しいと願っています。

 こうした経緯もあって私はメイドへの関心を広げました。



 「貴族の生活・屋敷」を起点とし、「屋敷の暮らしを支えたメイドや執事」に興味を持ったのが始まりでした。その後、自身の転職経験から「働く・転職するメイド」へ関心を広げ、また数年後にはマネージャー経験や業務定義への意識の高まりから、「執事やハウスキーパーのマネジメント」に興味を持ちました。



 さらに20世紀の「使用人問題」を学ぶ中で「働きやすさ・労働環境」や、「日本を含む世界各国での使用人問題」に目が向きました。出版時によく聞かれたので「日本の現代メイド事情(コンテンツ軸)」も整理しました。そして今、「現代の英国メイド事情(移民・子育て・繰り返す使用人問題)」へと辿り着きました。



 同人イベントで多様な同人サークルが個々の表現を行うことが同人表現の裾野を広げるように、私も「メイド」というテーマの裾野を自分なりに広げたつもりです。



 メイドがいた時代が終わり、それが現代にどう繋がるのか?

 近代の英国と、現代の英国から見える「メイド」とは何か?

 『英国メイドの世界』の総仕上げとなる本書を、お楽しみいただければ幸いです。




『英国メイドがいた時代』の補足情報

『英国メイドがいた時代』が繋がっていくテーマの補足(2011/08/06)


既刊の紹介・振り返り

同人誌既刊

2001〜2006年までの同人誌紹介:メイドさんを追いかけた六年〜同人誌で振り返る(2006/12/28)

2007〜2009年までの同人誌紹介:2007〜2009年の新刊/9年間の同人活動を振り返る(2009/12/28)



2010年は夏コミの新刊と、出版記念コラボイベントで製作した同人誌2冊を刊行しています。



英国メイドにまつわる7つの話と展望

英国メイド好きの世界


同人誌の電子書籍

2011年07月に、『英国メイドにまつわる7つの話と展望』と『英国執事の流儀』をそれぞれパブーで公開しました。



『英国メイドにまつわる7つの話と展望』をパブーで公開・パブーの便利さは異常(2011/07/17)

執事の働き方・エピソード集『英国執事の流儀』パブーで販売開始(2011/07/20)