ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

FM-TOKYO『水樹奈々のMの世界』のメイド対談を振り返って

ご縁があって、水樹奈々さんのラジオ番組『水樹奈々のMの世界』に出演してきました。FM-TOKYOで2011/10/09 00:30-01:00の放送でした。



http://www.tfm.co.jp/7/index.html



どのような「ご縁」かといえば、少し話が長くなります。まず、水樹さんの先輩・井上喜久子さん(17才)が同ラジオ番組の9月放送分にメイド服で訪問したり、水樹さん自身コンサートでメイド服を着た経験もあったりと、「メイド服」自体への関心は高いものでした。そして、水樹さんのコンサートでスタッフの方がコスプレして走るコーナーがあり、その衣装としてメイド服を着ることから、「歴史的なメイドを学ぼう」という特集が組まれ、講談社の担当編集さん経由で私をご指名いただいた次第です。



まさに、青天の霹靂です。私はこれまでメディア取材・露出は一度もなく、人前でメイドを話す仕事もしていません。会社で働きながらのメイド研究で、ラジオで的確に話せるかまったく自信はありませんでした。



個人的に水樹さんの圧倒的な歌声や響きは大好きです。『innocent starter』『ETERNAL BLAZE』『深愛』などで聞いていますし、声の響きやライブ映像での存在感が強く印象に残っていましたので、その水樹さんのお役に立てるならばと、お引き受けました(私はいわゆるオタク第二世代(1970年代生まれ:wikipedia)となり、『銀河英雄伝説』で数多くの声優を覚えた世代で、やや古い方です。2000年代以降はそこそこアニメから遠ざかっていますが、水樹さんの出演された作品では『プリンセスチュチュ』「るう」役や『WHITE ALBUM』の「結城里奈」役が印象に残っています)



運と縁を感じたのは、番組タイトル「Mの世界」と「メイドの世界」に繋がりを見出して下さったことです。もしもどちらかのタイトルが『Mの世界』ではなかったり、『英国メイドの世界』でなかったら、この企画は無かったかもしれません。さらに当初、別録音の予定で水樹さんとお会いできないはずでしたが、タイミングが偶然重なり、急遽、水樹さんとの「対談」となる幸運にも恵まれました。


事前準備

出演が決まったものの、私は喋りの素人です。そしてプレッシャーにも弱いです。ゼロからアドリブで出来るはずもなく、事前に企画の概要やお題をいただき、それをベースに、自分の準備を進めました。「転職活動での面接」に似て、想定される問答がありつつも、紙に書かれた原稿をそのまま読むのではなく、紙を見ずに、相手との対話の中で如何に分かりやすく自分の言葉で伝えるかを考えました。



転職の場合は自分が募集職種でどう役に立てるか、その裏付けとしての職務経歴や志望動機を伝えますが、今回は話の主体が「私」ではなく「メイド」です。他のゲストとの方との対談と異なり、まずは「(専門家として)疑問の解消」が優先されますので、「メイドについての認識が深まる」目指しました。その点では、自社ブランドを伝える「PR活動」に似ているかもしれませんね。



とはいえ、その中で「私」がなぜ本を作るまでにメイドを作ったか、「私」から見てメイドはどういう魅力を持つのかをお伝えすることも心がけました。「私が描くメイドイメージ」というのが、「私」が呼ばれた理由でもあると思いましたので。



普段と前提条件が全く異なるリスナーに情報を伝えるので(10代前半のリスナーも)、言葉や伝え方も意識しました。「メイドが好きで興味を持つ水樹さん」に伝えることと、「メイド好きの前提情報が共有されていないリスナー」にも届く点で、後者に届けるにはどうすればいいかも考えました。



いずれにせよ、経験不足は補いようがないので、後は水樹さんとの対談を楽しむように気持ちを切り替えました。幸運にも過去にボイトレ(当初はビジネス向け。健康管理+趣味)をやっていたので、最低限の出るように体調を調整して当日に臨めば、なんとかなるだろうと。実際は長期離れていたことによるコンディションの悪さと緊張で声を響かせられませんでしたが……


水樹さんとの対談へ

当日は会社の業務を終えてから収録へ出かけました。担当編集さんが付き添って下さり、スタジオで水樹さんや番組スタッフの方と顔合わせを行いました。ここで水樹さんに初めてお会いしました。この時、「あぁ、出版できて良かった」と、心の底から思いました。



水樹さんの収録を拝見・視聴しながら、自分の出番を待ちました。番組や収録の雰囲気を掴むということで、楽しみました。そして録音に入り、水樹さんの向かい側に座り、対談が始まりました。



企画は水樹さんからの疑問に私が答える、というものでした。ところどころ、支離滅裂になってしまったかもしれません。しかし、水樹さんの質問は非常に的確で、とても話しやすく、私が言いたいことを的確にまとめて下さったり、話を進めやすくコントロールして下さいました。ホスピタリティが非常に高く、プロとしての凄さを感じました。



ある意味、水樹さんにとっても冒険だったと思います。メイドに詳しいとはいえ、ラジオに慣れていない素人を相手にして、番組を作るのですから。水樹さんの番組では今まで「プロの方々」との対談がほとんどで、私が足を引っ張らないか不安でしたが、そうした杞憂も忘れるぐらい、収録の間、私の良さを引き出そうとして下さり、水樹さんとの対話を楽しむことが出来ました。



当日最後には水樹さんの新発売のライブ映像Blu-rayにサインをいただき、私の方も『英国メイドの世界』をお渡しすることができました。



NANA MIZUKI LIVE GRACE -ORCHESTRA- [Blu-ray]

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水樹さん、そして番組スタッフの皆様には本当に感謝しております。


反省材料

メディアで伝えることの難しさを感じました。何かを説明しようとすると根拠を提示しなければなりませんが、実際にはその時間や環境にありませんでした。ネットや紙を軸に活動される方が、テレビやラジオなどのマスメディアに露出すると言葉が適切に伝わらなかったり、本領を発揮できない理由も分かりました。



言葉に込める情報量やバランス、伝わり方が全く違います。



メディア特性というのか、ラジオやテレビのような時間が限られる媒体では、情報を圧縮するか、シンプル化しなければならず、どちらのプロセスにせよ、本来の意味から離れる可能性を持っています。Twitterでもコンテクストではなく、断片が拡散しますね。



話す側である私も、「あれも伝えたい」「これも伝えたい」と思ってしまいました。今回は前述したように、「水樹さんが、メイドの疑問を解消する」ことが主題で、水樹さんの質問を追いかけつつ、私の知識や視点、体験を引き出して進める形になっていたのではないかと思います。番組として成立しえたのも、水樹さんの話す力の高さがあってこそで、対談相手としての話やすさには、畏敬の念を持ちました。


「メイド=人生」

最後に「久我さんにとってメイドとは?」と尋ねられて、「人生」と答えました。「『CLANNAD』ですか?」と言う言葉が脳裏によぎりつつ、主旨としては「人生をかけて、興味を持ちえる対象」というのでしょうか。私のメイド研究は人生の節目ごとに、大きく変わりました。



所属した小さな会社で成長や昇給の機会が無いと感じた時、転職もしました。そこでメイドの転職事情や面接、求人環境に興味を持ちました。また、管理職としての経験から人に業務を伝える難しさや仕事の進めやすい環境作りを自覚したとき(あるいは管理職の資質によって働きやすさが全然違う)、過去の上級使用人や下級使用人が同様の問題に直面していたのを知りました。



そして歴史的なメイドの労働環境を巡る問題(なり手不足)を通じて、現代日本でも改善されない労働条件や長時間労働・低賃金に目が向きました。私も長時間労働や、安定しない雇用環境を経験しています。



ここ1〜2年は現代英国や海外のメイド雇用事情を学ぶことで、グローバリゼーションや現代の格差社会、あるいは友人の結婚や出産によって現代社会の就業環境や育児環境へ関心が向きました。メイドを学ぶことと、生きることが、今は一致していると思い、人生、と回答しました。



「メイド研究」を通じて人生が変わった人間がいても面白いと思います。FMで同人サークルの紹介をしていただき、英国メイドの歴史を話すというのは、滅多に起こらない事件みたいなもので、それを体験できたのも良い経験でした。


後で思ったこと

終わった後に感じたのは、「メイド」を軸に水樹さんから話をうかがう機会ができたらなぁとの想いです。水樹さんがメイド服を着て、かつ歴史研究をした私と接点を持ったことは、日本のメイドブームを知る事例のひとつかもしれません。



水樹さんのコンサート衣装はドレススタイルや、スカートの裾が広がっているもので、その中に「メイド服」もありました。ぐぐったところ、既に2006年にはメイド服でコンサートをされていたとのことです(水樹奈々『LIVE UNIVERSE 2006 summer』大阪公演) また、2007年の水樹さんのブログでもおバカも本気ですっとコスプレ姿を披露されています。



メイド服と裾が広がるドレスの源流については現在研究中で、メイドやヴィクトリア朝を軸としたイメージ形成を巡るブレスト的つぶやきなどにまとめていますが、メイド服が衣装としてアーティストが着るものになっている、あるいはアーティストの影響でより広がりがあるのか、という問いがありつつも(1990年代前半にあっては中島みゆきさん、2000年代にあっては『完全メイド宣言』)、その水樹さんが私との対談で「日本のメイドが多い」と認識されている現在は、決してメイドブームが去ったのではないと感じる次第です。



完全ベスト宣言1

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夜会 VOL.6 シャングリラ [DVD]

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いつになるかは分かりませんが、目標として、水樹さんにこうしたお話を聞く機会が作れるよう、精進します。