ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。同人・出版活動の報告を含みます。

2012年はメイドジャンルを繋いで描き、10年後にも残るものを

元日にコミックマーケット81・サークル参加無事終了と振り返り2011年の振り返りを記して、2011年にできなかったことや、したかったことを整理しました。



2012年の方針の核は、「自分だけでは出来ないことを実現するために、同じ目標を持つ・同じ方向を向く人に出会って一緒に何かをする」と、「自分のテーマ領域を広げて、非サブカルチャー以外との接点を作っていく」ことを挙げます。



前提として、「自分の好きを表現し、かつ好きを表現する人たちにとって心地よい環境作りに寄与できることを探す」ことがあります。私も周辺環境・ジャンルに育てられた恩義があるので、作品を出すこと以外で返せるものがあるならば、積極的に返すつもりです。


1. 同人活動を広げる

1-1.メイド総合同人誌(または表現の場)の構築

2011年の同人活動は個人で出来ることはだいたいにおいて実現できたと思います。ただ、個人で出来ることの限界も感じていますし、私が活動のベースでしてきた同人の世界にあっても創作メイドジャンルは数年前に比べると数が減っています。とはいえ、私は『英国メイドの世界』を刊行することで、メイド創作のインフラたることを志しましたし、実際にメイド作品が商業で生まれているのも目の当たりにしました。



そこで、「メイドを横断的に扱う『雑誌的な表現の場』を作りたいと考えました。どのような形で進めるか、まだ決めていませんが、私の知人の方や私の活動に興味を持つ方々にお声掛けをして、表現活動にプラスとなる「構造」を設計したいです。



私が目指すのは「メイドが好きな人のための本」だけではなく、「読んだ人がメイドを好きになる本」ですし、「メイドを書きたい」と思う創作者の方たちにとっての表現の場、そして「この人のメイド作品を読みたい」という私の気持ちを満たす場にしたいです。



ここで私は、「英国メイド」に限るつもりはありません。「日本におけるメイド表現の多様性」を10年後に残す意味でも、幅広く考えたいと思います。今時点ではまだ構想段階ですが、少しずつ準備を始めます。


1-2.『階下で出会った人々』の刊行

これは2011年に刊行を予定していた同人誌の刊行です。[参考資料]英国メイドの世界(著者による紹介)の後半に私が資料から登場させた家事使用人の人名リストをあげていますが、彼らが出会った人々も含めると相当な数の家事使用人のエピソードがあります。



『英国執事の流儀』で7人の執事の職場遍歴やキャリアの変遷を描いたのと同じ密度で、家事使用人の中から魅力ある人々を紹介しようという企画となります。過去と比べた最近の同人活動の気持ち的な変化には、「この人を是非、知って欲しい」と言う情熱の欠如も挙げられます。この人を伝えたくてしょうがない、だから同人誌を作るというフローがかつては存在しました。その気持ちを、取り戻そうと思います。


1-3.同人ノウハウ本の作成

私は「好きを続ける」ことを好んでいますし、他に職業を持つ人がプロの作家と同じスペースに並んで戦うことができる「同人の場」を好んでいます。アマチュアにはアマチュアにしかできないことがあります。ただ、働きながらの同人活動は障壁が高く、特に家族を持つと、家族の理解なしでの継続は困難になるでしょう。



同人活動を続けるためのノウハウを考える(2011/09/01)に詳細は書きました。この話をどう動かすかは時間配分と優先順位の判断が必要ですが、私が10年以上同人誌の刊行を続けられたノウハウを開示しつつ、他のサークルの方々のノウハウも集められるような場としたいです。



私が主催する必要もありませんが、とにかく「同人誌を作るテクニック」は多々あっても、「同人活動を続ける方法論」が少ないです。私は創作ジャンル・メイド資料本というニッチ領域にあって、オリジナリティを追求する中で活動を10年以上続け、かつ同人誌の頒布部数でも累計1.2万部ぐらいは出しているので、経験に基づく話も出来ます。壁サークルになれなくとも、ある程度の規模で活動するサークルにとって有益な情報を出せると思います。


2.境界線を広げる

2-1.商業出版企画の完遂と出版の実現(企画自体は通っています)

今年は2009年ぐらいから温めていたメイドにまつわる企画を、商業出版する予定です。企画自体の承認は出ていますが、私にとっても挑戦となる領域が多く、非常に難易度が高く、なかなか進められていませんでしたが、今年はこれを最優先事項として出版にこぎつける所存です。



私の原稿ができておらず、また出版できるクオリティに出来るかというところもあるので、内容と出版社はある程度固まってから公開を行いますが、とにかく「メイドの概念を、今メディアで伝わる一部の物からより広範・総合的に見たものへと切り替える」という、2011年目標の一環の活動となります。



「メイドに興味があり、積極的に情報を得る人」だけではなく、ここでも「メイドに興味はないが、興味を持ちえる人」を対象に、「この本をきっかけにメイドジャンルに接していく」人を増やすことを目標としています。


2-2.創作への応募

『英国メイドの世界』を刊行した折、元同僚と元職場の社長の2名に言われたのが「物語にした方が資料本よりも伝わりやすく、すそ野が広がるのでは?」との言葉でした。元々、私の同人活動は「イメージさせる短編小説+英書に基づく解説」で構成されていましたが、その辺りの創作の部分を、より特化させて切り離し、世に伝わる形にしたいとも考えました。



2011年冬コミ新刊『誰かの始まりは、他の誰かの始まり ヴィクトリア朝の暮らし短編集・総集編』で創作11年の振り返りを行いつつ、今の自分ならば何が書けるのかという試みも行いました。メイドウ創作を行う楽しさも思い出しましたし、書きたい作品もいくつか思い浮かびました。



そこで、定常的にメイド創作を書けるようにスケジュールを決めつつ、どこかの創作小説の大賞に応募してみるつもりです。ターゲット読者は、「境界線を広げる」観点で2系統考えていて、「社会人向け」か「中高生向け」です。


2-3.中高生に届くようための図書館への寄付はできるのか?

『英国メイドの世界』を毎月10冊ずつ中学校や高校に寄付できないか、という試みです。目的としては学校図書館に接点を持ち、興味を持ってもらうための試みです。ある種、「仕事図鑑」「働くこととは何か?」との具体的な事例でもあり、歴史に興味を持ってもらう入り口にもなりやすいと考えています。



本の単価が中高生のお小遣い的には高いですし、図書館予算的にも厳しいかもしれませんので、そこは自腹で月3万円以内(約10冊)の予算で未来への投資としていくのも悪くないかなぁと思っています。



ただ、希望者を募り、配送する手間を簡単にする具体的アイデアはありません。Amazonのwishlistかなぁと思っていますが、出版社にも面倒をかけず、受け取る人も楽をできる方法を3月までに考えます。


3. ジャンルの安定化のための振り返りと繋がりの軸として

2010年の出版以降、とにかく「日本のメイドについてどう思う?」「英国メイドとの違いは?」と聞かれました。さらに出版したことで多様な情報が集まりやすくなってきたこともあって、2010年からライフワーク的に日本のメイドブームについての考察や情報の整理を始めました。



考察も大切ですが、まずデータを収集すること。そこを軸に可視化を行いつつ、「一緒に取り組んだら面白い人」を探し、コラボできる余地を探していきます。2010年の出版時には秋葉原のメイド図書館『シャッツキステ』とコラボを行いました。同じように、2012年は繋がりを広げていくつもりです。



メイド喫茶に初めて行ってみたい人向けに、英国メイド研究者が書いてみるもその一環と言えば一環で、これは「あくまでも一部にすぎないメイド喫茶の形態が、すべてのように伝わること」へのカウンターのようなもので、私から私が好きな「表現」を行う方への援護射撃になればとの気持ちがありました。


3-1. リアルの場で図書公開を行い、学びたい人の場とする

何度か呟いているのですが、正直なところ、私の家にある蔵書で私が読んでいないものは多々あります。常に全部を必要としているわけではありません。それに本は読み手によって何が響くかも違っており、私の家にあるだけでは世の中の役に立ちません。



そこで、2009年には「図書館的なことをしたい」と書き、2010年には一時的にシャッツキステとの出版イベントの中で5日間蔵書の公開を行いましたが、2012年はお声掛けいただいたとある場所で、定常的・長期的に私の蔵書の公開を行います。ここでは、メイド関連本(+ヴィクトリア朝や、広義のメイドも含めて)を読みたい方に向けて提供し、機会を創出することにしました。



具体的な話は公開可能な時期に行います。


3-2. 学びの機会を増やし、かつ自分が学んだことを伝えていく

メイドブームと並行する形で、むしろメイドブームよりも強固でかつメイドブームと混在して目立っていないかもしれない「カフェ文化」や服飾について、もう少し学ぶ機会を増やしたいと思います。実は私の同人誌の読者の中に、教えを乞いたい方たちがいたことも判明しましたので、その辺りを楽しもうと思います。



同時に、私だけでは「英国メイド」の領域についても学びきれるものではなく、また日本の「メイドブーム」も照らしえるものではないので、研究会的に相互に学びあう事、伝え合う事で広げられる場を作りたいと思っています。そのフックとして「リアルの場での図書公開」と重ねていくつもりですが、私が学んできたことを伝えつつ、その先を目指して欲しいと思います。その気持ちは、『英国メイドがいた時代』に記しましたので、そこから引用を。




 メイドがいない社会は格差が少なく、相対的に豊かさを持ちます。現代日本は格差が広がっているとはいえ、まだメイドが普遍的ではない状況に留まり、だからこそ、漫画やアニメ、メイド喫茶に代表される「メイドさん」が育まれたように思います。



 日本のようにメイドがサブカルチャーで当たり前になる環境は稀です。私は、その日本でのメイドイメージの広がりと多様性に強い関心を持っています。



 日本で成立した様々なメイドイメージと、同人を母体として研究が進んだ歴史的な英国メイド、そして海外で広く雇用される家事労働者のメイドを、今後、比較研究していくつもりです。



 明らかに個人で出来る領域を超えていますし、どこまで出来るかはわかりませんが、「日本で行われてきたメイド研究」がどこまで広がるか、いわば私は今、「本棚」を拡張しているようなところです。この本棚に収まる本を作るのは私である必要はありません。目的としては、そこに「本が入るスペースがある」ことを示したいと思っています。
 メイド研究は同時代性を持ち、ここからの10年、もっと広げられるはずです。

4. 「メイド以外」の人々と出会い、学び、「通じる言葉・概念」にする

最後は「メイド」以外のフォーカスをしたもので、世の中により届く・伝えられる言葉を持つにはどうしたらいいかという接点作りになります。そもそもこれからの時代を生きていく立場として、私は「近代の価値観」に興味を持ちましたし、ここ数年、岡田斗司夫さんの在り方に興味を持っていました。



2011年は自分のことで手いっぱいで足場の構築に終始しましたが、2010年の振り返りで描いた軸を深化させるつもりです。これもまた2010年を振り返る&2011年への抱負から引用します。



3位:学びの機会と現代性を得る

今年は4つ、大きな視点を得ました。



ひとつは岡田斗司夫さんの活動への興味です。オタキングex立ち上げをリアルタイムで見ましたし、語られるビジョンの視点は非常に高く、自分が問題に思うことの解決策も提示されていました。まだ自分の足元が固まっていないので参加はしていませんが、この時に、岡田さんの著書『ぼくたちの洗脳社会』で紹介されたアルビン・トフラーの『第三の波』を通じて、当時疑問に思っていた「近代の特徴・家事使用人への影響」についての考察を深める機会を得ました。



2つ目は年末に刊行された『まおゆう』を通じて、今まで読んでいなかった『銃・病原菌・鉄』や、『英国メイドの世界』執筆に関連して、近代関連の知識を網羅的に広げるきっかけのひとつにしました。『まおゆう』の行間を勝手に読んだ部分もありますが、非常に刺激的でした。(『まおゆう』刊行を記念して、振り返る「近代」関連の書籍) 作品自体、時間を忘れて読みました。



3つめは、フーコーとの考え方との出会いです。19世紀に規律重視・時間厳守・役割分担・マニュアル化が進む家事使用人の状況を見て、アルビン・トフラーの『第三の波』だけではどうも埋め切れませんでした。「その根幹は何か?」と考えていたとき、英国留学経験者の方(社会学・哲学)と出会い、フーコーの『監獄の誕生』が良いとレコメンドされました。



フーコーとの出会いは私には衝撃的でした。その上、今まで読んでいた家事使用人の本では一度もフーコーの名前を見たことがなかったのですが、昨年末に読んだある本で、初めてフーコーの名前を見ました。最高のタイミングで、繋がったと思います。彼が描き出す近代人のモデルは今後の財産になったと思いますし、この辺りの話は、『まおゆう』の登場人物「メイド姉」に繋がるかもしれません。



最後が、やはり今年お会いした別の方とのお話を通じて、「世界のメイド」への視点を広げたことです。当初は「世界のメイド服」的な意味合いでしたが、メイド事情を調べていくと、雇用に見られる構造に気づきました。また、グローバリゼーションと移民、そして資源の減少による生活の変化にどう向き合うかというところが、20世紀前半の英国メイド事情とも重なり、私がこれまで扱ってきた事象が現代性を帯びているのを確認できました。(2010年『ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん』アクセスランキング・ベスト10の1位に記載)



こうした問題意識は、私が尊敬する川北稔先生の著書とも重なり、『イギリス近代史講義』〜現代を照らす一冊(2010/12/15)に記しました。



私自身はその他でもミヒャエル・エンデの本で知った地域通貨の概念へ関心を持ちましたし、岡田さんの評価経済の話を生き方を模索される玉置沙由里さんのMG(X)への出資をしました。他に、今年は仕事での必要性もありますが、Skypeを活用したフィリピンの英会話教室を利用して英会話と、フィリピンの歴史についても学ぼうと思っています。



こうした領域は「特にメイドと接点が無い」ように見えますが、現代を生きることを考えるところで、重なりもあります。『英国メイドがいた時代』が繋がっていくテーマの補足で描いたように、「1.ワーキング・プアと新自由主義」「2.近代世界システムと家事労働(ジェンダーフェミニズムの観点)」「3.移民事情と現代日本」と家事使用人の歴史・家事労働者の境遇は無縁ではないからです。


終わりに

とても盛りだくさんですが、「今年1年ですべてやろうとは思わない」「私だけでやろうとしない」ことをキーワードに、今年は活動を楽しみ、深め、より多くの人に関心を持ってもらえるような伝え方を模索していきます。会社勤めでの経験も新しいステージに入っており、仕事とのバランスをどのようにするかも課題に上がってきますが、今年はこうした目標を描くこと、スケジュール管理を行って具体化することでプライオリティを下げずにいきます。



メイドへの関心を持っていただくのも大切ですし、私の生き方や在り方を軸にメイドに興味を持っていただくことも出来るのではないかと思いつつ、水樹奈々さんのラジオで「メイドは人生」と言った手前、「人生」としてしっかり向き合っていきます。



これが全部できたら、相当、すごい人間ですね。でも、一人で出来るわけがありませんし、すごい人間になろうとも思いません。半ば誇大妄想的かもしれません。しかし、ここに描き出した「夢」を共有し、響いて受け止めて下さる方が一人でも増えれば、「世界」を見る目を変えられるとの希望があります。



見守っていただければ、そして一緒に楽しんでいただければ、幸いです。