ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

家事使用人勉強会の始まり

2012/07/16(月・祝)に第一回目の家事使用人研究会を開催します。詳細と申込みは月夜のサアカスのブログ、使用人研究会のお知らせをご覧ください。



前半は「概論」として興味を持ってもらうために、日本におけるメイド関連書籍の話を踏まえつつ、最低限、家事使用人を学ぶ上で押さえておきたい事項に絞り、底から数多くの書籍やドラマなどに出会っていく機会作りとしたいと思います。



後半は「研究室」と題して、「屋敷」をテーマに私の方から英国屋敷の話をしますし、参加される方からも英国、或いはそれ以外の国、そして日本の洋館などの話を広げていければと考えています。こちらは既に興味がある方向けの内容となります。


概論と研究室を分けた背景

2012/04/01より、秋葉原のカフェ「月夜のサアカス」で私の蔵書の一部を公開する試みを始めています。テーマのひとつは接点を広げ、興味を持つ方を増やすことにあります。その手段として幅広い蔵書の展示がありました。



別の企画が、研究会です。



どちらかというと研究会では私も学ぶ一人として携わりたかったので、一方通行的な「講義」形式は行わないつもりでしたし、本を読めば分かることを説明することもないだろうと思っていました。しかし、4月に行ったプレオフ会で出た希望を拝見すると、「詳しい話を聞きたい」という方と、「既に興味があるので、語り合いたい方」とに分かれていました。



ここでなるほど、と思うこともありました。私はこれまでに同人活動をしたり、ネットで自分が好きな世界の魅力を伝えることをしたり、本を書いてきました。しかし、自分が出会えるほとんどの人は、初めから「興味をあり、私を見つけることができる」人です。



では、そうではない人で、今後強い関心を持つかもしれない人と出会っていくにはどうすればいいのか? 少しでも「知りたい」欲求を持ってもらうには、或いは、メイドの多様性を伝えていくには?



そこで、(聞く人にとって)1回限定の方向で「昔は存在せず、今は多く存在するメイドの資料本を読む前段階としての話」をするのも意味があると考えるようになりました。自習の手引きのようなものですね。


自分は研究者か、エヴァンジェリストか?

話は少し飛びますが、私がどこまで「探求」を続けるのかを、最近振り返る機会がありました。私が伝えている多くは、英語圏の先行研究や知識、そして自伝やインタビュー記事、政府刊行物といった膨大な情報を収集し、分類し、自分が理解するために構造化して、分かりやすく伝える「編集」作業となります。その点で最も大切にしてきたのは、先行研究を尊重し、伝わりにくいことや分からないことを自分で調べて補い、その上で自分が魅力的だと思う点を伝えることでした。



さらにこのところ、村上リコさんが『図説 英国メイドの日常』『図説 英国執事』、そして最新の家事使用人資料本の翻訳を進めているとの話をTwitterで垣間見ると、会社組織に所属して多くの時間を探求に費やせない私が、限られた時間を何に使うのかを問い直しました。



「本棚の公開」というのも一つの発見で、公開してあるからといって読まれるとは限りません。しかし、そこにある本が自分と繋がりがあると分かると、興味も湧くでしょう。私はよく以前の職場の同僚、あるいは今の職場の同僚に『英国メイドの世界』について聞かれるとき、その説明として彼らに伝わるように、仕事を軸にした伝え方をします。興味を持たない人もいれば、結構、強い関心を示してくれる方々にも出会いました。



だから、私は伝え方次第だと思うのです。本もその一つの手段で、『英国メイドの世界』において「初心者でもこの一冊だけで、メイドや執事を興味を持って分かりやすく伝える」目的の多くは達しました。しかし、この本に辿り着かない、出会えない人も大勢います。世の中に存在する本や知識と、興味を持つかもしれない人の出会いを繋ぐ場のひとつとして、研究会の形は試みる価値があると。



同時に、そこに来る人から学ぶことも多々あります。伝えることは伝わらないことを学ぶことであり、来る方のバックグラウンドや関心の軸が違えば、メイドを照らす視点も増えるからです。



司書なのか、キュレーターなのか、エヴァンジェリストなのかは分かりませんが、私は様々な形で生きて、魅力的に思う「家事使用人の世界」を伝えたいと思います。



尚、研究会を「英国」の家事使用人に限っていないのは、それ以外の国や時代にも興味対象が広がっているからです。



というところで、よろしくお願いします。