ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。同人・出版活動の報告を含みます。

中島みゆきさんがメイド服を着た『夜会 VOL.6 シャングリラ』(1994年)

以前、『英国メイドの世界』でイラストを描いて下さった撫子凛さんより、「中島みゆきさんがメイド服を着ていた『夜会』(中島みゆきさんのライブ)がある」との情報をうかがいました。



その映像作品(他にシナリオあり)を、最近ようやく購入しました。



夜会 VOL.6 シャングリラ [DVD]

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シナリオは、Amazonの紹介を引用すると、次のようなものです。




メイは新聞の求人欄に、ある女の名を見つける。その人は亡き母を陥れ、今は「シャングリラ」に暮らすかつての母の親友。出自を隠し住み込みのメイドとして雇われたメイは、母の無念をはらす機会を狙う。しかし、過去に封印された扉を開けようとしたメイが知った真実とは。一九九四年『夜会』上演作品「シャングリラ」完全版シナリオ収録。


冒頭部分ではノースリーブのセクシーな黒のドレスで登場した中島みゆきさんが、歌を歌う中でシーンが転換していき、『南三条』を歌う中で求人を探す女性「メイ」となり、駅のベンチで読んでいた新聞の求人欄で、上記の「住込みのメイド」の仕事を見つけ、勤め先へと乗り込んでいく展開です。



屋敷を訪問した中島みゆきさんを出迎えるのは、屋敷の荷物を持ち出して逃亡する三つ編みのメイドです。ここで「メイド出現→中島みゆきさんの荷物さえも奪う→逃亡→追いかける・荷物取り戻す」波乱の展開があり、中島みゆきさんが新しいメイドとなって、メイド服姿となります。



モブキャップにロングスカートに白いエプロン姿と、いわゆるクラシックなスタイルのメイドさんです。キャップもエプロンもフリルの装飾が見事です。ただ、少し薄い縞が入ってている感じで、漆黒ではなく、黒に近い濃紺のように見えます。舞台にある階段を上がるとき、後ろ姿でちゃんとドロワーズの白が出ているようで、そのこだわり方は宮崎駿監督作品を想起させます。



中島みゆきさん、このとき42歳であるというのに似合っています。



興味深いのは、この時代のメイド服デザインがどこから来たのだろうという点です。以前読んだ香港のメイド事情の研究書(家事労働を巡る研究書です)では、1994年香港のショーウィンドウに並ぶ、英国的メイド服がありました。ロケ地(香港とマカオ)で必要なものを調達したともシナリオ集にありましたが、メイド服についての言及はありませんでした。現地調達したのかもしれませんし、持ち込んだのかもしれません。



舞台は階段のあるホールへと切り替わり、食器棚やテーブルなどがあり、そこでメイドとなった中島みゆきさんが舞台上で一日中働いている描写が続きます。階段を上がって女主人の用事を済ませたり、リネンを運ぶ、階段を磨く、家具を掃除する、重労働です。と思ったら、心臓が悪い女主人の面倒を見るため、白衣の看護婦さんが登場します。舞台が1990年代のはずなので違和感はないですが、館+クラシックなメイド服との共存は不思議です。



と、メイド服の話ばかりになりましたが、メイドとして潜り込んだ過去の因縁が歌詞や舞台での演劇によって次第に明らかになりつつも、最後の方ではどんでん返しが待っているという、鮮やかな展開でした。



結論から言えば、舞台の70%ぐらい中島みゆきさんがメイド服姿という作品でした。この密度は素晴らしいものですし、何よりも、メイドで在ることの必然性と、その軸となる物語を織り込んだ舞台での劇、そして美しい詞と歌声が響きました。



どうしてこの時代にこの舞台が生まれたのかを、知りたくなりました。1994年はメイドブーム以前の時代、舞台は香港・マカオといった英国植民地(返還前)だった頃のもので、なぜこの時代にメイド服が成立しえたのかに興味がありました。1993年に永野護さんが刊行した『ファイブスターストーリーズ』の設定本「Character6」でも、植民地とメイドのフレーズが出てきておりましたので、この時代に何があったかに興味はありました(■10.余談:1993〜1994年に何があったのか?参照)



バブルの後ぐらいなので、日本の駐在員・商社イメージもあったかもしれませんし、香港を舞台にした映画があったのかもしれません。ちなみに、英国執事を主役とした『日の名残り』は1994年3月日本公開とのことで、時期としては少しかぶっていますが、影響を与えたのでしょうか? なぜ、1994年なのかと。



さらに、日本で刊行された英国メイドを取り扱う書籍の中で、実在したメイドの手記である『イギリスのある女中の生涯』の刊行は1994年です。関連性はないかもしれませんが、「メイド」「女中」という仕事へ関心が向かう何かが、より広い範囲であったのかもしれません。



ここでもう「メイドが出る舞台」が生まれる可能性のひとつが、宝塚です。三つ編みのメイド役(または看護婦さん役)の女性が宝塚出身の香坂千晶さんで、歌劇的世界でメイドは不自然ではないのかも、と発想が繋がりました。以前、私が『英国メイドの世界』を刊行した時に宝塚歌劇のファンの方がメイドと劇を結び付けられていた話を見たことを思い出しました。宝塚的な歌劇では英国に限らず、ヨーロッパを舞台にした華やかな作品は多いはずで(ジャンルとしては宝塚に限らず、歌劇やオペラも)、その辺りの公演記録なども年代で重ね合わせると見えるものがあるかもしれません。



芸能的にこの後、メイド服が姿を見せるのは、1997年の三谷幸喜さんの『総理と呼ばないで』だと思います。



総理と呼ばないで DVD-BOX

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尚、サブカル軸のメイドブーム的に1993年は転換点・起点となりえるもので、その辺りは[特集]第1期メイドブーム「日本のメイドさん」確立へ(1990年代)にて考察しています。



というところで、メイドブーム以前の1994年に、中島みゆきさんがメイド服を着ていたという映像は、日本におけるメイド・イメージを研究する立場として書く価値があると考え、本テキストを記しました。