ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

『ロードス島戦記』と『新ロードス島戦記』





今年はリハビリがてら少しずつブログを書こうと思い、読んだ本を書いていきます。



ロードス島戦記が25周年ということで、電子書籍化したシリーズを読み始めました。私が『ロードス島戦記』に出会ったのは中学生の頃で、この時期、ロードス島は国産ファンタジーの最高峰だったと記憶しています。お金が無かった学生時代なので、一冊の本を何度も読むのは当たり前でしたし、『ロードス島戦記』の場合は、小説、リプレイ、OVA、カセットブック、TRPGのシナリオ、PCゲームと同じ世界観での異なるシナリオを何度も追体験したことで、自分の血肉といえる作品です。



そんな私が最も夢中になったきっかけは、OVAです。あの作品で動くパーン屋ディードリット、ギム、それにドラゴンなどを見たとき、感動しました。オープニングの曲を聴くと、今でも涙腺が緩むぐらいに、大好きでした。以下は、OVA化があった頃に購入した雑誌『コンプティーク』で当選したテレカです。20年ぐらい前ですね。今でも家宝です。







そんな私ですが、『ロードス島伝説』を読み損ねていたり、『新ロードス島戦記』を読んでいなかったりと、随分、アップデートについていけていなかったのですが、『ロードス島戦記』2巻を読み直して「ナルディア、良いキャラクターだったなぁ」と思い出し、そのナルディアが表紙の『新ロードス島戦記』に気づき、年末年始に読みふけっていました。







元々、『ロードス島戦記』は勧善懲悪というよりも、TRPG的に多様な視点で多様な立場の人々の群像劇的な意味合いを持ち、ある視点に立てばその人も正しい、というキャラクターたちが魅力でもありました。ベルドにはベルドの理念があり、その後を継いだアシュラムにはアシュラムの魅力があり、彼に付き従うことを選んだホッブやグローダーにも存在感がありました。



そうした、『ロードス島戦記』の系譜をさらに発展させていったのが、『新ロードス島戦記』でした。物語の主役はスパークで、マーモを統治する公王としての役割を求められます。魔獣、ゴブリンなどの妖魔、ダークエルフ、ファラリス信者といった「悪役」にされる存在が当たり前の住人として棲息する土地は、主要産業も無く、穀物の育ちも悪く輸入に依存するといった難治の地域でした。この時点で、この地を治めた暗黒皇帝ベルドの偉大さが伝わってきます。



率直な感想として、『機動戦士ガンダムUC[ユニコーン]』の小説を読んだ時の感想に近いというのか、「30歳を過ぎたおっさん」が読んでも物語として楽しめる設定や視点が存在している、というところです。さらに、これまでマルチメディア展開していた『ロードス島戦記』を遊びつくしてきた人々には懐かしい設定が活用されており、ロードスファンとして楽しみつくせる、集大成といえる作品でした。



特に面白かったのは、「アシュラム」「グローダー」の流れを引き継ぐ、マーモ帝国を復活させようと暗躍する人々です。彼らには彼らの理由があり、様々な策を張り巡らせてスパークを苦境に追い込んでいく展開と、その状況を人々を巻き込んで解決していくスパークの物語は、読み進めるのが楽しいものでした。部分部分で、「これはTRPGならばシナリオになるけど、小説だと割愛なのかな」というものも含まれていますし、その話の切り捨て方自体が昔との違いなのかもと。



パーンやディードリットといった原点のキャラクターの見せ場も輝いていますし、オールスター総出演ですが、あくまでも主役はスパークであり、スパークと戦う旧帝国の人々であり、さらに言えば、マーモに住まう住人すべてが魅力的に描かれており、本書における「ファラリス」の扱い方はこれまでの全シリーズを通じて、異色でした。多義的な価値観が並存する帰結としての平和は、まさに「灰色の魔女」が求めた世界に近しく、カーラが眠り続けているにはこの道しかなかったと思えるような、そんな印象を抱きました。



もしも『ロードス島戦記』を読んでいて、『新ロードス島戦記』を未読でしたら、この機会にお読みいただくことをオススメします。