ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。同人・出版活動の報告を含みます。

1990年代のCLAMP作品に見るメイドイメージ

カードキャプターさくら』20周年を記念して

 2016年は、『カードキャプターさくら』の連載開始から20周年を迎え、新作の発表やアニメ化が話題となっています。



カードキャプターさくら公式サイト http://ccsakura-official.com/







本当に偶然ですが、日本のメイドイメージを研究する活動を続ける中で、私は今年になって『カードキャプターさくら』が1999年時点で「メイド服を着たウェイトレスがいる学園祭」を描いていることに気づきました。以前、『カードキャプターさくら』を読んでいたものの、強い印象に残っていませんでした。



メイド研究をしていて楽しいのは、こうした「作品が、もう一度取り上げられる機会」に出会えることです。



本テキストは、『カードキャプターさくら』を基点に、1990年代のCLAMP作品におけるメイドイメージを考察します。



※画像が見えなかったら、リロードをお願いします。

※本来は「英国メイド研究者」なのですが、いろいろとあって「日本のメイドイメージ研究者」にもなっています。ここ数年の研究成果は以下の同人誌にて……

[特集]第1期メイドブーム「日本のメイドさん」確立へ(1990年代)
[特集]第2期メイドブーム〜制服ブームから派生したメイド服リアル化・「コスプレ」喫茶成立まで(1990年代)
同人誌『メイドイメージの大国ニッポン世界名作劇場・少女漫画から宮崎駿作品まで』

同人誌『メイドイメージの大国ニッポン 漫画・ラノベ編』

同人誌『メイドイメージの大国ニッポン 新聞メディア編』


カードキャプターさくら』の4つのメイドイメージ

日本を代表する女性漫画家グループ、「CLAMP」の代表作品には、メイドと少女漫画の親和性を垣間見ることができます。特にメイドブームと時期が重なる『カードキャプターさくら』(講談社、1996年連載開始)はNHK-BSでアニメが1998年から放送されるなど、1990年代を代表する人気作品です。その作品中に、これまで語ってきた要素が、凝集されています。



この世に災いを為すという「クロウカード」を集めるため、魔法少女となって戦う小学四年生の木之本桜(きのもと・さくら)を巡る物語を、メイド視点で見ると、4つの注目点があります。


1.メイド服の構成要素とのデザイン的な親和性

カードキャプターさくら(4) (KCデラックス なかよし)

カードキャプターさくら(4) (KCデラックス なかよし)



主役の桜の服装はレースとフリルで飾られており、「カワイイ」が詰め込まれています。4巻の表紙はアリスイメージで、水色のリボン、フルリがついたエプロンドレス、そしてパフスリーブに広がるフレアスカートの緩やかなラインの衣装で着飾っています。桜が家庭科の実習で、自宅の家事手伝いで着用するエプロンもまた、フリルがついたメイドのエプロンと同じものでした。アリスイメージでは、2巻1話の扉絵もアリスのお茶会をイメージしたイラストが飾られましたし、『不思議の国の美幸ちゃん』(角川書店、1993年)も、アリスをテーマとした作品です。






2. 「コスプレ」で戦う魔法少女

桜は魔法少女となって戦う時、「コスプレ」をしています。親友の同級生・大道寺知世は可愛い桜が大好きで、自身で用意した衣装を桜に着替えさせて、動画で撮影するという念の入れようです。変身魔法少女作品は通常、魔法の力で変身しますが、この作品では「知世がその衣装を用意する」ことで変身させ、かつ、桜が都度、可愛らしい格好をするという仕立てになっています。



1990年代という作品の連載時期を鑑みれば、コスプレブームの影響を無視することはできないでしょう。また、コスチュームの観点でみれば学園生活で出るべきもの(制服:夏服、冬服、スクール水着)から、夏の縁日での浴衣、そして本職の巫女までが登場します。



そして、興味深いことに、この知世が制作した衣装の中には「猫耳・首に鈴・尻尾・エプロンドレス」のスタイルがあります。この衣装は、「でじこ」を彷彿とさせるものです。この衣装が描かれる2巻4話は雑誌『なかよし』1997年3月号に掲載されており、「でじこ」が1998年に登場するよりも前に、「メイドではないのに、可愛い衣装としてのエプロンドレスを着た」(かつ猫耳)イメージが存在したことは、今回、初めて気づいたことでした。



カードキャプターさくら(3) (なかよしコミックス)

カードキャプターさくら(3) (なかよしコミックス)




3. 本職の「メイド」の存在

メイドとの親和性では、第三に、友人の大道寺知世がお金持ちという設定であるため、彼女の屋敷にもまた「メイド」が登場します。少女漫画の文脈で職業メイドが適切に存在しているのです。作中では2回、メイドが姿を見せました。メイドはヘッドドレス、ロングスカートにエプロンという姿です。

カードキャプターさくら』3巻P.100(CLAMP 講談社 1997年8月刊行)から引用


4. 文化祭でのメイド服

そして最後に、桜もメイド服を着ました。桜が通う「友枝小学校」の文化祭の模擬店で喫茶店が開催された際に、「メイド服」(作中で「メイド服」という言及は一切なし)を着たウェイトレスになったからです(コスプレ喫茶の歴史は秋葉原におけるメイド喫茶・コスプレ喫茶の歴史に詳しい)。



 『カードキャプターさくら』10巻P.30(CLAMP 講談社 1999年11月刊行)から引用



桜のメイド服は、作中で描かれた本職・知世の家のメイドの制服とは異なり、この作品で桜の衣装として貫かれる「フレアスカート」です。長さも短く、ソックスを履いているのに対して、メイドは黒タイツです。他にも襟元が桜の場合はリボンで飾られ、エプロンも胸元は空いているなど、デザインの差が明確に出ています。



作中、桜が縁者からプレゼントされた服装もクラシックで世界名作劇場のお嬢様が来ていそうなフリルで装飾されたドレスとなっており、この点では「ロリータ・ファッション」を具現化した存在とも言えます。



2000年代はメイド服とロリータ・ファッションがより注目を集めた時期で、そうした時代性を象徴するのが、2004年に刊行された新装版7巻の表紙です。桜の衣装はまさにメイド服のエプロンドレスで、ピンク色の色彩と相まって、少女世界を表現していますし、新装版になって「(旧版になかった)メイドが表紙」となるのも、時代を反映したものとなるでしょう。



カードキャプターさくら(7) (なかよしコミックス)

カードキャプターさくら(7) (なかよしコミックス)




メイドロボが描かれた『ちょびっツ』へ

ちょびっツ(1) (ヤングマガジンコミックス)

ちょびっツ(1) (ヤングマガジンコミックス)





CLAMP作品でよりダイレクトにメイドを出現させたのは『ちょびっツ』(講談社、2000年)です。アルバイトで生活費を稼ぎながら、予備校に通って大学受験を目指す主人公・本須和秀樹は、ごみ捨て場で人型パソコンを拾い、「ちぃ」と名付けます。この作品世界では、人型パソコンが流通しており、人の暮らしのパートナーとなり、会話もできました。しかし「ちぃ」は会話をすることができず、1巻chapter-4では、ちぃの正体を探るため、パソコンに詳しい少年・国分寺稔の家に行きます。



そこで秀樹とちぃを出迎えたのが、「メイド」の格好をしたパソコンでした。それもボンデージにエプロンというセクシーな「フレンチメイド」の姿で。



 『ちょびっツ』1巻P.64(CLAMP 講談社 2001年2月刊行)から引用

 『ちょびっツ』1巻P.71(CLAMP 講談社 2001年2月刊行)から引用



稔は別の人型パソコン「柚姫(ゆずき)」を有し、その柚姫は背中を大きなリボンで結ぶエプロンにミニのドレスという姿で、描き分けられています。稔がなぜフレンチメイドの格好をさせているのか理由は説明されませんが、柚姫は名前をつけるだけの特別な存在で、その大切さをメイド服の描き分け(フレンチメイドは見かけ・性的消費)たのかもしれません。



付け加えれば、『ちょびっツ』のメイド服デザインはこの2つにとどまりません。言葉を覚え、知識を身につけていった「ちぃ」は、秀樹の生活を助けるため、洋菓子店「チロル」でアルバイトを始めます。そこの制服は「チロル」の名の通り、チロルの民族衣装を彷彿とさせつつも、メイド服的な要素を残し、かつミニスカートからドロワーズを見せるスタイルは、ロリータ・ファッションの要素も入っています。



カードキャプターさくら』におけるメイド服イメージは、メイドを描くためというよりも、あくまでも作品を彩る要素で、少女らしい世界を描く際に不可欠の要素がメイド服の中にある考える方が妥当です。一方で、『ちょびっツ』における人型パソコンは、「メイドロボ」で解説した「家電」としてのメイドロボの要素を満たし、作品を成立させる必須の条件になっています。



青年誌の『ヤングマガジン』での連載という点を鑑みても、性的な対象としての「メイドロボ」という視点も作中には何度も描かれています。作品には人型パソコンに夢中になって妻を蔑ろにする夫も出てきたり、人型パソコンを生涯の伴侶として結婚を試みた男性が登場したりと、人とアンドロイドの境界線を巡る感情移入・パートナー選びが作品テーマの根底に流れる点では、「メイドロボ」の文脈に乗る作品として見ることができます。


「メイドロボ」への道を繋ぐ『ANGELIC LAYER

Angelic layer (1) (角川コミックス・エース)

Angelic layer (1) (角川コミックス・エース)



メイドイメージ(メイド衣装とメイドロボ)を巡る点では、『カードキャプターさくら』と『ちょびっツ』を繋ぐ作品に、『ANGELIC LAYER』(角川書店、1999年)があります。同作品は「天使」と呼ばれるドールを操作し、対戦格闘を行うゲームが作品の根幹にあります。1990年代後半のドールブームの影響を鑑みつつも、そこはCLAMP作品で「アリスイメージ」を引き継ぐキャラクターとして、その名も藤崎有栖が登場し、かつ彼女の「天使」の名もまた「アリス」で、エプロンドレス姿をしています。



さらに、主役の鈴原みさきが駆使する「天使」の「ヒカル」の着せ替え衣装の中にメイド服がある扉絵も描かれました。

(スキャナの故障により、後日、引用画像を更新します)



ANGELIC LAYER』と『ちょびっツ』は地続きですが、『ちょびっツ』ではドールが「人間の大きさ」になり、「人間のパートナーになる」人型パソコンが登場して行く流れは興味深いものです。メイドブーム期に登場した『HAND MAIDメイ』もまた、当初はドールサイズでありました。



1990年代のメイドブームを研究する中で、「コスプレブーム」や「格闘ゲームブーム」、「ファミレスなどの制服ブーム」 、さらには当時のオタク向けのショップムックから、「ドール」の流行を感じました。等身大のドールが話題になり、店頭に鎮座している写真もそうしたムックには掲載されています。









ここで列挙したものすべてを「メイドイメージ」は繋ぐことができます。そして、1990年代後半のCLAMP作品には、この影響を見ることもできると再確認しました。そして、『ちょびっツ』はWindows98の普及でパソコンが身近となり、またインターネットの利用率が上がっていったこととも切り離せません。


メイドブームの影響

今回の考察のきっかけは、『カードキャプターさくら』の20周年を聞き、ふと「そういえば、知世が桜に用意していたコスプレ衣装にメイド服ってあったっけ?」という疑問から始まりました。そして「どうせならば、CLAMP作品の画集を買って、メイドイメージを探してみようか」というところに繋がり、まず『ちょびっツ』でメイド服を発見しました。



その後、『カードキャプターさくら』を読み直し、知世のコスプレ衣装にメイド服はなかったもののアリス衣装があったことや、知世の家にメイドがいたこと、そして学園祭でメイド服を着ていることに気づきました。過去に読んでいるはずなのに、その時期、そういう視点で作品を読んでいなかったので、思い切り、メイド服をスルーしていました。



ただ、私がこれまでメイドイメージ研究をする中で、知人や私の観測範囲で、『カードキャプターさくら』をあげた人はほとんどいません。それぐらいに、メイドは作品の中に自然に溶け込んでいるのかもしれません。



今回は1990年代後半に生じた2軸のメイドブーム([特集]第1期メイドブーム「日本のメイドさん」確立へ(1990年代)と、[特集]第2期メイドブーム〜制服ブームから派生したメイド服リアル化・「コスプレ」喫茶成立まで(1990年代))をベースにしています。第3期以降は現在、準備中で、それにあわせて第1期も第2期も書き直しを進めています。



それらはそのうち公開しますので、お待ちください。



なお、CLAMP作品で「文化祭でのメイドカフェ」とメイドカフェの文字が明示的に使われたのは、『XXXHOLiC』(講談社、2003年)と『ツバサ-RESERVoir CHRoNiCLE-』(講談社、2003年)がコラボするドラマCD『私立堀鐔学園2』(講談社、2006年)でした。



そして、20周年を記念して「カードキャプターさくら」初のコラボカフェが開催決定!8店舗で順次開催されるのもまた、作品が先取りした表現に、時代が追いついたのでしょうか。感慨深いものがあります。カフェのノベルティのコースターには、「メイド服姿の桜」がいます。



20周年という期間で、作品を巡る表現の変化を見ることもまた、メイドブームを学べばこそ見えてくるものです。