ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

ITV『Victoria』 2016年放送のヴィクトリア女王の最新ドラマ

Amazon UKからヴィクトリア女王の最新ドラマ『Victoria』が届いたので、1話目を視聴しました。






女王の頼るべき人

序盤は影響力争いというか、子供扱いして権限を残したい母親 Duchess of Kentと、そのKent家に取り入っているSir John Conroy、このふたりとのコミュニケーションが面白いです。失敗を願うようなコミュニケーションが多く、周囲に支えてくれる味方がいない女王は強い反発を抱き、このふたり(あと母の侍女で、Conroyとの関係が疑われたLady Flora)からのコミュニケーションを拒否し始めます。



母の影響力が強いケンジントン宮殿から、バッキンガム宮殿への引越しは、さながら平城京から平安京への遷都のようでもあります。そして、この頃のバッキンガム宮殿は四辺がある今の形ではなく、あとで増築されたというエピソードも踏まえた外観になっています。ただ、さすがにそこはCGです。バッキンガムに移り住んだ女王は、自分をサポートする側近を自分で選び、当時の首相の2代目Melbourne子爵William Lambを頼るようになり、また自分の部屋と母の部屋を遠ざけます。



年齢が離れたMelbourne子爵が女王の庇護者として、教育者として、女王の自主性を重んじつつ、自身の影響力も自覚しつつ、抑制した距離感で側に支え始めます。権力を失い始めたSir John Conroyは焦りますが、追い打ちをかけるように、女王はSir JohnとLady Floraを戴冠式に呼びません。また、Lady Floraに妊娠の疑惑の噂が広まり、身の潔白を証明するため、Lady Floraは妊娠しているか物理的な検査を医師から受けるという、残酷な仕打ちを受けます。結果、彼女の妊娠はありませんでした。



https://en.wikipedia.org/wiki/Lady_Flora_Hastings



その後、彼女は死に至り、女王もその点で責められます。なお、このLady Floraにまつわるエピソードは、 以前に見たヴィクトリア女王の映画『ヴィクトリア女王 世紀の愛』にはなかったように記憶しています。これは、先の映画が「アルバート公との恋」がテーマのすべてではないので、より丁寧に描かれているからかもしれません。また、他の映画との比較ではジュディ・デンチが女王を演じた『Mrs Brown』(使用人Brownの影響力が大きく、その夫人と揶揄された未亡人時代)までいくのかな?とも思えました。



第1話は、戴冠式を迎えたのち、執務に励む女王の姿で終わっています。


見所1:家事使用人描写が充実している!!

今回のドラマで『ダウントンアビー』の影響を強く感じるのは、階下の描写を丁寧に行っている点です。即位した女王はすぐに階下にも手を伸ばし、元ガヴァネスのLouise Lehzenに階下の統括を任せます。面白くないのは元々いたハウスキーパー(侍女)と執事ですが、逆らえずにいます。



この階下の描写がかなり充実しており、たとえばケンジントン宮殿からバッキンガム宮殿に引越しをした際は、女王を描くだけではなく、階下の使用人の引越し後の仕事も描いているのです(ここで出てきたキッチンは、Harewood Houseで撮影したような気がします)



また、家事使用人はperksという、仕事を行う上で生じる「役得」として、たとえば料理で出た肉汁、たとえばこのドラマでは使ったロウソクのあまりや、女王の使い古した手袋などを、関わる使用人がいわば売り払って現金を手にする点についても描いています。このエピソードがLouise Lehzenの目に止まり、女王に報告されてあわや解雇か、というシーンにつながりますが、この辺の女王の対応はユニークでした。



これが仮に実話だとして、そういうのが実際に流通して購入した人があとで知ったら、どんな気持ちになるのだろうか……時になります。


見所2:女王の衣装

DVDパッケージには英国Leeds近くのカントリーハウス、Harewood Houseでこのドラマで使うコスチュームの展示があるとのチラシが入っていますが、2017年からとのことで。この前の9月下旬の英国旅行で訪問した場所です。IMDB撮影地情報にはこの屋敷の名前もあり、出てくる模様です。



http://www.imdb.com/title/tt5137338/locations



女王が閲兵するときに着たという軍服的なスタイルは、ヴィクトリア女王が始めたもので、バッキンガム宮殿でも展示されていたのと同じもののように思います。また、引越ししてすぐ王座に腰掛ける女王はかわいく、その辺りは子供っぽいてんも描かれています。この時の女王は半袖パフスリーブのドレスを着ていて、これも以前見たことがある女王のドレスを想起させます。



この時期が華やかであればあるほどに、喪服をメインとしていく女王のその後が際立つ、かもしれません。



第2話を見て元気があれば、また書きます。