ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。同人・出版活動の報告を含みます。

冬コミ97新刊 『第二次大戦下の英国カントリーハウス 準備号』

何気なく、通算28冊目の同人誌ということにて。



今回の同人誌『第二次大戦下の英国カントリーハウス 準備号』は、第二次世界大戦の6年間に英国の屋敷が国に接収され、様々な目的で利用されたことを解説します。軍の駐屯地・演習地にもなるのでその利用方法は戦況によって大きく左右され、たとえば米軍が来た場合には接収先が増えますし、また制空権を握ってドイツへの空爆に転じた際には空爆に適したエリアが接収されて空軍基地となる、という流れもあります。



そして、この利用の結果、修復不能なダメージを受ける屋敷が数多く生まれました。



本来的には屋敷の話だけではなく、そこに住んでいた主人や家事使用人の話も盛り込みたかったのですが、準備時間が不足していたので相当に割愛した「準備号」となりました。完成版・続きは来年のコミケですかね?


仕様

タイトル:『第二次大戦下の英国カントリーハウス 準備号』

値段  :100円

サイズ :A5判

ページ数:16ページ(オフセット印刷

頒布開始:2019/12/30(月) 西P40b



※言及した英国内のカントリーハウスの場所を、Google Mapでリスト化・共有しましたのでご参照ください。



goo.gl



前書きに詳しく書いたので、以下引用します。


まえがき

 私は、広大な領地に囲まれている英国の屋敷「カントリーハウス」が大好きです。元々、英国家事使用人の世界に興味を持ったきっかけは、ドラマ『名探偵ポワロ』で見た英国のカントリーハウスでした。様々なドラマの撮影地として、あるいは物語のモデルとして登場する屋敷を学んでいくと、屋敷に興味を持つだけで多様な領域に関心が広がっていきます。
 英国にあるこれらの屋敷は、第二次大戦下のわずか6年間で大きなダメージを直接的・間接的に受けました。きっかけは「requisitioned」と呼ばれる「国による徴発・接収」でした。数多くの屋敷は、戦争に勝ち抜くため、様々な目的に利用されました。

■戦時下での利用「接収」と物語

 「接収」は、第二次大戦下を描く英国の物語に反映されています。私が屋敷に興味を持ってから読んだ写真集『図説 英国貴族の城館』(田中亮三、増田彰久河出書房新社)に登場する屋敷Castle Howardは、英国のドラマ『Brideshead Revisited』(1981年、イーヴリン・ウォー原作。2008年に『情愛と友情』という新作も登場)の撮影地となりました。
 第二次大戦下、新しい駐屯地に滞在することになった英軍将校チャールズ・ライダーは、兵舎が立ち並ぶ駐屯地を散歩する中で、そこに建つ屋敷に見覚えがあることに気づきます。その屋敷Bridesheadは、チャールズがオックスフォード大学在学中に出会った友人セバスチャン・フライト(侯爵家)の実家で、若き日に滞在した馴染みの場所だったのです。
 英国ドラマの中で最も「建物が接収された英国の日常」を描いたのは『刑事フォイル』(2002-2015年、アンソニーホロヴィッツ脚本)になるでしょう。第二次大戦下の英国で起こる犯罪を捜査する刑事の訪問先となる軍事拠点は、その多くが接収された場所でした。
 第4話「レーダー基地」では接収された屋敷が空軍兵舎として登場しました。第5話「50隻の軍艦」でも陸軍の情報部は屋敷にありました。接収そのものが主題となるのが第10話「癒えない傷」で、屋敷を病院として接収するシーンから始まりました。第13話「侵略」も米軍工兵隊が農地を飛行場にするためにやってきました。他にも多くの接収された屋敷が作品には登場します(後日、コラムをネット公開しますので、Twitterでチェックください)。

■第二次大戦の「接収」に至るまでの社会環境の変化

 「接収」は屋敷に物理的損害を与え、第二次大戦後の時代に屋敷へ住むことを困難にし、放棄するきっかけを作る出来事でした。
 とはいえ、全ての「放棄」が接収によって引き起こされたものではありません。屋敷に住み続ける暮らしが難しい時代がやってきており、財政的に維持できないことによる放棄も多くあったからです(同人誌『英国メイドがいた時代』参照)。
 20世紀に入り、屋敷所有者への課税は強化される一方でした(相続の累進課税化、所得税強化)。特に相続税累進課税は強力で、第一次大戦の頃に顕在化しました。従軍した若い後継者が死ぬと年老いた当主が相続し、さらに数年後にその老いた後継者が亡くなり、短期間で相続が行われることで二度の税負担を受けることが起こりました。
 次に、家事使用人不足です。賃金が上がる傾向が続いた上、使用人のなり手不足が社会問題化しました。1)他の職種への就業機会の増加、2)労働環境が悪い・社会的地位が低いために就業への忌避などが強まったためです。屋敷の生活を維持するお金も人も不足しました。
 そして、『英国メイドがいた時代』で触れていなかったことが、この「接収」の影響です。屋敷を維持できなくなっている社会構造と同時進行で、「物理的に屋敷が傷つけられ、修復不可能な状況に追い込まれる事態」も起こっていたのです。
 本書では、その屋敷に起こった「6年間」とその後の出来事を中心に解説します。準備号なので、本格的なものは次の機会に書く予定です。

こんな感じです。