ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

『Downton Abbey』(ダウントン・アビー)は「屋敷と使用人」の史上最高レベルの映像作品

今年注目していた英国ドラマの一つ、『Downton Abbey』(ダウントン・アビー)のDVDをようやく見ました。11月は忙しかったのでDVDが手元に届いてから遅れに遅れましたが、エドワード朝を舞台にした本格的な屋敷ドラマということで、とても楽しみにしていました。



『Downton Abbey』を2話まで見た感想として、予想以上にクオリティが高く、自分の中の「映像作品」では最高評価になりました。このレベルの階下の描写をしているのは『エマ』ぐらいでしょうか。『MANOR HOUSE』はドキュメンタリーなので別枠ですが、壮麗さは『MANOR HOUSE』を凌駕しました。


使用人の描写を徹底した異色作〜『ゴスフォード・パーク』を超える密度

屋敷そのものの美しさ自体はさることながら、使用人の描写が徹底しています。このレベルで使用人を描いたドラマを、私は見たことがありません。『Upstiars Downstairs』はロンドンのテラスハウスで、かつ、ややドラマ色強くなっていますし、『ゴスフォード・パーク』も「日常ではなく、ゲストがいるときの屋敷」で、「屋敷の美しさを強調する」ところは話の筋ではありませんでした。映画『日の名残り』とも視点が違っていて、『Downton Abbey』は屋敷と使用人(上級や下級を含む)を調和させ、屋敷の美しさの中で動き回る使用人とその仕事を、しっかりと描いています。とにかく、使用人マニアは「ニヤリ」とするような、仕事の細かい描写であふれています。(※ただし、『ゴスフォード・パーク』『日の名残り』は時間が限られた映画で、話の本筋は別にあり、当時の徹底した再現にはないので、私の今回の比較が一面的な点はご了承ください)



このドラマの1話目は相当エネルギーが使われていて、美しいタペストリのように織り込まれています。映像は屋敷の朝のせわしない時間から始まります。メイドの少女Daisyが午前6時に起床し、階下のキッチンのレンジを用意し、コックにいろいろと言われます。Daisyはtweenyなのか、その後、暖炉磨きと火を入れるための諸々の道具を持って、主人たちが過ごす階上へと行きます。



カメラワークが巧みで、そこではハウスメイドたちが窓を開けたり、ハウスメイドたちが窓を開けたり、クッションを準備したりと、多くの部屋を動き回って仕事をしています。スポットの当たる使用人も適宜切り替わり、銀器を磨く執事、鍵束を持ったハウスキーパー、朝食のテーブルクロスを広げるフットマン(2nd?)、グラスを運ぶフットマン(1st?)、そしてDaisyにもう一度カメラが移り、朝食を取る部屋の巨大な暖炉を磨き、火を入れようとしているところにハウスキーパーがやってくる、というような流れです。



階下の上下関係もしっかりと伝わってきますし、使用人たちが使用人ホールで食事している時に壁にぶら下がった呼び出しベルが鳴るというシーンもしっかり盛り込まれています。屋敷はHighclere Castle、国会議事堂に似ているデザインだと思ったら、同じ建築家Sir Charles Barryが建てたものとのことです。内装は壮麗の一言ですが、残念なことに、servants' quarters(使用人エリア)は完全な形で撮影に使えなかったようで、Ealing Studios, Ealing, Londonと、撮影場所はスタジオになっていました。カメラワークがかなり自由というか、欲しい構図の絵を撮るには不適だったのでしょうね。



音楽も綺麗ですし、私がこのところのイギリスドラマで大好きすぎるおっさんBrendan Coyle(『North & Sounth』では職工長、『Lark Rise To Candleford』では主役Lauraの父の石工)もヴァレット・Bates役で登場し、胸いっぱいの状況です。この手の物語は「メイドが、初めて屋敷に訪れる」(『ゴスフォード・パーク』『Upstairs Downstairs』『リヴァトン館』)が多いですが、今回のドラマの「外からの来訪者」はヴァレットで、系譜としては異色な雰囲気も感じます。


屋敷を照らす多様な視点の魅力〜視聴者になじみやすい「非上流階級」の視点

階下の描写をべた褒めしたものの、ストーリーがどうかというところはまた別の話です。個人的には、第一話から第二話を見る限り、劇的に引き込まれる要素こそ少ないものの、安心してみていられる内容です。



視聴者向けの視点は3つあるようで、雑用メイド的なDaisyの視点。これは一般的に多いパターンだと思います。2つ目が伯爵の従卒をしていたBatesが屋敷になじめるかどうか。彼は足が悪く、提供するサービスを巡って階下で嫌がらせを受けます。ある意味、彼は屋敷の部外者です。



もうひとつが、王道の「相続」に関連するもので、伯爵家の相続者となった中流階級の若者・医師Matthew Crawleyの「上流階級的なる礼儀・水準へに感じる非効率性(馬鹿馬鹿しいと思っている)」という視点です。なんでも自分でやってしまうので、彼に新しくアテンドされた執事Molesleyが手持ち無沙汰そうで可哀想になってきます。



上流階級をただ描く時代ではなく、上流階級の世界をどのように見ていくか、そして視聴者に現実味を持たせる接点をどう作るかという点で、極めて現代的なつくりというか、「おとぎばなし」にしていないように思えます。そういうところは、非常に好みです。



今日の名言は伯爵未亡人の"What is a weekend ?"でしょうか。働いてなければ週末はないですよね、はい。


余談

このドラマでキャスティングされているメイドさんは可愛いです。これは日本で是非放送してほしいというか、DVD化して欲しい作品です。今年最後にこうした作品に出会えて本当に嬉しいですし、このドラマを見る方には『英国メイドの世界』は、非常に役立つと思います。



LaLaTVNHKで、是非放送を検討してください。



登場人物と役柄が分かりにくかったのでウェブを探したところ、MEET THE CHARACTERS OF DOWNTON ABBEYが写真つきで分かりやすかったです。ただ、登場人物の設定も記されているのでネタバレを含む可能性があります。その点はご留意の上でご参照ください。



また、名前のある使用人役とないキャラクターがいるようで、画面上は非常に多く見える使用人も、役名としては多くないです。ヴァレットのBatesが登場した際、階下を床掃除している男性2名:ボーイと思える、キッチンメイドも3人ぐらい?いるようですし、ハウスメイド全部で5人ぐらいいる印象です。午前服・緑がハウスメイド、キッチンメイドは紫系、スカラリーは濃い緑でしょうか。Daisyだけ特別な役柄だと思えるので、少し赤みがかった縞模様の制服を着ています。



そして、Maggie Smith先生です。Dowager Countess of Granthamなので、屋敷の今の主Earl of GranthamのRobertの母で、先代伯爵夫人です。『秘密の花園』『ゴスフォード・パーク』と、この手の映画では良い役ですね。


参考までに:メインの使用人

  • Upper Servant
    • butler : Mr Carson
    • housekeeper : Mrs Hughes
    • cook : Mrs Patmore
    • valet : John Bates
    • lady's maid : Miss O'Brien


  • lower servant
    • Anna : head housemaid
    • Gwen : 2nd housemaid?
    • Thomas : 1st footman
    • William : 2nd footman
    • Daisy : 役柄的にtweeny(between maid:ハウスメイドとキッチンメイドのサポート)


関連リンク

Downton Abbey /IMDb