ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

書店・店員様向けの案内を告知するカテゴリを、サイトに新設

前回のコラム書店で本を売る現状認識と著者が提案可能なアクション(2011/02/07)で、「著者が、情報を出す窓口を作る」と書いたので、実際に作ってみました。



まだ、今のトレンドに沿ったフェア的な情報は更新できていませんが、過去に行った書店フェアの情報や、『英国メイドの世界』発売から3か月が経過して私が感じる売れた要因、それに想定外の部分をまとめました。



書店・店員の皆様へ Archive



今時点では、下記4つがメインコンテンツで、トレンドに沿った情報を今後増やしていく予定です。



カテゴリ「書店・店員の皆様へ」の主旨の説明

世の中に伝わる「メイド・イメージ」の強さと、執事軸の伝え方

「本」だけでは伝えにくい、ウェブでの文脈・地形効果

『英国メイドの世界』の書店フェアの事例



どれぐらい使われるかは分かりませんが、半ば趣味のようなものでもあるので、定期的な更新を目指します。



で、この振り返りをしていた時、「執事」として今は伝えた方がいいのかもしれないと、思いました。執事イメージは、世の中に流通するものと歴史的なものとで大きな乖離をしていないからです。そのあたり、今後まとめてみます。メイド軸については、上記の"世の中に伝わる「メイド・イメージ」の強さと、執事軸の伝え方"で振り返りました。



難しいものです。


書店で本を売る現状認識と著者が提案可能なアクション

本コラムは出版した本に1日でも長く生きてもらうため、著者に出来ることの第3回目です。本を出した著者が何を出来るのかを考えていくテキストです。



第1回目:出版した本に1日でも長く生きてもらうため、著者に出来ること(2011/01/16)

第2回目:本を書店で初めて売る体験から気づいたこと(2011/01/26)



初見の方は、上記リンクを先にお読みください。


目次

  • 1.はじめに〜前回の続きも兼ねて
  • 2.書店で本を売る感覚
    • 2-1.長期・書店の数の多さ
    • 2-2.返本率
  • 3.書店が一冊の本にかけられるコスト
  • 4.書店の方に提案可能な「私」の取り組み
    • 4-1.POPは店員の方々によることを前提
    • 4-2.書籍フェア・棚つくりへの著者リソース利用の提案
    • 4-3.POPと書籍フェアの実例
  • 5.まとめ
    • 5-1.文脈を作る・関連性を描く
    • 5-2.情報を伝える「ウェブ」の窓口を著者が持つ


1.はじめに〜前回の続きも兼ねて

これからは書店で本を売ることを前提に話を進めます。



前回、はてぶでご指摘いただいたように、いわゆるAIDMA(Attention、Interest、Desire、Memory、Action)に基づく着想は重なります。著者の知名度が高ければ本も売れる、書店の方も喜ぶというのは理想ですが、現実的になかなかそうもいきません。「本が面白ければ評判になって売れる」というのも真理ですが、面白いかどうかは見つけてもらい、読まれなければわかりません。実現できていれば、きっとこのようなテキストは書いていないでしょう。つまり、これを書いている時点で、私の持つ土台は、違っています。



今、劇的に知名度が上がっても「ゼロから興味を持って買う」には高すぎますし、買っていただいても、不満足が生まれるだけに思えます。私にとって好ましいのは、「この本に、実は興味がある人たち」と出会うことです。



「ウェブで行えばいい」との見解は前提ですが、ネットと書店では動きが違うと思います。たとえば私の本、『英国メイドの世界』はネット書店のbk1全体で「3日間、本全体で1位」を記録する売り上げを出しました。一定期間はAMAZONの「歴史・地理」でも上位10位以内に入っていましたし、本全体でもベスト100以内にしばらく入り続けました。しかし、書店では、私の本がネットほど評価を受けるように感じられません。これは、ネットでの客層や買われ方、既存メディアの露出が無いことによる違いだと考えられます。



私が出版化で期待したのは、認知の機会の広さ、新しい出会いです。書店との取り組みで私の関与できる余地がほとんどなく、また私が得られる情報も不足し、推測や憶測でしか物をいえませんが、まず自分の置かれた状況と相手の立場を考え、「本を売る」ことについて整理しました。



その前に、ご参考までに、ウェブで公開されたブログ記事をまとめた『20歳を過ぎてから英語を学ぼうと決めた人たちへ』を執筆されたHAL_Jさんが公開された、「本の認知を高める方策」をご紹介します。(文脈としてはTwitterがメインの話です)




例えば、Twitterにある考えが現実に伝わる経路を一つここで紹介する。
(中略)
5. AmazonなどのNet書店で書籍が注目されてランキング入りする。
6. Net書店で注目されている事実を現実にある書店に伝えて、書店で重点的に扱ってもらえるように営業する。
7. 現実の書店でランキング入りしたら、その事実をTVや新聞といった影響力のあるMass Mediaで取り扱ってもらえるように宣伝する。

「私のTwitter社会論」 Twitterは変化を起こす最初の一歩には成りうる。けれどその力はまだまだ小さい。より引用



選びえる選択肢は書籍の領域、出版部数で異なります。6として取り上げられている「書店営業」を私は選べません。残念ながら、私の本では「書店を動かすほど、1店舗に入荷されていない」からです。



では今の段階で何ができるかといえば、はてぶで以下のようにご指摘いただいた通り、「ジャンル・カテゴリ」に興味のある人と書店で出会うようにすること、になります。




asakura-t 露出が多さよりも「ジャンル・カテゴリに興味のある人」のほうが買う可能性が高いとは思う。// ジャンルが曖昧な本はいろんな書店に置かれたほうがいいかもね(置き方も書店の傾向に合わせて変わるので)。 2011/01/26

http://b.hatena.ne.jp/entry/d.hatena.ne.jp/spqr/20110126/p1



著者が「知名度による本の認知」以外で取り組めることは、専門性を発揮して「書店や売り場に適した売り方の提案を行う」ことだと思います。提案を直接行うことが営業だとすれば、提案をウェブに記載して間接的に行うことが私の行えることになります。



一応、以下の情報には接しています。


本を売る現場でなにが起こっているのか!?

本を売る現場でなにが起こっているのか!?





本の現場

『石塚さん、書店営業にきました。』


2.書店で本を売る感覚

書店に「どこまで著者(あるいは営業さん)が介在できるか」という難しい問題があります。著者が「売りたい」と意気込んでも、入荷部数が少なければ、一店舗当たりの売り上げは低く、手間をかける価値がないとみなされるからです。その意味で書店さんとの関係も、こちらが一方的に提案して済むものではありません。



素人考えとして、私は「ある本屋で売れているデータや傾向を営業さんに見つけてもらい、それを反映して書店の方々に実行してもらえたら」と思いましたが、そもそも私の本は冊数が少なく、それを実行するにも「書店という対象」が多すぎ、また本が売れる速度は私が思う以上に「時間をかけるもの」という、認識の差がありました。


2-1.長期・書店の数の多さ

まず気づいたことは、書店で本が売れる速度は、これまで私が同人で体験したものと大きく異なることです。当たり前といえば当たり前ですが、同人は「同人イベント」という閉鎖環境で数時間の中で頒布を行い、書店は広い窓口で長期的に時間をかけて売るスタイル、というのでしょうか。結果が出る時間軸に大きな違いがあります。



同人イベントのピーク時には新刊と既刊で500〜600冊を1日(6時間)で頒布できました。超巨大サークルともなれば、1万冊といわれています。しかし、あくまでも「同人誌」(その瞬間に買わないと二度と出会えないかもしれない・そこでしか買えない)の話で、さらにこの規模は年2回のコミケだけなど、機会は限られています。(同人を扱う書店の話は、ここではしません)



同人イベントではサークルスペース上のディスプレイや来場される方との会話まで含めて、すべて自己完結できます。自分が努力して本の魅力を伝えたり、分かりやすように工夫をしたりすることは楽しく、一定の効果もあります。



一方、書店は規模と時間軸が違います。全国には書店が1.5万店舗あるといわれています。(朝日新聞社記事2010/01/26・消える書店、10年間で29%減 和歌山県ではほぼ半減) 仮に全店舗に1冊ずつ本が配本された場合、6ヶ月に1冊売れるだけでも1.5万冊です。1万冊売れれば成功といわれる中、「本を売る」考え方が異なります。



私の本は重版し、発売から2か月半が経過した時点で第3版まで出ましたが、売れ行きに差があり、まだ初版が残る店舗も多々あります。返本されていないのは、この3か月が経過した今も、売れるかもしれない可能性を期待されるからでしょう。



もちろん、「全国の書店に一律1冊配布」は現実的にありません。人口が多い地域の大書店とそうでない地域の書店とでは配本数に差が出ますし、私の本は全国一律に配本するほど数がありません。1店舗に占める「私の本」の冊数は少なく、必然的に売上は相当低く、手間をかけるコストに見合わない、というのが私が発売してから認識した事象です。


2-2.返本率

書店が配本に関与できる余地が少なく(返品の山と戦う書店員や、wikipedia:書店:流通経路など)、書店が望まない本が来る可能性もあります。



上記ブログでも指摘されているように「新刊と既刊」は常に面積を奪い合います。私は大学生の頃、小さな書店でバイトをしたことがありますが、返本をよくしました。返本をしないと新しい本を陳列する棚が確保できないからです。(資金繰りの観点はここでは言及しません)



私が初動で結果を出さなければならないと思った理由は、この「返本のサイクル」で早期に店頭から去ることを避けるためです。売れない本は、陳列スペースに余裕が無い限り、撤去されます。撤去されれば書店全体での強みとなる「面」が減り、出会いの機会を失います。



書店に適した売り方が「短期」ではなく「長期」ならば尚のこと、「返本されないようにする」努力や、売れることで「補充され続ける」結果を出さなければならず、そのためには「書店員の方の視界に入る」必要があると思いますが、そこではウェブでの話題性や、「売れた」という数字が鍵になるでしょう。


3.書店が一冊の本にかけられるコストとのバランス

毎日、数多くの書籍が入荷される中、どの本が売れるかは書店の方には分かりにくいでしょう。まして、刊行する出版社でさえ、よほどのブランド力がある作家で無ければ、売れる・売れないは分からないはずです。最初から分かっていれば、「増刷」は行われないのですから。



そして手間に見合う効果を出すには、相当な冊数が売れなければなりません。マーケットの規模の大きさの違いもありますが、私の本では、私が営業をかけて書店に手間をかけてもらったとして、利益を返せません。



仮に私の本が10冊入荷したとして、書店の取り分を20%だとした場合、2800円×20%×10冊=5600円の利益です。売るためにPOPを作ったり、本の配置を考えて置き換えたりする人件費を、仮に時間単価1500円として30分費やした場合、750円のコストです。10冊全部売れたとしても利益から約13%、人件費分がマイナスされます。1冊しか売れなければ赤字です。



こう考えると、書店の利益を最大化するには「配本数が多く、話題性がある」売れる本に傾斜すると、私は思います。同じ値段で、10冊入荷される本と100冊入荷される本がある場合、当然、後者の方が人気がある・売れる見込みがあるからその冊数になっているので、10%買う人が増えるかもしれない手間をかけるならば、後者を選びます。



販促は売れる小説に書けます(作家の書店営業について)と、作家の方の記述にもありますが、その通りだと思います。そうでない本はどうやって書店と接点を持ちえるのか、というところが次の話になります。


4.書店の方に提案可能な「私」の取り組み

これまでのテキストは私が把握する情報を羅列したのみで、嘆く感情はありません。同人誌よりは遥かに気が楽ですし、著者には契約上、一切リスクがありません。同人では自分の判断で増刷を行い、委託やイベントの在庫搬入も相当大変でした。



今、私がしたいことは、出版でしか体験できないことです。私はこの本を通じて、私が好きな世界をシェアする人が広まることや、作品が増えることを願っています。また、本を出版して売って下さる方たちに何を返せるか、というところを考えつつ、無理がない提案を探しています。



書店を軸に考えると、手段は絞られます。書店員の方によるアクションとしては、POPによるレコメンドやブックフェア、品揃えの工夫、「本屋大賞」のような書店発の話題性を生む試みなど、様々な展開も行われていますし、書店員の方による陳列棚作りが行われ、POSや経験に基づいて精度が上がっているところもあると伝え聞きます。



そこに重なる形で自分が役立てる領域があるかを踏まえ、自著の認知を店頭で向上させる手段としては、穏当に「POPとブックフェア(本のラインナップ情報)」の提案になると思います。いずれも私は自分の事例として体験しておりますが、売り上げについては把握しておりませんので、そこは差し引いて聞いていただければと。


4-1.POPは店員の方々によることを前提

著者や出版社がPOPを主体的に作って売り込んでいくかは、コストや現場での作業の手間などを含め、本の種類によると思います。大部数の販売が見込めるならば著者の手書きPOPは話題性を持つでしょう。



しかし、POPに関しては、「使いたいと思った時、使える素材が目に入る」ぐらいが現実的だと思います。POPを使うかは店舗の面積や構成によります。また、POP を配るのはやめろという、整理されているテキストでは、POPが多すぎたり、意図が不明確なものではノイズになる、と指摘されています。



この辺りは時代も変わってきているのか、ウェブでのダウンロード方式も見受けられ、「書店の方が選択できる」方式が好まれているように感じます。あくまでも感覚に過ぎませんが、新潮社では編集部が書店POPを作り、ダウンロード可能にしています。



私の本の場合、POPという発想がなかったので、著者のアクションはありませんでした。ただ、運良く、書店の方が動いて下さったことで、複数の事例があります。



1つ目は書店員の方に自発的にPOPを作っていただけたケースです。すべての事例を把握してはいませんが、秋葉原有隣堂ヨドバシAKIBA店、とらのあなメロンブックスなど、様々な店舗で行っていただけました。



2つ目は編集部との連携です。大目に部数を仕入れてフェアを行って下さる啓文堂書店三鷹店様に、私の担当編集さんは『英国メイドの世界』の帯をベースにしたイラスト+手書きスペースのあるPOPを準備してくれました。以下が、実際にPOPを使っていただいた時のものです。







その後、他の書店でも使えるかもということで、編集部に問い合わせをしていただき、送付する運用となりました。告知は編集部ブログと私のブログで行うに留まっていますが、変形的なダウンロード方式になるでしょうか。



いずれにせよ、POPの効果は実際の現場で配置を行う店員の方々にかかっているので、「店員の方々に」本が持つ話題性や魅力、コンテクストを事前にどれだけ伝えられるか、伝えたいと感じていただけるかというところによりそうです。



私の本の場合はどういう経緯で書店の方に伝わったかわかりませんが、秋葉原では「メイド」という話題性とPOP自体がネタになる土地柄、一般書店では店員の方が同人誌の頃から見て下さっていたのかなぁと考えています。


4-2.書籍フェア・棚つくりへの著者リソース利用の提案

「私の本を売る」発想を捨てれば、書店が得る利益を大きくできる提案をできます。「書店フェア」と、その為の「著者リソース利用の提案」です。



当たり前の結論で面白みがないかもしれませんが、「私の本を売って欲しいから、私の本を売るフェアをして欲しい」ではなく、「世の中のトレンドに沿ったコンテクストを著者が提案し、その中に自分の本も含める」ことができれば、読者にとっては「話題性がある発見」、書店にとっては「売上」、著者にとっては「自著の売上」と「フェアで扱う領域のジャンル活性化」が期待されます。



丸善と取り組む松岡正剛さんレベルの「世界観で魅せる」フェアには遠く及びませんが、少なくとも、学術書ではない範囲で日本で刊行されるメイドや執事、ヴィクトリア朝の歴史本・小説など諸々含めた私の関心領域は広く、また「読者」に近いです。その領域にどっぷり浸かっていますので、幅広い提案が可能だと思います。



私は「自分の本と近しい本」を見つけ、また補い合えることを前提に「本を一人しない」提案をできるのではないかと思います。ある領域に特化した著者は、相手に応じて本のラインナップを提案する感覚を持つはずです。書店は併売データとして持ち得ると思うので、その辺りをうまく一緒にできないものかなぁと考えています。


4-3.POPと書籍フェアの実例

以下、実例(結果データは把握せず)を交えて取り組みをご紹介します。



2010年11月の発売時、啓文堂書店三鷹店様で多く本を仕入れて下さり、先ほど事例として挙げたように、担当編集さんから「鶴田謙二さんのイラストがある帯をモチーフにしたPOP」を同書店に送って下さいました。



その後、「書店フェア」を行って下さっていることから、「私の方でラインナップを提案しましょうか」と関連書籍リストの候補とその理由(時事ネタや関連性の強さなど)を編集部に送りました。それから書店の担当の方が選定を行い、その本を紹介する短いコメントを私が考える、という流れで話が進みました。



英国メイドの世界へようこそ啓文堂書店三鷹店様:2011/11/17〜)



すべてが同時に行われたわけではありませんが、結果として、11月に始まったフェアが1月中は続き、こっそり、11月、12月にうかがった時には本のラインナップも都度変わっていました。1月になってからネットで知ったのは、「私のレコメンド」を編集部が本のデザインに合わせたペーパーを作ってくれていたことです。1月の時点で、このフェアを紹介して下さったブログがありました。



書原、啓文堂書店、平安堂……続・書店のいろいろ



詳細は是非、リンクを読んでいただきたいのですが、「関連書籍があることで、本の文脈の広さを伝えられること」(メイド=萌え、という認識が強く、それと異なる本であることを「周辺の本」が伝えてくれる=著者にメリット)、「書店独自のフェアが面白い、との感想」(書店のブランディングにメリット)があったように感じられます。



実際のところ「全体での本の売り上げ」という結果を出せているかは分かりませんが、著者の心情として取り組んでいただいたことが嬉しかったですし、少しでも援護射撃をしたいとこのようにウェブでテキストを書いています。


5.まとめ

これら2つの経緯から、私は著者ができることはウェブを通じて、「POPがある」ことや、「この領域は今、こうしたトレンドがある」ことを示したり、「私の本は、実はこうした側面があり、このいま話題の本と関連性がある」と伝えることなのかと、思う次第です。


5-1.文脈を作る・関連性を描く

たとえば、2010年の直木賞受賞作『小さいおうち』は女中の話でしたが、日本の女中の歴史を扱った『<女中>イメージの文化史』という本をご存知でしょうか? 1800円ぐらいで、メイドが好きな人にも意外と知られていません。昨年は講談社から『一〇〇年前の女の子』という本が書評で扱われましたが、この3つを結びつけたり、そこから比較して、ではその同じくらいの頃を生きたイギリスのメイドは、という「メイド軸」での話もできるでしょう。



小さいおうち

小さいおうち



“女中”イメージの家庭文化史

“女中”イメージの家庭文化史



一〇〇年前の女の子

一〇〇年前の女の子





家事労働者としてのメイドを観点にすれば、日本経済新聞2010/12/05付で紹介され、最近ブログでも取り上げた『お母さんは忙しくなるばかり』という本も関連します。同書はアメリカの家事労働と家電の歴史を扱った本で、「家事労働」をメイドに行わせたイギリスとの比較も面白いでしょう。



私の本が新刊であるうちは、同一テーマの領域のアクティベーションに繋がります。『ヴィクトリアン・サーヴァント』(2005年)という学術書は、私の本が刊行してからAMAZONで11月のうちに在庫切れになりました。私のAMAZONアフィリエイトIDでも、何冊か買われていました。当然、単価が高い本は売れにくく、買いにくいので書店フェアの中心としては扱いにくいとうかがっていますので、あまりニッチ過ぎると興味軸で動くネットの方が向いているかもしれません。



ヴィクトリアン・サーヴァント―階下の世界

ヴィクトリアン・サーヴァント―階下の世界





とはいえ、『英国メイドの世界』で紹介した『荊の城』を読まれる読者の方も登場し始めていますし、海外ミステリといえば、最近読書メーター『海外ミステリ好きだが英国の階級制度のややこしさには辟易していたが、この本を読んでかなりすっきりした。』といったコメントを頂きましたようにミステリとも親和性があります。「相互に読者を送りあう」ことも、書店フェアができることなのではないでしょうか。



英国メイドの世界

英国メイドの世界



荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)

荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)





最近よく書いていますが、今、映画化で話題となっている『わたしを離さないで』でカズオ・イシグロに興味を持った人は、たぶん、かなりの確率で『日の名残り』を読むはずです。(AMAZONでも、私が確認した時点でよく一緒に購入されている商品に挙がっています)



わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)



日の名残り (ハヤカワepi文庫)

日の名残り (ハヤカワepi文庫)





こうした点から、『日の名残り』に再び光が当たれば、映像や、『日の名残り』で照らす執事への関心も高まることが予想されます。それが直接私の本に結びつくかはわかりませんが、執事や貴族の屋敷に興味を持つ人が増えるのは嬉しいことです。さらに、過去に『日の名残り』の映画を見た人、あるいは小説を読んだ人にとって、『英国メイドの世界』は作品をもう一度楽しむための、新しい視点となりえます。[コラム]屋敷に仕えた執事に求められた4つの能力というコラムを書きましたが、『英国メイドの世界』は今時点で、日本一、英国執事に詳しい資料だからです。



執事つながりといえば、最近、『謎解きはディナーのあとで』の著者の方のフェアの中に、『英国メイドの世界』を混ぜてくださった書店もありました。こういう本の繋がりを考えるのは、とても楽しいです。



謎解きはディナーのあとで

謎解きはディナーのあとで




5-2.情報を伝える「ウェブ」の窓口を著者が持つ

書店フェアやPOPの取り組みは、本来、著者が知る必要のない情報かもしれません。著者は次回作を、良い作品を作り続けるのが本分で、それこそが作者に求められることだと。



ただ、私の場合、「自分の多くの作品の中の一冊」とするほどには、本を作れると思っていません。出産ぐらい大変な思いをしましたから、大切に育てるつもりですし、親バカなればこそ、子供が置かれる環境を「出来るだけいい場所」「輝く場所で」整えたいエゴもあります。



書店での特定領域の書籍選定に私も加えてください、というところが、今時点の私が「してきたこと」を含めた結論です。著者は読者と繋がるだけではなく、書店の方々と、もっと繋がってもいいのではないかなぁと思います。去年12月に佐々木俊尚さんの以下の呟きを拝見しましたが、そこに著者も入っていいのではと思った次第です。







実際に取り組むとなると相互に時間もかかるので、今時点ではPOPダウンロード同様、ウェブに私が情報を置き、書店の方が必要と思った際に参考にしてもらう方向が現実的な落としどころだと考えます。特別面白い話ではなく、応用できるのかも分かりませんが、これが私が初めて本を出した体験(発売から3か月経過)を通じて、今後に何ができるかを考えた、今のところの答えです。とにかく何をするにも、著者が何かを行うならば、私はウェブを使うことがすべての前提だと思っています。



利用されるかは分かりませんが、特にコストもかからないので、近いうちに書店の方に向けた情報を掲載したカテゴリを、資料紹介サイトに作るつもりです。より深いコミットが必要な場合は、編集部に問い合わせていただくことになります。



(※2011/02/16 書店・店員の皆様へカテゴリを新設し、情報をまとめました。フェアの提案は後日行う予定ですが、いざ作ろうとすると難しいものですね)



今回記したテキストは「取り組み」が行える書店や、本の領域を極めて限定した話です。アクションを行えない書店に向けては、引き続き、本の認知度を高める方向にてウェブでの活動を続けるつもりです。



余談ですが、最近目を引いたウェブでの試みは、星海社『最前線セレクションズ』のPOP印刷機能についてです。著名な方々が交代制で毎日オススメのアイテムを紹介する企画自体は「クリエーターの原点・個性」を知る上で面白く、さらには出版社が自社メディアで自社以外のアイテムを宣伝し、なおかつ、そのクリエーターによるレコメンドを様々な店舗でPOPとして使えるようにする試みは、販売の現場にネタを提供するツールになるでしょう。



次回はウェブを含めて、刊行前からどのようなアクションをしてきたのかを書きます。こちらの方が、より具体的な体験談になります。


本を書店で初めて売る体験から気づいたこと

本コラムは出版した本に1日でも長く生きてもらうため、著者に出来ることの第2回目です。本を出した著者が何を出来るのかを考えていくテキストです。



初見の方は、上記リンクを先にお読みください。


目次

  • 1.はじめに
  • 2.筆者が自分の本をなかなか見つけられない〜ジャンルの曖昧さ
  • 3.新刊の強さ
  • 4.書店には本が多すぎる
  • 5.総論


1.はじめに

『英国メイドの世界』の刊行後、私は配本を確認している大書店に出かけました。自分の本が売られているのを見て、私は「ただ書店に並べられるだけでは、買われない(買う気が起こらない)と」思いました。



そもそも書店にはあまりにも多くの本が並んでいました。「こんなに本があるのに、自分の本は見つけてもらえるのだろうか?」と感じたのが、今回のテキストのスタート地点です。


2.筆者が自分の本をなかなか見つけられない〜ジャンルの曖昧さ

まず、私が訪問したお店のほとんどで、自分の本をすぐに見つけられませんでした。『英国メイドの世界』の場合、元々の文脈自体に曖昧さがあって、配置場所の選定で書店員さんを困らせたようでもあります。



「本がどこに置かれていたか」を下記に列挙します。どれぐらい曖昧なのか、「観測者によって意味が異なるのか」、ご覧ください。


2-1.私が見たリアル書店での展開

私の見た(+知人に聞いた)範囲です。それでも、これだけの陳列をされていますし、そのどれもが頷けるものです。複数の面で展開していただくこともありました。(紀伊国屋書店新宿南口店では「歴史+サブカルチャー」、有隣堂ヨドバシAKIBA店では「新刊+サブカルチャー」など)


  1. サブカルチャー
  2. 歴史/イギリス史
  3. 歴史/文化史
  4. 英国ミステリ棚(ホームズの近く)
  5. コミックス(『エマ』などの「メイド」の近く)
  6. 資料系(TRPG
  7. 資料系(漫画制作)
  8. 新刊棚(各コーナー、またはサブカルチャー。一店舗のみ文芸新刊の並びに)
  9. 書籍フェア(啓文堂書店三鷹店様のみ)
  10. 上記パターンの複数組み合わせ



分類を見ていくと、書店員の方が工夫をして下さっているところも見受けられます。有隣堂ヨドバシAKIBA店、メロンブックス秋葉原店、虎の穴など、店員の方が手書きでポップをつけて下さる書店もありましたが、これだけの文脈を持つ本というのは、伝え方が難しいのではないかと痛感した次第です。



書籍フェアをこの段階で行っていただけたのは奇跡のようなものですが、結果を返せているのかは気になっています。


2-2.代表的ネット書店での分類

次に、ネット書店での陳列です。ネット書店は私が思うに、タイトルで本を検索できたり、本を紹介したサイトから直接流入する傾向が強いと思うので、本を見つける上では迷いにくいのですが、「本をネット書店に並べる」段階でも、本が持つ曖昧さが伝わります。


本 > 小説・エッセイ > エッセイ > エッセイ

本 > 歴史・地理・民俗 > 歴史 > ヨーロッパ史西洋史 > イギリス史

本 > 歴史・地理 > 地理・地域研究

本 > 社会・政治 > 社会学 > 社会学概論

本 > 投資・金融・会社経営


分類 人文 /文化・民俗 /文化・民俗事情(海外)


2-3.「講談社BOXレーベル」ではない

刊行される本は出版社内の「編集部=レーベル・ブランド」に属すことがあります。しかし『英国メイドの世界』は、刊行元の講談社BOX編集部の「講談社BOXレーベル」と同じところには並べてもらえていません。本の大きさが違いますし(BOXはB6、本書はA5)、厳密にはレーベルも異なるからです。



『英国メイドの世界』の所属する分類は「講談社BOXピース」で、外見では「講談社」とのみ記され、フリップか奥付を見ない限り、講談社BOXだと気づかれません。



とはいえ、読者層やターゲットの異なりや、「小説」ではないがゆえに上記のように多面的に展開できる強みがあるので、そこは相殺というところです。多分、講談社BOXの中では読者の女性比率が非常に高い方だと思います。



余談ですが、メロンブックス秋葉原店が、講談社BOX作品のコメントを使ったポップを作ってくださる奇跡が起こりました。『化物語』とメイド繋がり・実は講談社BOXなのです(2010/11/27)と、ブログに書きましたが、こういう接点が生まれることはすごいと思います。


2-4.曖昧さによる広がりと扱いの難しさ

「曖昧さ(多義性)」は本が多様な文脈で読まれる=読者層に広がりがあることを意味し、潜在的な読者の方と多くの接点を持ち得る本だと思うので、私にとって配置の曖昧さは設計通りでした。しかし、書店ごとに配置場所が異なることは探しにくさや出会いにくさに繋がる状況は、想定以上でした。



本が持つ多義性は、読まれなければ伝わりません。書店での展開はタイトルに「メイド」の文字を含むことで想定以上に読者イメージが限定されすぎ、「メイド=関係ない」と、「読まれにくい」構図が存在するのを感じました。私のリアルの知人からも、「読むと面白いけど、知人でなければ『メイド』は関係ないと思って、手にしなかった」との感想を複数貰いました。



サブカルチャーに置かれるより、個人的には歴史に置かれた方がいいとは思います。しかし、歴史コーナーにどれだけ人が来るのかといえば難しいところです。さらに『資料系(漫画制作)』はあまりにニッチ過ぎて人が通らないのではないかと思います。「配置される」→「人が通らない」→「読まれない」構図はできるだけ避けたいものです。



配置された場所が適切でも、本が持つ要素を伝えるのは難しいものです。書店ではネットで広く解釈してくれる文脈(同人活動のバックボーン、過去に同人版を1.4トン刷っている編集部による大きなブラッシュアップ、英国の「館」ミステリとの高い親和性、システムエンジニア的に屋敷という職場を見る観点など)ほど、「今の本の形では、これらは一切伝わらない」文脈です。私が伝えたい情報が多すぎるというエゴですが、書店で「本」の形で伝えられる情報は、少なすぎると感じました。


3.新刊の強さ

書店での配置は「ジャンル」だけではありません。次に、もうひとつの陳列方法「新刊」を見ていきます。書店を普段から眺めていて、書店で「陳列される」手段として「新刊」は最も良い場所を確保する有効な手段のひとつです。


3-1.新刊=目立つ

自分の本を探して書店を訪問した私が、最も簡単に本を見つけられたのは「新刊」コーナーでした。新刊はお店の入り口など目立つ場所に展開します。『英国メイドの世界』は分厚く、非常に目立ちました。



「新刊」という扱いは基本的に水物ですが、競争相手は「その時期に出る新刊」だけといえます。時代や国境を超える世界的な名作の「既刊」があっても、「新刊」の売り場面積を脅かすことは少なく、「既刊」は長期のベストセラーや、映画・ドラマ、出版社によるプッシュやフェア以外では、積極的に展開されません。



書店で新刊に並べられているところを見るのは嬉しいことでしたが、新刊が「新刊」として売れなければ、早期に返本され、書店から姿を消すことになります。書店のスペースは限られていますから、次の新刊が来たとき、私の本はしっかりと「既刊」の棚に入るこむことができるのでしょうか?



私は、自分の本が「新刊の強さ」を失うと、何か風が吹かない限りは再浮上が困難だと考えました。出版実績がない私にとって、発売からの最初の1か月が勝負だったのは、「いつまでも店頭においてもらえるとは限らない」と思えたからです。


3-2.同人イベントでも「新刊」が売れる

余談ですが、同人イベントにサークル参加した私の経験上、最も売れる本は「新刊」でした。そして新刊があることで既刊の併売が生じ、部数全体が伸びました。シリーズ物の場合、当然ながら既刊がないと、続きの新刊の買い控えが生じます。



同人イベントの場合はサークルのファンになってリピーターが増加し、「新刊」を買いに来る方が増えていくので「最も新刊が売れる」という性質を持っています。



きっと、私の本が売れる機会を人為的に作れるとしたら、同人誌のように「新刊を出す」ことでしょう。しかし、私の場合は「次」があるかは最初の本の結果次第で、これは期待できません。生涯で作れる本は限られていると思っています。


4.書店には本が多すぎる

最後に、本屋さんを歩いてみて感じたのは、「本が多すぎること」です。本同士が自分の情報を殺しあっているのではないかと、感じました。本が売れない理由の一つには刊行点数の多さが指摘されています。



「本が売れない」ホントの理由を知るための三冊には、『本の現場』という本の情報として、「ここ30年で書籍の出版点数は4倍になったが、販売金額は2倍程度だという」との情報が記されています。(後日、紹介された本は読むつもりです) だとすると、本一冊の書店での滞在期間や認知機会は限られます。



「刊行点数の多さ」に関連する話として、新書バブルと呼ばれる状況や、レーベルが群立するライトノベルの刊行点数の多さも話題にもなります。たとえば「ラノベ 表紙 一覧」で検索すると1位にでてくるのは『その他』2010年9月版のライトノベル表紙一覧という2ちゃんねる系のまとめサイトで、このページを見ると、1ヶ月における刊行点数の多さに驚愕します。



私が子供の頃は角川スニーカー文庫が出来始め、富士見ファンタジア文庫、そして電撃文庫が強いぐらいの印象でしたが、今はレーベルと作家も増え、以前より一人当たりの作家が得られる認知機会が低いように思います。



ラノベの話は極端な例ですし、私が刊行する領域と重なりはありませんが、刊行点数が増えていることは、自分の本の存在感を相対的に低め、書店での棚の奪い合いにも繋がっていることが、お伝えしたいことでした。


5.総論

書店を巡ることで、「本をただ出しても、読者には出会えない」と強く感じました。書店には本があふれ、目に留まるのは難しいというのが実感です。新刊はボーナスステージみたいなもので、すぐに時間は過ぎ去ります。コンスタントに各出版社から新刊が出続ける状況、売れない本は返本されます。読者に出会う状況を維持するには、「定期的に売れる」必要がありますし、まず返本されないためにも、初期に認知機会を得ていくアクションを行いました。



しかし、「本の読者数の上限」があるのではないかとの疑問も出てきます。私の場合、「存在していない本」を目指したので競合はあまり存在せず、競合としての重なりを持つ学術書とも読者対象が異なる点で、差別化は出来ていました。とはいえ、顕在化する領域の対象読者の絶対数(メイドに興味を持つ人)が少ないように見えるため、「この本は、メイドが好きな人に行き届いたら、終了」「そんなにいないよね?」という判断をされるかもしれません。



今時点での「本の認知度」(=私の情報発信力)では、「知っていれば、読みたい」と思う人に行き届いたようには見えていないので、のびしろはまだあると思います。また、伝え方を変えれば、より多くの読者の方に「あぁ、自分はこの本を楽しめる要素を持っているんだ」と気づいていただけると、コミケやウェブで経験的に知っているので、未来の読者の方々と出会う「物語つくり」をウェブで行います。



100人が興味を持つテーマでも、100個集まれば1万になるように、『英国メイドの世界』を100通り、1000通りの伝え方をできるように。実際の数字を出すことでしか結果を示せませんが、この可能性を信じて本を作っていますし、その努力を楽しみながらしているところです。



長期的な話はさておき、「(見つけられない・気づいてもらえない→)売れない→店頭から消える」事態を避けるためにどうすればいいのか、というところが一連のテーマです。「本の寿命・性質」によって状況は異なるので、この考え方が適用できる本は少ないかもしれませんが、努力して改善できる余地を探すのが私の一連の考察の原点です。



最後に補足です。



書店で売ることを軸にした話をしてきましたが、当然、「多様な文脈で伝えられるネットを活用し、ネット書店で売り続ければいい」との話もあると思います。これはもっともですし、著者の自由度が高いウェブで売ることは私にとって前提です。最近では活動の幅を広げられている東浩紀さんが会員組織の運営や自身の表現の場として出版社を立ち上げました。Twitterの宣伝だけで、刊行した『思想地図β』が1か月で2万部、そのうちAMAZONだけで約1/3という、驚異的な数字を出しています。







ここ数年は同人誌の世界でも、知名度を持つニュースサイトがコミケにサークル参加すると「壁配置」(大手サークル同様)になる現象も見られています。さすがにこれらの事例は私には遥かに遠いところではありますが、自分にできることがゼロではなく、作り手の活動や本の存在を伝える手段となる「ネット」は前提ですし、これまでにやってきたこと(発売日からの1か月)はその文脈に基づくものです。



しかし、個人的な感想ですが、「ネットと書店」では出会いの機会の「面」が圧倒的に異なります。そもそも著者の認知度が低い「私」のレベルでは、ネットだけでアプローチ出来る範囲は限られています。その上で書店で売ることも一緒に考えるのが、今回の趣旨です。



ネットで出会えない人に本を届ける手段として、今でも「書店」は圧倒的存在感を持ちます。電子書籍に個人的に取り組むよりも前に「紙の本」に意識が向くのも、今時点で「私の本を既に販売してくださっている書店の方々」に何を返せるのか、というところを自分なりに確認したいからです。



こうした「出来ることに取り組む」スタンスに似通っている部分が少なからずあるようで、橙乃ままれさん(ウェブで公開した小説『まおゆう』の出版を行い、現在ウェブで連載中の『ログ・ホライズン』の出版化も控える)と、次のようなやりとりがありました。















私もままれさんも、出版という機会に得られる「経験」を最大限に、自分なりに楽しみつくそうと思っているのかもしれません。出版は、多くの人と繋がる・接続する機会にもなりました。そして、そのおかれた境遇で出来ることを楽しみ、出来ることを自分で広げて「ルール」を作っていくような。



ままれさんのウェブとの取り組み方も、参考になるものが多いです。窓が開かれている、というのでしょうか。ログ・ホライズンの感想掲示板に返事を書いていたり、同作品の書籍化に際してTwitter上でのログホラ1アイテム募集など、ウェブであることを積極的に楽しんでいる印象があります。



私が知らないだけで、ネットを軸に活動される方々はもっと多いでしょうし、もっと楽しみ方があるでしょう。というところはここ10年以上、ネットの普及で積み重ねられた領域ですが、それを前提とした上で、「今、書店と何が取り組める」のかを考えることに、私は「経験を積む機会・楽しみ」を見出そうと思っています。



少し長くなりましたが、上記で考えていたテキストがこの一連の考察になります。次回は「書店と何ができるか」「書店に何を返せるか」について考え、自分のできることを探してみるつもりです。これから先は、自分の意思次第、です。


2011/02/07 続きを公開しました。

第3回目:書店で本を売る現状認識と著者が提案可能なアクション(2011/02/07)

出版した本に1日でも長く生きてもらうため、著者に出来ること

私は、2010年から電子書籍関連を調べてテキストを書いてきました。個人での表現活動を同人で10年以上続けた立場から、電子書籍によって得られる表現機会の広がりに関心を持っていたからです。しかし、昨年11月に講談社から『英国メイドの世界』を刊行したことで、書店の現場や本を売ることに意識が向かい、多くを考えました。



今回のテキストでは、初めて本を出す著者の目で見た現状と、これまでの同人活動の体験から書店販売を相対化し、著者が出来ることを広げ、「本の刊行時、著者としてやってきたこと」という話に繋げたいと思います。



これから全5回ぐらいで、私が初めての出版に際してどのような情報で判断を行い、行動してきたのかを、公開可能な範囲で書いていくつもりです。自分の体験を記録し、考察して、他の人の参考になるかもしれないので発表するというのは、半ば趣味みたいなものでもあります。


目次

  • 0.前提情報:刊行した書籍:『英国メイドの世界』について
    • 0-1.コンセプト
    • 0-2.メリット
    • 0-3.想定読者
    • 0-4.現状認識
  • 1.著者にできることを探す
  • 2.著者である私がアクションを行う理由
    • 2-1.読者と出会う「接点」を広げることが楽しい
    • 2-2.出版を決めてくれた編集部に恩を返す
    • 2-3.個人では作れない本を、今後、絶版にさせないために
    • 2-4.「育ててくれた環境」への恩返し
  • 3.今後の更新予定


0.前提情報:刊行した書籍:『英国メイドの世界』について

最初に、どんな本を作っているかの紹介です。今回のテキストも異なる形での「本の伝え方」になるでしょう。こうしたテキストを書く動機は、後述しています。



英国メイドの世界

英国メイドの世界




0-1.コンセプト

「メイドに興味がない」けれども、「メイドに興味を持つかもしれない人」に向けて作っています。詳しさと分かりやすさのバランスを重視し、敷居が高い「学術書」にはしないように心がけています。


0-2.メリット

1・本として読んで楽しい。

2・読後は「世界を見る目」が変わり、読書や楽しみの幅が広がります。


0-3.想定読者

初期の想定:メイドや英国ミステリ、屋敷が好きな方。

長期の想定:過去の時代の「働く人」や「仕事・業務」に興味を持つ方まで。


0-4.現状認識

このレベルの類書は少なく、読んで役立ち、ゼロからでも楽しめる本です。しかし、値段がいきなり読むにはやや高く、分厚く、敷居が高くなっています。直接会話をすると興味を持ってもらいやすいのですが、仮に楽しめる方であっても、「資料本・辞典=関係ない」と思われて、「必要ない」と手にされないこともあります。



また、実際に興味がある方でも、発売して1か月経過後に刊行した情報が届く様子も見ているので、多分、まだ私の本の存在を知らない方も多くいるはずです。



この2点から、「本の存在を認知してもらう」「本に興味を持ってもらう(実は興味を持ち得る「自分」に気づいていただく)」というのが課題です。


1.著者にできることを探す

同人誌、出版社からの販売(それに電子書籍でも同じでしょう)含めて、元々のブランド力や筆者の知名度、話題性や強力な同時代性がない限り、本は読まれるどころか、見つけてさえもらえないでしょう。「見つけてもらえない本」は、存在しないも同じです。



ではどうやって、読者となりえる方に見つけてもらうのでしょうか?



私はこれまでに、コミケを代表とする同人誌即売会で読者の方に直接お会いし、「自分の手で本を頒布する」経験をしてきました。これほど楽しい経験はありませんし、本の存在に気づいてもらうため、本を読んでもらうために試行錯誤してきました。しかし、講談社からの出版に際しては、販売は書店の方々に、印刷から流通までを出版社の方にお任せする状況がスタートでした。



それでも、著者にも出来ることは多く有ります。それは、「どうやって本を見つけてもらうか」「どう出会いの機会を作るのか」を考え、「ウェブで情報を出していく」、「店舗で売る方の支援に繋がる情報を出す」、この2点だと考えています。



情報の出し方は「本の内容紹介」に留まらず、たとえば『英国メイドの世界』を一定数扱っている全国の書店情報(2010/11/15)のように、ネット在庫が一気に無くなった際には出版社の編集・営業の方々の協力を仰いで「在庫が多い書店リスト」を案内したり、書店フェアを行ってくださっているお店を啓文堂書店三鷹店様にて関連書籍フェア(2010/11/23)と紹介したり、幅広い伝え方をしています。


2.著者である私がアクションを行う理由

なぜこうまで著者がするのか、疑問に思われるかもしれません。そんなに本を売りたいのかと。私は折角刊行した本が、その本を欲する読者の方々と出会える機会を最大化したいと思っていますし、本を「生き延びさせる」ために必要だと考えています。



「著者の私が積極的にアクションを行う」主な理由は4点です。



2-1.読者と出会う「接点」を広げることが楽しい

2-2.出版を決めてくれた編集部に恩を返す

2-3.個人では作れない本を、今後、絶版にさせないために

2-4.「育ててくれた環境」への恩返し



以下、詳細をお話しします。


2-1.読者と出会う「接点」を広げることが楽しい

私は同人活動を通じて、多くの読者の方々にお会いしました。「英国の屋敷・メイド・執事」というテーマを好きな方に向けた本を作っていましたが、同人イベントで出会う方の関心の持ち方の多様さを学びました。「本と人との出会い」は人の数だけ存在し、同時に、「伝え方を変えれば、本はより多くの人と出会える」のを教わりました。



『英国メイドの世界』を始めとして、私の扱うテーマは領域が広く、多くの人の中に、既に「興味を持ってもらえる可能性がある」と思います。その方たちが既に持つ、顕在化していない関心を響かせるような伝え方をすることが、私の持ちえる手段です。



「本と読者」が出会うそこにも、数多い物語があります。「本を、まだ見ぬ読者にどう読んでもらえるか」、その「出会い」を考えることが、私は本を作るのと同じくらい大好きです。「全く関心がない人に読んでもらうために注意を引くこと」ではなく、「読者として本を楽しめるかもしれない可能性を持ちながら、本人が自覚していない」方にどう気づいてもらえるか、という考え方です。



その意味では、成功していないことも多いですし、できることすべてをやり尽くしてもいませんが、出版では同人以上に出会いの機会が求められるので、まずここを楽しんでいます。


2-2.出版を決めてくれた編集部に恩を返す

「出会いを楽しむ」とはいえ、出版は趣味ではありません。元々、『英国メイドの世界』は今まで講談社BOX編集部が出したことのないカテゴリの本で、作業負荷も高く、製作に膨大な時間を必要としました。会社業務として出版を捉えた場合、評価は数字でされます。多くの方がかかわった「仕事」が評価を受けるためにも、また「出版してよかった」と編集部に安心してもらう意味でも、数字は必要不可欠と考えました。



基本的に出版では、刷った部数で著者の印税が決まります。「どれだけの冊数を売り上げたか」に著者は責任を持たず、在庫リスクを背負いません。しかし、私は上記の理由や同人時代の楽しみから、数字を伸ばす=読者と出会う工夫への関与を決めていました。



この手の資料本は「薄く長く売れる」とも言われましたが、知名度の無い本が一番売れる可能性が高いのは、話題性がある「新刊」の時期だと私は判断し、また初動で数字を出せれば、その後の展開で余裕が生まれると考えました。



そこで、発売の11月に結果を積み上げるため、わずかな施策とはいえ、出来る限りのことをしました。もちろん、売れる・売れないは運が左右する博打的要素を持っていますが、「この系統の本」という但し書きがつくにせよ、結果として発売5日目で増刷が決まったことは目標達成となりました。


2-3.個人では作れない本を、今後、絶版にさせないために

発売前に初めて刷り上った見本を受け取った際、私は担当編集さんにこう質問しました。



「絶版したら、原稿の扱いはどうなるのでしょうか?」



同人時代に身についた習慣ですが、私は失敗した場合を想定します。私が扱いえる領域のテーマについて日本では素晴らしい本がいくつもありますが、絶版となっている本も珍しくありません。絶版が多い=そのテーマは売れない・ニーズが少ない、と見ることもできます。



出版社から出ることで同人誌はどう変わったか?(2010/12/07)で記したように、『英国メイドの世界』は相当なボリュームで講談社のリソースを注いでもらっており、絶版になった場合、権利処理を出版社で行った写真資料やイラスト、デザイン含めた様々なコンテンツの扱いは難しく、絶版後に私個人で「まったく同じ本」を作るのは事実上困難です。



この前提から、私は「この本を絶版にさせない、生き延びさせる努力をするしかない」との結論を出しました。初期に数字を伸ばすことは「出版を決めてくれた編集部への恩返し」ですが、絶版にならないように一定数売れ続けるようにすることは、まだ出会っていない、この本に関心を持つかもしれない「未来の読者」に出会い続けるための生存競争であり、また著者としての責任だと考えています。絶版で本を入手できない辛さは、資料本マニアといえる私には身に染みています。



そして、何よりも、個人では作れない本を作ってしまったので、その本に少しでも長生きして欲しい親心のような執着が、このようなテキストを書かせているのだと思います。


2-4.「育ててくれた環境」への恩返し

部数を伸ばすことには、自分が享受してきた環境への恩返しの意味があります。出版には、環境を変える力があるように私には思えるからです。



■2-5-1.メイドジャンルへ
メイドブームのピークは2005〜2006年ぐらいだったと私は考えていますが(以降は安定化しているとの認識)、ブームが一段落した後に出る『英国メイドの世界』という「メイド本」が、長期的にかなり売れる事態を引き起こせれば、「メイド」に関するコンテンツを活性化できると考えています。



同人版の『英国メイドの世界』は比較的、「コンテンツを作る方々」(漫画家・作家・ライターなど)にこれまで購入されてきた面もあります。創作をしたい「私」が、創作をする資料として作り上げてきた本でもあるので、この本をきっかけに一定数の作品が生まれていくことを期待しています。作品が増えれば興味を持つ読者が増える循環を目指し、自分が「読者」として楽しめる作品が増えます。



同人活動を含めて現在まで、私が読者の方とお会いできているのは、日本でのメイドブームがあればこそですから、メイドジャンルに興味を持つ人を増やすことも目標のひとつです。メイド喫茶を含めてメイドに関心を持つ人が多いのは、興味を持つ入口が多様化していればこそです。



私が本を出した時にコラボイベントを行って下さったメイド私設図書館シャッツキステや、お店として応援して下さった池袋のWonder Parlour Cafeは私が好きなお店です。メイド喫茶経由で本に関心を持つ人がいるのとは逆に、私の本がきっかけで足を運ぶ人が増えたらいいなとも思っています。



上記のお店以外にも、落ち着けるお店は多くあります。「メイド喫茶」といっても料金体系やサービス含めて非常に多様で、事前に必ず調べてからいくことをオススメしますが、「自分を応援してくれた人を、応援したい」気持ちがあります。



■2-5-2.同人へ
そのメイドジャンルを形成していた流れの一つは、私のバックボーンとして存在する「同人」です。



コミックマーケットコミティアを代表とする「同人誌即売会」があることで、私は表現の場を得ました。私以前にコミケに参加して「メイド」ジャンルをサークルとして形成した方々がいて、そこに読者として参加された方たちがいて、そうした連なりの中に、2002年12月に初めてコミケにて同人誌の頒布を経験しました。



多くの方々が作り上げてきた「場」がなければ、私は読者の方々に出会えず、活動を続けられなかったはずです。



「同人誌から出版」という私がたどったラインも、「趣味だからこそ生まれる」同人誌という世界が持つ可能性を示すものだと思いますし、同人誌生まれの本が「今まで同人誌に興味が無かった人たち」の手に届けば、同人という場への理解や関心が高まるかもしれません。



私自身、講談社BOXと出会ったきっかけは、同人で活躍された奈須きのこさん・武内崇さん、そして今も同人を軸にされる竜騎士07さんが講談社BOXで書籍を刊行しており、「同人との親和性が高い」と判断したからです。この道筋が存在しなければ、私の出版の機会は無かったと思います。


3.今後の予定

次回は現状認識、というところで書店巡りをしての感想を書きます。本文で述べたように、結論から言えば「ウェブで本の認知度を上げる」に尽きるような気がしていますが、書店で実際に本を売っていただいている方々の支援として何ができるのか、というのも考えていきます。







啓文堂書店三鷹店様のフェア(上記の写真:2010年11月時点)のようにしていただけるお店が増えるよう、そしてお店の特色ごとにフェアの内容を切り替えられるような提案をできたらと思います。私の本を売ることを、本が好きな書店の方に楽しんでいただけるのが、理想です。



余談ですが、最近非常に面白かった記事をご紹介します。アクションの範囲が限定される私と大きくレイヤーは異なりますが、話として元新潮社編集者・宮本和英さんが、出版業界の裏話を語る語る。は興味深いものでした。


森薫先生の『乙嫁語り』の1〜3号掲載の総集編と対談記事

森&入江のFellows! 総集篇、貴重描き下ろし収録で発売



とのことで。この売り方は最初、微妙だと思いました。お互いの読者がお互いの作品に触れること自体はよいと思いますが、まだ掲載作品が載っている『Fellows!』は売っていますし、その先にコミックス化があると思うので、重複になります。



こっちもコミックスも両方買うと思いますが、それってどうなのか、というのが「微妙」に思った理由ですが、思ったほど「微妙ではないかも」と考えました。


ターゲット1:「コミックス化」まで待つ派を取り込む

久我のように「森薫先生の作品だけ読みたい」からコミックス化を待ち、「Fellows!」を買わない層を取り込もう、とのアプローチにも見えるところです。この層が既刊を買う可能性は無いので、いわゆる「重複での嫌な感じ」は生じません。


ターゲット2:追加コンテンツでの購買意欲・ファンサービス

何よりも、総集編に含まれる追加のコンテンツが、新しい方向性なのかもしれません。掲載中のコミックスがコミックスになる前に、総集編+追加コンテンツの売り方は、珍しいのではないでしょうか?



過去の森薫先生のHP「伯爵夫人の昼食会」にて公開していたコンテンツや、『乙嫁語り』ラフスケッチなども掲載するようなので、買ってしまいますね、これは。


ターゲット3:創刊号のみ買って離脱した人の『Fellows!』への再取込

そして1〜3話まで読めば、『Fellows!』の創刊号のみ買った人も、既刊に追いつき、再度、「続きがどうしても読みたいから」ためし買いするかもしれない、という読みでしょうか。



発売予定日は2009/06/15とのことです。


隔月刊行の悩み解消? 資金の早期回収の可能性

Fellows!』はまだ4回しか発行されていません。しかし、発行号数が少ないだけで、2ヶ月に一度=創刊から結構時間経っている=コミックス発行できるだけの号数が揃うまでにまだ時間が必要、という状況だと思われます。



あくまでもマンガ雑誌は認知メディア的なものでそれ単体での収益をあげる構造ではなく、利益はコミックスであげる構造だと指摘されています。



マンガ雑誌に「元をとる」という発想はないたけくまメモ:2008/11/20)



なので、通常の月刊であれば創刊してから半年以上が経過する頃にはコミックスで資金回収できると思われるところ、『Fellows!』の場合は隔月刊ゆえにその2倍以上は時間がかかるのではないでしょうか?



そこで今回のような発行物で資金回収、という意図もあるかもしれません。出版界のビジネスモデルに詳しくありませんが、あえて「人気作家・看板作家」だけで、コミックスが出る前にこうした企画を立てていますので。



あまり専門でもないことを書くのも何なのですが、「本がどのようにして生まれてくるのか」「自分が好きなことを続ける(=人、時間、お金の確保)にはどういう戦略が大切なのか」を考えていますので、参考にと思考しました。



入江亜季&森薫の総集編?すると『乙嫁語り』の単行本はいつ?(黒い天使のブログ様)でも、今回の「コミックスが出る前の総集編」と言う手法については、疑問を呈されています。


対談記事

他に『Fellows!』公式サイトには、興味深いインタビュー記事が出ていました。どちらかというとこっちの方が、自分的には本筋で、面白かったです。



特別対談・森薫×しおやてるこ×笠井スイ-----2009/04/15



読者とのコミュニケーションサイトを廃止した『コミックビーム』ですが、Fellows公式サイトに資源を集中し、広報・宣伝・企画にも力を入れているようです。



Fellows! 2009-APRIL volume 4 (BEAM COMIX)

Fellows! 2009-APRIL volume 4 (BEAM COMIX)