ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

講談社版『英国メイドの世界』、刊行から5周年

同人誌として2008年に刊行した『英国メイドの世界』は、2年間の歳月を経て、2010年11月11日に講談社から発売しました。それから今日で、5周年を無事に迎えることができました! これも、コミケをはじめとして同人イベントで本同人誌をお読みくださった方たちに支えられて、同人活動を続ける中で実現したことですので、読者の皆様に心より御礼申し上げます。そして5年を経ても絶版せずに、2014年に第六版を迎えられたことも、読者の方たちと、その場を設定してくださった講談社の編集・営業の皆さま、そして書店で取り上げてくださった店員の方たちあってのことですので、重ねて感謝いたします。



英国メイドの世界

英国メイドの世界





出版を通じて、いろいろな機会もいただきました。シャッツキステとの出版記念コラボイベント・無事終了(2010/11/29)や、秋葉原のカフェ『月夜のサアカス』での蔵書公開とタイトル一覧(169+2種)(2012/03/31)というコラボ、そして『シャーリー』2巻・11年ぶりの新刊発売と、そこから思う自分のメイド研究活動(2014/09/13)
に記したように、『シャーリー』刊行を記念してシャッツキステで開催された原画展にメイド関連の蔵書を提供する、ということもありました。さらに、鶴田謙二さんのイラストがきっかけで、2011年10月には水樹奈々さんのラジオ番組に出演する、という幸運な出来事もありました(FM-TOKYO『水樹奈々のMの世界』のメイド対談を振り返って)。



5年という歳月はあっという間でした。商業での出版は自分にとって初めての経験だったことから、出版社から出ることで同人誌はどう変わったか?といった製作事情や、出版した本に1日でも長く生きてもらうため、著者に出来ることなど、この体験を形にしようといろいろと書き連ねましたが、本業の方が非常に忙しくなりすぎて、なかなか研究活動に時間を使えませんでした。



『英国メイドの世界』刊行後も定期的に研究活動を行ってきましたが、方向は大きく変わり、同じ「メイド」であっても「日本のメイドブーム」の全体像を可視化するというものになりました。きっかけは幾つかありますが、自分がメイドの本を刊行できたのも日本でメイドブームがあったからで、その源流を理解したいと考えました。また出版時にお会いした方たちから数多く「日本のメイドをどう思うか?」と問われることもあり、自分なりに答えを用意したいと考えました。



さらにいえば、出版を通じて知り合ったメイド喫茶での勤務経験がある何人かの方たちが、「親にメイド喫茶店員をしていることを話せない」と語っていたり、その職にあることを表立って言いにくかったりすると語っていたことが、「メイドであることを恥ずかしく思う」と語った100年前の英国メイドの姿に重なりを覚えたからでした。「英国メイド」は職業的不人気によるなり手不足、いわゆる「使用人問題」に直面し、衰退していった職業です。家事労働の仕事を「スティグマ」と捉えさせた100年前の社会の物の見方と、現代社会に存在する「メイド」(メイド喫茶のメイドはウェイトレスなので、家事使用人ではないですが)、異なる存在でありながら、似たような意識を持つ背景を理解したいと思い、出版後はその方向の研究を続けました。



一方で、研究は「家事労働者」全体にも広がりました。『英国メイドの世界』で書ききれなかった、「英国メイドの衰退」は同人誌『英国メイドがいた時代』で書き上げましたが、歴史はそのまま現代英国へと続きました。また、世界中の経済発展する国々では家事使用人・家事労働者の雇用が継続して行われており、現代を生きる立場として「メイド」を巡る視点は、同時代に寄与するとも考えて、日本を始め、様々な国のメイド事情を調べています。



そういう活動を続けつつも、2010年に紹介した『ダウントン・アビー』NHKで2014年春から放送されるなど、英国メイドがいた時代のドラマが盛り上がるなど、自分を取り巻く周辺環境も変わっています。昔話で恐縮ですが、英国を舞台とするドラマの中でメイドがいるシーンがあると喜ぶ、というような時代が10年以上前にあったことが、はるか昔のようです。



あまりに長くなりそうなので、今日はここまでにとどめますが、5年前の自分が思い描いた未来となる「5年後」に生きる自分は、その時に思い描いた方向にはまっすぐ進んでいませんが、「メイド」を軸にした活動は継続しており、また近いうちに成果を発表する機会と場を持つことができるよう精進しますので、その時にお会いできれば幸いです。