ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。同人・出版活動の報告を含みます。

『REGENCY HOUSE PARTY』

Regency House Party [DVD] [Import]



BBCドラマ『高慢と偏見』で描かれた、パーティに参加したくありませんか?



今回ご紹介するDVDは、そんな夢を実現したドキュメンタリーです。制作は『THE 1900 HOUSE』『MANOR HOUSE』でおなじみ、イギリスのChannel4。2004年にDVD化された、最近の作品です。



『HOUSE』シリーズと題して、アメリカのPBSがこの番組のDVDを制作していますが、今回もシリーズの流れを踏襲して、ジェーン・オースティンの小説の舞台となる、19世紀初頭のジョージ三世・ジョージ四世の治世の生活風景を再現します。



価値観を再現

同シリーズは、番組に出演するキャストをオーディションしています。たとえば最近紹介した『THE 1900 HOUSE』には、イギリスの普通の家庭・Bowler家が家族そろって出演し、19世紀の暮らしを三ヶ月間、体験しました。



MANOR HOUSE』ではエドワード朝の屋敷を舞台に主人と使用人を両方募集して、『階段の上』と『階段の下』の世界・価値観を忠実に再現しました。そして今回、『REGENCY HOUSE PARTY』は、極限の世界にまで突き抜けました。



それは、単純にジェーン・オースティンの世界のパーティを再現するのではなく、この時代のパーティの目的、つまり「如何にしていい相手と結婚するか(出会うか)」を再現しようとした点にあります。



オースティンの『高慢と偏見』も『エマ』も『いつか晴れた日に』も、そしてサッカレーの『虚栄の市』も、お金の無い女性が、望ましい男性との結婚に苦労するストーリー展開です。華やかなパーティは、男女が出会う場所でした。そうした時代背景を、このドラマは再現しました。



それは、どうやって?



出演者は本当に「パートナー」を探す

今回、オーディションで選ばれた人々は社会的に恵まれた人が多いです。当時の社会では、パーティに参加して持参金を持つ女性や、年収の多い結婚相手を探しました。このドキュメンタリーでは、そこまで再現しようというのです。



参加者には、現代版・セレブが含まれています。結婚相談所があれば、多分、かなり高いクラスの人々になるでしょう。彼らはあらかじめ「パートナーを見つける」意図で参加しており、その点では結婚相談所による集団「お見合い」となんら変わりません。


ただ単純にこういう商売を始めても、きっと成り立つのでは?と思えるほどです。社会的地位の安定、高収入が絶対条件だと思われますが……



とはいいながら、当時のように、「お金持ちではない」普通の人々も混ざっています。愛なのか、お金なのか、出来ればその両方でしょうが、果たしてパートナーは見つかるのでしょうか?



女性1:ロシア貴族の娘(27)

    いるんですね……

女性2:服飾とアクセサリの会社運営(31)

    地元振興委員(予算5000万ポンド/10年)も務める。

女性3:農場とケータリング事業運営(28)

    年商300万ポンド

女性4:舞台衣装制作→スキューバインストラクター(34)

男性1:ロンドンの劇場支配人&大道具責任者(29)

男性2:元・IT企業(5000万ポンドの価値:バブル前)経営者(41)

男性3:ヘアドレッサー(29)

男性4:シンガーソングライター(27)

男性5:生物学教師(32)



さて、そうした主要キャストだけでは、当時のパーティは再現できません。主催者と、彼らを見守る「後見人」、狂言回し的な「隠者」、それに話し相手とも言うべき「Lady's companion」もいます。



主人役:自分の広告制作会社を持つプロデューサー(29)

女主人:使用人を雇っていた由緒ある家庭に嫁いだ女性(59)

隠者 :モダンアーティスト(32)

話相手:歴史を大学で学び、卒業したばかりの女性(21)

後見人女性1:貴族と結婚し、Ladyを名乗れる元モデル(56)

後見人女性2:庭園ビジネスで億万長者(52)

後見人女性3:元女性王立陸軍理事・作家(56)



後見人の女性が全員離婚歴があると言うのはお国柄と言うのか、非常に現代的ではあります。主人役や、話し相手の子が恋に落ちる可能性もあるでしょう。



馬鹿馬鹿しいほどにエンタメ

この舞台のために、ひとつのカントリーハウスKentchurch Courtを貸し切り(観光ガイドに載っていない)、内装もバッキンガム宮殿の改装に関与した建築家ジョン・ナッシュ的な雰囲気を重視して、改装を加えました。



カントリーハウスなので当然のように庭園がありますし、鹿もいます。今回の撮影が闖入者という雑音に邪魔されないように、なるべく人里離れた場所で、さらには地形にも考慮したそうです。



今回のドキュメンタリーが今までのシリーズと異なるのは、「生活を楽しむ当時の暮らしをそのままに」再現しつつ、あくまでも主役は「出会いの場を利用する、屋敷のゲストたち」であるところです。



当時の、働く必要が無かった人々同様、出演者は何もしません。彼らには、主役ではない「使用人たち」(同じく現代人)の侍女やメイドやフットマンが付き従い、世話をしてくれるのです。外に出れば庭師がいます。(17人のメイド、10人のフットマン!)



話しましたように、屋敷の管理人、つまり客人を出迎える主人役・女主人役がいたり、若い人々を見守る「後見役」(chaperone)がいます。これらもすべて素人の人々なのです。



まさしく、登場人物全員が本来の意味での「ロールプレイングゲーム」(役割を演じる)をするのです。



まだDVDを見ていないのですが、番組の再録本によると、19世紀初頭にあったであろうパーティやその余興、様々な日常のエンターテインメントなども再現しています。



その中のひとつにロープでリングを作って、プロのボクサーに試合をさせる、という風景があったのですが、そこに写っているのは、「K-1グランプリ」「PRIDE」にも出た経験のある、本物のボクサー「マット・スケルトン」! 上半身裸で下半身は当時のズボン、しかもどこか楽しそうです。



本当に、馬鹿馬鹿しいまでにエンターテインメントに徹しています。屋敷の改装を含めれば、数億円規模に思えます。一般受けするという度合いでは、恋愛要素を盛り込んだこの作品が一番なのではないでしょうか?



ヴィクトリア朝よりも前の時代ですし、コリン・ファースのいない『高慢と偏見』ですが、イギリスの屋敷や華やかな暮らしに関心のある人に、オススメします。



公式サイト:Channel4