1930年代のイギリス貴族の屋敷で生じた殺人事件を物語の中心としていますが、本質は人物描写にあります。屋敷の主人である『階段の上』と、彼らに仕える『階段の下』を巧みに描いた、異色作です。
華やかでいわくありげな上流階級の人々が主役になりがちですが、この映画は彼らに仕える使用人たちを丁寧に映し、当時の雰囲気を巧みに再現しています。
執事からハウスキーパー、コック、それにメイド。彼らは脇役ではなく、当時の生活を彩る存在として、すべてのシーンに登場します。
屋敷に着いた伯爵夫人は玄関から入り、お供のメイドは荷物と一緒に、「階段の下」から屋敷に入る箇所は、非常に珍しい映像で、秀逸です。
使用人の間にも、「上級」「下級」の区別があるなど、時にエキセントリック、風刺もされた「主人たち以上に階級に厳しい」、使用人同士の関係も目を引きます。使用人同士の食事シーンでは、主人たちの位に応じて、席が決まるのですから……。
特典映像も、過去に執事だった人、メイドだった人が登場し、監督が彼らの経験をどのように映像にしたかが語られていて、興味深いです。
そして、「規範や事実をそのまま再現すること」は必ずしも、「映像的には面白くならない」という部分での、歴史と芸術の差も、監督の口から語られています。