ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

その4:1日目・日本発・ロンドン着

旅行前に

人生で初めての海外ひとり旅。学生を卒業してしまい、歳を重ねると、いろいろ失敗することや恥をかくことに抵抗があって、海外で冒険をする心持はどこにもありません。リスクを避け、面白さを優先せず、明日を考え、トラブル無く日本に戻ってきて会社に復帰することを念頭に、すべての行動が決まります。



前回の「バッキンガム宮殿事件」のような思い出話も、友人が一緒にいればこそ笑える話で、そういう点で今回のひとり旅は、すべて楽しさも不幸も自分で乗り越えなければならない、いい景色を見ても、感動しても、誰とも分かち合えないのです。



けれど自由に、思うままに動いて、どこまでも見たい場所・行きたい場所に行けるというそれを優先して、今回は旅を決断しました。イギリス関係の研究を自分なりにしていて、その感覚を実際に味わいたい、ロンドンを歩きたいとの気持ちは、堪えがたいほどに募りました。



英語も満足に喋れない、留学経験もゼロ。ただイギリスの小説と屋敷とメイドさん好きが高じて、イギリスをひとりで旅した記録になります。自分と同じように思っていて、どうしても行きたいのに踏み出せない人の手助けとなれば、幸いです。


旅の始まりは成田から




成田は大好きです。日常を離れられる、それも物理的に切り離される感覚がなんともいえません。携帯電話の通じない、完全に仕事から切り離された世界。あぁ、「外の国へ行くんだ」という、実感。



新宿から成田エクスプレスに乗り、一時間半ぐらい。降りる駅は終点ひとつ手前の第二ターミナル。毎回バスを使うか、鉄道を使うかで迷いますが、今のところ成田エクスプレスに乗る時間が好きなので、鉄道を選んでいます。



成田エクスプレスで新宿を出発してから、しばらく通る、山手線と同じ路線。山手線のプラットホームに立つ人たち、その中に普段は自分も混ざっている、そんな日常の自分から切り離されていく、遠ざかっていく、ひとつの儀式かもしれません。



成田の駅を降りて改札を出ると、パスポートの提示を求められ、ここを通過してから、航空会社の窓口へ向かいます。いろいろとお店はあるものの、今回は特に立ち寄りもせず、そのまま全日空のカウンターでトランクを預け、準備は万全です。



それから手荷物検査を受けて、出国審査を終えると、後は搭乗時間まで何もすることがありません。免税店でいろいろと買い物も出来ますが、今回は素直に搭乗口付近で待機しました。



備え付けのテレビから流れているのは、『三匹が斬る』……役所さんが輝いています。悪い旗本たちが左遷の憂き目にあい、任地へ移動中、その原因を作った領主の下へ意趣返しに乗り込む、という話でした。


機上の人

全日空、利用するのは初めてです。前回利用したヴァージンアトランティック航空同様、映像端末は個人ごとに割り振られています。席はやや空席が目立ち、久我の隣も空いていました。


隣の席が空いていたので、気兼ねなく寛げたものの、無理に隣の席に足を伸ばした結果、お尻にかかる負荷が高くなり、痺れました……首枕は持ち込みましたが、次に乗る時は長時間同じ姿勢でいるので、お尻に優しいクッションを持ち込もうかと真剣に考えました。



機中では本を読もうと思ったものの、そういう気分でもなく、映像端末で幾つか映画を見ました。



キングダム・オブ・ヘブン』:最初で止めました

奥様は魔女』:途中で飽きる

『ショーシャンクの空』:泣けました



周囲は学会関係者が多いのか、ノートパソコンを開いている日本人の人が多くいました。


ロンドン・ヒースロー空港

日本を発つこと十数時間、感動するにはあっけないほど簡単にヒースローに到着です。前回は到着までの時間をとても気にしましたが、今回は前日にほとんど寝ていなかったので、そこそこ眠っていたようで、気づいたら到着していました。



一年ぶりに降り立つロンドン。



窓の外から見える霧の都は晴れていて、飛行機から降りると、むしろ暑さを感じるほどでした。東京よりも、です。



初めてのひとり旅、少し不安はありましたが、前回来た時の景色や経路を覚えていたので、心細くはありません。現地の社員が迎えに来ている日本企業の人たちをちょっぴり羨ましく思いつつ、ヒースロー・エクスプレスへと向かいます。



イギリスの鉄道は、あっさり乗れます。



自販機でチケットを買い、誰もいない改札を通り、ホームでヒースロー・エクスプレスを待っていると、欧米系の外国の人(久我も外人でしたが)から、「パディントンはこれに乗ればいけるの?」と質問されました。



「そうですよ」と答えましたが、ロンドンっ子に見えるはずもなく、なんだったのでしょうか?(この後、2回ほど別の場所で外国の方に質問されました……何か地元っぽいものでもあったのでしょうか?)


ロンドン

画像は去年の旅行で写したパディントン駅懐かしの、というほど親しんでもいませんが、パディントン駅に着くと感無量です。車中で車掌のチェックを受け、十五分ぐらいで到着します。パディントン駅は十九世紀の「鉄とガラス」の駅っぽさを残していて、個人的には気に入っている駅です。



ヒースロー・エクスプレスを降りて、ホームをまっすぐ進んでいくと、地下へ通じる回廊があり、そこを進むとすぐに地下鉄の駅があります。



前回と同じようにサークル線のホームへ移動しますが、ここは階段が多くて去年は苦戦しました。今年はトランクが小さいのでそれほど重くなく、道も分かっているので、それほど気になりませんでした。



しかし、何よりも暑いのです。



薄いジャケット、念の為、ウィンドブレーカーを羽織っていたのですが、流れる汗が止まりません。車内の人の中には半袖の人までいて、ロンドンはその頃の日本より遥かに暑く、これは予想外でした。


ホテルへの道で迷う


宿泊先のストラスモアホテルに近いGroucester Road駅は古い感じで雰囲気もありました。出口はひとつだけで迷うことなく、外に出られます。しかし、ここからが問題でした。駅前の地図を見ても、自分がどの方向を向いているのか、見当がつかないのです。



久我は「なんとなく勘で歩く」習性があるので、根拠も無く駅を出てから、右に歩き始めました。トランクを引きずりながら、でこぼこの地面を歩いている、しかも暑い、段々と暗くなってくる、駅から二分のはずなのに、まるで辿り着かない。



「なんとなく間違っている」気がしました。



ただ、来た道をそのまま引き返すのもしゃくなので、自分なりに勝手な解釈で方向に見当をつけて歩き出すと、目的地のホテル近くにあると言う「自然史博物館」を発見しました。これで一安心して、手元にあるホテルへの地図を参考に、「QUEENなんちゃら41」という地名目指して歩き始めます。



しかし、自然史博物館の横の通りを歩き、目的地の41番地の前に来ても、ホテルがありません。首を傾げつつ、手元の地図を見直すと、QUEENQUEENでも、名前が違っていました。



この通りは「QUEEN'S PLACE」、目的地は「QUEEN'S GAREDEN」でした。「そんなのわかるか!」と思いつつ、通りを少し戻っていくと、今度は「QUEEN'S MEWS」が……ややこしいです。その先へ行くと、ようやくQUEEN'S GARDENのエリアに着きました。



見上げる「ストラスモアホテル」。伯爵家のタウンハウスと言うので、期待大です。入り口はホテルと言うより、当時の邸宅らしくこじんまりしたものでした。




ストラスモアホテルにて



入り口は建物の右端にあり、やや手狭な印象です。階段を上がると短い廊下があり、正面にエレベーター、廊下は左へ曲がっています。道なりに進むと右側に上り階段、左側にホテルのバー、かつての応接室と思える広い立派な内装です。壁には幾つも肖像画が飾られていて、確かに普通のホテルではなく、かつての屋敷を改修したものだと実感できます。



その先にレストラン(かつてのダンスホール?)が見えますが、その手前にフロントがあります。フロントはとても狭い様子でしたが、HISで予約した紙を見せて、無事にチェックインできました。(カードの暗証番号を間違え、周章狼狽しましたが)



エレベーターを上がり、三階(実質四階)で降りた目の前の部屋が、今回の部屋でした。正直、「ちょっとやばいかも」と思いましたが、その予感は当たりました。



部屋は思ったよりも狭く、エレベーター前で人の通りもある場所で、値段相応の部屋に思えませんでした。さらに浴槽が無く、シャワーだけでした。部屋に備え付けの金庫もありません。



事前に確認しないのが悪いのですが……



さらに問題がもうひとつ、「窓が閉まらない」のです。ホテルに入ると窓は開けっ放しで、涼しい風が入ってきています。それは良いのですが、いざ窓を閉めようとすると、留め金が見当たりません。



迷った上(自己責任)、カードの番号を忘れて焦った上(自己責任)、部屋も思ったほどではなく(自己責任)、「窓も閉まらない」。海外に来た気持ちが台無しになりかけ、「部屋を変えて欲しい」と交渉しようとも考えたその時、ふと目を転じると謎の金具が。





これが留め金でした。



というふうに、自分に起因するトラブルですっかり気持ちが疲れ、予定した近所のV&Aへの訪問を取りやめ、近くのコンビニで買い物して、すぐに寝ました。眠りは深く、ロンドン一日目の夜は、あっさりと過ぎていきました。



果たしてロンドン旅行は無事に終われるのでしょうか?