ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

『Under the Rose』はメイドと貴族の話としても日本最高レベル

軽く『Under the Rose』を読み直しましたが、ローズの存在に二度感動です。というかこれ、すごいなぁ……『Under the Rose』は「貴族メイン」の話として読んでいましたが、『Honey Rose』と組み合わさり、ローズの物語が急速に広がります。(だから「under」で「honey」なrose?)



確かに、4巻のローズのキャラの異質さ、普通は描けない圧倒的な存在感は素晴らしいものでしたが、こう繋がってくるんですかと。



点と点が繋がっていくその様子、『Under the Rose』は「メイドの物語」「貴族とメイドの関わり」というテーマであっても、日本最高レベルと評価していいのではないでしょうか?



惚れ直すどころかもう、抜け出せません(笑)



本当に、船戸明里さんのストーリーテリング、人物描写には圧倒されます。フィオナと現在の伯爵が出会う今後の展開、ものすごい楽しみですね。



久しぶりに「物語の完成度」の高さに、感動しました。



隠れていましたが、メイド(に抱かれる幻想としての物語)の本質、ここにあります。すごい、イギリスで実写映画化して欲しい作品です。



前に、「最高のメイド映画は存在しない」と書きましたが、映像化したら、間違いなく最高の映画になると思います。



人間が、生きています。



その繋がりが、ただ美しい。



Under the Rose (4) 春の賛歌 (バースコミックスデラックス)

Under the Rose (4) 春の賛歌 (バースコミックスデラックス)

Under the Rose 5―春の賛歌 (バーズコミックスデラックス)

Under the Rose 5―春の賛歌 (バーズコミックスデラックス)



↑:5巻は延期されています。

『Honey Rose』(ハニーローズ)1〜3話読了

ということであけた翌日(上の日記書いていたのが午前一時ぐらい)、心も元気になったので『Honey Rose』を読みました。



正直、驚きました。



Under the Rose』に登場するキャラクターたちの数年後とは聞いていましたが、その間に何があったのかと思えるような人物の変化があります。良くも悪くも、人が変わってしまう、しかしその行間に何があったのかを埋めていくのが読者の想像の楽しみでもあるのかなと。



現在進行中の4巻のネタ晴らしになる(意外な結末)展開もあるので、そこでも驚きましたが、逆に、『Honey Rose』を昔読んでいた人は、久我がこれまでに読んだ感想とは違うものを、抱いていたのかなぁと思います。



どっちが良かったかは、わかりません。



「ゴールを知っていて、迷路を歩くか」(『Honey Rose』から)

「ゴールがあるかも知らずに、歩くか」(『Under the Rose』から)



Under the Rose』にあったような絶望的な感情、激しい応酬などは目立ちません。主人公フィオナ・ロザリンドが伯爵家に引き取られて、伯爵家の家族関係に飲み込まれていくところは、『Under the Rose』の流れを踏襲しています。



少なくとも、どちらかの読者は「片方の楽しさ」を永遠に得られません。『Under the Rose』の「わからなさ」を楽しんでいた久我には、『Honey Rose』がその楽しみを「失わせた」と言えるでしょう。しかし、『Honey Rose』を読むと、これまでわからなかったことが見え、『Under the Rose』を新しい視点で楽しむことが出来る、と思うのです。



女の子に恋して、付き合って、さらに惚れる、みたいなもんでしょうかね?



ただ、『Honey Rose』には昔出会えず、今この時期に出会えたこと自体がファンとしては嬉しい(出版化されていないし、される機会もわからない)ので、最終的な結論としては、『Honey Rose』のおかげで『Under the Rose』が好きになり、『Under the Rose』のおかげで、『Honey Rose』に出会えました。



フィオナが可愛くて、健気で、妹で、泣けるのです。



最近、主に「幸薄い属性」(『Under the Rose』では三つ編みのメイドさん、『若草物語』ではベス、『月姫』では琥珀さん、他、京極作品やドストエフスキーでも同様の傾向)が際立っていましたが、元々持っていた「妹もいいなぁ」という感情が、そこはかとなくヨミガエリマシタ。



続き、早く読みたいです。



Under the Rose』を買った人ならば絶対オススメです。


『Honey Rose』(ハニーローズ)配信開始

Under the Rose』でおなじみ、船戸明里さんのサイトにて、『Honey Rose』の配信開始情報が出ていました。



早速、購入しました。が、心に余裕が無いので、落ち着いてからじっくり読みます。



船戸さんのブログを見ると、どうやら『MANOR HOUSE』の英語版・日本語版を重複して買ってしまった様子。「英語版欲しい人募集」とあるので、欲しい方は応募されては如何でしょうか?



全然関係ないですが、はてなブックマークやらはてなスターを使ってみました。自分で情報を出すこと多いですが、レセプターが狭いのであんまり受け取ることが無いので、こういう機会に。


『HONEY ROSE』が配信されるよう

きっしーさんのブログに、「HONEY ROSE」12/21に配信(修正したよ)というエントリが。久我はあんまり詳しくないというか、ファンサイトや詳しい方から聞いたレベルですが、この『HONEY ROSE』は『Under the Rose』の完結後の時間軸で、『Under the Rose』よりも前に連載されていたもので、単行本が出ていない作品です。



mixiのコミュニティなどを見ていると、12月に『Under the Rose』5巻が出るようでしたが、きっしーさんが紹介していた船戸明里さんのブログ(存在をはじめて知りました)に、延期と、配信の話が出ています。



めもちょう



ブログがあったことも、はてなダイアリーを使っていたことも知らず、二度びっくりです。



何はともあれ、作品を心待ちしています。



そして、あの不幸なメイドの子に名前をあげて下さい。久我はあぁいう子が大好きなのです。『若草物語』ではジョーよりもベスが好きでした。『スパイダーマン』シリーズも、ヒロインのDJよりも大家の娘が大好きなのです。



この辺りの心理を大学時代に掘り下げて悲しいことになったので、理由はあげませんが、幸薄い子には幸せになって欲しいものです。



共通点は三つ編み、ではないはず……

『Under the Rose』4巻「春の賛歌」

Under the Rose (4) 春の賛歌 (バースコミックスデラックス)

Under the Rose (4) 春の賛歌 (バースコミックスデラックス)





今年もこの季節が参りました。年に一度の刊行で、定期的に買い続けるものは『ローマ人の物語』と、この『Under the Rose』です。「ヴィクトリア朝」「屋敷」「メイド」と、当サイトの趣旨にマッチするように思えますが、その実態は「貴族屋敷を舞台にした家族模様・人間描写」が、すべてだと思います。



あくまでもヴィクトリア朝も、屋敷も、メイドさんも、そして貴族も、ひとつひとつが個別の価値を持つのではなく、すべてがそろう事で、作者である船戸さんが描きたい人物を描写する土台、魅力を増すための背景となります。



以下、ほとんどネタばれは無いですが、ちょっと展開についての言及があるので、未見の方はコミックスを読んでからご覧下さい。













「最大のミステリは人の心」

Under the Rose』の物語のゴールは明確ではなく、読者は「深い謎」に放り込まれます。1巻ではガヴァネスとして勤めた公爵令嬢の死の真相に、息子が迫っていくという展開ですが、2巻以降で物語の中心を占めるのは「伯爵家の人々」という存在、価値観、彼らそのものが、読者を迷わす「謎」なのです。



2巻で主人公としての視点を与えられたガヴァネスの「ミス・ブレナン」。彼女は部外者として伯爵家に入り、様々な「謎」を見せ付けられます。それは、彼女には理解できないもの、表層からはわからないことばかりで、彼女はひとつずつそれの本質へと近づき、傷ついていきます。



その中心にいるのが、伯爵家の次男ウィリアムです。「登場人物がなぜそう思うか」「なぜそんな行動をするのか」、そこの理由を知りたい、それが物語を読ませる力になる、彼に翻弄されるガヴァネスと同じ視点に読者を迷い込ませる、この作品の魅力のひとつだと思います。



1巻で主役を務めた公爵令嬢の子息ライナスが、2巻以降、主役でなくなった理由も、彼が最大の謎を持つこの物語の中心「ロウランド伯爵家」の人間になってしまったから、もう「謎という森」で迷う側ではなく、人を迷わせる「謎」の側になってしまったから、と言うところにあるかも知れません。


「ある人を、疑うも信じるも人の心」

久我は、「疑うことも信じることも一緒」だと思っています。「疑っている、ことを信じている」「正しいと思うことを、信じている」。どちらも何かしらの根拠があって判断していますが、その判断基準の是非の正しさを論じるには、根拠の根拠が必要になります。



ただ何か正しいものを論じるための証拠を出したのに、その証拠を証拠たらしめるには他の証拠がいる、というふうに、何かしらすべては最終的に信じるところに行き着きます。



目の前にいる人が、何か判らないことをしている、その理由が知りたい。



この物語では、「部外者」の目を通じて、「貴族たち」の姿が、使用人・当人・兄弟・父親などの視点で多様に描かれます。それらすべてはその人にとって真実かもしれない、でも誰かが嘘をついているかもしれない可能性もあります。その行動という結果を見て、判断するとき、何を基準にするか、「誰の言葉を信じるか?」



目の前のその人の言葉?

他の誰かの言葉?

目に見える行動から類推する、自分の判断?



たとえば伯爵家の長男アルバートの振る舞いにしても、1〜3巻を読んだだけでは、それほど読者の共感を得られるものではないかもしれません。しかし、4巻を読むと、彼のそれまでの行動ロジック、読者にわからなかった背景が見えてくる、様な気がするのです。



同じように伯爵に心を許さない、子供を愛そうとしない伯爵夫人アンナも、その行動理由が見えず、「わからない」人物でした。今回の話を読めば、これまでの彼女の行動理由や感情表現が、少なからず見えてきます。既刊を読み直してこそ、物語に深みが増します。



そして、この物語の最大の「謎」であるウィリアムは、今もよくわかりません。



ウィリアムは主役のミス・ブレナンにとっても「謎」でありつつ、そうした人の心理をすべて見透かすかのように、様々な仕掛けを用意し、弄び、人を動かしていきます。それは、読者にとっては、この物語を描き出す筆者と同じ、「神」に等しき立場かもしれません。



Under the Rose』が非常に面白く、他に無い魅力を放つのは、「人間」を描いていればこそ、でしょう。一見理解しがたいものにもその背景には理由がある、そして理由があると信じていても、それはただ自分が理解できる範囲のものとして信じたいだけであって、合理性だけでは割り切れない人間の心を描いた、稀有な作品と言えます。



Under the Rose (4) 春の賛歌 (バースコミックスデラックス)

Under the Rose (4) 春の賛歌 (バースコミックスデラックス)




人の心を巧みに描いた映画

「人間が一番恐ろしいのは、人間だ」という、単なる残酷描写に逃げない心理的な「ミステリ」です。(ドタバタコメディーとなどと書かれていますが……)

『Under the Rose (3) 春の賛歌』

だいたい年に一冊のペースでしょうか、去年も旅行から帰ってきた後に購入した記憶があります。



この本は、伯爵家を舞台にした物語で、様々に人間の激しい感情が入り混じる「人間劇」です。登場人物は『階段の上』である伯爵の子供たちと、彼らの屋敷にいる『階段の下』である使用人たち。伯爵の子供たちも母が異なり、それによってスタンスや性格が大きく違っていて、同じ兄弟でも温度差が大きく、深い葛藤が横たわっています。



このコミックスのすごいところは、「感情表現」と「シナリオ」です。「ヴィクトリア朝」「貴族」「使用人」は「舞台」に過ぎず、その舞台の上で躍動し、多面的で表情豊か、陰影のある表情と感情を見せる登場人物たち、そして先が読めない展開とで、読者を圧倒的に引き込みます。再現されているのは、価値観、そしてその上で筆者の描写の独特さ、美しさ、残酷さに翻弄されっぱなしです。



「この人は、こんなふうに見ているんだ」



その視界が驚きであり、鮮烈であり、また恐ろしくもあり、羨ましくもあり、気持ちいいのです。コミックス全体に行き届いた作者の船戸先生の描写力は素晴らしいです。彼らの感情は生のものであり、すべてが理論どおりでもなく、吐き出される言葉さえもそのままではありません。



特に今回は使用人の描写が絶妙でした。彼らの持つ「二面性」をここまで描ける日本の作家はいないでしょう。そして、ためらうかもしれない描写をてらうことなく、そして大げさに描くのでもなく、淡々と当たり前に見せる手腕には、ただ脱帽します。



人間をよく知っている、そしてそれを美しく表現できる、残酷なところも、美しいところも。それが、見事です。



とはいえ、ヴィクトリア朝も屋敷も貴族も使用人も、「舞台道具」ではありません。あくまでも、そうした世界観で無ければ存在し得ない世界を、価値観を、作り上げています。



個人的にプッシュしていた三つ編みのメイドさんはいい味を出していましたし、出来れば今後、メインで関わって欲しいところです。(幸せになって欲しいものの、そういう展開じゃないんでしょうね……)




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『Under The Rose』2巻

時差ぼけになる暇も無く、早速昨日は午前様でした。今日は比較的早く帰って来れたので、本屋さんで『Under The Rose』2巻を購入しました。絵が綺麗で背景描写も巧く、何しろ女の子の表情が可愛らしく、好きな作品です。



ヴィクトリア朝の貴族の屋敷に、「愛人」の子供たちが引き取られる。そこで繰り広げられる愛憎劇、人間模様はヴィクトリア朝・貴族というイメージの持つ「淀み」があります。使用人も丁寧に描かれていますし、今回の表紙は「ガヴァネス」、目の付け所が違います。感情の起伏はある種、『嵐が丘』的というか、少女マンガ的というか、いい意味で激しさがあります。『嵐が丘』の感情表現は別に好きではないのですが。



Under the Rose (2) 春の賛歌



久しぶりに好きな感じのメイドさん(新キャラ)が出てきて、自分の中でのランキングが変わりそうです。(まだ作品の中では名前が出ていない?) あぁいう地味で健気で三つ編みの子に弱いですね。



謎めいた展開が続いて、今後がまだまだ楽しみです。



自分の同人活動も、そろそろ再開しないとまずいです……