ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

『逆境ナイン』



今日は、大好きな作品である『逆境ナイン』の映画化公開初日、ということでファンである友人たちと見に行きました。『逆境ナイン』との出会いは今から十四年ぐらい前、パソコン雑誌『ログイン』を買っていた頃です。



当時、『ログイン』では島本先生の連載『インサイダーケン』が始まり、そこで興味を持ち、別雑誌で連載中の『逆境ナイン』に出会い、おかしいぐらいにはまりました。



多分、その頃は島本先生の第一次黄金時代で、『炎の転校生』のOLA(オリジナル・レーザー・ディスク化:不評につき、後にビデオ版が出る:制作はあのガイナックス)や『燃えよペン』が出ていたりしました。ところが、『炎の転校生』はこの当時にして絶版、その点では『逆境ナイン』の映画化の時の状況と重なりますが、『炎の転校生』を求めて、東京中の古本屋を駆け巡って全冊そろえたのが懐かしい思い出です。



その後、2002年ぐらいにある劇団が『逆境ナイン』を舞台化したのを友人と一緒に見に行きましたが、そのときの感想としては「意外に絵になる」「迫力が伝わる」というものでした。



ただ、今回の映画化に関しては正直なところ、「またCG頼りだろう」「どうせ邦画」「失敗するんだろうなぁ」と思って見に行きましたが、予想外にいい作品に仕上がっていました。



何よりも、監督が原作を好きなのが伝わってきます。重要な要素を要所要所に織り込みつつ、自分なりのアレンジを加え、原作では少し間が空いてしまうようなところを細かく切り詰め、展開をスピーディに飽きさせず、作っていました。



また、主演の玉山鉄二さんの表情が、見事に島本キャラでした。友人は特に、パンフレットに書かれていた「日本にジム・キャリーはいないはず」とのプロデューサーのコメントに反応していましたが、それだけ不屈と言う人間の浮き沈みを顔で表現できる俳優は少ない、この玉山さんはそれを成し遂げた、という点で、すばらしい演技でした。



駄目なときの不屈の負け犬顔、増長の顔もさることながら、声も島本和彦先生の全力声に似ていて、驚きました。原作の大ファンであると言うココリコの田中直樹さんも、自由闊達、味のあるサカキバラ・ゴウを演じています。原作にはいない脇役や、日の出商業の人たちもいい味を出していて、泣かせるシーンもあります。



ヒロインとデートをして、試合に出なかった不屈の裏切りも忠実に再現されており、部員とすれ違うシーンの緊張感、不屈の原作にあった浮かれっぷりを表現した玉山さんには脱帽です。



たまたま見た回の終わりに舞台挨拶があり、島本和彦先生(コミケでは見かけます)、監督さん、玉山さん、田中さん、それにヒロインの堀北さんが姿を見せました。特に玉山さんの最後のコメントは非常に熱く、素になっていて(中学・高校時代は夢中になれるものが無かった、今回の映画で十代の頃の青春が味わえた)、島本先生に「不屈がいる」と突っ込まれるほどでした。(ちょっと遠かったので、そう聞こえたように思えただけかもしれないです)



原作ファンで無い人がどう感じるかはわかりませんが、原作ファンには十二分に楽しめる作品だったかと思います。いろいろと微妙に原作のリズムを壊しているところもありますが、総合的に完成度が高く、何よりも「よくありがちな口だけの原作ファンではなく、本当に好きな人が、好きな人のために作った作品になっているのが、素晴らしいです。



帰りには劇場近くのカラオケ店に入り、『炎の転校生』を歌いました。友人はさらに『炎の転校生』のエンディングテーマ、日高のり子さんが歌った『夢見るキ・モ・チ』を入れており、久我に歌うようにと……もちろん、歌いましたとも。というか、『カラオケ館』、なんであんな曲まで配信しているんだ、恐るべし、というところで、長い一日が終わり、これから原稿が待っているわけです。



逆境ならぬ、自業自得で。