ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

2010年『ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん』アクセスランキング・ベスト10

2010年の上位記事を掘り起こします。


ベスト10

1位:メイドブームの終焉は「衰退」か、「定着」か(2010/08/28)

私のメイドへの興味・入口は、『名探偵ポワロ』に出るような屋敷を舞台にした創作をしたいという動機でした。大学の頃から創作をしていて、卒業してからそう思い立ち、この時代の貴族の生活を調べようと思ったら、とにかく資料が足りませんでした。屋敷と料理を軸にしてヴィクトリア朝や家事使用人に辿りつき、メイドや執事の面白さに目覚めたのが2000年ぐらい、2001年に同人誌を作り、2010年に『英国メイドの世界』を書きあげるにいたったわけですが、本来的に次は貴族の日常生活に行きたいのです。



ところが、『英国メイドの世界』では盛り込めませんでしたが、20世紀前半のメイド事情を追求していくと、まだ扱わなければならない領域にぶつかるのです。確かにメイドがいた時代は終わりましたが、英国では今、家事労働者の需要が激増しており、ヴィクトリア朝以上といわれる状況です。そして、世界中の国々ではメイドの雇用が続き、英国で生じたメイド雇用が時間差こそあれ、生じているわけです。英国の現状と、世界の国の雇用の類似と違いは何かを考えるため、今は海外のメイド事情も調べています。



海外のメイドを学ぶことで英国のメイド雇用を相対化しつつ(メイド雇用は経済発展の過渡期的職業という観点)、同時に、英国のメイド雇用に伴う問題を知ればこそ、海外のメイド雇用事情でまったく同じ労働環境、労働問題が生じていることに気づかされもします。こうして相対化をする中で、「では、日本のメイドは?」と振り返ると、かつて日本ではメイドを雇用していて、英国や現代同様、労働問題が生じました。しかし、「現在のメイドブーム」は、この文脈から切り離されています。日本では一度、メイド雇用が社会的に広がる事象が終わっています。



英国でも、一度は終わっていたものが、復活していますので、この差は何だろうと思うと出てくるのが、サッチャー政権による金融ビッグバンに見られる規制緩和や福祉削減、そして女性の社会進出です。日本は小泉政権サッチャー政権に類似した政策)を経て、児童手当(英国で執り行われている)も含めて、近似した構造に置かれており、現代を知る意味でも、メイドを学ぶということを行っています。



長くなりましたが、メイドの相対化の観点で、日本のメイドを扱いつつあるということで。


2位:出版化時にこだわった「読みやすさ」と「分かりやすさ」(2010/12/07)

1位が長すぎたので、2位は適当に書きたいところですが、「同人版と出版版は、どうちがうの?」というFAQに対しての回答と、どうして出版化を目指したかを再確認する意味で書きました。意外と出版関係の方の興味を引いたようなのと、自分が電子書籍関連の言説で注目しているお二方に、早期にはてぶをいただけたことは嬉しかったです。



また、こういう伝え方をすることで、本にも興味を持ってもらえるということが参考になりました。



なにはともあれ、良い編集者と出版社に出会えて、感謝です。


3位:『英国メイドの世界』で描けること・描きたいこと(2010/10/11)

これはある意味、失敗作です。自分が伝えたいことを盛り込み過ぎて、あんまり読まれない、購買意欲を起こさせないというナビゲーションページになってしまいました。全部読むぐらいに興味があれば、買っていますよね。



いざ自分の本となると、感想を書くのが難しいので、他の方による感想がウェブに上がるのを待っていますが、長すぎてまだ読み終わっていない説が濃厚です。



AMAZONのレビューを最初に投稿いただいた方には同人時代の来歴までご紹介していただき援護射撃を受け、2つ目のレビューを書いて下さった方には他の本と比較した上での感想をいただけて、ご両名には深く感謝しております。


4位:都の表現規制(非実在青少年)、9月審議は延期、12月再提出(2010/09/09)

12月に可決してしまいましたが、あらためて思うのは、「届かない人に伝える難しさ」です。私の友人たちは報道によって、それも可決して初めてこの条例を知っているようでした。また、規制の危うさに気付いたのは少数で、詳しくない領域には「そうか」と、新聞が伝える事象だけで判断してしまいがちです。



思うことを、それに興味がない人に、どう届けるか。



というところを試行錯誤中です。


5位:同人誌1トンを刷った経緯と部数決定のプロセス(2009/08/29)

去年のエントリですが、いまだに注目を集めています。以前も少し書いたのですが、「同人誌の作り方」を教えてくれる本はあっても、「同人活動を続けるための運営方法」については、数字が絡むこともあると思いますが、あまり見たことがありません。「本を読んでもらう工夫」についてはウェブに上がっていますが、来年はこの辺りの「好きな趣味を続くように続けるためのノウハウ」的なコンテンツを作ってみたいです。


6位:『ウェブで学ぶ』から思うこと(2010/11/05)

梅田望夫さんの新作で、いろいろと研究プロセスの変化を思い出しながら、書きました。佐々木俊尚さんに取り上げていただけたので、異なるクラスタに届いたのではないかと思います。


7位:宮崎駿監督アニメの服装とメイド服イメージについて(2010/10/09)

これは絶対あると思うんですよね。来年、アンケートを取ってみたいところです。とはいえ、ブームの初期を1996年とすれば、既に14年経過しています。「入り方」も多様化しており、その辺りは今度、調べたいです。調べたいことばっかりです。


8位:『英国メイドの世界』はメイド界の「高速道路」を目指す(2010/11/02)

インフラを作るという野心表明です。森薫先生が『マナーハウス』の発売に寄せて、「『マナーハウス』と『ヴィクトリアン・サーヴァント』があればメイド創作できる」といった趣旨の言葉を残されましたが、あれから現時点までで、メイド創作が増えた印象がありません。



その理由について、「ヴィクトリア朝シャーロキアンに代表されるように、考証に詳しすぎる人が多くて、書きにくいのではないか」説や、「『ヴィクトリアン・サーヴァント』は学術書であり、メイドに高い関心を持っていないと読めないのではないか」説を持っていますが、『英国メイドの世界』を出す際はこの「壁」を意識し、「読みやすく、分かりやすく、切り口を変える」ことを徹底しました。



ヴィクトリア朝を創作の舞台にするには本書だけでは無理なので、やはり勉強が求められますが、少なくとも「屋敷を運営するスタッフというシステム」を理解してもらえれば、他の時代や創作にも用いることができると考えたので、その辺りを「高速道路」として伝えることや、「何をしていたのか」を詰めました。



端的にいえば、19世紀の屋敷のミステリを書いて、「犯人が地下に隠れる」ことは難しいと思います。地下は使用人の職場ですから。そこで、使用人のスケジュールやどんな部屋があるかを知っておけば、より詳細なシナリオが組み立てられます。という意味での、「システム」でもあります。


9位:補足・メイドブームの断続性と連続性を考える(2010/09/11)

これも冒頭1位の続きです。個人的には、「成年向けPCゲーム」(第一次)、「コスプレ」(第二次)、「喫茶化・メイド喫茶的独自展開の深化(御主人様、萌え萌えなど)」(第三次)、「秋葉原電車男・流行語対象・『エマ』アニメ化」(第四次・ブームのピーク)、「創作=アニメや小説などでのメイド喫茶・メイド服(+アキバ)イメージ再生産(『会長はメイド様!』『涼宮ハルヒの憂鬱』『らき☆すた』など)」(第五次)、と分類しています。



根拠はこれから詰めますが、「ひとつひとつのブームは断続」「外から見るメイドブームは連続」という意味合いを持っています。


10位:コミケのサークル視点の注意事項:搬入・搬出(2006/08/05)

毎回、恒例です。


番外編:上位に入って欲しかったもの

同人誌即売会で得られる「創作を続けやすい環境」(2010/04/17)

これは電子書籍との比較や、「いかにして個人が趣味で創作を行い、続けられるか」という個人テーマの追求であり、「自分を育ててくれた同人という場」を分かりやすく人に伝え、またそこに新しい人が入る際の参考になればというために書いたものです。


『とめはねっ!』で可視化される「縁」〜河合克敏先生の諸作品の魅力(2010/11/07)

普段のテーマと違っているかもしれませんが、私の中では「繋がる」がキーワードなので、河合先生の話の面白さは何だろうと思った時、ここに気づきました。私自身、自分で活動を広げることを意識してから相当な「縁」に恵まれているように思えるのと、「別々のものが、繋がっていくことが物語」という意味を、理解できつつあると思います。



スティーブ・ジョブスの話や、『Under the Rose』の作中エピソード「共通点」も、参考になっています。そういう点では、創作に対する視点も変わってきましたし、今の自分の人生がどういう点と結びついているのかに目を向けることが楽しくなっています。