ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

『英国メイドの世界』の原点としてのTRPGとコレクションシリーズ

最近、チェックしていたところ、グループSNEの初の商業出版『モンスター・コレクション』が25周年を記念したと知りました。懐かしいのと、原点回帰の意味を込めて書きます。



DRAGON BOOK 25th Anniversary   モンスター・コレクション テイルズ   (富士見ドラゴン・ブック)

DRAGON BOOK 25th Anniversary   モンスター・コレクション テイルズ   (富士見ドラゴン・ブック)



私は小学生の頃にゲームブックに出会い、その後、『コレクションシリーズ』に相当、はまりました。25周年というと、私が10歳ぐらいの頃ですね。


TRPGとの出会い

グループSNEによる「コレクション」シリーズは、本全体に一つの流れがある中、たとえばあるモンスターを描写する「小説」パートと、その解説と登場作品を描く「解説パート」がありました。なかでも武器や鎧、アイテムを扱った『アイテム・コレクション』は私にとって最高の一冊でした。







とりわけ、これらの本ではその題材が登場する小説、漫画、そしてTRPGが紹介されていました。私は「コレクション」シリーズに接することでTRPGに強い興味を抱きましたし、そこで取り上げられていた『指輪物語』や『エルリック・サーガ』も読みました。



中学では『D&D』、『Wizardry』、『ロードス島戦記』、そして『ソード・ワールド』と出会いました。ここからは当時、最盛期だったTRPGのブームを楽しみ、雑誌『コンプRPG』『ログアウト』『電撃アドベンチャー』と、グループSNEのコンテンツを積極的に楽しみました。


屋敷モノへの関心

TRPGがきっかけで私は創作を始めましたが、なかでも山本弘先生の『ラプラスの魔』と『パラケルススの魔剣』といった「ゴーストハンター」シリーズが大好きでした。この作品は屋敷を舞台としており、アガサ・クリスティーの『名探偵ポワロ』作品が好きだった私には、時期的にも重なりがありました。(当時、『クトゥルフの呼び声』は持っている人が周囲にほとんどいなかったので、かすっただけでした)



というところで、屋敷の地図や生活に興味を持っていた私は、いろいろと調べ物をしました。元々性格的に、生活への興味は強くありました。TRPGで登場するダンジョンや城の地図を見ると、「どうやって暮らしているのかな」と考えることもありました。確か『ゴーストハンター』のシナリオ集、『月光のクリスタル』でしょうか。屋敷の中に「ランドリー」があったような。



他にもホームズや海外ミステリに興味を持っていたこともあり、イギリスの屋敷を舞台にした作品を作る方向に進みました。


「館の中で、どう日々を過ごしたのか」

当時、屋敷で暮らす貴族の生活を扱った資料本は極めて少なかったのですが、そこで出会ったのが料理を描いた、『英国ヴィクトリア朝のキッチン』でした。この本で、私はメイドの世界が大勢のスタッフによる分業でなされていたこと、経験を積んでスキルアップしていくことを知り、強い興味を持ちました。



また、『英国貴族の城館』では、屋敷にある豪華な内装の部屋(主人たちが暮らす空間)と、職場(キッチンや流し場)、そして温室の写真などを見ました。さらに家事使用人への言及と、実在する屋敷の地図が出ていて、そのあまりの部屋数の多さに驚きましたし、「では、メイドや執事はどこで寝ているのか」と疑問を抱きました。(『英国のカントリー・ハウス』と『英国カントリーハウス物語』も、この時の原点です)



図説 英国貴族の城館―カントリー・ハウスのすべて (ふくろうの本)

図説 英国貴族の城館―カントリー・ハウスのすべて (ふくろうの本)




【守】原点としての「コレクション」シリーズ

こうした自分の疑問を調べる中で、友人が同人誌を作っていたこともあり、きっかけとして同人誌を作り始めました。この時に参考にしたのが「コレクション」シリーズでした。特に、TRPGの世界に存在しえる職業を扱った『キャラクター・コレクション』は参考になりました。



創作をしたい気持ちと、解説の前に分かりやすさや雰囲気を伝える「小説パート」は自分にとって適したものでしたし、物語の分かりやすさは興味がない人にも伝わりやすいと思いました。これは、「コレクションシリーズ」読者の自分がそうだったからです。


【破】自分なりの伝え方を確立へ

当初こそ「小説+解説」という構造を借りたものでしたが、次第に自分なりの方向に進みました。1つ目は、「参考資料のテキストを、分かる形で引用すること」。2つ目は解説内容を構造化し、見出しを含めて分かりやすくすることです。


1.参考資料の提示と、当事者の言葉を引用

私は引用したり根拠があったりする場合は、参考文献をそのテキスト内で示すようにしました。この発想は英語資料を徹底して使うようになったことの余波です。日本で読む本は「一般向け」に書かれているのでここまで細かいことはしません。



学術書では適正に引用を明示しています。英語資料の多くは当然引用表記を行っていますし、そこから資料を掘ることを覚えたので、感謝の気持ちも込めて残そうとしました。



さらに英語資料では「実在したメイドや執事のコメント」を載せていることにも気づき、「自分の言葉で語るよりも、彼ら自身の言葉を伝えよう」と発想を切り替え、私はこの方法を取り入れました。


2.情報の構造化

解説パートを構造的に分類し、共通化する方向に進み、自分なりに完成させたのが『英国メイドの世界』でした。出版社から出ることで同人誌はどう変わったか?で言及しましたが、この点を意識するようになったのは、英書を読むようになったからでした。



読みにくく、理解しにくく、話が飛ぶように思えるのはなぜだろうと思う経験がありましたが、そこで、「話の転換が行われるならば、見出しをつければいい」「1番目、2番目というならば、ラベルを付ければわかりやすい」と考え付きました。



その上で、「職業として全部同一の構造をしているはずだから、項目を揃えていけば、新しい職業を書く上でも「型」にはめこめるので、書きやすくなると気づきました。それを徹底していったのが、『ヴィクトリア朝の暮らし7巻 忠実な使用人』であり、同人版の『英国メイドの世界』であり、編集さんの意見を取り入れて改善したのが、下記、最終版です。


  • 概要
    • 歴史
    • 種類
    • 制服
  • 仕事の内容
  • 主な特徴
  • エピソード
  • 待遇と将来
  • 終わりに


【離】資料本としての徹底・小説パートからの独立

講談社版に関しては「創作・物語」と、「歴史資料」が並列して存在することは混乱に繋がる(創作は歴史的に正しいとされる資料性を担保するものではない)こともあって、今回の出版時には省かれています。



当初、「雰囲気を伝える」ものとして作っていったものが、次第に「雰囲気が伝わる、当時働いた人々の言葉」や、資料のディテールが増すことによって、さらには写真やデザインされた図版でその要素を担保できるようになったことも大きいかもしれません。



いずれにせよ、この10年間で、私が「屋敷の暮らし」を描く試みを振り返ってみると、このような伝え方の変化が生じていました。


終わりに

だいたい12才から25才ぐらいまでの間が、私がTRPGをしていた期間でした。同人活動や創作にシフトしたことで離れたころから、かなりブランクが空きました。それでも、こうして25周年本をまた読めるのは嬉しいことですし、自分を見つめ直すきっかけにもなりました。



TRPGは私にとって、様々なヒントをくれています。私は、概念的な意味で、『英国メイドの世界』をTRPGのルールブックのような存在として使って欲しいと思います。『英国メイドの世界』には、19〜20世紀前半までの屋敷に存在した「ルール」的な要素、職業のアーキタイプが記されています。



私は、この「ルール」を知るプレイヤー(読者)が増えることを願っていますし、その「ルール」を知るプレイヤーが楽しめるシナリオを提供するGM(作家)が登場していくことも願っています。私自身、プレイヤーとして楽しみたいからです。



それが、私が出版時に期待した「インフラ」という意味合いでした。これと類似するかもしれませんが、以前、ゾンビ作品は「作りたい人>読みたい人」というつぶやきを見ました。







どこまでメイド作品が世の中で求められているかというところもありますが、ジャンルを可視化して作品を発表しやすい環境を作っていくことが、「自分自身が読者として作品を楽しむための道筋」として私が選んだ方向です。



1990年代、2000年代で、日本の様々なメイド表現は進化してきました。その先の2010年代はこれまでの蓄積があるのですから、もっと何かできると思います。これまでの経緯を踏まえたメイド表現が断絶することなく、特異点で終わらず、『まおゆう』的に言えば、私は「丘の向こう側」を見たいのです。



また、私が「コレクション」シリーズを読んでTRPGに接したり、紹介された様々な作品を読んだように、私の本が入り口となって、興味をより広げていく方や、自分が既に持っている関心領域と私の本が繋がっていくことを、願っております。



10年後ぐらいに、私の本がきっかけの一つとなって何かが生まれていれば嬉しいですし、グループSNEが刊行した「コレクション」シリーズが『英国メイドの世界』に繋がっていることへの感謝の念を書きました。



英国メイドの世界

英国メイドの世界