ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

『ハヤカワミステリマガジン』2012年12月号にコラム「ゴシック小説の家事使用人からメイド喫茶へ」を寄稿

タイトルの通りです。



ASIN:B009P8B8WC:detail
以下、Twitterにて書いたものをこちらにも掲載します。時間ができてから、再更新します。





公式サイト:http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/711212.html

家事使用人勉強会の始まり

2012/07/16(月・祝)に第一回目の家事使用人研究会を開催します。詳細と申込みは月夜のサアカスのブログ、使用人研究会のお知らせをご覧ください。



前半は「概論」として興味を持ってもらうために、日本におけるメイド関連書籍の話を踏まえつつ、最低限、家事使用人を学ぶ上で押さえておきたい事項に絞り、底から数多くの書籍やドラマなどに出会っていく機会作りとしたいと思います。



後半は「研究室」と題して、「屋敷」をテーマに私の方から英国屋敷の話をしますし、参加される方からも英国、或いはそれ以外の国、そして日本の洋館などの話を広げていければと考えています。こちらは既に興味がある方向けの内容となります。


概論と研究室を分けた背景

2012/04/01より、秋葉原のカフェ「月夜のサアカス」で私の蔵書の一部を公開する試みを始めています。テーマのひとつは接点を広げ、興味を持つ方を増やすことにあります。その手段として幅広い蔵書の展示がありました。



別の企画が、研究会です。



どちらかというと研究会では私も学ぶ一人として携わりたかったので、一方通行的な「講義」形式は行わないつもりでしたし、本を読めば分かることを説明することもないだろうと思っていました。しかし、4月に行ったプレオフ会で出た希望を拝見すると、「詳しい話を聞きたい」という方と、「既に興味があるので、語り合いたい方」とに分かれていました。



ここでなるほど、と思うこともありました。私はこれまでに同人活動をしたり、ネットで自分が好きな世界の魅力を伝えることをしたり、本を書いてきました。しかし、自分が出会えるほとんどの人は、初めから「興味をあり、私を見つけることができる」人です。



では、そうではない人で、今後強い関心を持つかもしれない人と出会っていくにはどうすればいいのか? 少しでも「知りたい」欲求を持ってもらうには、或いは、メイドの多様性を伝えていくには?



そこで、(聞く人にとって)1回限定の方向で「昔は存在せず、今は多く存在するメイドの資料本を読む前段階としての話」をするのも意味があると考えるようになりました。自習の手引きのようなものですね。


自分は研究者か、エヴァンジェリストか?

話は少し飛びますが、私がどこまで「探求」を続けるのかを、最近振り返る機会がありました。私が伝えている多くは、英語圏の先行研究や知識、そして自伝やインタビュー記事、政府刊行物といった膨大な情報を収集し、分類し、自分が理解するために構造化して、分かりやすく伝える「編集」作業となります。その点で最も大切にしてきたのは、先行研究を尊重し、伝わりにくいことや分からないことを自分で調べて補い、その上で自分が魅力的だと思う点を伝えることでした。



さらにこのところ、村上リコさんが『図説 英国メイドの日常』『図説 英国執事』、そして最新の家事使用人資料本の翻訳を進めているとの話をTwitterで垣間見ると、会社組織に所属して多くの時間を探求に費やせない私が、限られた時間を何に使うのかを問い直しました。



「本棚の公開」というのも一つの発見で、公開してあるからといって読まれるとは限りません。しかし、そこにある本が自分と繋がりがあると分かると、興味も湧くでしょう。私はよく以前の職場の同僚、あるいは今の職場の同僚に『英国メイドの世界』について聞かれるとき、その説明として彼らに伝わるように、仕事を軸にした伝え方をします。興味を持たない人もいれば、結構、強い関心を示してくれる方々にも出会いました。



だから、私は伝え方次第だと思うのです。本もその一つの手段で、『英国メイドの世界』において「初心者でもこの一冊だけで、メイドや執事を興味を持って分かりやすく伝える」目的の多くは達しました。しかし、この本に辿り着かない、出会えない人も大勢います。世の中に存在する本や知識と、興味を持つかもしれない人の出会いを繋ぐ場のひとつとして、研究会の形は試みる価値があると。



同時に、そこに来る人から学ぶことも多々あります。伝えることは伝わらないことを学ぶことであり、来る方のバックグラウンドや関心の軸が違えば、メイドを照らす視点も増えるからです。



司書なのか、キュレーターなのか、エヴァンジェリストなのかは分かりませんが、私は様々な形で生きて、魅力的に思う「家事使用人の世界」を伝えたいと思います。



尚、研究会を「英国」の家事使用人に限っていないのは、それ以外の国や時代にも興味対象が広がっているからです。



というところで、よろしくお願いします。


講談社『英国メイドの世界』増刷・第五版が2012/03/23出来

英国メイドの世界

英国メイドの世界





先日、担当編集の方からご連絡をいただき、『英国メイドの世界』が四度目の増刷、つまり第五版を迎えることを知りました。これまでにご購入下さった読者の皆様、並びに、本の感想を友人や知人に伝えて下さった方々、そして販売の現場にある書店員・出版社の方々に心よりお礼を申し上げます。ありがとうございます!



自分が好きなジャンルの本は初版で途絶えたり、絶版したりすることも珍しくありません。5年後、10年後の読者に出会うためにも、かかわった方たちの労力が報われるためにも、結果を出すことは常に意識し、自分に出来ることを探してきました。もうすぐ出版から1年半を過ぎますし、そろそろ子離れ的な気持ちにもならなければなりませんが、大切に今後も育てていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。



英国メイドの世界』刊行から1周年を振り返るに、出版後に行ったことをまとめています。


『オリエント急行の殺人』と『英国メイドの世界』を一緒に読むと広がる楽しみ

私の英国メイド研究・屋敷研究の原典と言える、英国ドラマ『名探偵ポワロ』の新シリーズが昨日からNHKBSプレミアムで02/06(月)から02/09(木)まで放送されています。



NHK公式サイト



DVDも5月に出るみたいですね。



名探偵ポワロ ニュー・シーズン DVD-BOX 4

名探偵ポワロ ニュー・シーズン DVD-BOX 4





最終夜は『オリエント急行の殺人』です。私がこの作品に接したのは高校生の頃で、作品としてのトリックに驚きましたし、その結末も予想外のものでした。で、2004年にクリスティ文庫が創刊した際に読み直し、そこから暫く離れていました。2010年にこの作品の映像化を聞いて狂喜し、今年は自分にとって大豊作の予感(2010/05/31)や2010年・日本と英国で「ヴィクトリア朝・メイド・屋敷」的な作品が豊作の年(2010/12/23)と取り上げました。



こうした思い入れのある作品ではありますが、『英国メイドの世界』の刊行を通じて家事使用人の世界をより理解したことで、「私がこれまで接した『オリエント急行の殺人』」の印象が変わりました。『英国メイドの世界』と最も相性がいいアガサ・クリスティの作品は、『オリエント急行の殺人』だと私は思います。かつて気づけなかった「作品に描かれた世界と人物の深さ」に私は驚きましたし、より作品を愛することができました。



もしも『英国メイドの世界』をお持ちの方、並びに『オリエント急行の殺人』が好きな方で『英国メイドの世界』を未読の方は、是非、両方に接してみてください。



見える世界、表現された意味が違うはずです。



オリエント急行の殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

オリエント急行の殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)





英国メイドの世界

英国メイドの世界





『英国メイドの世界』第一章・PDF試し読み版(約23.7MB)

目次や著者による『英国メイドの世界』紹介


日本の英国メイド関連本の刊行30年史

英国メイド(家事使用人を含む)関連書籍の歴史の整理の一環です。まずはメイド関連の知識が掲載されている資料本の変遷を暫定的に公開します。語感がいいので30年史にしていますが、厳密ではありません。私が把握する限りなので、すべてではありません。


2000年代(ゼロ年代):「メイド」ジャンルの独立へ

『階級にとりつかれた人びと』(2001年)

ヴィクトリア時代の女性たち』(asin:4423493381)(2002年)

『図説 イギリス手づくりの生活誌』(2003年:改訂)

『エマ ヴィクトリアンガイド』(2003年)

『ヴィクトリアン・サーヴァント』(2005年)

『不機嫌なメアリー・ポピンズ』(2005年)

『召使いの大英帝国』(asin:4896919351)(2005年)

『エマ アニメーションガイド(1)』(asin:4757724462)(2005年)

『エマ アニメーションガイド(2)』(asin:4757725973)(2006年)

『エマ アニメーションガイド(3)』(asin:4757727887)(2006年)

『図解メイド』(asin:4775304798)(2006年)

『図説 英国貴族の城館』(2008年:改訂)

『図説 英国貴族の暮らし』(2009年)

『従僕ウィリアム・テイラーの日記―一八三七年』(2009年)

『英国メイドの世界』(2010年)


2010年代:英国メイドの確立へ?

『図説 英国メイドの日常』(asin:430976164X)(2011年)

『執事とメイドの裏表』(asin:4560081794)(2011年)

『英国メイド マーガレットの回想』(asin:4309205828)(2011年)


概論

1980〜1990年代は「英国貴族の屋敷」と「庶民の生活史の中でのメイド」(日常生活ガイドブックや料理の中の1カテゴリ)、他に女性史での言及もあります。ただ、単独ジャンルとして成立していないのが特徴です。この「空白」と言える時期に「メイド資料本」を作っていたのが、同人ジャンルです。



2000年代に入ると如実にメイドブームの影響を受け(世の中の関心を満たすという意味において)メイド関連書籍が増加していきます。特に2005年ですね。しかし、少なくとも、2005年に刊行される『ヴィクトリアン・サーヴァント』『召使いの大英帝国』以前に「メイドだけ」を扱った資料的な和書は存在していません。一冊を除いて。



それが、『イギリスのある女中の生涯』(1994年)です。



なぜ1994年にこの本が出せたのでしょうか? 翻訳されたジャーナリストの徳岡孝夫さんが著名だったからでしょうか? 氏が知人から紹介されたこの本を出版に向かわせたとあとがきにあります。同書の出版社の草思社は、マークス寿子さんの本を出していたので読者のイギリスへの関心も開拓されていたからかもしれません。



私の手元にある同書は1994年時点で第三刷です。4月末にでて6月末でこの刷数というのも、「売れていた」という事実を示すもので興味深いです。



「世の中のトレンド」を複合的に見ると、2000年代半ば以降が「メイドブーム」の影響であるように、1990年代やそれ以前には別のブームがあったと考えるのが妥当かもしれません。少なくとも、1997〜1999年あたりには屋敷本・日常生活本の刊行が相次いでいます。



尚、ディケンズの孫娘のモニカ・ディケンズの家事使用人体験記『なんとかしなくちゃ』(asin:4794915462)は1979年に出ていますが、「体験記」なので個人的にはあまり取り上げていない本です。


『英国メイドの世界』刊行から1周年を振り返る



(PDFで第一章すべて立ち読み:約23MB:http://spqr.sakura.ne.jp/data/EikokuMaid_Web1.pdf


お陰様で、講談社BOXより刊行した『英国メイドの世界』は1歳を迎えることが出来ました。今までにお買い求めくださった読者の皆様、心よりお礼申し上げます。多くの縁にも恵まれて、自分にとって「出産」にも等しい一冊でしたので、このように無事に2年目を迎えられたことにも感謝いたします。



出版の時の目標は、「常に新しい読者・未来の読者が本を入手できる環境を用意するため、絶版を避けるための最大限の努力をする」でした。刊行後の返本もありましたが、今でも書店で見かけるとの声をうかがったり、自分でも見る機会があるので、この目標は果たせていると思います。



「産休」のように、この本を書くために正社員として勤めた会社を辞めたのが2年前です。



出版決定後、仕事と執筆を半年続けたものの、出版社との約束の期間に間に合いそうもなく、どちらもダメになりそうだったので、出版を優先して半年とリミットを切って専念しました。しかし、出版の作業は想定以上に膨らみ、転職活動をしようにも出版が終わっていない状況では中途半端でした。



そこからが本当に大変でしたが、自分の将来に繋がる経験を積めるだろうと、仕事で培ってきた経験や伸ばしたい領域の実践も行ってきました。出産のために会社を辞める女性の再就職が難しい、出産での休みをどう評価されるか、というところと似た体験を積んだと思いますし、そういうこともあって夏の同人誌『英国メイドがいた時代』は、育児環境や労働環境にも踏み込んでいます。



自分も本も、リアルに生き延びたというのが出版前、出版、そして現在に至るまでの正直な感想でしょうか。という話を書こうと思ったのですが、今の職場でようやく落ち着き始めた頃でありつつ、冬コミ原稿に追われるタイミングのため、なかなかブログでの更新ができていませんので、ざっくりとした振り返りとして、1年間で『英国メイドの世界』が経験した主だったものを書き連ねます。


2.Amazon本全体で31位・bk1で3日間売上1位・ネットでの売れ行き好調

書店(オンライン含む)でのランキング調査・定点観測(2011/11/16)



出版社の方ともお話ししたのですが、この本はネットでの売上比率が他の本よりも高かったようです。これもウェブにおける定期的な情報発信や、ニュースサイトなどで取り上げていただいた過去の同人活動などのバックグラウンドもあってのことだと思います。



爆発的なヒットというわけではありませんが、この手の本としては適度に欲する方に見つけられやすい、目に入りやすいポジションにいるのかとは思います。私は、「見つけてもらわなければ評価もされない」と考えますし、「一生懸命作ったし、かかわった方も含めて努力が報われるように、著者が読者の方々の視界に入るように宣伝をする」のは自然だと思っています。



出版した本に1日でも長く生きてもらうため、著者に出来ること(2011/01/16)



実数ベースでは90冊、私のアフィリエイトIDで販売しています。これも『英国メイドの世界』が大書店を含めて1店舗に入荷された数を凌駕するものではないでしょうか? 逆に、これだけ努力をしたつもりでも、書店での売り上げは中心となっています。著者がコミットできないものの、売って下さっている書店の方たちがあってこそ、自分の本が読者の方たちと出会えていることも実感しました。



余談ですが、Amazonランキングの体感値としては、1冊も買われない期間が長く続くと10万位以下へと落ち込んでいきます。1冊買われると多分、2〜5万位台となっていき、やはり時間経過でどんどんとランクが落ちていく印象です。


2.啓文堂書店三鷹店様でのフェアと秋葉原のメイド図書館シャッツキステでのイベント





リアルイベントではまず、出版後、すぐに啓文堂書店三鷹店様にて関連書籍フェアを行っていただけました。本当に幸先のいい出だしで、私の方でリストをお渡しして反映していただいたり、その後も、1月にも啓文堂書店三鷹店様での書店フェア・進化中と、変化をしていたレポートを拝見しました。



これは生涯の記憶に残る体験です。







そして、シャッツキステとの出版記念コラボイベント・無事終了(2010/11/29)でご報告したように、こちらの出版記念コラボイベントも最高の経験でした。自分が好きなお店でのイベントだけではなく、一緒に店長の有井エリス様とコラボ同人誌を作ったり、著者が自著について読者の方と語るというイベントまで出来ました。



この時のイベントが縁で、それまで詳しくなかったメイド喫茶クラスタの人々に接する機会も増えましたし、自分の本がきっかけで縁が広がっていく様子をTwitter上で拝見することもあって、得難い機会となりました。



他にも、断続的に様々な書店でフェアをしていただけていたようです。







新宿・ジュンク堂でウッドハウスのフェアに陳列中(らしく)&AMAZONでは在庫切れ中(2011/09/01)



アキバBlog様/『「英国メイドの世界」 重さ1kg、コミケカタログより分厚かったあの同人誌が商業化』を始めとして、秋葉原で取り上げられたのも、大きなものでしたし、店頭に本が積まれるのがこれほど嬉しいとは思いもしませんでした。





(※上記写真は、アキバBlog様が撮影され、twitpicにアップロードした画像です。アキバBlog様より転載許可をいただいた上で掲載しております。ありがとうございます)


3.著者がラジオ出演&マンガにこっそり&ラノベの参考文献に&本がテレビに映る

最後は、メディア露出的なものです。



残念ながら「新聞・雑誌メディアの書評・紹介文」に掲載された様子は一切ないのですが、まず一番大きなものは、水樹奈々さんのラジオ番組にゲスト出演したことです。FM-TOKYO『水樹奈々のMの世界』のメイド対談を振り返って(2011/10/09)に感想を記しました。素人だったので緊張しまくってしまいましたが、出ること自体に意味があったと思います。



偶然、番組プロデューサーの方が『英国メイドの世界』の帯にある鶴田謙二さんのイラストで私の本に目を留めた、という経緯があったとのことでした。鶴田謙二さんのおかげで生まれた縁です。



次に、星海社・最前線『非実在推理少女あ〜や』のメイド喫茶モデルがシャッツキステ(2010/12/19)で言及しましたように、『非実在推理少女あ〜や』の作中で『英国メイドの世界』が登場しています。



非実在推理少女あ~や(1) (星海社COMICS)

非実在推理少女あ~や(1) (星海社COMICS)





さらに最近では、NHKMAGネット』第47回「ライトノベル」に登場された方の本棚に『英国メイドの世界』があったと教わり、ご本人にお礼をお伝えしました。Twitterのこういうところは大好きです。













そして、やはりTwitterで気になるタイトルを呟かれているfollowerの方から「ラノベの参考文献」になったと伺いました。教えて下さった方、そして著者の方、ありがとうございます!















自分の活動は、野菜を作るようなものだと何度か述べてきました。生で食べても、私が調理して出すものでも楽しめますが、他の方が調理出来る素材であると思っています。元々、この「野菜」が好きなので、調理された「料理」をご存知の方、是非、お伝えください。


2011/11/18追記

著者のおかゆまさきさんから、このブログのエントリと『英国メイドの世界』をご紹介いただきました!







本当に、この本を出版できてよかったです。


終わりに

ゲームの世界と違って、現実世界ではなかなか結果が見えにくく、何を経験値としてきたのかを自分でも分かっていないこともあります。ひとまず、書くことを通じて「何があったのか」を記録して振り返り、自分の本がどのような体験を積んできたのかを可視化できたと思います。



これがすべてではありませんし、まだまだ把握できていないものもありますが、ある種、子どものアルバムみたいなものかもしれません。また、私は生涯で何十冊も本を刊行するとは思えませんので、この一冊を大切にして、時間をかけて育てたいです。



手短に書くつもりでしたが、長くなってしまいました。



時代は追い風に思います。



メイド(服)がテレビCMに進出する時代(2011/10/23)



そして目指すところは、2010年を振り返る&2011年への抱負に記した、「認識を変えて世界の見え方を、目に映る色彩を増やしたい」というところですね。



今の読者の方々にもこの「輪」を広げていただけるよう、趣味を話せる方が繋がっていくようなところでご支援いただければ幸いです。引き続き同時代性や話題や、「メイドを普通に話せる」環境の構築に尽力したいと考えますので、よろしくお願いいたします。


FM-TOKYO『水樹奈々のMの世界』のメイド対談を振り返って

ご縁があって、水樹奈々さんのラジオ番組『水樹奈々のMの世界』に出演してきました。FM-TOKYOで2011/10/09 00:30-01:00の放送でした。



http://www.tfm.co.jp/7/index.html



どのような「ご縁」かといえば、少し話が長くなります。まず、水樹さんの先輩・井上喜久子さん(17才)が同ラジオ番組の9月放送分にメイド服で訪問したり、水樹さん自身コンサートでメイド服を着た経験もあったりと、「メイド服」自体への関心は高いものでした。そして、水樹さんのコンサートでスタッフの方がコスプレして走るコーナーがあり、その衣装としてメイド服を着ることから、「歴史的なメイドを学ぼう」という特集が組まれ、講談社の担当編集さん経由で私をご指名いただいた次第です。



まさに、青天の霹靂です。私はこれまでメディア取材・露出は一度もなく、人前でメイドを話す仕事もしていません。会社で働きながらのメイド研究で、ラジオで的確に話せるかまったく自信はありませんでした。



個人的に水樹さんの圧倒的な歌声や響きは大好きです。『innocent starter』『ETERNAL BLAZE』『深愛』などで聞いていますし、声の響きやライブ映像での存在感が強く印象に残っていましたので、その水樹さんのお役に立てるならばと、お引き受けました(私はいわゆるオタク第二世代(1970年代生まれ:wikipedia)となり、『銀河英雄伝説』で数多くの声優を覚えた世代で、やや古い方です。2000年代以降はそこそこアニメから遠ざかっていますが、水樹さんの出演された作品では『プリンセスチュチュ』「るう」役や『WHITE ALBUM』の「結城里奈」役が印象に残っています)



運と縁を感じたのは、番組タイトル「Mの世界」と「メイドの世界」に繋がりを見出して下さったことです。もしもどちらかのタイトルが『Mの世界』ではなかったり、『英国メイドの世界』でなかったら、この企画は無かったかもしれません。さらに当初、別録音の予定で水樹さんとお会いできないはずでしたが、タイミングが偶然重なり、急遽、水樹さんとの「対談」となる幸運にも恵まれました。


事前準備

出演が決まったものの、私は喋りの素人です。そしてプレッシャーにも弱いです。ゼロからアドリブで出来るはずもなく、事前に企画の概要やお題をいただき、それをベースに、自分の準備を進めました。「転職活動での面接」に似て、想定される問答がありつつも、紙に書かれた原稿をそのまま読むのではなく、紙を見ずに、相手との対話の中で如何に分かりやすく自分の言葉で伝えるかを考えました。



転職の場合は自分が募集職種でどう役に立てるか、その裏付けとしての職務経歴や志望動機を伝えますが、今回は話の主体が「私」ではなく「メイド」です。他のゲストとの方との対談と異なり、まずは「(専門家として)疑問の解消」が優先されますので、「メイドについての認識が深まる」目指しました。その点では、自社ブランドを伝える「PR活動」に似ているかもしれませんね。



とはいえ、その中で「私」がなぜ本を作るまでにメイドを作ったか、「私」から見てメイドはどういう魅力を持つのかをお伝えすることも心がけました。「私が描くメイドイメージ」というのが、「私」が呼ばれた理由でもあると思いましたので。



普段と前提条件が全く異なるリスナーに情報を伝えるので(10代前半のリスナーも)、言葉や伝え方も意識しました。「メイドが好きで興味を持つ水樹さん」に伝えることと、「メイド好きの前提情報が共有されていないリスナー」にも届く点で、後者に届けるにはどうすればいいかも考えました。



いずれにせよ、経験不足は補いようがないので、後は水樹さんとの対談を楽しむように気持ちを切り替えました。幸運にも過去にボイトレ(当初はビジネス向け。健康管理+趣味)をやっていたので、最低限の出るように体調を調整して当日に臨めば、なんとかなるだろうと。実際は長期離れていたことによるコンディションの悪さと緊張で声を響かせられませんでしたが……


水樹さんとの対談へ

当日は会社の業務を終えてから収録へ出かけました。担当編集さんが付き添って下さり、スタジオで水樹さんや番組スタッフの方と顔合わせを行いました。ここで水樹さんに初めてお会いしました。この時、「あぁ、出版できて良かった」と、心の底から思いました。



水樹さんの収録を拝見・視聴しながら、自分の出番を待ちました。番組や収録の雰囲気を掴むということで、楽しみました。そして録音に入り、水樹さんの向かい側に座り、対談が始まりました。



企画は水樹さんからの疑問に私が答える、というものでした。ところどころ、支離滅裂になってしまったかもしれません。しかし、水樹さんの質問は非常に的確で、とても話しやすく、私が言いたいことを的確にまとめて下さったり、話を進めやすくコントロールして下さいました。ホスピタリティが非常に高く、プロとしての凄さを感じました。



ある意味、水樹さんにとっても冒険だったと思います。メイドに詳しいとはいえ、ラジオに慣れていない素人を相手にして、番組を作るのですから。水樹さんの番組では今まで「プロの方々」との対談がほとんどで、私が足を引っ張らないか不安でしたが、そうした杞憂も忘れるぐらい、収録の間、私の良さを引き出そうとして下さり、水樹さんとの対話を楽しむことが出来ました。



当日最後には水樹さんの新発売のライブ映像Blu-rayにサインをいただき、私の方も『英国メイドの世界』をお渡しすることができました。



NANA MIZUKI LIVE GRACE -ORCHESTRA- [Blu-ray]

NANA MIZUKI LIVE GRACE -ORCHESTRA- [Blu-ray]





水樹さん、そして番組スタッフの皆様には本当に感謝しております。


反省材料

メディアで伝えることの難しさを感じました。何かを説明しようとすると根拠を提示しなければなりませんが、実際にはその時間や環境にありませんでした。ネットや紙を軸に活動される方が、テレビやラジオなどのマスメディアに露出すると言葉が適切に伝わらなかったり、本領を発揮できない理由も分かりました。



言葉に込める情報量やバランス、伝わり方が全く違います。



メディア特性というのか、ラジオやテレビのような時間が限られる媒体では、情報を圧縮するか、シンプル化しなければならず、どちらのプロセスにせよ、本来の意味から離れる可能性を持っています。Twitterでもコンテクストではなく、断片が拡散しますね。



話す側である私も、「あれも伝えたい」「これも伝えたい」と思ってしまいました。今回は前述したように、「水樹さんが、メイドの疑問を解消する」ことが主題で、水樹さんの質問を追いかけつつ、私の知識や視点、体験を引き出して進める形になっていたのではないかと思います。番組として成立しえたのも、水樹さんの話す力の高さがあってこそで、対談相手としての話やすさには、畏敬の念を持ちました。


「メイド=人生」

最後に「久我さんにとってメイドとは?」と尋ねられて、「人生」と答えました。「『CLANNAD』ですか?」と言う言葉が脳裏によぎりつつ、主旨としては「人生をかけて、興味を持ちえる対象」というのでしょうか。私のメイド研究は人生の節目ごとに、大きく変わりました。



所属した小さな会社で成長や昇給の機会が無いと感じた時、転職もしました。そこでメイドの転職事情や面接、求人環境に興味を持ちました。また、管理職としての経験から人に業務を伝える難しさや仕事の進めやすい環境作りを自覚したとき(あるいは管理職の資質によって働きやすさが全然違う)、過去の上級使用人や下級使用人が同様の問題に直面していたのを知りました。



そして歴史的なメイドの労働環境を巡る問題(なり手不足)を通じて、現代日本でも改善されない労働条件や長時間労働・低賃金に目が向きました。私も長時間労働や、安定しない雇用環境を経験しています。



ここ1〜2年は現代英国や海外のメイド雇用事情を学ぶことで、グローバリゼーションや現代の格差社会、あるいは友人の結婚や出産によって現代社会の就業環境や育児環境へ関心が向きました。メイドを学ぶことと、生きることが、今は一致していると思い、人生、と回答しました。



「メイド研究」を通じて人生が変わった人間がいても面白いと思います。FMで同人サークルの紹介をしていただき、英国メイドの歴史を話すというのは、滅多に起こらない事件みたいなもので、それを体験できたのも良い経験でした。


後で思ったこと

終わった後に感じたのは、「メイド」を軸に水樹さんから話をうかがう機会ができたらなぁとの想いです。水樹さんがメイド服を着て、かつ歴史研究をした私と接点を持ったことは、日本のメイドブームを知る事例のひとつかもしれません。



水樹さんのコンサート衣装はドレススタイルや、スカートの裾が広がっているもので、その中に「メイド服」もありました。ぐぐったところ、既に2006年にはメイド服でコンサートをされていたとのことです(水樹奈々『LIVE UNIVERSE 2006 summer』大阪公演) また、2007年の水樹さんのブログでもおバカも本気ですっとコスプレ姿を披露されています。



メイド服と裾が広がるドレスの源流については現在研究中で、メイドやヴィクトリア朝を軸としたイメージ形成を巡るブレスト的つぶやきなどにまとめていますが、メイド服が衣装としてアーティストが着るものになっている、あるいはアーティストの影響でより広がりがあるのか、という問いがありつつも(1990年代前半にあっては中島みゆきさん、2000年代にあっては『完全メイド宣言』)、その水樹さんが私との対談で「日本のメイドが多い」と認識されている現在は、決してメイドブームが去ったのではないと感じる次第です。



完全ベスト宣言1

完全ベスト宣言1



夜会 VOL.6 シャングリラ [DVD]

夜会 VOL.6 シャングリラ [DVD]





いつになるかは分かりませんが、目標として、水樹さんにこうしたお話を聞く機会が作れるよう、精進します。