ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。同人・出版活動の報告を含みます。

『Of Carriages and Kings』

なんとか七章目に入りました。意外な面白さがあり、すらすらと進んでいきます。簡単に説明しますと、ヴィクトリア朝末期に生まれたFrederic Gorstは様々な、それも王族を含む最高レベルの貴族たちに仕えたフットマンで、貴重な手記を残しています。幼少時代から、如何に使用人として成長していくがこの本では鮮やかに描かれています。



彼は13人兄弟の10人目として生まれます。実家はリバプールのパン屋でした。結婚式をする人々は彼の母が作るウェディングケーキの世話になっていたとか。ところが彼が12歳の年に父が仕事を失い、Gorstは勤めに出なければならなくなりました。



最初は新聞売りからスタートし、次にパブリックハウスで働きましたが、辛い生活に苦しんでいるところを、彼の教区の牧師?さんの薦めで、別の教区の神学校でしょうか、そこでPageとして働けるように手配してもらえます。



ここで彼は二年間働きます。彼は文才があるので、成功談だけではなく、自らの失敗談を随所に織り込んで、話が巧いです。ここで彼は執事や、ハウスキーパー(称号はミス。ハウスキーパーが未婚にもかかわらずミセスの称号を得るというのは一般的ですが、世の中に絶対はありません)に見守られつつ、二年間のときを過ごします。



そして、もはやPageとして働くには年を取りすぎたとして、ハウスキーパーの知り合いを紹介してもらい、スクァイアのリーチ家・CardenParkにフットマンとして働けるようになります。ここでの生活が非常にエピソードにあふれ、主人の愛する鳥を間違って殺した時は使用人で口裏を合わせて食べてしまったり、ディナーの残り物を食べて死に掛けたり、主人の秘密の部屋を見つけたりと、盛りだくさんです。



クリスマスのご馳走のエピソードは同人誌で紹介済みですが、この後、リーチ家の息子Frederic(同名なので、リーチ家の主人はGorstをクリスチャンネームのJohnで呼びました)から、「もうすぐ執事が引退するので、その後任としてきて欲しい」と彼を引き抜きます。しかし、新しい職場で彼は働きすぎて、ぶっ倒れます。



医師は転地療養というよりも、まず実家に戻ること、次に職場を変えるべきだと言い、優しい主人はGorstに次の職場を見つけてくれました。それが、イギリスとアメリカを往復する汽船だというのですから、話は盛り上がります。この後、いろいろとあって、結局、彼は屋敷での仕事に戻ってきますが(首相経験者のグラッドストーンの甥たちの屋敷)、この汽船で乗務員を統括していた人が、その後、タイタニックで死んだとの回想も書かれていて、印象的でした。



こんな感じで、「新聞売り」→「パブで店員」→「学校のPage」→「準貴族の屋敷でフットマン」→「客船の乗務員」→「貴族の屋敷の1stフットマン」と、着実に彼はスキルアップしていきます。この後の章のタイトルを見ると、「バッキンガム宮殿」の名前もありました。正しく、最高レベルの貴族たちに仕えたフットマン→執事の手記なので、そこに登場する本当の上流階級の姿(奇人変人)も、今までにほとんど無かった描写なので、楽しめます。



久しぶりに、いい本に出会いました。