ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

2018年の振り返りと2019年のロードマップ

はじめに

今年も恒例、これまでの活動を振り返ります(2017年には、振り返りをできていませんでした)。



2年前:2017年の振り返り(2018/01/01)

4年前:2015年の振り返り(2016/01/02)

5年前:2014年の振り返り(2015/01/01)

6年前:2013年の振り返り(2014/01/01)

7年前:2012年の振り返り(2013/01/01)


出来た事

1. 『日本の執事イメージ史 物語の主役になった執事と執事喫茶』出版

ここ数年、最大級の課題だった「日本のメイドブームに関する本を作る事」は2017年に『日本のメイドカルチャー史』星海社から出版する事で実現できました。



その過程で「執事ブーム」に関しての情報も集まり、星海社から『日本の執事イメージ史 物語の主役になった執事と執事喫茶』を出版することになりました。この執筆に取り掛かり、ようやく2018年8月に実現できました。



この本はある意味で、私のこれまでの活動の集大成です。



1. 同人誌1巻(2001年刊行)で執事について書いた。

2. その後、研究を続け、2008年に総集編『英国メイドの世界』を刊行。

3. 2009年に執事のマネジメントに特化した『英国執事の流儀』を刊行。

4. 2010年に『英国メイドの世界』を講談社から出版。

5. 2011年に「近代日本の女中(メイド)事情に関する資料一覧」を公開。

6. 2017年に『日本のメイドカルチャー史』を星海社から出版。



というような流れがありました。「英国執事」だけではなく、「日本の漫画・アニメ・ゲーム」などの領域を経験し、かつそこで「雑誌・新聞でのイメージの広がり・ブームの可視化」の手法を身につけました。また「日本の女中が仕えた華族」についても研究を広げていたので、それらを総合して書くことができました。



運命的というのか、2001年に最初に作った同人誌では「執事」について、大学時代に読んでいた雑誌『Foresight』(1998年4月号、新潮社)に載っていた「執事養成学校」記事掲載のエピソードに言及しました。その記事を約20年ぶりに取り寄せ、『日本の執事イメージ史』では参考文献として引用しました。



これらは、スティーブ・ジョブスが言うconnecting the dotsについて、実現できていると思います。



幸いにも本書の感想を当事者の方達から個人的に伺う機会にも恵まれました。


2. 『名探偵ポワロ』の同人誌の続編・理想に近い同人誌

昨年から開始した同人誌冬コミ新刊『名探偵ポワロ』が出会った「働く人たち」ガイド 上巻の続編となる下巻を、無事に刊行できました。



冬コミ新刊『名探偵ポワロ』が出会った「働く人たち」ガイド 下巻



その過程で、刊行時に買ったまま読んでいなかった、ポワロを演じた俳優デビッド・スーシェの自伝を読み始めたところ、非常に面白く、ドラマの理解に役立ちました。さらに、この本を通じて、私は「スーシェが解釈し、演じて作り上げた『名探偵ポワロ』が大好きだった」と再認識しました。






3. 『ミステリマガジン』2018年5 月号「特集/アガサ・クリスティーをより楽しむための7つの法則」に寄稿

ポワロの同人誌を作ったことで、イラストを描いてくださったウメグラさんとともに『ミステリマガジン』2018年5 月号「特集/アガサ・クリスティーをより楽しむための7つの法則」に、"法則5 使用人でクリスティーを楽しむ エッセイ クリスティー作品を照らす「家事使用人」"を寄稿しました。







同人誌では『名探偵ポワロ』のドラマに限定しましたが、クリスティー作品全般に広げました。原稿の文字数が限定的で十分に語り尽くすことはできませんでしたが、ウメグラさんとご一緒できたこと、そして何よりも私の原点であるクリスティーの名を冠する「クリスティー文庫」を刊行する早川書房に、「ポワロ」についてテキストを書くことができたのは記念になりました。



補足しておきますと、これまでにも2回、『ミステリマガジン』には寄稿しています。


4. 英国旅行・聖地巡礼の旅

2017年に英国旅行に行きたかったものの出版で行けなかったので、2018年は絶対に行くと決めて行きました。



■目的

1. 田中亮三先生の著作の影響で建築家ロバート・アダムが大好きなのでその屋敷巡りをしたい。これは英国旅行の主な目的で2005年から継続。

2. 映画『日の名残り』の舞台になったDyrham Parkへ行きたい。執事本を書いたので尚更に。

3. クリスティーの生地トーキーの博物館と別荘Greenwayに行きたい。ポワロ本を作っているので尚更に。

4. アニメ『Fate/stay nightUnlimited Blade Works]』の舞台となったグラストンベリーアーサー王の墓に行きたい。

5. 『アーネスト式恋愛術』や『英国王のスピーチ』で憧れていた玄関ホールの屋敷Lancaster Houseに行きたい。政府機関の建物で、Opne Houseというイベント期間しか入れない。



以下、これまでに訪問できた場所です。2018年の多さが際立ちます。


2004

Buchkingham Palace
Somerset House
No.1 Royal Crescent

2005

Spencer House
Kenwood House
Apsley House
Kensington Palace
Buchkingham Palace
Osterely Park

2016

Shugborough
Harewood House
Chatsworth
Windsor Castle
Buchkingham Palace
Heartford House

2018

Blenheim Palace
Lancaster House
Admirality house
Carlton House Terrace(Royal Society, British Academy)
42 Portland Place
Embassy of the Republic of Poland in London
Home House
Saltram
Mount Edgcumbe Country Park
Greenway
Dyrham Park
No.1 Royal Crescent
Osterely Park
Syon House


このうち、Greenwayは『名探偵ポワロ』「死者のあやまち」の舞台となり、またSyon Houseも「ヘラクレスの難業」と「ビッグ・フォー」の舞台となりました。さらに気づかなかったのですが、Blenheim Palaceもドラマ『ミス・マープル』の「復讐の女神」の原作・ドラマの舞台となっていた場所でした。



旅行記はそのうち書きます。


5. 1920-30年代のメイド服製作

コミケに参加する際、サークルスペースで同人誌頒布を行う作者以外の手伝いの人を「売り子」と呼んでいます。その売り子にメイドさんを起用すること自体は以前から、池袋のメイド喫茶ワンダーパーラー・カフェ」の協力で実現していました。



そこに加えて、今年は『名探偵ポワロ』に登場する1920-30年代のメイド服を着て欲しいと思い、相談しました。日本でイメージされるメイド服は肩紐ありのエプロンタイプですが、ポワロ登場のメイド服は全く違うのです。



そこで、自腹で製作費を負担するので、オーダーメイドで作ってもらいました。何を言っているかよくわからないかもしれませんが、勢いです。







2018年の抱負のレビュー

2018年に実施したいとしていたことを、どこまで実現できたか書きます。

執事本の出版 from 星海社:達成

無事に作りました。


3冊目の本の出版が決まりました。『日本のメイドカルチャー史』を書いていた時に、同時期の執事ブームについても調べていました。ただ、メイドがメインだったのでバランスが崩れることと、調査不足の観点から掲載を見合わせました。その切り離したテーマが面白いということにて、星海社から出版の提案を受け、新書で作ることになりました。



『日本のメイドカルチャー史』と似たコンテクストを持ちつつ、異なる切り口で書きます。


メイドアワードの創設:未達成

これは企画しきれず、時間もなく、でした。


メイド作品を追いかけるのが物理的に無理な段階になったので、作品を表彰するアワードを創設して、メイド作品が集まる仕組みを作る。アワード自体は読者投票も取り入れる。



・主演メイド作品賞:メイドが主役の作品

・助演メイド作品賞:主役ではないメイドがいる作品

・ピンポイントメイド作品賞:単発でのメイド出演

メイド喫茶賞:作品内で出てくるメイド喫茶の描写からの表彰

・殿堂入り作品賞:『エマ』『シャーリー』『まほろまてぃっく』など

・新作品賞:その年に連載を開始、発売した作品のみ限定(続刊がその年に出ても対象外)

・審査員各賞



賞金は、私の自腹です。


メイドライブラリー公開:未達成

これも推進力やモデル構築ができず、未達成です。


メイドブーム研究の時に集めた資料(漫画やラノベが大半。秋葉原系や、ゴスロリ関係の所有雑誌も含む)を公開できる場所を探しています。自分では読んでいない本が多くなっているので、死蔵させないためです。現在、興味を持ってくれている店舗があるので、話を詰めています。



※汚れてしまうことや紛失する可能性があることを前提に、超希少品は出せません。



未練があるので、つぶやいていたのをまとめておきます。






インタビュー・対談:部分達成


当事者としてメイドブームを駆け抜けた方達に、話を伺う。話を聞いてみたいのはメイド喫茶の創業者、店員、表現者など様々にうかがいます。年明けに星海社の方で、1回目の対談が公開される予定です。

対談としては『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』の嵯峨景子さんとの対談を実施できました。



ただ、その後、『日本の執事イメージ史』執筆にリソースのほとんどを割いてしまったので、続いていません。


メイドコラムの寄稿の依頼:計画分は達成


自分以外の詳しい人に、メイドブームの周辺領域を語っていただく計画を進めています。メイド喫茶全体、エロ漫画やニコニコ動画、pixiv、小説家になろうなどのCGMにおけるメイドの出現傾向など。既に周囲にお願いできそうな方が多いので、進行中で、3-4月に幾つか形をお見せできればと思っています。

このテキストを書いた時点で想定していたありらいおんさんと牧田翠さんには依頼をして、寄稿いただけました。

同人誌即売会:提案中

こちらは提案中で、その後、動きがありません。




メイドオンリーイベントを代表する「帝國メイド倶楽部」的なるものを考えています。以前、ちらっとつぶやいた時に、企画に興味を持った経験者の方からお声がけいただいたので、今、実現可能か相談しています。



メイド同人誌が読みたければ、メイド同人誌が集まる場を作れば良いのでは?との思いにて。



あと、個人的には、過去にメイドコスプレをされていた方に、その当時の衣装を着ていただきたいのです。日本のメイド服(コスプレ衣装)アーカイブということで、記念に残せないかと。100人ぐらい集まると素敵ですね(どんなお屋敷だろう……)


メイド喫茶とコラボイベント:未達成

先方提案企画との調整がつかず、流れています。


企画中です。公開できる段階になったら公開します(実施できるかは未定)。



ニュースサイトの創設:未達成

時間の問題で未達成です。


メイドアワードをやる前に、まずは企業が公開するメイドウェブ漫画作品などを集めてみたり、数万RTされるメイドイラストをアーカイブしたりと、メイドイメージにまつわる記録の散逸を防ぎつつ、メイドイメージへアクセスしやすい環境の整備を計画中です。


メイドメディアの創設:未達成

こちらも同じく。


ここのみ、実現可能性やまだ何も見えていない「夢」です。ヴィクトリア朝をテーマとした創作メディアを作りたいです。創作プラットフォームを作り、メイド作品制作を大好きな作家の方たちに依頼してみたいです。


2019年の抱負

今年は充電期間にしたいと思います。特にこの3年は出版に膨大な時間を費やしました。2016年から『日本のメイドカルチャー史』の出版準備の本格化、2017年での出版とポワロ本作成がありました。2018年は『日本の執事イメージ史』出版と、ポワロ本の完結を行いました。出版2冊と、大好きで原点となるポワロの同人誌を作ることで、行いたいことは叶いました。



以下、今時点で考えているものです。


1. 雑誌的なもの(ヴィクトリア朝やメイド)

元々私の同人誌のタイトルは『ヴィクトリア朝の暮らし』でした。家事使用人に特化したものの、今あえて「ヴィクトリア朝」をテーマにした同人誌を作ってみるのも面白いかと思いました。



もちろん、私個人では扱いきれない領域なので、これまでに縁があった方や原稿をお願いしたい方たちへお声がけして、雑誌のような形でできないかと。それこそ小説から漫画、イラスト、そして専門領域に特化したコラムまで。



これは「メイド」をテーマにしたものでも良いと思っています。私自身はそろそろ活動をして20周年になることもありつつ、元々が創作のための資料を作るという活動をベースとしていますので、創作をする人を巻き込み、発表機会を作るというところはやってみたいと思っています。



同人誌に限らず、ウェブでも。ウェブ漫画やイラストレーターの方なども増加しており、以前存在していた「ニュースサイト」を立ち上げることに意味があるようには思えています。これも自分一人で行わず、編集部を立ち上げても良いかもしれません。



本来的には関わる方達へお金が還流し、好きなことを続けやすい環境を作ることに寄与したいとは思っています。



これと「私の蔵書を公開する図書館」をセットにできると、資料を提供して創作しやすい環境を作ることもできるのですが。ただ、安全でアクセスしやすく持続的な場所を維持するのはお金がかかりそうで、そこのめどがまだ立っていません。



段階的に進めて、会社作るのかな?


2. ゲームキーパー特化本

日本ではゲームキーパーに関する家事使用人の資料はほとんどありません。私の『英国メイドの世界』が相当な分量を割いているもので、そこに掲載しきれなかった資料・間に合わなかった資料から、もう一度、「ゲームキーパー」について書きたいなと思っています。



メインどころの「メイド」でも「執事」でもないのですが。


3. メイド・執事作品ガイド(各100作品ぐらい紹介とか?)

『日本のメイドカルチャー史』でも『日本の執事イメージ史』でも作品への言及を均等に数多くできていないのと、目的別・年代別に紹介する本を作りたいと思いました。



同人誌ではなくネットでも構わないのですが、メイド漫画の最高峰『エマ』も完結から10年以上が経過しており、接していない人も増えているように思います。


4. 執事セバスチャンの謎・決着編(取材する)

「執事といえばセバスチャン」はいつ成立したのか? 執事ブーム以前のセバスチャン考察というコラムを公開しました。



取材せずに調べきれる範囲では大体網羅していると思います。逆を言えば、当事者に聞かなければわからない段階にも入っています。時間とコストと相手の都合があるのですぐにできない・結果が出ない可能性もあるので後回しにしていましたが、進めてみたいとは思います。


5. ミス・マープルを含めたクリスティーと家事使用人の総括

何かを始めると別の何かが広がる、というのはよくあることです。メイドブームを研究していたら執事ブームの本を書くことになったと同じように、『名探偵ポワロ』の同人誌を作れば当然、クリスティー全作品での家事使用人の描写が気になり始めるのです。



特に家事使用人を実際に雇用していた『ミス・マープル』については、扱わざるを得ないのではないかと思う次第です。ミス・マープルの時代は主に戦後となっているので、家事使用人雇用の状況が大きく変わっています。クリスティー作品は概ね発表時期の時代を背景としているので、作中でかなりその当時の認識が語られていることもあります。


6. 旅行記を書く

2016年と2018年に英国旅行をしましたので、その旅行記を。あと、2018年にOpen Houseに参加したので、あのイベントで行きたい場所へ行くためのノウハウを公開しようと思います。抽選・予約についてのノウハウを書くことは自分の当選確率を下げるのですが、個人的には行きたい場所に行くことができたので、もう良いかな、と思っています。


7. 現代の労働環境と「使用人問題」について

労働環境について、英国の家事使用人の歴史は現代への示唆に富んでいます。

1. 不人気でなり手不足に陥る。

2. 政府が対策に乗り出す。

3. 移民や安価ななり手を探す。

4. 拘束力が強い住み込みから、通い・複数の家庭への勤務になっていくメイドから家政婦化。

あとは労働基準法の適用外になっていることや、構造的に家事使用人雇用者が支配的になってしまうことについても考察をしたいとは思っています。日本以外の家事使用人・家事労働者事情も学んでいるエリアですので。

終わりに

そろそろ自分自身のフェイズも変わってきました。当初の予定になかった「メイドブーム」「執事ブーム」について決着をつけられたので、リソースの使い方を変えていこうと思います。



それでは本年もよろしくお願いいたします。