ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

翻訳開始〜使用人関連の資料

『THE DUTIES OF SERVANTS(使用人の義務)』の、男性使用人部分の翻訳を開始しました。この本は、たまたまタイトル買いをした後に気づいたのですが、『英国ヴィクトリア朝のキッチン』の主要参考文献でした。また、『不機嫌なメアリー・ポピンズ』の筆者の方も使用したり、何よりも『ヴィクトリアン・サーヴァント―階下の世界』にも出ています。当時のマニュアル本なので、この本無しで済ませている研究者はいないと言う、影のベストセラーです。



しかし、男性編は短すぎて困りました……ゲームキーパーとグルームは壊滅的です。必要とする人が少なかったとはいえ、どうなの、と思います。仕方なく、もう一冊の当時(といっても1830年代でしたか?)の本、『THE COMPLETE SERVANTS』に手を出しました。



こちらは、『ヴィクトリアン・サーヴァント―階下の世界』の筆者Pamela Horn女史が監修した、当時の執事&ハウスキーパーADAMS夫妻が記した本で、ここに出ている使用人の役目やレシピの多くは、『ミセス・ビートンの家政読本』に引用されています、というふうに、当時のマニュアル本ほど役立つものはありません。



残念ながらミセス・ビートンの本は対象が中流階級なので、男性使用人への言及が充実していません。雇う必要が無い、雇うレベルに無いからです。当時のマニュアル本は、あくまでも「中流向け」でした。なぜならば、真の上流階級は、その長い歴史の中で、使用人を使う技術・経験・伝統を育んでいた、誰かが出版した本など不要なのです。むしろ、彼らの家訓的な資料の方を、読みたいぐらいです。



経済的に成り上がった新興階級がどうしていたのかは不明ですが、最新の同人誌 5巻で記した最後の短編小説、『すべて始めから』のように、きっと高給で様々な経験を有したスタッフをリクルーティングしたのでしょう。そういう意味では、現代で新しく会社を興し、有能な人材をスカウトするのと似ています。



ということで、資料が足りないのは、マニュアル本に依存できない、上流階級の中にいる彼らを見つけ出すのが早道、と言う結論になるわけです。注目を浴び、メイドと双璧を成すフットマンは資料が豊富なんですが、アウトドアが厳しいですね……



紹介した資料

『THE DUTIES OF SERVANTS(使用人の義務)』(ASIN:095162959X

『英国ヴィクトリア朝のキッチン』など料理資料(当サイト)

『不機嫌なメアリー・ポピンズ』(日記内)

『ヴィクトリアン・サーヴァント―階下の世界』(日記内)

『ミセス・ビートンの家政読本』(ASIN:0192833456

『THE COMPLETE SERVANT』(ASIN:1870962095